シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

6-1 オッドさんの女難……もとい幼女難


 惑星ヴァレンツでの天翔石買い付けや、シンフォのレース騒動などを経て、シルバーブラストはロッティへと戻ってきた。

 そしてロッティで今か今かと待っていたユイとヴィクターは、天翔石が入ってきたことで嬉々として研究に没頭している。

 主に研究しているのはユイの方だが、その補助というよりも、アドバイザーであるヴィクターの方もかなりテンションが上がっているらしく、シルバーブラストのホログラムディスプレイの半分を占拠して腰振り映像を流したりもしていた。

 当然、マーシャを始めとするクルー達はガン無視していたが。

 最後の方はシャンティが少しばかり悪戯心を引き起こして、ヴィクターの局部にキノコを生やす自作ウイルスを送り込んだりして、局部のキノコから更なるキノコが生えてくるという現象に奇声を発して終了となった。

「シャンティくんってば、えげつないですです~」

 そう言いながらもシオンは楽しそうだった。

 局部からキノコというのがツボに嵌まったらしい。

「……よくもまあ、そこまで下品なことが思い付くものだな」

 オッドの方は僅かに呆れている。

 しかし結果としてヴィクターの腰振り画像を流されなくて済んだので、まあいいかと思うことにしたらしい。

「レヴィの局部からキノコが生えたらどうなるのかな?」

 マーシャの方は怖いことを考えている。

「やめろっ! 想像しただけで恐ろしいっ!」

「キノコにキノコ。面白そうだけどなぁ」

「俺の息子はキノコじゃないっ! マグナムだっ!」

「はいはい。絶倫マグナムなのは確かだな」

「今夜もたっぷり絶倫してやるぜ」

「……そういうことをみんなの前で言わない方がいいと思うぞ」

 堂々としたエロ魔神っぷりに、マーシャも流石に付き合いきれないのか、ため息交じりに肩を竦めている。

 しかし求められることは嫌ではないので、結局は付き合うことになるのだが。



「ああ……酷い目に遭ったわ。シャンティちゃんったら酷いわ。アタシのマグナムにキノコを生やすなんて……」

 映像の中で何とかキノコを除去したヴィクターが涙ながらにシャンティを責める。

 当のシャンティは悪戯っぽい笑みで応じている。

「天才博士なんだからそれぐらいは自力防御してくれないとね~。まあ本当にマグナムかどうかは実物を見ないと分からないけど」

「見る? シャンティちゃんになら見せてもいいわよ♪」

 いそいそと赤ビキニを脱ごうとするヴィクターをシャンティが慌てて止める。

「ちょっ! マジで止めてっ! 男のマグナムなんか見たくないっ! どうせ見るなら女の子のおっぱいがいいっ!」

「雄っぱいなら見せてあげるわよ♪」

「それもいらない……」

 たゆんたゆんのおっぱいが好きなのであって、胸板雄っぱいはノーサンキューである。

 少年の思春期ハートがブレイクしかねない。

「つまんないわねぇ」

「僕にとってはおぞましいよ……」

 確かにおぞましい……と納得する残りのメンバーは、少年と変態のやりとりを呆れつつも眺めているのだった。







 それからマーシャは天翔石の本格的な引き渡しの為に、ユイ・ハーヴェイの研究所へと移動した。

 マーシャは警備員に挨拶をしてから、家の門に手を触れる。

 生体認証で中には入れる仕組みなので、すぐに扉が開いた。

 警備員に対してはもちろん顔パスだ。

 インターホンを押すと、すぐにユイが出てきた。

「こんにちは、ユイ」

「あ、こんにちは。マーシャさん」

「天翔石の方は届いているかな?」

「はい。地下倉庫の方に格納させて貰いました。よくあれだけの量の天翔石が手に入りましたね」

