最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第9話『無難にいこう』


「……ん」

意識が覚醒し、瞼を開ける。

ぼやけた視界に最初に映ったのは、心配そうな顔で俺を見つめるフレイアだった。

「ちょっと、なんで魔道具の中で眠っちゃうわけ?」

フレイアはそう言って俺の様子を伺う。

俺は、全身にぐったりとした疲労を感じつつも、左手で眉間を押さえながら起き上がった。

どうやら、先程の休憩時に利用していたベンチの上で横になっていたらしい。

「…なぁ、俺どのくらい寝てたんだ?」

「ええっと…2、3分程度ね」

「……まじかよ…。検査中に居眠りとか、まったく何やってんだ俺は。…ところで、お前なんか顔色悪くないか?」

先程からどこか不安げな表情を浮かべているフレイア。俺が寝ている間に何かあったのだろうか。

「あっ。えっと、なんだか嫌な夢を見てるみたいだったから…」

「え?…もしかして、俺うなされてた?」

俺が聞くと、フレイアは遠慮がちに「…ええ」と頷いてから言った。

「なんだか苦しそうに呻いてたわ」

なんだよそれ。夢見てうなされてるところを女子に見られるとか、恥ずかしすぎるだろ。

……それにしても、寝ている間に見ていた夢の内容が思い出せない。フレイアの言う通り、なんだか嫌な夢を見ていた気がするのだが…。

「カミヤ様。カミヤ・エイト様、受付までお願いします」

なんとか夢の内容を思い出そうと記憶を探っていると、突然室内放送で呼び出しを受け、フレイアと共に受付へと向かった。

受付には最初と同様、金髪の女性役員が立っていた。

「カミヤ様、お疲れ様でした。これで役職適性検査の検査内容は一通り終了致しましたので、これから検査結果の方をお伝えした後、わたくしミサ・ルートスが責任をもって適性職業と職場、並びに居住先の紹介をさせていただきます」

ミサ・ルートスと名乗ったその女性は、丁寧な言葉使いでそう言うと、一枚の紙をカウンターの上に置いた。

その紙には、この世界で共通に使用されているらしい『レカ文字』と呼ばれた謎の文字と、所々に細かい数字が並んでいた。

「…あの、数字以外が読めないんですけど」

事実、その用紙の七割ほどをしめているレカ文字を、俺はまだ読むことが出来ない。

俺が不安げに言うと、それを聞いたミサさんが微笑みながら答えた。

「ご心配なさらないでください。内容の方は、全て私が口頭で説明しますので」

そうしてミサさんは、カウンター上の用紙に目を移してから説明を始めた。

「それではまず、今回の検査での総合点からですが、結果は100点満点中42点と、まずまずな成果です」

言いながら、用紙の中心部に書かれた42という数字に指をさすミサさん。

「は、半分以下じゃねぇか……」

俺がその何とも言えない結果に気を落としていると、それをフォローするかのようにミサさんが言った。

「ですが、あまりお気になさらないでください。この総合点の平均は、だいたい35~40点ほどなので、カミヤ様は平均値を少々上回ったことになります」

「えぇ!?」

いやいやいや、おかしいだろ。毎年体育でやってた体力測定でも、下から数えた方が早いような順位とってた俺だぞ!?そんな俺が平均以上ってことは、この世界の大半の住人が運動音痴ってことになるんだが。

「続いて、検査結果に基づいた適性役職をお伝えします」

「は、はあ…」

いまいち気が引き締まらず、変な返事をしてしまったが、ミサさんはとくに気にする様子もなく話を続けた。

「まず、今回の検査において、カミヤ様がとくに秀でておられたのが、短距離走です」

ミサさんはそう言って、用紙の中心に指をさした。

つられて用紙に目を向けると、ミサさんが指し示していた箇所には、謎の文字とともに10という数字が刻まれていた。

「こちらは、コア属性検査を除いた5つの検査内容の中で、唯一満点だったものになります」

…うん。さすが俺の唯一の特化スキルだ。

「すごいじゃないエイト!」

「そんなにすごいか?」

かなり驚いた様子のフレイアから褒められ、俺は天狗になりそうな感情をグッとこらえる。

「すごいわよ!私のときは、魔法以外はけっこうダメダメだったんだから」

…まぁたしかに、魔法使いっていったら、基本的に魔法でなんでもできちゃいそうだしな。その気になれば、身体能力を向上させることも容易いのだろう。

「…えー、それでは話を続けさせていただきます」

報告の再開を告げられ、俺たちは再びミサさんを見た。

ミサさんは、俺たちが向き直ったのを確認してから、一度瞬きをすると、ゆっくりと話し始めた。

「それでは。これらの結果を踏まえて、我々がカミヤ様にご推奨させていただく役職は……『狩人』です」

俺は、王都へ向かう途中にフレイアから受けた、4つの役職の説明を思い出した。

狩人。たしかこの役職は、この世界にはびこる魔獣という名のモンスターを狩り、街や村の平穏を保つ役職…だったっけな。序列はたしか、下から二番目だ。

「戦闘役職『狩人』は、街や村の周辺をうろつく魔獣の狩猟が主な職務となります。まずは、狩猟の基礎を学ぶ訓練所で一年間訓練兵として活動し、十分に知識を蓄えた後、各国に配置されている魔獣狩猟組合、通称ギルドに入団して、様々なクエストをこなしていきます」

スラスラと『狩人』の職務内容を説明していくミサさん。俺はその説明の中に、明らかにおかしな点を発見した。

「ちょ、ちょっとストップ。…ギルドとかクエストとかって、もろもろ英語使ってますけど、外来語は通じない設定じゃなかったっけ?」

「…ええっと。その、エイゴというものが何かは存じ上げませんが、ギルドもクエストも外来語ではありません。…そうですね…言うなれば、専門用語のようなものです。そもそも、この世界はレカリア語という言語で統一されておりますので、外来語はほとんど存在しません」

「もうめちゃくちゃだな…」

「ねぇ、そんなことよりエイト。『狩人』、いいんじゃない?やってみたら?」

俺がこの世界の言語設定に頭を悩ませていると、急にフレイアがそんなことを言い出した。

…うむ。まぁたしかに、異世界でモ○ス○ーハ○ターの世界観を体感するのは悪くはないが、これは現実だ。不死身のアバターとは違って、HPが尽きればちゃんと死ぬ。ゲームではないのだ。

そう、だから本当は、最初にフレイアから役職の話を聞いたときから、薄々答えは決まっていたのかもしれない。

俺はフレイアを見て、少し申し訳ない気持ちを抱きながらも、微妙に苦笑して言った。

「……そのことなんだけど、俺は無難に『市民』を希望するよ」

直後、一瞬の沈黙を挟んでから、二人の女性の高い声が共鳴した。

「えぇ!?」

「はぁ!?」

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