死神さんは隣にいる。

歯車

20.皆殺しだ……!②

 粘液放ったバカの首を一撃のもとに刎ね上げて、くるくると大鎌を回して粘液を吹き飛ばす。エフェクトが消えるのを待ってもいいが、自滅して動きが遅くなっている素人共を狩るのには打って付けだ。


 HPバーを確認する。よし、減ってないな・・・・・・。成功だ。


 先ほどの粘液は恐らく、何らかの魔法によるものだったのだろう。しかし悲しいかな、せっかく発見していたのだから、まず最初に僕を殺すつもりで、範囲そこそこの高火力攻撃を、僕が攻撃に偏っていることに気づいたのであれば低火力の魔法を数個、僕に向けて仕掛けるべきだったのだ。気配が消えているとはいえ、場所の特定はそう難しいことではないだろう。


 翻弄するように仕掛ければ、まだやりようはあったはずなのに、奴はこれを機に士気を上げようとしたのだろう。手順を省略せず、鼓舞するために声を上げ、一人討ち取ったと行動で示せば、さらに良い結果だったろうに。


 広範囲攻撃なんてフレンドリーファイアを起こす危険性を孕んだ魔法を、よりにもよってこの状況で放つとは。悪手ではないが、そのあとのことをもう少し考えるべきだな。


 ちなみに、広範囲魔法の対処法は簡単で、それ以上の広範囲攻撃で塗り返せば容易に覆せる。そうじゃなくても、とりあえず魔法のエフェクト、例えば氷柱の雨みたいなものであれば全て壊せば解決だ。


 といっても、僕が取ったのは例外で、わざわざそんな無理やりやらなくても対処できる。結構簡単にできる技で、僕のクランの連中は全員使えてた。発動率は微妙だったのだけど。


    遠距離からの首狩りはもっと単純で、ただ振るった刃の勢いの余波で生まれた斬撃波とも呼ぶべきもので飛ばしただけだ。これはそのまま、STRが高ければ誰でも出来る。


    要は、刃の鋭さが鈍らないように振るうだけである。少しコツがいるし、現実では筋力が足りないが、ゲームであれば余裕で出来る。大事なのはイメージと、技術だけだ。


    そういうようなアーツもあるにはあるが、正直今この脳筋キャラでなら意味は無い。そんなアーツよりSTRの値が伸びれば伸びるほど飛距離も伸びるこのやり方のが使い勝手がいい。


    ……さて。


 この場にいる常識人として、看過できないものがある……。溜まりに溜まった業を爆発させる時が来た…………


 ……、まず一つ――――っ!    この!   ロリコン!!   どもめっ!!


 スライムとローションと拘束は幼女にやったら児童ポルノで捕まるんだぞっ! 青少年対象でもないのに躊躇いなしに打つなよそんな魔法! しかもその上で目をそらすなよ! 嫌なところで紳士ぶってんじゃねえよ! ヘタれかよ!


 おかげでちょっとびびったじゃねえかよ! 服透けたりしないかななんて邪な感情は一切湧いてないけど! セクハラ警告出るかとか思って怖かったじゃんか! 垢BANされたらどうすんだ! 泣くぞ!


 二つ目、姉さんも食らってたのに、誰も見てないってなんなの!? マジで全員ロリコンなの!? キモいよ! ただひたすらにキモいよ! そしてそこのおっさん、なんでちらっと濡れた僕を見てたの!? なんで顔を赤らめてんの? キモい! 近寄りたくもない!


 最後三つ目、鹿とかもしかは……違う! そこが気になってしょうがない!なんでそんな間違いしたの!? しかつながりだとでも思ったの? 馬鹿なの!? 死ねよ! いっそ吊って死ね! 糞尿撒き散らして死ね! 


 さりげ「なん……だと……?」とか言ってんなよ! 普通気づけよ! 明らかに違うだろ! そういう細かいところ気になっちゃうんだよ僕は!


「はぁっ、はぁっ……」
「お、おい、なんか疲れてるぞ」
「お、お前行けよ……」
「い、いやお前が……」


 ……臆病かよ!


