最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる
第26話『いつかきっと』
目を覚ますと、まず一番最初に視界に映ったのは、薄暗い天井だった。
そして、その天井を見上げながら、現在自分が置かれている状況を確認するために、ゆっくりと体を起こそうとした──そのとき、
「っ…!!」
急な頭痛に襲われ、思わず痛みが走った箇所を抑えた。……なんだか、未だに頭がボーッとしている。
すると、その声で気づいたのか、部屋の隅で椅子に腰をかけて本を読んでいた女性が立ち上がり、私が横になっていたベッドへと近づいてきた。
「目覚めたか」
私は、その女性の声を聞いて、少しずつ朦朧としていた意識が覚醒していくのを感じた。
やがて、意識を失う前の出来事を全て思い出す。
「っ!フリーダ様!」
「師匠と呼べ」
「し、師匠!」
急な意識の覚醒と共に、師匠の姿がすぐ目の前にあることに驚いて、思わず呼び方を間違えてしまった。
そして、少しずつ気持ちを落ち着けると、なぜだか妙なわだかまりが胸の奥につかえていることに気づき、それをそのまま言葉にした。
「……私、負けたんですね」
意識を失う前の記憶で、最後に残っているのは、私が放った炎の超級魔法『テラ・メルト』が、師匠の放った強力な白魔法『メテオ・ホワイト』を打ち砕き、空高くで爆散した光景だった。しかし、今こうして私は師匠の治療を受け、あの白亜の建物の中で横になっている。
いくら師匠の魔法を打ち砕いたといっても、最後に立っていたのは私ではなく、師匠だ。
つまり、この勝負は私の完敗だ。
「……っ!」
なぜか胸の奥が苦しくなり、瞳から涙が溢れる。私は本当に情けない人間なんだと心底思った。
師匠はそんな私の姿を、何も言わず黙って見つめていた。
強者と真剣に向き合い、手合わせして、完敗し、悔し涙を流す。こんなこと、今までの私なら絶対にありえなかった。
──でも、どうしてこんなに悔しいんだろう。
それはきっと、私に力を与えてくれた仲間たちがいたからだ。今はもうこの世にいない友人たち。彼らが私の背中を押してくれたから、私は師匠に立ち向かうことができた。彼らなしではきっと、あそこまで師匠と戦うことは出来なかった。
でも、それでも師匠には勝てなかった。
だから、こんなにも悔しいんだ。私一人じゃない、ミゲルたちの力を借りても、師匠を倒すことはできなかった。──でも、
「──私、いつかきっと、師匠を越える魔道士になります!!」
この悔しさをバネに、これからたくさんの経験を通して──いつかきっと、師匠を越える魔道士になって、そして、この世界中にいる人々に手を差し伸べる。
それが、あのとき大切な友人たちが私に託してくれた彼らの意思であり、示してくれた道だから。
すると、それまで黙って私を見つめていた師匠が、フッと短く笑ってから、私に背を向けて言った。
「それは実に面白い。お前の成長を楽しみにしておくとしよう」
そして、続けて私に急いで支度を済ませるようにと指示を出した。
私は、師匠の指示通りベッドから降り、髪を整えてから、椅子の上に置いてあった黒い帽子を被った。
「実は先程、お前がここへ再び戻ってくる前、村長殿から言伝があってな」
身支度を整えた私を見ながら、師匠はそう言った。
「言伝?」
「ああ。どうやら、今日からこの村の住人になるお前の連れの男を祝して、彼の職業認定式と祝賀会を催すらしい」
師匠の言葉に、私は、そういえばすっかり忘れていたとエイトのことを思い出す。
「それと、お前のことはまだ村長殿には伝えていない。これからこの村で私に魔道を学ぶということは、お前自身の言葉で村長殿に伝えろ。村長殿が断れば、この話はなしだ」
師匠のその言葉には、喝を入れるような力強さがこもっていた気がした。
私は、その碧色の瞳を強く見つめながら、短く返事をした。
「はい!」
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エイトの祝賀会が催される予定となっている村の集会所に向かう途中、私はひとつだけ気になっていたことを師匠に尋ねた。
「師匠」
私の呼びかけに、師匠がこちらへ顔を向けた。
「なんだ?」
「あの。。戦いの最後、私の魔法と師匠の魔法が衝突したとき、ものすごい轟音と暴風が発生したと思うんですが、村の周辺は大丈夫だったんですか…?」
まさか、あの最後の超級魔法同士の衝突で、村の周辺の森が吹き飛んでいたりしたら大変だ。しかし、
「ああ、それなら大丈夫だ。あの周辺には私が予め結界を張っていたからな」
さすがは元王国魔道士。購入すれば数10万セレスはする魔術結界の魔石であの荒野に結界を張り、爆風や爆音を結界内閉じ込めていたらしい。
「質問はそれだけか?」
「あ…えっと、はい」
少し戸惑いながら返事をする。
本当に聞きたいことはそれだけだったのだが、そのとき私は、どうしても師匠に伝えたいことがあった。
「あの、すみません、師匠」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
歩きながら、師匠を見る。
これだけは、今伝えておかなくてはいけないと、そう思った。
「──私、絶対に強い魔道士になります」
それは、なんというか、宣言だった。
いつかきっと、夢を叶えるための第一歩。
その一歩を踏み出すための宣言だ。
師匠は、私の言葉を聞いて、一瞬その瞳に強い光を宿したが、すぐに私から視線を外して正面を向くと、小さく笑いながら言った。
「その意気込みは良いが、まずは村長殿の許可を得ることからだ。この村でのお前の滞在が認められなければ、私のところに置くことは出来ないからな」
師匠の言葉に、先のことばかり考えていた自分が少し恥ずかしくなる。
「さぁ、着いたぞ」
そして、いつの間にか集会所に到着していた。
「準備はいいか?フレイア」
師匠が私に尋ねる。ここからはもう、後戻りはできない。
扉の前で大きく空気を吸ってから、ゆっくりと吐く。そうして緊張をほぐすと、なぜだか少し体が軽くなった気がした。
「はい」
返事をして、視線を師匠から建物の扉へと向ける。
そうして、私の方を一瞬見た師匠は、すぐに視線を正面の扉へ戻すと、その古木で出来た黒い扉を、ゆっくりと開け放った──。
こんにちは。作者のなちょすです。
これにて、『フレイア弟子入り編』終了となります。ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。引き続き、当作品をお楽しみください!
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