「最初は渋られたけどな。こっちの技術をある程度提供すると言ったらあっさりと譲ってくれたよ」

「……それはそうでしょうね」

 リーゼロックの技術の高さは他の惑星でもかなり有名なのだ。

 その技術を欲しがる国も多いことは頷ける。

 そしてそんなリーゼロックから潤沢な予算を貰いながら研究を続けられる幸運を、ユイはじんわりとかみしめていた。

 研究所自体はそれほど大きくはないが、元々ユイが一人で研究しているのだ。

 たまに助手が必要な時もあるが、それもリーゼロックから人を回して貰えるので、研究そのものにはまったく困っていない。

 そして何よりも、通信でアドバイスをしてくれるヴィクターの存在が大きい。

 性格は間違いなく変態なのだが、その知識と発想力、そして研究者としての才能は本物だった。

 ユイは間違いなくヴィクターを頼りにしているし、今後もいろいろと話し合いたいと思っている。

 話し合いの最中にビキニ姿で腰を振るぐらいのことは……まあ……耐えられる。

 耐えるしかない……と自分に言い聞かせている。



 リビングで待っていると、マーシャが派遣した家政婦の女性が入ってきた。

 名前はリサ・ヴィクセン。

 彼女にはユイの身の回りの世話をお願いしている。

 ユイは典型的な研究馬鹿だと思っていたのだが、予想通りに偏りすぎる生活をしていたので、身の回りの世話をする人間が必要だと判断したのだ。

 一人で生活をさせていては、食事も満足に摂らないだろうし、何よりも部屋の中や研究所の環境が散らかり放題になり、洗濯物も山のように溜まり、ゴミ屋敷ならぬゴミ研究所になってしまうかもしれないと思ったのだ。

 リーゼロックは家政婦の派遣も行っているので、そこから人材を回して貰っている。

「どうぞ、お嬢様」

「ありがとう」

 家政婦の女性はマーシャの前にコーヒーとケーキを置いてくれた。

 ユイの前にも同じように置く。

 コーヒーだけでもよかったのだが、ケーキがあると少し嬉しくなる。

「この近くに新しいケーキ屋さんがオープンしたんです。折角なので、お二人も味見してみて下さい」

「そうなのか。こうやって勧めてくるということは、結構美味しいんだろうなぁ」

「リサさんの選んでくれるスイーツは美味しい物ばかりで、僕も気に入っているんですよ」

「そうなんだ。じゃあ早速」

 マーシャはワクワクしながらケーキを食べる。

 そして幸せそうな表情になった。

「うん。美味しい」

 尻尾がぱたぱた揺れているので、本当に美味しいと思ってくれているのが分かる反応だ。

「お嬢様に気に入っていただけて何よりです」

「うん。帰りがけにレヴィ達にお土産として買っていこうかな。教えてくれてありがとう、リサ」

「どういたしまして」

 にこにこしながら尻尾を揺らすマーシャを見守るリサ。

 彼女ももふもふに萌えているのかもしれない。



「さてと。他に何か足りない物などはあるかな? あるなら遠慮無く言って欲しい」

「大丈夫です。現状では足りすぎるぐらいに足りていますから。でももう少ししたら試作品第二弾の設計が完成するので、組み上げの場所と人員を貸して貰えると助かります」

「それはもちろんだが、人員じゃなくてもいいか?」

「人員じゃない?」

「オートマトンだ。うちのオートマトンは人間よりも精密な作業をしてくれると思う。機密保持の為にも、あまり新しい人材は回したくないんだ。どうしても人間の手が入り用のところは、ユイが調整する方がいいと思うし」

「凄いですね。オートマトンでそこまでのことが出来るんですか?」

 ユイの知るオートマトンはプログラム入力された単純作業を行うだけの代物で、とてもではないが、フラクティール・ドライブなどの精密機器を組み上げられるようなレベルのものではなかった。