 いや、落ち着け、落ち着け。ツッコミどころありすぎたな。深呼吸。す~は~。よし。


 なにはともあれ、アホの放った魔法のエフェクトによって、そしてそのアホが死んだことによって、隙だらけのPK達。すかさず一人、また一人と首を刎ねていく。あ、気配遮断と迷彩化発動するの忘れてた。まいっか。


 呆然としていたものの、気を持ち直した連中は、急に現れた(ように見えた)僕に驚きつつ、仲間が消えていた原因を知り、憤慨しながら襲いかかってきた。


 しかし、そのお粗末な対人技術に呆れ果てる。


 不意を打つのを前提にするなら、まず音くらい隠せ。前衛はもっと集中させろ。ついでに本命を隠すように立ち回れ。期待を灯した目で襲いかかるな。


 後ろから飛んでくる矢を大鎌を振るって受け流し、時に砕き。迎撃を終え、大鎌を刃に手を寄せて持ち、小回りが利くようにする。そして、目の前に来ていたバックラーと片手剣の使い手を、しゃがんでくぐり抜けるようにして、腹に刃を突き刺す。


 そのまま止まる、なんて愚行はしない。突き刺したまま囲むようにして襲いかかる近接職たちへ向けて盾として使いつつ、振り抜いてぶつける。




 悲鳴と躊躇い。ほれ見ろ、隙だ。




 仲間を斬れないくせにPKとか、アホかと。




「こ、この、悪魔め!」
「卑怯者!」


 悪魔? 卑怯? それは褒め言葉というのさ。勝てば官軍負ければ賊軍、勝利は正義。


 続いて、近接職の隙を活かして柄で一撃を入れる。ミシミシという音がしつつも、一旦戻して次は刃で一撃。高いSTRから繰り出された二擊で、近接職を吹き飛ばす。タンクはもう潰した。あとはアタッカーと後衛しかいない。余裕でゴリ押せる。


(さて、お次は――――おっと)


 ひとまず余裕を保てた気がしたが、気のせいだったかな。


 距離にして数歩。そこで敵の魔法職が魔法のチャージを開始していた。それもかなり即効性のあるものだ。


 範囲魔法ではないので地面に魔法陣は発生しない――――なら。


「いよしっ、ざまぁねぇ!」
「いや、君がね?」


 手元に現れた魔法陣を、エフェクト発動の瞬間を狙って砕く。大鎌を死角から振るい、見えないように気づかれないように、魔法陣だけを狙う。


 これが、先ほどの例外、その一つ。虚を突くために有効なものでもある。


 このゲームの魔法とは、チャージが終わって発動するまで、魔力を貯める状態にある。それを問答無用で破壊するのが一つ目の妨害方法。二つ目は貯まりきって発動してしまった魔法の対処だ。とはいえ、このやり方は二つある。


 一つ目、先ほど話したとおり、物量でもって叩き潰す。ただ、魔法とはすなわち火力でもあるため、この手段はよほど偏っているか、同じ魔法職でなければ取りにくい手段だ。


 ただ、このゲームは非常にリアルで、発動した瞬間は、そこまで勢いがないため、威力が出ない。もちろんそうじゃないものもあるが、基本的にはそういうものになっている。故に、有効といえば有効。


 二つ目、これが例外に当たるのだが、魔法が発動してコンマ数秒の、魔法陣が光った瞬間・・・・・・・・・を狙う。


 このゲームでは、パリィは常時発動状態。つまり、武器を魔法に振るってそれがもしエフェクトを砕くことができるなら、そのエフェクトが霧散する。つまり、魔法陣を狙えば魔法を潰すことができる。


 別ゲーにはパリィのスキルがあって、それを使わないと弾き返せないとか、武器に当たった時点でダメージを食らうとかもある。その点、このゲームは技術さえあれば弾き返せる。


