最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる
第16話『白魔道士フリーダ』
「弟子…だと?」
「はい」
フレイアの揺るぎない覚悟を悟り、小さく目をしかめるフリーダ。やがて、フレイアの腰元に下げられている小さな杖へと目を向けると、片手を顎にあてて、思考を巡らせた。
「ふむ……なるほどな」
そして、再びその翠色の瞳にフレイアの赤色の瞳をとらえると、試すような口調で続けた。
「面白い娘だ、実に興味深い。…ではまず、小手調べも兼ねて私と闘ってもらおう」
そう言って口角を上げたフリーダに、フレイアは唖然とした。
彼女は現役ではなくとも、世界最強の戦闘職であり、称号でもある『王国魔道士』の任に就いていたという過去を持つ。そんな実力者と戦闘をするということは、少なくとも無傷では絶対に済まないだろう。下手をしたら死──。
そんなことを考えていたフレイアの顔がみるみる青くなっていくのを見たフリーダは、フッと鼻で笑ってから、表情を和らげて言った。
「安心しろ。そんなに派手な戦闘にはならない。…おそらくな。私はただ、お前の実力が知りたいだけだ。…結果次第で、弟子入りを認めよう」
その言葉に、ホッと胸をなで下ろしたフレイアは、しかし、再び気を引き締めると、緊張で微かに震えた声で返事をした。
「はい!よろしくお願いします!」
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王国魔道士。それは、この世界において最上位に位置する職業だ。当然就任が許可されるのは『魔道士』を役職に持つ者だけで、その中でも特に秀でた才能を持つ実力者だけが王国魔道士として王城へ迎えられる。
故に、眼前(正確には約15mほど先)に立つ人物から発せられるただならぬ雰囲気は常軌を逸しており、その人物──白魔道士フリーダが、過去に王国魔道士であったという事実を痛々しいほどにつきつけていた。
フレイア・ディルフォードには、幼い時からの特技がある。それは、相手の魔力を感知することだ。この能力は、本来どの魔道士にも備わっているものだが、フレイアの魔力感知は人一倍抜けていて、かなり離れた人間の魔力すらも、感じようとすれば感知できるほどのものだった。
現在フレイアは、白魔道士フリーダに連れられて、モア村の外れにある遺跡の跡地に来ていた。
「どうだ?これだけの空間があれば十分に動けるだろう?」
そんなフリーダの言葉に、フレイアは一度頷く。
「はい、十分です」
そして、大きく深呼吸。呼吸を整えている間、フレイアは集中力を極限まで高めていた。
やがて、吸い込んだ空気を全て吐き出すと、左腰のわきに着いている布の紐を解き、赤黒い杖を抜き放つ。
全長約30cmほどのその杖は、名を『紅蓮の杖』と言い、火炎石という鉱石を溶かして作られたもので、使用者の魔力に応じて炎魔法の強化を施す優れ物だ。
杖の先端には、火炎石でできた赤い鋼鉄が輪のように繋がっており、その中心部に赤く光る石と、白く光る石がはめられている。
そして、ちょうどフレイアが握っている部分の少し上に、丸く浮き出たボタンのようなものがついている。
杖を前に構えると、フレイアは15mほど先に立っているフリーダに叫んだ。
「…行きますっ!」
「よし。全力で来い」
すぐに返事が返って来たが、フリーダがそれを言い終えた時には既に、フレイアは地を蹴っていた。
全力の駆け足で距離を詰めるフレイアは、フリーダとの距離が半分ほど縮まったところで、前方に高く跳躍した。そして、空中で杖の中心部に浮き出ているボタンを押す。途端、フレイアの握っていた紅蓮の杖が、ガチャッという音を立てて全長約1.5mほどに伸びた。
それを見て、多少なり驚いた表情を作ったフリーダは、すぐにフレイアの意図を見抜いた。同時に、フレイアが杖を振り下ろして攻撃を仕掛けた。
フリーダは、フレイアの叩きつけ攻撃を後方に下がることで回避したが、休む暇もなくフレイアの杖による追撃が始まる。
「これは驚いたな。…まさか、魔術ではなく体術で来るとは」
フレイアの振り回す杖攻撃を難なく避けながら、フリーダが感心したように言葉を発する。
「…はい。現役ではないとはいえ、一度は王国魔道士となった実力者を相手に、常識的な攻めは通じないと思ったんです」
「なるほどな」
片方は杖を振り回しながら、もう片方はそれを紙一重で回避しながら言葉を交わす。
やがて、わずかな隙を見つけるやいなや、フリーダが強烈な蹴りを放ち、フレイアの杖を弾いた。
「くっ……!」
反動で大きく仰け反るフレイアの体を、透かさずフリーダの左拳が襲う。体勢が崩れたままのフレイアは、もちろん防御できずに強烈な打撃を左脇腹にくらって後方へ吹き飛んだ。
「ぐ…っ…げほっ、げほっ!」
衝撃を殺せずに地に転がったフレイアは、そのまま数回回転した後、脇腹を抑えながら大きく咳き込んだ。
遠くには、拳を突き出した状態のまま静止しているフリーダが見える。
「…これが、王国魔道士…!」
呟きながら、杖をついて立ち上がるフレイアに合わせ、フリーダも拳を収める。そして、何かを求めるように手を前に出して言った。
「こんなものではないだろう、ディルフォードの娘。私は全力で来いと言ったはずだが?」
フリーダの言葉に、フレイアはニヤっと笑うと、口元の血を拭ってから、再び杖を前に構えた。
そして、自分でもよく分からない高揚感に包まれながら、身体の中でメアが活性化していくのを感じ、思わず宣言してしまった。
「絶対に、あなたに一撃入れます!」
それを聞いたフリーダの口元が、一瞬緩んだ気がした。
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