最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第2話『異世界』


パチパチと音を立てて燃える肉塊の内側から放たれる悪臭が鼻をかすめ、俺は一瞬停止していた思考を再稼働させた。

同時に、背後に立つ赤髪の少女に目を向ける。

「一つ伺ってもいいか?」

「何かしら?」

「この場所──というかこの世界は、地獄…なのか?」

会話ができるということは、この少女はおそらく俺と同じ人間のはずだ。しかし、その容姿はかなり常軌を逸していた。

薄く透き通る赤髪に炎のように赤く染まった瞳、そして何より、彼女が持つ美貌。

今まで映画や漫画でしか見たことのなかったそれが、今この瞬間、己の目の前に存在している。

俺はそのことに言い知れぬ違和感を覚えながらも、とりあえず現状を把握するために、眼前に立つ少女に問いを投げたのだが…。

「あなた大丈夫?」

少女の表情はかなり深刻だった。

「きっと急激に体力を消費したせいで混乱しているんだわ。少し落ち着きなさい」

「いや、俺は至って正常……のはずだ。とにかく、まずはここがどこなのか知りたいんだが」

「どこって…ここはアトラス王国北辺部の森、リュフーレ大森林よ。あなたまさか、この辺に来たの初めて?」

驚いているような心配しているような曖昧な顔の少女に、俺はどう答えていいか分からず、とりあえずありのままに話すことにした。

「いや、この辺どころかそのアトランティスなんちゃらってのも初耳だ。…信じてもらえないかもだけど、俺実はトラックに跳ねられて一度死んだんだよ…多分な。場所は日本の埼玉。でも、気づいたらこの森に倒れてたんだ。それであの化け物に追いかけられて、君に出会ったってわけ」

ここまでの流れをざっくり話すと、俺は一度言葉を切ってから、少女に再び問いを投げかけた。

「そんで色々と思考を巡らせてみたんだが、とりあえずここは異世界ってことでいいのか?」

一瞬の沈黙の後、固まっていた少女の表情が変じ、すぐさま哀れみの情を向けられたのを感じた。


                  ✲           ✲           ✲


俺は現在、心地よい風を全身に受けながら、森の中に開かれた道を進んでいた。
…さっき知り合ったばかりの少女と二人で。

結局俺は、『ミニベロスに襲われて極度の恐怖に陥り、ショックで妄想や幻覚を引き起こして記憶を失った』と断定され、不本意ではあるが『記憶喪失の放浪者』ということになった。ちなみに、俺に襲いかかろうとしていたミニベロスを丸焼きにしたのは彼女の『魔法』らしい。

つまり、現世で死んだ俺は、何かの手違いでこの異世界に召喚され、結果的に『第二の人生』を歩むことになったわけだ。

しかし、こんな人生のやり直しのようなことが許されていいのだろうか…?

神様の気まぐれで第二の生を受けたのだとしても、それは本当に俺のような人間に与えられていいものだったのか。

そんなことを考えつつも、せっかく頂いた神の恩恵を無為にはできないので、この世界で前向きに生きようと思考を切りかえ、とりあえず職を探したいと少女に伝えたわけだが……。

なぜか「大丈夫、私についてきて」と言われ、二人で森を歩くこと約5分、その間何ひとつ言葉を発することなく今に至る。

正直めっちゃ気まずいので、そろそろ何か話さないと死んでしまう。

…仕方ない、まずは質問攻めでいこう。

「あの、えっと…コスプレイヤーさん?俺をどこに連れて行くんですか」

急に発せられた俺の言葉に、「ん」と小さく言葉を漏らして反応した少女は、透き通るように綺麗な赤髪を揺らして俺を見た。

「こすぷれいやーっていうのが何かよく分からないけど、私の名前はフレイアよ」

なるほど。どうやら日本で外来語として扱われていた言葉は、この世界では通じないらしい。

ここが異世界だということを改めて認識し、少し胸が踊った俺は、こちらを向いている少女の全身をもう一度よく確認する。

…フレイアかぁ。たしかによく見てみると、アニメの魔法少女をそのまま具現化したみたいに可愛いな。めっちゃ異世界人ってオーラ放ってるわ。

「えっと、目的地の話だけど、この森を抜けた先に王都があるの。そこで役職の適性検査ができるから…」

「あーっと、ちょっと待ってくれフレイア。俺この世界についてまだ知らないことばっかりで、いきなり王都とか言われても…」

突如訳の分からないことを話し始めたフレイアに、俺はストップをかける。

もちろんここは異世界だが、仮にも人界だ。俺が元いた世界と同様に、この世界でも社会ルールが存在するはず。まずはそのルールを知って、この世界で生きていくための基礎力をつけて行くことから始めたい。

その第一歩は、まず前提として、この世界のことを知ることだ。

「…だから、教えてほしい。この世界のことを。この世界でこれから生きていくために必要な知識を」

俺は真剣な顔でフレイアに頼み込む。
それを受けたフレイアは、少し驚いたような表情を作ると、すぐに頬を緩め、優しく微笑んだ。

「…ええ、分かったわ。記憶喪失のあなたには私が特別に、王都に着くまでの間この世界のことについて教えてあげる」

「ありがとうございます!」

こうして俺は、異世界に来て初めて出会った魔法使いフレイアに、この世界のことについて教えてもらうこととなった。

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