 しかしリーゼロックのオートマトンならば、そこまでのことも期待出来るのかもしれない。

「私のシルバーブラストも、ほとんどがオートマトンで組んだからな。管制する者が居れば人間よりも遙かに高効率で作業が進められるし、ミスも少ない」

「でも僕にはオートマトンの管制なんて出来ませんけど」

「ヴィクターが出来るから問題無い」

「でもヴィクターさんは直接は来られないんでしょう?」

「ああ。ネットワーク越しになるが、それでも問題無い管制が出来る筈だ」

「……でもネットワーク越しだと、かなりの負荷がかかるのでは?」

「あんな変態のことを心配してくれるのはありがたいが、問題無い。ヴィクターなら百のオートマトン管制すらも難なくやってのけるからな」

「……本当に人間ですか?」

 そんな恐ろしい処理能力を持った人間など、想像するだけで恐ろしい。

「もちろん生身では無理だ。機械の補助が必要になる。そしてあいつはそれに慣れている。それだけだ。負荷がかかることは確かだが、精々腰振りの回数と局部のアップ画像が増えるだけだろうから、むしろユイの方が我慢を強いられるかもしれない」

「………………」

 ユイがものすごく嫌そうな顔になった。

 それも当然の反応だろう。

 誰もそんなものは見たくない。

 というよりも、絶対に見たくない。

「まあ、それぐらいなら我慢……しますけど……」

 涙目になるユイに対して大いに同情したが、他に最適な方法を提示することも出来ないので諦めてもらうしかない。

「その代わり出来上がったものが最高品質になることは保証しよう。あの変態……もとい天才が直接組み上げるのだから、きっとユイが望んだ以上の結果を出せる試作品になると思う」

「それは、僕も同感です。ヴィクターさんのアドバイスや発想にはかなり助けられていますから」

「天才だろう?」

「天才ですね」

「変態だろう?」

「ど変態ですね」

「あはは」

『ど』がプラスされていることにマーシャは笑った。

 思ったよりもストレスを抱えているのかもしれない。

 しかし限界というほどでもないのだろう。

 それは顔つきを見れば分かる。

 うんざりしているのは確かだが、それでもヴィクターを必要としているのは間違いないのだ。

「でも、ヴィクターさんは本当に凄いです。出来ることなら一度ぐらいは直接お会いしてみたいんですけどね」

「貞操を捨てる覚悟が必要になるが」

「……やめておきます。通信でいいです。通信がいいです」

「それが賢明だ」

 今のユイはリーゼロックの身内に近い状態になっているので、ヴィクターの正体について秘密にしておかなくてもいいような気がしたのだが、もしもヴィクターが人間ではなく、人格を確立したAIなのだと判明したら、ユイは複雑な感情を抱いてしまうかもしれない。

 それは二人の関係に罅を入れてしまうと思ったのだ。

「まあ、本人は訳ありで、とある場所から動けないからな。通信のままでも開発に支障は無いし、このままでいいと思う」

「そうですね。貞操は守りたいところです」

「あはは」

 肉体的な意味で貞操を奪われる心配は無いのかもしれないが、メンタル的にはボロボロにされるかもしれない。

 いや、シオンという有機アンドロイドが完成している以上、ヴィクターの身体を用意することも不可能ではない。

 ただ、シオンと違い、ヴィクターが求める処理能力を満たせる身体が存在しないだけなのだ。

 シオンは電脳魔術師《サイバーウィズ》として破格の処理能力を持った身体を与えられているが、それは現在の有機アンドロイド技術の最先端だからこそ可能なのだ。

 電脳魔術師《サイバーウィズ》ではなく、開発者、そして研究者としての能力をフルパフォーマンスで発揮するには、制限の多い有機アンドロイドの身体では物足りない、というのがヴィクターの出した結論だった。

