最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第27話『孤独な少女』


「──ってことがあったわけ」

「…………」

こうして、だいぶざっくりとした説明ではあったが、一人旅をすることになった経緯、師匠と手合わせしたこと、自分が弱気になってしまっていたことなどをエイトに話し終えた。

当然、私の過去を全てを話したわけではないが、エイトは難しい顔をしながらも、どうにか話の内容をのみこんでくれたようだ。

「なるほど、お前がさっき泣いてたのはそういうわけだったのか」

「そ。師匠に完膚なきまでに敗北して、精神的に弱っていただけよ」

もちろん嘘だが、あんなの、思い出すだけで恥ずかしくて死にそうになる。

「あの時は私も少し気が動転していたわ。ごめんなさい」

「いや、別に構わないけど」

そう言って互いに短い言葉を交すと、なぜか言葉に詰まり、私は卓の上に置かれた自分の飲み物を一気に飲みほした。そして、中身のなくなった容器をその場に置いて席を立った。

「……それじゃあ、私は村の人たちに挨拶してくるわ」

「お、おう」

そうして、落ち着いた声で平静を装いながら急いでその場を後にする。

遅れてやってきた羞恥心と謎の緊張で高騰した今の顔を、彼に見られないように。


               ✲                ✲               ✲


フレイアが去っていき、俺は一人になった。

てっきり今夜でお別れだとばかり思っていた赤髪の少女とは、どうやらまだしばらくの付き合いになりそうだ。

そのことになんとなく嬉しさを感じながらも、彼女から受けた多大なる恩のことも同時に思い出し、その返礼をどのようにしたらよいかと思考する。

「……あいつ、何か欲しいものとかあんのかな」

そう、何気なしに呟いたときだった。

「ん?」

賑わう広間の奥、外の光が漏れているその場所に、一人の少女が立っているのが見えた。

あの子はたしか──、

俺は、その少女の後ろ姿を遠目で見ながら頭の中で記憶を探っていく。

そして、思い出す。

あの子は──、そう。俺がこの村へ来た時、一人だけ家の陰から俺のことを覗いていた村の子供だ。

名前はたしか、──アリス。

俺は、他の子供たちの姿を探す。すると、他の四人は広間の真ん中で楽しそうに食事をしていた。

「……ったく」

村に来たときにマークが言っていたアリスの話を思い出しながら、俺は席を立つ。

そして、広間の中央で賑やかに食事をしている子供たちの元へ向かい、近くに置いてあった小皿を取る。

「その美味そうなやつ、ちょっと貰うぜ」

そう言って子供たちに断ってから、彼らが食べているピザのような食べ物を小皿に二枚載せた。さらにそのまま方向転換して、広間の奥のウッドデッキへと向かう。

デッキに出ると、突然涼しい風が全身に当たり、衣類の隙間を吹き抜けた。

「うぉ」

俺は、風が肌に当たる心地良さに思わず声を出す。すると、その声で気がついたのだろう。木の柵に体をよっかけて景色を眺めていたアリスが、驚いたようにこちらを向いた。

「今日からこの村の住人になったカミヤ・エイトだ。よろしくな、アリス」

とりあえずまずは挨拶からだろう。そう思って自分の名を名乗ったのだが──、

「………」

アリスは俺を見て黙ったままだった。

そして、何も言わずに体の向きをかえ、再び景色を眺め始めた。

──なるほど、これはたしかに一筋縄じゃいかないな……。

最初に見た時から人見知りオーラをビンビンに醸し出していたが、実際に話しかけてみるとその具合が身に染みるほどに分かる。

とりあえず小腹が空いたので、皿の上のピザを一枚取り、ひと口かじる。

「ふむ……ふむふむ。これ、けっこう美味いな。なぁ、このピザみたいなやつ、名前なんていうんだ?」

ピザのような食べ物を咀嚼しながら、アリスに質問する。しかし、返事は返ってこない。

「食うか?」

今度はピザを使って誘い出そうと試みる。しかし、当然のように彼女に反応はない。

俺は、口の中のピザを飲み込んでから、視線を室内へと移し、広間で楽しそうに食事をしている子供たちを見た。

「お前、あいつらのこと嫌いなのか?」

すると、アリスは小さな声で答えた。

「……別に。好きでも嫌いでもないわ」

「それじゃあ一緒に飯食えばいいじゃないか。もしかして、もう既に食い終わったのか?」

もちろんそんなことはないだろうが、俺はわざとそんな質問をした。しかし、アリスはこれ以上何かを口にする様子はなく、呆れたように小さなため息をついてから、室内へと歩き出した。

「これ、食わないのか?」

俺は、徐々に離れていくアリスの小さな背に向けて、ピザがのった皿をつき出した。しかし、彼女はそのまま振り向くことはなく、

「私に構わないで。一人が好きなの」

そう、ひとことだけ言い残してから、その場を去っていった。

そして、誰もいなくなったデッキの上で一人取り残された俺は、夜風にあたってすっかり冷たくなってしまったもう一枚のピザを手に取り、齧り付いた。

「あれは確かに重症だな」

そうして、さっきまでアリスが体をよっかけていた木の柵に背を預け、しばらくの間、夜空に輝く星を見上げていた。



こんにちは。作者のなちょすです。

ということで、今回から『アリス編』開始します! 是非お楽しみください!

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