死神さんは隣にいる。

歯車

16.スキルの相性

「おーい、シキメー?」
「はっ」




 姉さんの声で我に返った。あまりにも衝撃的な光景を見て、一時的に頭から意識が抜けきってしまったようだ。


 しかし、まさか、流石にうそだよね? あんな、完璧に整っているスキル構成、見たことないんだけど……見間違いじゃないですね、はい。


「あぁー……なぜだ……」
「ちょ、どうしたのいきなり」


 なぜ、ノヒメや姉さんはかなりいい感じのスキル構成だったりステータスだったりするのに、僕のはどうも取り回しがピーキーなものばかり選ばれるんだ……。ベータテストの時ですらもう少しマシな感じだったよ……。


 βの時は確かにいろいろ変な感じのスキルも多かったが、今ほど火力一辺倒なスタイルでも、それ以外の極振りでもなく、それなりにバランスが取れていたというのに……。


 まあ、今の方が扱いやすいんですけど。何故やし……。


「えっと、何があったのかは知らないけど、元気出して?」
「……うん」


 姉さんに慰めの言葉をもらって少し元気も湧いてきたので、四つん這いの状態から立ち上がる。まだ落胆は治ってはいない。そりゃそうだ。あんな完璧なスキルビルドなんて、このサーバーでも相当少ないんじゃないだろうか。いや、下手をすると日本サーバー中で数人の可能性もある。


 このゲームの初期スキルというのは、そのほとんどが長くお世話になるスキルである。というのも、AIが完全に適性のあるものを選んでくるので、手放しようがないのだ。僕のように新しく始めても、似通ったスキルが手に入るものだ。


 僕? まあ、AIも完璧ではないということだろう。思ったよりコイツに似合ってないなって思ったから、これを機に変更したみたいな。確かに、今のスキルビルドはβ時より使いやすい。脳筋型なのにね。はっ、もしかして、生まれつきかな? ハハッ、泣けてくるね。


 まあ、僕のことはいい。問題は姉さんだ。


 長くお付き合いするこの初期スキルは、AIが選ぶ故に統一性があまりないのだ。なぜなら、成長していくに連れて徐々にプレイスタイルに合った進化を遂げていくから、最初は手探り感満載の個性満開なのだ。どのスキルも、基本的に確立は同じなので、初期スキルはくじ引きのようにランダムなのである。ソシャゲの初期ガチャみたいな。


 ちなみにリセマラは不可能。このゲームは基本はハード一つにつきキャラ一つ、そのためある意味ベータテスターはそういう点でも有利と言える。まあ、ベータテスターでわざわざリセマラするような酔狂者は僕ぐらいだろうけど。


 まあ、それ故に、レベル1では派生もアーツも補正値の上昇値も決まっていない。プレイしていくに連れて、上昇値とアーツの強さ、効果が千変万化していくのだ。僕の気配遮断と迷彩化のように、ある程度固有スキルに統一感があるように思えるものもあるが、逆に言えばそれしかない。


 そういうのは、たまたま似たようなスキルが二つ重なっただけで、そこまで珍しいわけでもないし、確かに相乗効果で能力上昇は見込めるけれど、正直、これくらいの被りなんていくらでもある。例えばノヒメの裁縫と縫合は初期スキルだけど、あれくらいは普通だ。しかし、姉さんのはどうだろう。


 β時の記憶が正しければ、この加速、跳躍、軌跡、疾走という四つのスキルは全て、AGI関係のスキルだったはずだ。特に、軌跡というスキルは派生の幅が広く、かなり独特の変化をすると聞いている。そんなスキルを序盤から、しかも他にもAGI関連のスキルとともに習得してスタートできるのだから、ほかの軽戦士とも言うべきプレイヤーと圧倒的に差をつけられるだろう。


 ここまで完全に統一性を持ってスタートできるのは相当運がいいと言える。いつの時代でも特化型は愛される。パーティで動けるからだ。器用貧乏より絶対に助け合ったほうが強いのだから。


 え? 僕? 愛されたらいいのにね(泣)。


 まあ、それはともかく、つまるところ、こんなに完璧なスキル構成はなかなかお目にかかれないのだ。そもそも個人の適正というのは幅広いのだからして、一切の関係がないスキルを覚えるのがほとんどで、よくて二個が限界なのだ。


 ステータスとスキルが合うことや、スキルと魔法が関連付けられて途中で覚えられるケースはままある。前者が僕の天外膂力や気配遮断、迷彩化で、後者がノヒメの裁縫と裁縫魔法だ。ノヒメの初期スキルは投擲、裁縫、縫合、集中、作業の五つだと後で聞いた。裁縫魔法はあの時に覚えたのだろう。


 しかし、姉さんは開始時に、レベル1の時に、この完璧なスキル群を手に入れたのだ。普通であれば少なくとも職業スキルの他にあと二つか三つ、関連性が全くないスキルを手に入れてもおかしくないというのに、である。


 多芸な姉さんのことだ、さぞかしAIも選択肢の多さに悩み果てたことだろう。にも関わらず、確実に完璧な手札を取れるとは、幸運の神様に溺愛されてるとしか言いようのないほどだ。僕がしばしの間呆然としてしまうのも当然と言えよう。


「まあ、いいや……。いまはいいや……」
「ねえ、本当に大丈夫なの? 疲れてない? やっぱり付き合ってもらうのは悪いからもう寝てもいいのよ?」
「いや、大丈夫。スキルの詳細も見ていい?」
「……あとでそっちも見せなさいよ?」
「わかってるって」


