死神さんは隣にいる。

歯車

14.不穏なPK

 何やら散々なあれこれがあったが、ひとまずなんとかヤヒメに近場の服屋に買いに行かせた。幸い夜とは言えまだ九時頃。近くの服屋までは自転車を走らせればだいたい十五分くらいで着く。出発させる時、、もう一回、今度は一緒に入ってもらえと急かした。


 快く引き受けてもらえ、ダッシュしたヤヒメの帰りを待ちつつ、僕はその辺の旨を姉さんに伝えた。すると姉さんは苦笑して「のぼせないように気を付けないとね」と言った。


 さて、帰ってくるまでだいぶ暇になったので、どうしようかと思っていると、友達からメッセージが届いた。いきなりだったのでちょっとびっくりしつつ、とりあえず携帯のロックを開き、メッセージを確認する。


『どうだった初日は?』


 とのことだった。なるほど、そういえばこいつも当たっていたか。興奮しすぎてすっかり連絡を忘れていた。


『とりあえず北の森でレベル上げ。そっちは順調?』


 そう返すと、そこまで時間かからず返信が返ってきた。


『は? うっそ、だってあそこって適正レベル15ちょいくらいだろ!?』
『いや、言う程難しくはないよ? だって、要するに、攻撃喰らわなきゃ死なないし、逆に当て続ければ勝てるだろ?』
『いやそれができるのはお前だけだよ!?』


 ふむ? 何を言ってるのか。多少本気を出せば、人間なんてその程度はできるだろう? 確かにちょっと難しいかもだけど、そっちのが効率いいならそっちを選ぶでしょ? そもそも、HPなんてものがあるんだから、ひたすら急所狙えば子供でも勝てるし。


 さらに言うなら、僕は鈍足だけど、君たちは普通にAGIもVITも高いじゃないか。僕なんて両方ともゴミだから基本そこから一歩も動けないんだぞ。動いた隙を突かれて死ぬから。


『まあ、相も変わらず非常識なのはわかった。なら、今何レベだ?』
『非常識とは失礼な。僕はいたって普通のプレイを楽しんでるんだよ。レベルは21』
『21!? ってことは、もう上位職!?』
『そうだが、そうは言っても、上位職は数日あれば終わるでしょ?』
『いや、こっちはもうちょっと掛かりそう』
『へ?』


 どういうことだ? レベル20なんて、確かにハリア草原とかやってたら時間かかるけど、西や南で適正レベルで攻略していけば簡単にそれくらい行くはずだ。まして、パーティなら多少効率が落ちるとはいえ、安全性で言うならそちらのほうがもっとずっと安定するだろう。なら、そう難しいことでもないはず。


『一体何があった? 序盤で躓くとか、洒落にならんぞ』
『何か、βテストを中途半端に抜け出した連中が暴走してる』
『え? つまりどゆこと?』
『中途半端な知識で妨害してくんだよ』
『つまり?』
『例えば、PKはスキルレベルが上がるとか、ソロの方が強くなれるとかな』
『うわ、マジモンの迷惑やん』
『やろやろ? そんな感じのグループが出来ちまって、序盤の街でPKが活発化してんだ。しかもソロだからやまないのなんの』
『乙ですな……』
『ほんとそれな……』


 確かに、PKは腕が上手くなると、モンスター戦でも活きてくる。故にスキルレベルが上がりやすくもない。ソロも、自己管理能力が育つからそれなりに効率がいいし、それに加えてパーティへの経験値分散がなくなるから、レベルも上がりやすい。対応能力もそれなりに育つし、強くもなれる。


 確かにそういう意味ではPKは強くはなれる。しかし、それはあくまでソロでの、PKとしての強さであり、モンスターと戦えばだいたい負ける。ボスモンスターとなればなおさらだ。確かに、ソロで狩ることもできなくはないけれど、それならパーティで倒したほうが効率がいい。


 βテストの前半まではそういう考え方もあったけれど、後半になるにつれてモンスターには不利であることも分かり、PKはだいぶ減ったはずだ。そもそも、このゲームの主目的はレイドボスを倒してエリアの開拓を目指すのであるからして、同胞を狩るのは非効率だ。


 故に、そういう風潮は廃れたと思っていたが……。そうか、確かにベータテストを途中離脱した人もいるんだよな……。


『おかげで全然レベル上がんねえ。一応パーティ組んでPKの対応はしてるんだけどな』
『ふむ……。だいたいどれくらい上がった?』
『まだレベル5だ』


「嘘でしょ!?」


 流石にこれには驚いた。ベータテストも完遂してるし、それなりに詳しく、かつ技術もちゃんとあるあいつが、まだ5? ありえない。そんなにPKが充満しているのか? それにしても酷過ぎでは……。


 いや、デスペナか。確かにソロのPKが多いとはいえ、獲物が被る時もあるだろう。そういう時は対処しきれないのか。それでステータスが落ちて散々な目にあっている、と。ふーむ、結構ひどい状況みたいだ。


 狩場の変更を助言したいところだけれど、それは地形的に行って無理だ。最初の街である王都アイルヘルの周辺は、ルーヴァスさんの言うとおり、ハリア草原が広がっている。つまり、どのエリアに行くにもハリア草原を通る事になる、のだが。


 北エリアだけは別で、ここだけは街の門を出たらそのまま森だ。だからこそ僕とヤヒメはPKに出会わなかったのだろう。話を聞く限り、PK達もまだレベルは低そうだし、北エリアはやめたほうがいいと思ったのだろう。適正レベル15だし。


