死神さんは隣にいる。
40.友人殿は……④
――――すごい。
生真面目で、勇敢な少女、フィルタが、その戦いを見て思ったことは、ただひたすら、それだけだった。
技術がすごい、速度がすごい、反応がすごい、計算がすごい、勇気がすごい、苛烈さがすごい、冷静さがすごい、対応能力がすごい――――すべてがすごい。
フィルタという少女は確かにパーティリーダーを務めている分技術もあるし判断の速さも正確さも冷静さも欠かさないようにしている。そんな彼女でも、ただ心から尊敬の念を抱いたのは、彼――――サレッジが初めてだった。
特にパーティ連合で手持ち無沙汰にしていたソロで、しかもそれなりに有名であったから、皆が何となく総司令に祀り上げただけのお飾りで、特にこれといった能力を秘めているわけでもない、ただの一介の高校生だとフィルタは思っていたが、それは全く違った。
そこにいたのは、一人の英雄だった。序盤とはいえレベル差のある相手をこうも容易く翻弄し、正面からの戦いでも押し勝てる恐ろしく強いヒーロー。その圧倒的な力は、これからの戦いで味方であると考えるだけでなんと頼もしいことか。
加えて、察しのいい少女は――――気づいてしまっていた。
(う、うぅ、かっこういいなぁ……。でもな、さっき、うぅ……)
勘のいい少女はすべて気づいていた。サレッジがなぜ、全員が得する手段と断言したのか。そこに一体誰が含まれているのか。そして、さらに賢い少女は、そこから連想し、今現状、サレッジのキレている原因に気づき、激しく赤面していた。
今現在、サレッジがキレているのは、少女に対する理不尽な怒りへの抗議だ。あのテーヴォがこちらに向けた、目障りに思う視線。あれにすこし怯えてしまった自分を、彼はかばって怒っているのだと。
それを知り、少女の心は燃え上がった。まるでマッチに着けた火が粉塵に引火した時のごとく、熱い思いは無制限に少女の心を激しく燃やしている!
そして、その心に灯った、大きくも小さな灯――――恋心が、彼女の頭を混乱に導く。
(いや、でも、私ってそんなチョロくはないと思うし、さすがにころっと落ちちゃうのは納得いかないっていうか……。でも、格好いいのは、事実だし……)
因みに、フィルタは実年齢上、まだ小学生である。現実では級友とともに学校に仲睦まじく通っている中、こうして家に帰ると殺伐としたゲームで遊ぶという生活を繰り返しているのだが――――当然、ゲーム内でパーティの頭を張れるということは、それ相応に知識も備わっていないといけない。
しかし、ネットに触れれば当然、様々な情報が入ってくる。知りたい情報、知るべきだった情報、知らないほうがよかった情報、知ってはいけない情報等々……。そう、電子の海は知りたくないこと、知ってはいけない様々なアレコレについても頭に入ってきてしまうのである。
それがたとえ、年齢的に知ってはいけない情報だったとしても。
そう、このフィルタという生真面目な少女は、その裏で少し、そう……ほんの少し、おませさんなのである。
具体的に言うと、ちょっとした暇つぶしに同人誌即売会に出かけようとするくらいには。恋愛漫画を熟読するほどには、この少女はそういう知識を持っている。
故に、考えれば考えるほど、思考は沼に落ちていき、心はさらに燃え上がっていく。
「う、うぅぅぅぅうううううう……」
とうとう幼い少女は、地面に縮こまって、さながら林檎のように赤くなった顔を隠し始めたのだった。
………………………………………………
――――一人の少女が燃え盛る炎に苦悩している頃、サレッジは自分がいつの間に少女を落としかけていたことに気づきもせず、目の前のテーヴォを軽く観察していた。
双剣を握りしめ、冷たい目でテーヴォを睨み、その一挙手一投足に至るまで、隅々まで観察する。ほんの一瞬、隙が出来ればすぐにでも行動できるように、脚は踏み出す姿勢を保ち、両の剣は切っ先をテーヴォに向けている。
対するテーヴォも、息を整え、大剣を胸のあたりに柄が来るように、突撃姿勢に構える。少しの隙も見せまいと、油断せず全神経を集中させて、気を窺う。
両者の圧はどんどん増し、それに比例して二人に流れる時間もまた緩やかになっていった。
――――そして、一陣の風が吹いた。
「ガァァァアアアアアアアア!」
「せぁぁッッッ!」
裂帛の咆哮をあげ、二人が肉薄する。互いにスキルは使わない。近づくために使うべきではないと判断したからだ。
そして、怒涛の鍔迫り合いが起こる。相手の間合いを気にせず、怒りのままに飛び出していった影響で、目と鼻の先で火花が散り合う超々近距離でのしのぎ合い。テーヴォは腕力で、サレッジは技術で殴り合う。
テーヴォが横薙ぎに振るったのならそれをサレッジが上部に受け流し、体勢を崩した瞬間を狙ってサレッジが仕掛ければ、テーヴォが無理矢理にでも大剣を引き戻して弾く。逆にサレッジが片方の長剣で喉を貫かんと伸ばせば、それをテーヴォが籠手で防ぎ、さらなるカウンターを仕掛ける。
