死神さんは隣にいる。

歯車

22.スキルと魔法

 さて、りゅーもいることだし、心配ばかりはしていられないか。なにより、これから死ぬ可能性だってあるわけだし、調査だけが目的とはいえ、最低限、危険に足を踏み入れていかねば掴める情報も掴めない。
これから向かうのは、エリアボス、つまるところのゲーム内目標、グランドクエスト、ストーリーを進めるためのボスである。


 このゲームの最終目標はエリアボスと呼ばれるモンスターを倒しエリアの開放、開拓を目指すことだ。その先で様々なストーリーがあるのだが、ストーリーを進めずともエリア開放はできるし、さらに言うなら攻略組でもない限りそれらのことはしない。だって面倒だもの。最低限の世界観さえつかめればあとは暴力でどうとでもなります。


 そして、この一番最初のエリア、ハイルバキア王国の首都アイルヘル、その近郊であるハリア草原とキーク森林。東西南に広がるハリア草原にはリーフビッグスライムというボスが居るが、こちらはレイド級というだけの、エリアボスではない。


 基本、ハリア草原にはエリアボスは存在せず、いるのはその奥、西ならばリイラ湿地林など、その先のエリアである。しかし、普通であれば先にハリア草原のボスを倒して肩慣らしと行くのだろうけど、流石に徹夜する気力は僕にはない。今日ははしゃぎすぎた。


 なので、初っ端から飛ばしていくことにする。そう、行くのはキーク森林である。


 キーク森林は文字通り最初期での何度が最高ランクと名高いエリアボス、『オークプラントウルフ』の生息する場所である。強力な前足から爪先までを利用した近接の範囲攻撃や、周囲の木や根っこを使った連撃、牙を使った一撃は相当な威力を誇る。


 まさしくレイド級に相応しいボス。序盤であれど、終盤でも手こずる能力を誇る。まあ、レベルはプレイヤー依存なので当たり前だが。


 このゲームは、エリアボスのレベルのみプレイヤー依存だ。例外はレアモンスターなどの特殊な事情を除きほとんどない。故に、終盤でも序盤のボスに手こずるし、楽しめる。


 しかし、そういう意味ではぼっちには辛いゲームとも言える。レイド級とは、やはり大人数で立ち向かうのが王道であり、効率がいいのだ。しかし、一人で戦うとなると、相当難しい。やってできないことはないが、圧倒的に火力が足りないし、効率良く殴ることもできない……あれ?


 火力、ある、効率は知らないけど、殴ってやれないことはない、少なくとも初撃は確実に当てられる……勝てるか?


 いや、慢心はやめておこう。それで油断して死んでは元も子もない。スキルは確かに火力よりだけれど、その分足も遅いし防御力もない。かすれば死ねる。


 さて、それはさておき、今は手持ちの武器……魔法とスキルの詳細、そしてアーツの効果についての確認をしておこうと思う。一息ついたことだし、先程までの戦闘である程度掴めたので、ひとまずメモ欄に書き留めていたのだ。


 まず、先ほどの戦闘でスキルレベルが上がったので、それから。


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スキル/魔法
死線     レベル13
気配遮断   レベル16
迷彩化    レベル16
気配察知   レベル8
豪鎌術    レベル8
暗黒魔法   レベル10
⇒漆黒魔法に進化できます
天外膂力   レベル5
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 豪鎌術や死線、気配遮断など、前からあるスキルは詳細にあまり変更がない。しかし、暗黒魔法は対人戦で結構重用したので、スキルレベルが上がり進化可能となった。まあ、落ち着いた今ようやく気づいたわけだが。


