死神さんは隣にいる。

歯車

5.チュートリアル終了

「まあ、頑張って組み合わせていきな。もしかしたら、案外化けるかも知んねぇぞ? なんてったって、βテスターなんだもんな?」
「簡単に言ってくれますねぇ……」
「んなもん個人の努力次第だ。お前がどれだけ頑張るかによってその職業が強くなるのか、弱くなるのかが決まるんだからな。頑張れよ。……次は、武器の装備の仕方についてだ。メニューを開いてみろ」
「はい。開きました」
「うむ。次に、そのメニューの中にあるさっきのキャラクターの模型をタップだ。そこから、武器選択に入れる。やり方はわかるか?」
「大丈夫です」


 僕は、自身の模型をタップすると、ズラッと現れる武器選択画面の中の武器欄を見た。そして、その中にあった初心者の大鎌をドラッグして自身の体の模型の腕のあたりでドロップする。すると、自身の手に巨大な鎌が出現した。


「結構重いな」


 その思ったより重量があった鎌を持ち、軽く握って感触を確かめる。何故か手に馴染んだ。やはりこの武器が自分に合っているのだろうか。ほんとうにそうなら、驚きと言わざるを得ない。なんせ、自分自身、こんな奇っ怪な武器は手にしたことがない。自身も知らん適性があったとでも言うのだろうか。


「ふむ、それなりに様になってんな。武器の詳細については、今はひとまず置いておくぜ。防具と一緒に見たほうが手っ取り早いからな。ってなわけで、次に防具を渡すんだが、お前さん、妖精さんからチケットもらってるはずだよな?」
「はい。これですよね?」


 そういって、僕は転移した時からずっと握っていたチケットを手渡した。彼女の手に渡った途端、そのチケットが青いポリゴンとなって宙を舞い、僕の目の前に大量のウィンドウが出てきた。


「その中から選んでくれ。ああ、時間をかけるなら新規フォルダを作って候補として整理するのもありだぞ」
「わかりました」


 そこにあったのは、どうやら防具のデザインのようだった。随分と種類が揃えられているらしく、項目が大量に分かれている。が、職業的に装備できないものも混じっているみたいだ。僕はその中でも比較的軽装なものを選んでドラッグ&ドロップし、良さそうなものを片っ端から別フォルダに放り込んでいく。


 安定なのは軽めの鎧が欲しかったところだが、残念ながら鎌士は職業的に鎧全般装備不可。ここで更に縛りを追加してくる。相当この職業を考えた女神様とやらは性格が捻くれた鬼畜であるとわかる。


 仕方なく、鎌士という職業に合いそうな装備を選んでいく。当然カラーはすべて黒だ。


 そして、最後の項目の靴を選ばせてもらった段階で、「これでよろしいですか? はい/いいえ」というコマンドが出てきたので、迷わずはいを押す。すると、「防具チケットと防具を交換いたしました」というメッセージが視界の右上あたりに出てきたのがわかった。


「さて、そんじゃま、お待ちかねの武器、防具詳細だ。やり方は、まずアイテムメニューってのを開く必要がある。開き方は、メニューから一番上のアイコンをタップだ。すると、アイテムバッグに入っているものの確認ができる。やってみろ」
「了解です」


 先ほどルーヴァスさんが言っていた通りにアイテムバッグの中身を見る。すると、そこには僕が選んだ防具がずらりと勢ぞろいしていた。少し下の方に「初心者の大鎌」もあった。うまくいって万々歳である。


「それから、調べたいアイテムの項目をタップするんだ。すると、詳細アイコンが出てくる。それをタップすれば、その防具の性能や、作者名、その他もろもろの情報が出てくる」
「わかりました」


 そして、まず一番上にあった「粗い目の雑な黒ローブ」を選択した。すると出てきたのは…………


――――――――――――――――――――――――――――――
粗い目の雑な黒ローブ  防御力2  ★1  防具種:ローブ
  作ったものの腕が雑なために扱いにくい黒のローブ。
  動くのに支障が出ない程度に軽いが、素材が粗いため、少し硬い。
  適当な作りで、縫い目が甘く、下の方はボロボロ
――――――――――――――――――――――――――――――


 という表示が出てきた。というか、やっぱりこれは近接戦闘は難しいか? 布地は硬いみたいだし、やりづらそうだ。でも、死神って言ったら黒くてボロボロのローブを羽織った感じじゃない? となるとやっぱり、こうなるのも致し方なしか……。


 あと、このゲームに耐久力の概念はない。その代わり、装備したまま防御力を超える攻撃を受けると破けたり切れたり壊れたりする。ただ、どれだけボロボロでも一応防具として機能するので、肌に当たればダメージを受けるが、防具がある場所は一応防御力が働く、といった感じだった。そのため、防具の切り替えがちょっと面倒だが、ダメージデザインがしたい人は結構好きな要素の一つらしい。僕としても、凝ってあるゲームは大歓迎だ。


 それを装備してみると、ちょっと動きにくいとは感じたが、STRの値が異常なせいか、結構簡単に動けた。懸念事項が払拭されて嬉しいと感じるべきか、こんなにも早く懸念事項が生まれた事を嘆くべきか……。いや、いまはポジティブに考えよう。うん。


 ちなみに、ほかの装備も同じような説明だった。「粗い目の雑な黒○○」みたいな感じ。当然防御力も紙みたいなものだった。解せぬ。


 まあ、そんなこんなで、一通り装備の詳細を見終え、報告すると、哀れみの目で見られた。解せぬ。
しかし、次に来るものがβテストの時と同じなら、次はお楽しみ職業についての女神様からのアドバイスである。即ち、どういう職業なのかの説明である。ようやくこの謎の職業の全貌(?)が暴かれるのだ!