正しく一進一退の攻防。圧倒的暴力と超絶技巧のせめぎ合い。しかし、サレッジの攻撃は理がある。故に、テーヴォのそれとは違い、隙を完璧になぞって丁寧にダメージを与えていく。この至近距離での殴り合いに対し、リーチ的にも、理性的にも優勢なのはサレッジだった。証拠として、サレッジのHPはたった一ドットも減っていない。
そして、それに気づき、テーヴォは焦った。このままでは負けてしまう、恐らく確実に。ただの一撃すら与えられずに。惨たらしく無様に屈辱的に。それだけは、許せなかった。自身の猛攻を受けてなお涼しい顔をしているこの目の前の気に食わぬクソガキを叩き潰してやりたかった。
しかし、今のままではだめだ。テーヴォは考える。このままでは、攻撃が通じない。奴にダメージを、否……屈辱を与えてやれない。このままでは、奴に敗北を、地に這う絶望を教えられない。これでは駄目だ。まだ何かあるはずだ。まだ、まだまだまだまだ……!
テーヴォの頭はすでにサレッジを叩き潰すことで精いっぱいだった。通常のテーヴォならばここまで心の余裕を欠いて戦うことなど考えず、ただ負けないように逃げるべきだったであろうに。
だが、それがテーヴォの制限を解き放った。
「クソっ、クソクソクソガァァアアアア! てめえだけは絶対殺してやる!」
「はっ、口だけは達者だな、猿以下」
「黙れカス以下がァ!」
   煽る、煽る。既に怒りが有頂天に達していたテーヴォは、それでついに臨界点を突破し、突き抜ける勢いで憤怒がこみ上げてくる。心の奥底にマグマがあるような錯覚に陥り、しかしそれさえも原動力として、ついにテーヴォは切り札を使った。
「……使わせたこと、後悔しろっ! 『金切声』ッ! キァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「ぐっっ!?」
――――戦場を支配する、超高音。
   それは、サレッジが優位に立っていたこの状況を覆すに足る、勝利への布石。この瞬間、サレッジの耳はその大音量を綺麗に伝え、そして自身の脳に甚大な被害を及ぼした。
   鼓膜が破れ、その若干感じる違和感をぬぐえぬまま、サレッジは耳をできる限り意識から外して斬りかからんとする。しかし、その強烈な【聴覚の麻痺】という感覚は、身体から、そして意識から、泥のようにしがみついて離れてはくれなかった。
   結果、そのたびに反応が遅れ、テーヴォの大剣を徐々に受け流しきれなくなってくる。意識が二つに裂かれ、うまく剣技に集中できない。おまけに、あいては空から襲ってくる。そして一撃は必殺。
サレッジは、追い込まれていた。
「く、そっ!」
「はッはァ! どうだクソ野郎、耳がイカレてんだろ!? つらいか? なあおい、辛いかって言ってんだよ!?」
徐々にその猛攻のペースを取り戻していくテーヴォ。大剣の威力は圧倒的、すぐにサレッジの双剣は弾かれてしまう。
「『稲光』」
サレッジは、あくまで冷静に対処し、攻撃を食らう瞬間だけ、自身を雷へと変容させその場を離れた。
(そういえば、何が起こるかわからない、がこのゲームのPvPだったな。すっかり忘れてたぜ……)
このゲームにおいて、一番PvPで気を付けなければいけないのは、「相手の突発性」である。異様なスキルが山ほどあるこのゲームで、PvPをすれば、それは一瞬で高度な駆け引きを必要とする「試合」に成り上がる。
たとえ、どのゲームにおいても、これほど異様な対戦もないだろう。何せ、彼ら彼女らは一人一人が別のスキルをその身に宿し、使いこなし、戦っているのだから。通常なら、それらはシステムとして体系化され、どれほどオリジナリティがあったとしてもあくまで決まった形にしかならないはずだ。しかし、このゲームは固有スキルでの戦闘と生活をモットーにした独創性の塊である。故に、同一のプレイスタイルなど存在しないし、次の手を完璧に読むことは、普通なら無理だ。そして、例にもれずサレッジもそんなことはできなかった。
先ほどの奇声のせいで非常に気持ちも悪い。頭を揺らされたような感じがする。身体から力が抜けて、双剣を持ち続けていられるかも危うい。だが、それでもサレッジは負けられなかった。ここで負けることは、今までの頑張りと、自身にとっての正義を否定することになるのだから。
故に、サレッジは戦う。
「あ、ぐう、『稲光』!」
「がっ!?」
固有スキル『稲光』による強制的な突進。自身を雷のように早くするそのスキルは、正しく稲妻のように体を加速させ、ふらふらしていた身体を強制的に前へと押し出した。
虚を突かれたテーヴォは、大剣を咄嗟に構えるも、遅し。
サレッジの双剣が、テーヴォの胸に深々と突き刺さる。
「がふっ、てめっ」
「負けてたまるかよ!」
「なぁっ!? がっ!」
そして、そこからのアーツ『スパーク・スマッシュ』。「強打」属性を持つこのスキルは、斬られたという感覚よりも殴られたという感覚が強い。
故に、テーヴォの意識が、眩む。
   ――――今こそ好機!