 詳細は気になるが、先にアーツの紹介をば。楽しみは後にとって置く派なんだ。悪いね。


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ブラッディ・ショック
  MPを15消費、残存HPを五パーセントほど減らす自傷スキル。
  赤黒いスパークが刃を包み、当たると敵は麻痺になる。恐らくは雷属性だ。
  自傷アーツとはいえ、元々のHPが少ない上に割合ダメージみたいだし、弱点はほぼ皆無と言っていい。
  状態異常アーツは対人、対モンスター戦において非常に有用なので、最初からこれを引き当てられたのは運がいい。
  属性攻撃も、物理が通じない相手には有用だ。消費MPも扱いやすく、全体的に見ていいアーツだ。
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ドレイン・クラッシュ
  MPを20消費。
  黒いモヤが刃に現れ、敵に当たると同時に牙のようなエフェクトに変わり、貫く。
  与えたダメージの四分の一自身のHP回復。
  斬属性武器の大鎌には珍しく貫属性のアーツで、重宝するだろう。
  ただ、回復はあまり意味がない。素の体力が少ないから、一撃も喰らわないのがベストだから。
  弱点としては消費MPがちょい高い。それくらいかな。
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サイレント・チェリッシュ
  MPを5消費。
  刃に半透明な白い刃が重なり、風切り音がなくなる。切り裂くときの音もなくなる。
  斬属性値が高くなり、切れ味も多少上がるのだが、隠密性以外に書き残す点は特になし。
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クライシス・スラッシュ
  豪鎌術の派生により習得。
  MP30消費。
  敵を切りつけるとそこが黒く痣のようになり、一定時間相手の筋力の30パーセントを自身に転換する。
  一応闇属性らしい。
  威力は微妙だが、付随効果が強すぎ。バランスブレイカーかな?
  ただ、弱点もあり、ミスると自身の体力が結構持ってかれる。
  割合ダメージみたいなので、あまり気にはしていないが。
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ドレッド・ブレイク
  豪鎌術の派生により習得。
  MPを50消費。残存HPの半分を消費。
  刃が赤黒く輝き、大鎌が巨大化する。
  威力もかなり高く、魔法属性はないが締めには非常に有効だ。必殺技のようなものだと思う。
  多分、真っ向からあの範囲ヌルヌルを吹き飛ばせる。
  ただ、縦に使うと地面を叩き割って終わるので注意。
  横に薙ぎ払うように使うのがベター。
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 アーツについてはこんな感じ。なんというか、思ったよりバランスが取れていて天に感謝しそうになった。毎度スキルレベルがあがった際に流れる「アーツを取得しました」という声に何度怯えたことか。手に入った順番もいい。


 序盤にドレッド・ブレイクとか手に入ったなら多分僕は立ち直れなかった。まあ、今回初めて使ったけども。


 個人的には、ブラッディ・ショックとドレッド・ブレイクがお気に入り。安定した技は非常に使い勝手がいいのと、もう一つはロマンである。男とはロマンに弱い生き物なのだ。最近女の子にしか見られてないけど。


 さて、アーツについてのまとめとしては、基本的には強大な範囲魔法への対策がドレッド・ブレイクによる相殺か、とりあえず逃げる以外の方法がないことと、短剣使いや拳闘士などのインファイターは苦手ということが欠点だ。反面、大剣使いや大槌使い、槍使いなどの同じ大きめの武器には超有利。そんなところか。


 インファイターについてはプレイヤーの腕次第だが、相性が悪いので注意が必要。範囲魔法については受けないように立ち回るしかないだろう。


 まあ、そのあたりは状況にもよるけど、このゲームはそういう事を意識して動くとシステムがちゃんとスキルを対応してくれる。故に、今の弱点は分析だけで十分、後のことは今は考えなくていいだろう。


 そもそも脳筋プレイでやっていくつもりだったわけだし、後先よりロマン、趣味感覚、せんせーしょなるなぷれいすたいるで行こうと思っていたのだし、めげずに頑張っていく所存である。


 さて、それでは次に魔法。


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漆黒魔法
ブラインド・ジャック
  ライト・スモーク
  タール・パニック
  ダーク・ヴィラン
  カース・フェンス
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 漆黒魔法は暗黒魔法を受け継げる。これはスキル進化したほぼ全ての魔法/スキルに共通する。