 しかし、エフェクトが現れてしまったら話は別だ。エフェクトが現れた時点で、魔法陣はただの飾り、エフェクト一つ一つを壊さなくてはならなくなるのだ。


 なので、当然、それができるならチャージ前に魔法陣を壊せよという話になってしまう。なので、これの有用性は、発動したと油断を誘えること。そして――――


「エフェクトは消えないから、ミスると味方の方に飛んで、隙ができちゃうんだよ、ねっ!」
「がぁっ……」
「うっ、おぁっ!? ぐっ……」


 放たれてからダメ判定のない火球が二つ、飛んでいった。そしてPKの二人に当たり、怯んだところを横薙ぎで振り向いた僕とりゅーが一人ずつ殺す。


 さて、これで残りは……おっと、そういえば最初からいたな、弓兵あいつ。なんかものすごくおびえているんですが。なんだろう、何か怖いものでも見たのかな? まぁいいや。


 姉さんに指示を出し、狙い撃ち……ヘッドショット。びゅーてぃふぉー。


 さて、これで恐らく4人。ふむ、ほとんど後衛か。数の差もほとんどないし、余裕だな。


 ちょっと戦いではなくなってきたので、ここからは実験としよう。いままで使ってこなかったアーツの検証だ。


 お試しにアーツを使いながら残りを倒した。あいつらもアーツを何度か使っていたが、正直通常攻撃でもオーバーキルで、そこにアーツも載せたせいで、お相手さんのアーツは武器ごと木っ端微塵になった。


 一人相手に四回くらいアーツを使った。オーバーキルに死体撃ち。控え目に言って最高ですぅ……。
響くは絶叫、断末魔。恐れ戰く雑魚どもの悲鳴、恐怖、絶望。


 瞬く間に人数が減り、粘液のエフェクトが消えたのを見計らってりゅーと姉さんもさらに勢いを増したので、美味しい経験値だけを頂いた。まあ参加とは言っても、一人か二人倒しただけだが。


 さて、これでラスト。一撃で屠るとしましょうか。


「ひ、ひぃぃいい! 殺さないでっ、死にたくない! いやだ、嫌だぁぁあああああ!」


 叫び声が鬱陶しい。あーもう、ゲームなんだから割り切れよ! 潔く散れよもう!


 これでトラウマ抱えても僕のせいではないが、少々耳障りだ。糞の役にも立たない雑魚に、こんな面倒を強いられた上、さらに気持ちの悪い羽音を響かせる羽虫の始末をつける僕の身にもなってくれ!


「ひ、ひぃ、この化物! 悪魔! なんでお前みたいな奴がいるんだよ! 聞いてねぇ! そんなの聞いてねぇぞ!」
「バカ、調べなかったお前のミスだ。言われなくても動くのは社会人の常識だぞ?」


 それでは、街までどうか、悪しき夢を。


………………………………………………


「うーん、聞いてたより余裕持って倒せたな。なんか素人丸出しって感じだし」
「うそ……なんで息切れないの……? 最初の、スタミナのパラメータは一緒なんでしょぅ……?」
「しきめは、ここらへんが、おかしい。というか、なんで、そんな、ばかりょくに?」
「バカとは失礼な」


 僕をバカかもしかと一緒にするんじゃないやい。


 それはともかく、スタミナなんて所詮ゲームだし、気の持ちようじゃないかな? あんまり疲れた気がしないのも、余裕を持ってたからかも。ほら、アバターに内臓なんてないし、疲れたっていうのも気分がするってだけだよ。


 つまり、船酔いとか、昼寝したくなった時の眠気とか、そういう我慢すれば持ちこたえられる物と一緒だって。根性大事よ、根性。


 あれ? 船酔いは三半器官が影響してるから、気分だけの問題じゃないんだっけ? まいっか。というか、姉さんはむしろもっと激しい戦い方をすることになりそうだし、これでへばってちゃ後が辛いよ?


「……人間?」
「ちがうかも」
「酷い!」


 さて、そんな茶番はともかくとして。


 とりあえず先を急ごうと思ったのだが、これ以上姉さんにPvPさせるとそっち系統にスキルが偏りかねないので、これからの戦闘はボクとりゅーだけ参加することにする。やはりまだPKは大勢いるみたいだし。


 ちなみに、僕とりゅーは戦闘ではなく蹂躙である。故にモンスター相手にも通じるスキルの育ち方をする。このへんはシステムによる判断なので、あまり良くわかっていない部分も多いが、β時代は雑魚処理系のスキルが手に入ったので、多分大丈夫。



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