「死ねやぁ! 『稲光』、『サンダー・スタブ』!」
「クソがぁっ!」
そして、新たなアーツ。『サンダー・スタブ』。
効果は単純、雷属性の付与に刺突の際の速度が上がる。それ即ち、最も連打に適しているということ。
雷撃のように打ち出される黄金色の弾丸は、隙だらけのテーヴォの身体に幾度も幾重も突き刺さった。ズガガガガガ! と掘削機のような音をあげながら、その超速でもって勝負を決めにかかるサレッジ。
テーヴォのHPが先ほどとは一線を画す勢いで減っていく。レベル差にして約二倍、当然スキルレベルも戦闘技術も、劣っているものは何もなかったであろうテーヴォ。しかし、その彼の――近接職なだけあって高い――HPが、どんどん削れていく。
そして、ついに――――
「これで、終いだッッッ!」
「グハァァアアアアアッッッ!!?」
止めの『サンダー・スタブ』が、テーヴォの顔面をブチ抜き、テーヴォのHPの50%を、サレッジは削りつくしたのだった。
生真面目で、勇敢な少女、フィルタが、その戦いを見て思ったことは、ただひたすら、それだけだった。
技術がすごい、速度がすごい、反応がすごい、計算がすごい、勇気がすごい、苛烈さがすごい、冷静さがすごい、対応能力がすごい――――すべてがすごい。
フィルタという少女は確かにパーティリーダーを務めている分技術もあるし判断の速さも正確さも冷静さも欠かさないようにしている。そんな彼女でも、ただ心から尊敬の念を抱いたのは、彼――――サレッジが初めてだった。
特にパーティ連合で手持ち無沙汰にしていたソロで、しかもそれなりに有名であったから、皆が何となく総司令に祀り上げただけのお飾りで、特にこれといった能力を秘めているわけでもない、ただの一介の高校生だとフィルタは思っていたが、それは全く違った。
そこにいたのは、一人の英雄だった。序盤とはいえレベル差のある相手をこうも容易く翻弄し、正面からの戦いでも押し勝てる恐ろしく強いヒーロー。その圧倒的な力は、これからの戦いで味方であると考えるだけでなんと頼もしいことか。
加えて、察しのいい少女は――――気づいてしまっていた。
(う、うぅ、かっこういいなぁ……。でもな、さっき、うぅ……)
勘のいい少女はすべて気づいていた。サレッジがなぜ、全員が得する手段と断言したのか。そこに一体誰が含まれているのか。そして、さらに賢い少女は、そこから連想し、今現状、サレッジのキレている原因に気づき、激しく赤面していた。
今現在、サレッジがキレているのは、少女に対する理不尽な怒りへの抗議だ。あのテーヴォがこちらに向けた、目障りに思う視線。あれにすこし怯えてしまった自分を、彼はかばって怒っているのだと。
それを知り、少女の心は燃え上がった。まるでマッチに着けた火が粉塵に引火した時のごとく、熱い思いは無制限に少女の心を激しく燃やしている!