 進化可能だと気づいてから適当に使ってみた。周りの反応と自身にかけてみた感じで照らし合わせてみると、効果のほどは以下のようになった。


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ブラインド・ジャック
  お馴染みの瞬間暗闇魔法。
  発動速度が半端ではないが、効果も小さすぎてスキルのかけ直しくらいにしか使えない。
  しかし、僕にとっては非常に重要で、なにより見つかればイコールで死なので、一瞬で対応できるこの魔法は神だ。
  必要MPは5。本当にありがたい素晴らしい魔法である。
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ライト・スモーク
  こちらも一瞬で発動する暗闇魔法だが、ブラインド・ジャックとは少し違う。
  ブラインド・ジャックは対象の視界に干渉するが、こちらは違う。
  こちらは物理的に視界を制限する。瞬間煙幕である。
  しかし、一瞬で発動する以上、効果も範囲も小さい。
  吹けば飛ぶような軽い煙、半径2,3メートルほどしかない範囲。
  しかし、こちらも結構重宝しそうだ。
  相手のMNDの値が高い場合、前者が使えない場合があるからだ。
  故に、こちらはそういった敵に使える。なにより、発生する場所を選べるのは素晴らしかった。
  無限射程ではないが、視界に広がる限りどこからでも撃てるみたいだ。
  必要MPは5。ブラインド・ジャックと同じで良き魔法である。
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タール・パニック
  こちらは視界を遮る魔法ではなく、動きを制限する魔法だ。
  一瞬で発動できるのは変わらず、効果が小さいのも共通。
  名前にある通り、タール状の液体を出現させて混乱させる。
  ただ、粘着力もそこそこで、相手が踏み込んできた時に使うなど、非常に有用だ。
  欠点は、直ぐに乾いてエフェクトごと消える点だろうか。
  消費MPは15。少し高い気もするが、それでもなかなか使える魔法だ。
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ダーク・ヴィラン
  暗黒魔法最後の魔法。これも一瞬で発動できる。
  最後の魔法というだけあって、非常に素晴らしい魔法だ。
  発動時間の短さもそうだが、何より効果が素晴らしい。
  この魔法は自身の分身を作り出し、操る魔法だ。
  効果だけなら中盤でも余裕で通ずる魔法だ。下手をすれば終盤まで行ける。
  何せ、要するにこれはデコイだ。一人で二人分働くことが出来るのだ。
  ただ、やはり欠点もある。分身の発生時間の短さである。
  発動したと思えば、2,3秒後には消えている。
  触れることもできないし、当然ダメージも与えられない。
  しかし、デコイは相手の油断を誘える。上手く扱えば脅しもできる。
  効果の程を考えたら微妙だが、内容は非常に有用だ。
  消費MPも20と非常にリーズナブル。ありがたく使わせて頂こう。
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カース・フェンス
  漆黒魔法に進化させて初めて覚えた魔法。消費MPは15。
  発動までは早いが、暗黒魔法の諸々よりは遅い。発動には少しかかる。
  触れるとランダムに一つ、ステータス低下のバッドステータスを受ける柵を設置する。
  このステータスの低下は自身のDEXの値が参照される。今は大体5%程度だ。
  しかし、この魔法は重ねて掛けることが可能だ。触れれば触れるほどステータスは低下していく。
  存在時間は5秒ほどだが、バッドステータスは数十秒は続く。
  何度も触れさせれば楽しいことになりそうだ。
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 どれもすぐに発動できて、効果も素晴らしい。時間が短いのは玉に瑕だけど、それを塗り替えしてしまうくらいチャージ速度が速く、MP消費も軽い。大変よろしい。


 何より、近接職にとってこれほど望ましい特化魔法はないだろう。もはやアーツの域に近い。手数も増え、戦い方に大きく幅がある。魔法使いの視界を潰せるというのもいい。


 ただ、やはり集団戦、とりわけ速攻でかたを付けに来る相手とは相性が悪い。掠れば即死なのは変わらず、またそういう相手にはデコイの意味がない。実質命のストックがひとつ減っているみたいなもんだ。


 しかし、そこは大鎌という武器の性質でカバーできる。この武器は範囲が広い。故に、近づかせないように立ち回ることができる。最悪、ブンブン振り回してれば終わる気もする。


 さて、ひとまずこんな感じで、スキルについてはまとめておくことにするとして、ほかに用意すべきものとかは……うん、特にないよね。


 武器の耐久値は、初期武器は無限である。なので、そこまで武器に対する心配はない。火力もステータスから余裕で出せるし、一人だから仲間の心配をする必要もない。一撃でも喰らえば終わりだから回復アイテムもいらないし、様子見したら帰る予定だから軽装でも大丈夫。


「……それじゃあ、行きますか」


 僕は、キーク森林、その奥地へと、足を向けた。



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