そうして、姉さんのスキルの詳細を見た。


――――――――――――――――――――――――――――――
近接格闘術
  ナイフと拳銃が装備できるようになり、その二つを使ったアーツを習得できるようになる。
  また、拳銃とナイフを装備時、DEXとSTRに補正が掛かる。
  レベルが上がると補正値とアーツの種類が増える。
  レベル1  補正値 +3%
  アーツ ……スタブ・ラッシュ
――――――――――――――――――――――――――――――
跳躍
  飛び上がる動作をする際にAGIに補正がかかり、着地時の衝撃を緩和する。
  レベルが上がると補正値と衝撃緩和が上昇する。
  レベル1  補正値 +5%
――――――――――――――――――――――――――――――
加速
  一定時間、AGIが大幅に上昇する。
  レベルが上がると上昇値と時間が延びる。
  レベル1  上昇値 +40
  効果時間  10秒
――――――――――――――――――――――――――――――
軌跡
  戦闘中、移動すればするほどAGIが上昇する。
  ただし、一定の値まで上がると上昇しなくなる。
  レベルが上がると上限値と増加量が上がる。
  レベル1  増加量 +1 (五秒ずつ)
        上限値 +20
――――――――――――――――――――――――――――――
疾走
  走る際にAGIに補正が掛かる。
  レベルが上がると補正値が上昇する。
  レベル1  補正値 +5%
――――――――――――――――――――――――――――――


 ぐはぁっ。なぜ。なぜこんなにもいい感じのスキルばかりっ……!


 ベータテストでもこんなに関連スキルが多い初期キャラなんて聞いたことないよっ! 明らかにスピードタイプで、確実に極められるなんておかしいっ! 僕なんて極細の、数本しか出ない線を完璧になぞらないと発動しないとか、ステータス三つを三桁も下げたりするスキルとか、隠れないといつでも一撃死する的みたいな紙防御なのに! それなりにバランス取れたステータスにそれを完璧に活かすスキルとか、わけわかんないよ!


 しかも姉さんのスキル構成なら、この先絶対に大量の派生がある。完全に基本スキルとしか言えないようなスキルばかりなんて、この先凄まじい強さを誇る派生スキルに向けたフラグにしか思えない! さらに、この構成なら、もったいないとは思うがVITを上げまくって超速で動く重戦士なんて面白いものにもなれる。跳躍を使えば重戦士が軽業を使うことだってできるだろう。


「え、ええ? そんな珍しい構成なの? どうみてもRPGならよくありそうな構成なのに?」
「それが一番出にくいのがこのゲームの特徴なんだよぅ」


 しかも、汎用性に長けたAGI系統のスキルをこんなにも……。理不尽だ、この世界……。
 ただでさえ統一性のある初期スキルは手に入りにくいというのに、STR関連みたいな火力よりでもなく、VIT関連の耐久よりでもなく、INT関連の魔攻よりでもなく、DEX関連の生産寄りでもない。


 AGI関連の、機動力用のどんなタイプでも合うスキル群。STRなら確定で近接になるし、VIT関連ならタンクタイプの前衛になってしまう。INT関連なら魔法職確定であるし、DEXなら生産色確定だ。しかし、AGIとSTM、そしてLUK関連なら職業に影響しない。MND? 知らない子ですね。


 しかし、その中でもLUKはドロップや宝箱、一応少しだけ生産に影響あるかな? ってくらいしか意味がない。STMは体力不足の僕でさえ数時間は戦えるゲーム仕様なため、正直あまり必要ない。念のため、願掛けくらいに振っておくものだ。例外もいるけど。


 なので、応用力が一番あるAGI関連のスキルが揃っているということは、サービス開始数時間後に始めたという失敗を塗りつぶす圧倒的アドバンテージだ。正直AGI特化のキャラにすれば誰も追いつけなくなる気がする。


 先ほどのVIT型だけでなく、STRとAGIの二極振りでの高機動戦闘タイプや、INTとAGIの二極振りでの逃げながらの大魔法ブッパ、INT+STRの二極振りの魔法剣士タイプなんてロマンあふれる編成もできる。STRをDEXに変えれば魔法銃士なんて格好いい職業にもなれるだろう。このゲームで唯一理不尽な初期自由度ほぼゼロという事態を脱却できるのだ。


 SPをAGIに振らなくてもなんとかなる、というのは火力職にとっては圧倒的なアドバンテージである。さらに、ここで近接格闘術の拳銃が生きてくる。拳銃を使い続ければ、そのうち派生で銃系のスキルが出るだろう。その際、突撃銃でも装備できるようになれば、立体機動と高速移動の二つを兼ね備えた恐ろしき戦場の鬼が完成である。


 当然ナイフを使い続ければ斥候職や、暗殺者のような職業になれたり、近接職の派生も出るだろうし、両方を使えば遠近のバランスのいい、対応力や適応力の高い職業になれるだろう。ついで、


  本当に羨ましい限りである。それなのに僕のキャラときたら……。あ、今更ながらに落ち込んできた。うぅ……。


「あらら、どうしたのシキメ?」
「うぅ、なんでもない、ぐずっ」


 ちなみにこのあと、姉さんに僕のステータスとスキルを見せた。最初は笑いかけた姉さんだったが、すぐに僕の言っていた珍しいという意味に気づき、それでもこのビルドにした理由を問われ、正直に答えた。そう、ノヒメに提案されたからという理由を。


  姉さんは苦笑して、あとでご褒美に夜食のケーキ作ってあげるからね、と言われた。嬉しいけど、今はその同情すら心にくる。


 それでもケーキは貰うけど。あ、ノヒメを起こさなきゃじゃん。明日の朝かな? 楽しみ~。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品