そして、その心に灯った、大きくも小さな灯――――恋心が、彼女の頭を混乱に導く。
(いや、でも、私ってそんなチョロくはないと思うし、さすがにころっと落ちちゃうのは納得いかないっていうか……。でも、格好いいのは、事実だし……)
因みに、フィルタは実年齢上、まだ小学生である。現実では級友とともに学校に仲睦まじく通っている中、こうして家に帰ると殺伐としたゲームで遊ぶという生活を繰り返しているのだが――――当然、ゲーム内でパーティの頭を張れるということは、それ相応に知識も備わっていないといけない。
しかし、ネットに触れれば当然、様々な情報が入ってくる。知りたい情報、知るべきだった情報、知らないほうがよかった情報、知ってはいけない情報等々……。そう、電子の海は知りたくないこと、知ってはいけない様々なアレコレについても頭に入ってきてしまうのである。
それがたとえ、年齢的に知ってはいけない情報だったとしても。
そう、このフィルタという生真面目な少女は、その裏で少し、そう……ほんの少し、おませさんなのである。
具体的に言うと、ちょっとした暇つぶしに同人誌即売会に出かけようとするくらいには。恋愛漫画を熟読するほどには、この少女はそういう知識を持っている。
故に、考えれば考えるほど、思考は沼に落ちていき、心はさらに燃え上がっていく。
「う、うぅぅぅぅうううううう……」
とうとう幼い少女は、地面に縮こまって、さながら林檎のように赤くなった顔を隠し始めたのだった。
………………………………………………
――――一人の少女が燃え盛る炎に苦悩している頃、サレッジは自分がいつの間に少女を落としかけていたことに気づきもせず、目の前のテーヴォを軽く観察していた。
双剣を握りしめ、冷たい目でテーヴォを睨み、その一挙手一投足に至るまで、隅々まで観察する。ほんの一瞬、隙が出来ればすぐにでも行動できるように、脚は踏み出す姿勢を保ち、両の剣は切っ先をテーヴォに向けている。
対するテーヴォも、息を整え、大剣を胸のあたりに柄が来るように、突撃姿勢に構える。少しの隙も見せまいと、油断せず全神経を集中させて、気を窺う。
両者の圧はどんどん増し、それに比例して二人に流れる時間もまた緩やかになっていった。
――――そして、一陣の風が吹いた。
「ガァァァアアアアアアアア!」
「せぁぁッッッ!」
裂帛の咆哮をあげ、二人が肉薄する。互いにスキルは使わない。近づくために使うべきではないと判断したからだ。
そして、怒涛の鍔迫り合いが起こる。相手の間合いを気にせず、怒りのままに飛び出していった影響で、目と鼻の先で火花が散り合う超々近距離でのしのぎ合い。テーヴォは腕力で、サレッジは技術で殴り合う。
テーヴォが横薙ぎに振るったのならそれをサレッジが上部に受け流し、体勢を崩した瞬間を狙ってサレッジが仕掛ければ、テーヴォが無理矢理にでも大剣を引き戻して弾く。逆にサレッジが片方の長剣で喉を貫かんと伸ばせば、それをテーヴォが籠手で防ぎ、さらなるカウンターを仕掛ける。
正しく一進一退の攻防。圧倒的暴力と超絶技巧のせめぎ合い。しかし、サレッジの攻撃は理がある。故に、テーヴォのそれとは違い、隙を完璧になぞって丁寧にダメージを与えていく。この至近距離での殴り合いに対し、リーチ的にも、理性的にも優勢なのはサレッジだった。証拠として、サレッジのHPはたった一ドットも減っていない。
そして、それに気づき、テーヴォは焦った。このままでは負けてしまう、恐らく確実に。ただの一撃すら与えられずに。惨たらしく無様に屈辱的に。それだけは、許せなかった。自身の猛攻を受けてなお涼しい顔をしているこの目の前の気に食わぬクソガキを叩き潰してやりたかった。
しかし、今のままではだめだ。テーヴォは考える。このままでは、攻撃が通じない。奴にダメージを、否……屈辱を与えてやれない。このままでは、奴に敗北を、地に這う絶望を教えられない。これでは駄目だ。まだ何かあるはずだ。まだ、まだまだまだまだ……!