 あるいは、獲物はいないと思ったのだろうか。


 北エリアだけ草原がない理由は知らないが、運営はこうなることを見越していたのだろうか。それなら西エリアとかも設置しなくてよかった気もするが……まあ、関係ないしいっか。


『思ったよりひどいみたいだね』
『本当にな。序盤で詰まってどうすんだって感じだよ』
『まあ、僕はすでにレベル的に十分返り討ちにできるからいいけど』
『もしそこまでレベルが上がるんだとしても、リスクとリターンが見合ってねえよ笑笑』
『そんなことないのになぁ』
『まあ、それはともかく。お前はβテストの引き継ぎしたか? あの頭おかしい装備の』


 引継ぎとは、そのままβテスト時のデータを引き継ぐことである。ただ、このゲームではレベルも装備もスキルも引き継ぐことはできない。引き継げるのは前にも言ったと思うが、初期職業と知識だけだ。


 まあ、初期職業を引き継げるってだけでも結構ありがたかったりするんだけど……。


『いや、引き継いでないよ。今は新しい職業でやってる』
『へ? うっそ、マジかよ!?』
『マジマジ。だってあれだとすごく目立つじゃん』
『いや、おまえ、それにしたってな……』


 そもそも、正式版にあの頃・・・を持ち出そうとしたくはなかった。何せ、βテスト時の僕と来たら、黒歴史そのものだし……。確かに使いやすくて強かったけど、もうやりたいとは思わないかな。結構恥ずかしいし。何より、あの連中・・・・が追ってくる気がする。


 あの連中とは、βテスト時に敵対していた人達である。このゲームにはクランというシステムがあり、集まってイベントに参加したりするのだが、僕のクランとその人たちのクランは長いこと敵対してきたのだ。いや、あっちが突っかかってきたのだけど。


 一回トラウマ植え付けてやろうと、クランの拠点に乗り込んでボコしてって繰り返してたのが悪かったかなぁ。


『もったいないな。せっかくあんだけ強かったのに。一時期童女王陛下なんて呼ばれてたのに笑笑』
『首吊って死ぬ?』
『お前が言うと洒落にならないからやめろくださいお願いします』
『次はない』
『ありがたき幸せ!』


 はぁ。そう、クランのリーダーを勤めていたら、いつの間にかそんなくだらんあだ名が付いていたのである。それもいつの間にか、中二病臭いものに変わっていたけれど。心に強く刺さるので今は割愛。


『そういえば、じゃあお前の今の職業は何なんだ? お前のことだし、剣士とか槍士とか、そんな陳腐なやつじゃないと思うんだが』
『それなんだよ。βの時に鎌士なんてあった?』
『鎌士? 鎌を使うのか? 見たことも聞いたこともないな』
『だよね。意外となかったんだよ。トンファーとか鎖鉄球とか鞭とかいろいろあったのに』
『確かに意外となかったな。どんな形だ? スピード型か? パワー型か?』
『超パワー型。明らかに脳筋だったよ。ヤヒメがそっちのほうがかっこいいっていうからSPも全部そっち系に』
『マジかよ笑笑お前前も思ったけどヤヒメっちには本当弱いよなぁ』
『うっさい』
『いいじゃねえか笑笑そういえば、あっちの子も始めたんだよな?どんな職業だ?』


 ふむ、聞かれてばかりなのは癪だな。少し聞き返すか。


『そう聞いてばっかのお前は?』
『……あ~、悪い。聞いてばっかはよくねえな。ちょい待ってろ。ちょっと長文になるから』
『りょーかい』


 そうして少し経って、返信が返ってきた。


『俺の職業は双剣士だった。完全スピードタイプで、多少STRに振っているけど、基本はAGIに極振り。一応DEXに少し振ってるくらいで、防御は全部捨ててる。
 スキルも基本そんなのが多い。AGI補正とSTR補正がいい感じに効いてる。ただ、双剣が思ったより手に馴染むけど、遠距離はちょっときつい。魔法職に範囲魔法撃たれると死ぬ
 一応パリィ系のスキル、というかそんな感じのがあるけど、使うのが難しい。あと、魔法スキルはない、かな。
 まあそんな感じだ。スクショも送るか?』
『いや、スクショはいいや。そろそろ風呂だし、お前も早く寝ろよ』
『わかってるって。警告出ないようにしないとだしな』


 警告とは、VRゲームの全てにある、使用者の健康を大幅に損なう恐れがある際に出るもので、目の前に青色のウィンドウと赤い文字がでかでかと表示され、無視して遊んでいると五分以内に強制ログアウトを喰らう。ついでにこのゲームだと何故かデスペナも喰らう。


 しかも、強制ログアウトは五分以内なので、警告が出てすぐに来る場合もある。そういうちょっとびっくりするような事態にならないように基本的には定期的に自身の健康をチェックする必要があるのだ。


そのため、随分とニートたちは健康的になったらしい。早朝に公園に行くと、結構な頻度でゲーマーがランニングしている。昔は不健康だと言われていたゲームだが、今では健康の代名詞となりつつあるほどである。なんでも、子供にゲームを与えると、かなり社交的になり、スポーツに精を出すようになるらしい。


 最後に適当に挨拶をしてメッセージアプリを閉じる。時刻は九時半近く。そろそろヤヒメも帰ってくるか。じゃ、僕は風呂の用意でもしてようかな。ヤヒメの。



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