「じゃ、じゃあ、次に職業についての説明だ。とは言っても、正直あんたの職業はそのまんま、鎌を使って敵を倒していくものだ。そこまでは理解できてるよな?」
「はい」
「そんじゃ、女神様からのアドバイスだ。ちょっと待ってろ」


 それだけ言うと、ルーヴァスさんは右手を前に出し、じっと目を瞑る。すると、掌がほのかに光り始める。その光は白く、優しいものだ。これは通称女神様からのお告げと呼ばれていて、自身の職業を決めた女神様から自分の未来についてアドバイスをくれるのである。その割にルーヴァスさんの祈り方(?)が妙に偉そうなので、このチュートリアルキャラクタールーヴァスさんは実は物語上結構重要な人なのでは? と噂されている。


 そうして少し経つと、ルーヴァスさんが目を開けた。


「女神様からアドバイス、来たぜ。心して聞けよ?」
「はい」
「『鎌士、という職業は、あなたの心にある鋭利な刃をそのまま形にしたような職業であり、また、その職業の意味を決めるのはあなたです。あなたの心の有り様によってその職業は千変万化と変化します。いつでもどこでも、その鋭い心を忘れないでください』……? なんだこれ?」
「……?」


 ん? なんだこの精神論? おかしい、βテスト時にされた説明はもっと具体的だったんだけど。こう、ステータスポイントの振り分け方とか、この先に現れるだろうスキルや職業を仄めかしたりとか。断じて、心の有り様とか職業の由来を聞きたかったんじゃない。ん~? どうしてこうなった?


「あっれ~? おっかしいな。悪い、こんな精神論で。いつもはもうちっと具体的な説明とかくれるんだが。ここまで適当なものは初めてだ」
「いえ、仕方ないですよ。たしか信託は一度だけ、そういう決まりなんでしたっけ」
「ああ。宗教の決まりには従わなくちゃなんねえ。本当だったらもっと具体的な説明をよこしてやりたいんだがよ。流石にこれ以上女神様に問い合わせることはできねえんだ。悪いな、本当に」
「いえ、仕方ありません。こうなった以上は頑張っていきます!」


 もともとひっどいステータス構成にスキル構成、故にもうなんかむしろ吹っ切れました。もうね、むしろ自力で何とかしてやろうとムキになるのも仕方ないと思うね。ここまで適当な設定にされたら、むしろ全力で遊んでやろうじゃないかってなるよ。


 いやまあ、この先職業にどんな変化が現れるのか知りたかったのはもちろんだけど。めっちゃくちゃ惜しい気持ちでいっぱいだけど。不満も不服も未練もたらたらだけど。ああ、せめてどんな敵と相性がいいかだけでも……。


「なんか、調子は狂わされっぱなしだが、最後にゲームのフレンド登録やログアウト、その他の設定についての説明をさせてもらう。正直、設定については自分で取説なりを読んでくれ。フレンド登録とパーティの仕方を教えてやる」
「はい」
「フレンド登録したい相手の名前を言って、フレンド申請とボイスコマンドを入力すれば完了だ。そうすればフレンド申請が相手さんの方に行くから、それを相手側が受諾すれば完了だ。解除したい時はメニューのフレンドリストから解除すれば問題ない。パーティ編成もやり方はあまり変わらん。組みたいと思った相手の名前を言って、パーティ編成とボイスコマンド入力でうまくいく。質問は?」
「ないです」
「ならよし。何とも言えないあっさりとした説明だったが、理解できたなら何よりだ」


 ルーヴァスさんは最後まで朗らかだった。チュートリアルでほっとするのもこのゲームの魅力だと思う。


「さて、そんじゃ、お前はこのあとにハイルバキア王国の首都アイルヘルに飛ばされる。その周辺はハリア草原が広がっていて、比較的安全だ。モンスターはいるが、初心者でも倒すことが出来る。頑張ってレベル上げに励んでくれ」
「はい」
「これで晴れてお前はこの世界の一員だ。ようこそ、「オリジン・オブ・イグジスタンス」の世界へ!」


 にこやかにルーヴァスさんがこちらにそう言った瞬間、地面に魔法陣が広がる。先ほどの強制転移の光だ。凄まじい光量に僕は思わず手を振りながら目を瞑る。最後までルーヴァスさんはこちらにむけて声を張り上げていた。


「頑張れよーっ!」



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