テーヴォの頭はすでにサレッジを叩き潰すことで精いっぱいだった。通常のテーヴォならばここまで心の余裕を欠いて戦うことなど考えず、ただ負けないように逃げるべきだったであろうに。
だが、それがテーヴォの制限を解き放った。
「クソっ、クソクソクソガァァアアアア! てめえだけは絶対殺してやる!」
「はっ、口だけは達者だな、猿以下」
「黙れカス以下がァ!」
   煽る、煽る。既に怒りが有頂天に達していたテーヴォは、それでついに臨界点を突破し、突き抜ける勢いで憤怒がこみ上げてくる。心の奥底にマグマがあるような錯覚に陥り、しかしそれさえも原動力として、ついにテーヴォは切り札を使った。
「……使わせたこと、後悔しろっ! 『金切声』ッ! キァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「ぐっっ!?」
――――戦場を支配する、超高音。
   それは、サレッジが優位に立っていたこの状況を覆すに足る、勝利への布石。この瞬間、サレッジの耳はその大音量を綺麗に伝え、そして自身の脳に甚大な被害を及ぼした。
   鼓膜が破れ、その若干感じる違和感をぬぐえぬまま、サレッジは耳をできる限り意識から外して斬りかからんとする。しかし、その強烈な【聴覚の麻痺】という感覚は、身体から、そして意識から、泥のようにしがみついて離れてはくれなかった。
   結果、そのたびに反応が遅れ、テーヴォの大剣を徐々に受け流しきれなくなってくる。意識が二つに裂かれ、うまく剣技に集中できない。おまけに、あいては空から襲ってくる。そして一撃は必殺。
サレッジは、追い込まれていた。
「く、そっ!」
「はッはァ! どうだクソ野郎、耳がイカレてんだろ!? つらいか? なあおい、辛いかって言ってんだよ!?」
徐々にその猛攻のペースを取り戻していくテーヴォ。大剣の威力は圧倒的、すぐにサレッジの双剣は弾かれてしまう。
「『稲光』」
サレッジは、あくまで冷静に対処し、攻撃を食らう瞬間だけ、自身を雷へと変容させその場を離れた。
(そういえば、何が起こるかわからない、がこのゲームのPvPだったな。すっかり忘れてたぜ……)
このゲームにおいて、一番PvPで気を付けなければいけないのは、「相手の突発性」である。異様なスキルが山ほどあるこのゲームで、PvPをすれば、それは一瞬で高度な駆け引きを必要とする「試合」に成り上がる。
たとえ、どのゲームにおいても、これほど異様な対戦もないだろう。何せ、彼ら彼女らは一人一人が別のスキルをその身に宿し、使いこなし、戦っているのだから。通常なら、それらはシステムとして体系化され、どれほどオリジナリティがあったとしてもあくまで決まった形にしかならないはずだ。しかし、このゲームは固有スキルでの戦闘と生活をモットーにした独創性の塊である。故に、同一のプレイスタイルなど存在しないし、次の手を完璧に読むことは、普通なら無理だ。そして、例にもれずサレッジもそんなことはできなかった。
先ほどの奇声のせいで非常に気持ちも悪い。頭を揺らされたような感じがする。身体から力が抜けて、双剣を持ち続けていられるかも危うい。だが、それでもサレッジは負けられなかった。ここで負けることは、今までの頑張りと、自身にとっての正義を否定することになるのだから。
故に、サレッジは戦う。
「あ、ぐう、『稲光』!」
「がっ!?」
固有スキル『稲光』による強制的な突進。自身を雷のように早くするそのスキルは、正しく稲妻のように体を加速させ、ふらふらしていた身体を強制的に前へと押し出した。
虚を突かれたテーヴォは、大剣を咄嗟に構えるも、遅し。
サレッジの双剣が、テーヴォの胸に深々と突き刺さる。
「がふっ、てめっ」
「負けてたまるかよ!」
「なぁっ!? がっ!」
そして、そこからのアーツ『スパーク・スマッシュ』。「強打」属性を持つこのスキルは、斬られたという感覚よりも殴られたという感覚が強い。
故に、テーヴォの意識が、眩む。
   ――――今こそ好機!
「死ねやぁ! 『稲光』、『サンダー・スタブ』!」
「クソがぁっ!」
そして、新たなアーツ。『サンダー・スタブ』。
効果は単純、雷属性の付与に刺突の際の速度が上がる。それ即ち、最も連打に適しているということ。
雷撃のように打ち出される黄金色の弾丸は、隙だらけのテーヴォの身体に幾度も幾重も突き刺さった。ズガガガガガ! と掘削機のような音をあげながら、その超速でもって勝負を決めにかかるサレッジ。
テーヴォのHPが先ほどとは一線を画す勢いで減っていく。レベル差にして約二倍、当然スキルレベルも戦闘技術も、劣っているものは何もなかったであろうテーヴォ。しかし、その彼の――近接職なだけあって高い――HPが、どんどん削れていく。
そして、ついに――――
「これで、終いだッッッ!」
「グハァァアアアアアッッッ!!?」
止めの『サンダー・スタブ』が、テーヴォの顔面をブチ抜き、テーヴォのHPの50%を、サレッジは削りつくしたのだった。
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