 もともと機械として生きている彼は、人間に近い身体など求めていないのかもしれない。

 セクハラじみたからかいはしても、本当の肉体を得たからといって襲いかかることもないのだろう。

 ヴィクター・セレンティーノが自らに求める存在意義は、自分のやりたい研究を最高の環境で続けていくこと、なのだから。


 それからフラクティール・ドライブの開発計画についてある程度詳しい話を進めてから、マーシャはユイの研究所を出た。

「よし。これでフラクティール・ドライブに関する開発は一段落ついたな」

 まだ試作品すら完成していないのだが、マーシャが手助け出来るのはここまでなので、彼女自身の仕事は一段落ついたと言ってもいいだろう。

 後はユイとヴィクターに任せておけばいい。

 自分の手が必要になったらまた呼ばれるだろう。

「さてと。この後はどうしようかな」

 この後の予定は特に入れていない。

 レヴィを呼び出してデートをするのも魅力的だが、たまには一人でぶらぶらするのも悪くない。

 孤独を愛している訳ではないのだが、たまには一人で落ちついてのんびりしたい時もある。

 一人になりたいのではなく、その方が何も考えずに頭をからっぽに出来る、つまりぼんやりと出来るのだ。

「ヒルトンガーデンで昼寝も悪くないな」

 ロッティの市民公園であるヒルトンガーデンは、色鮮やかな花々と芝生、そして木々が生える自然の空間だ。

 大自然というほど濃密な空間ではないが、晴天の芝生でのんびり寝転がるにはちょうどいい場所でもある。

「よし。のんびりしよう」

 たまには一人でのんびりと過ごすのもいいだろう、という結論に達したマーシャはヒルトンガーデンへと移動した。



「ん~……」

 伸びをしながらごろごろするマーシャは、久しぶりに頭を空っぽにしてぼんやり状態になっていた。

 いつも何かについて考えているので、たまにはこういう何も考えない時間というのも素晴らしいと思っている。

「ふにゅ……ふにゅ~……」

 芝生の上でごろごろしながら、ひたすらにぼーっとしている。

 実に幸せそうだ。

 周りには同じようにごろごろする人や、カップルや家族連れなども点在している。

「ああ~。幸せ……」

 このまましばらくぼーっとしていたい気分だったが、すぐに携帯端末にメールが届いた。

「ん? レヴィかな?」

 みんなとは今は別行動の筈だが、何かあったのだろうか。

 レヴィだったらもふもふ欲求が暴走しているだけだと分かるのだが、彼は今現在空の家へと遊びに行っているので、その欲求は満たされている筈だ。

 本来ならあまり立ち入らせたくはないのだが、子供達の方がレヴィを気に入ってしまったので、マーシャも妥協することにした。

 子供達相手にもふもふしまくるレヴィは、ブラッシングの達人として子供達にも人気だった。

 ただもふもふするだけではなく、気持ちよくブラッシングして丁寧にもふもふしているので、亜人の子供達も満足しているのだろう。

 というよりも、無条件の愛情を向けてくれるレヴィのことを好きになっているのかもしれない。

 人懐っこくて気さくなレヴィは、基本的には誰とでも仲良く出来る。

 子供達なら尚更だ。

 本来なら初対面の相手には警戒する空の家の子供達が、すぐにレヴィと打ち解けたのは、彼の人徳によるものだろう。

 あのもふもふ狂いを人徳だとは思いたくないが、結果がそれを示しているので認めるしかない。

「ありゃ。レヴィじゃないな。シオンか。どうしたんだろう?」

 シオンに連絡を取ってみると、すぐに出てくれた。

『もしもし、マーシャですか?』

「ああ、どうした? 何かあったのか?」

『ん~。特に何も無いんですけど』

「?」

 何も無い、という割には何か悩んでいるような声だった。

 シオンは大切な妹みたいな存在なので、悩んでいるのなら力になってやりたい。

『マーシャ。今、時間大丈夫ですか?』

「大丈夫だ。ちょうどのんびりしていたところだからな」

『じゃあちょっと相談したいことがあるですよ』

「分かった。そっちに戻ろうか?」

『あたしがマーシャのところに行くですよ。ちょっと外出して気分転換したいですし』

「そうか。今はヒルトンガーデンでごろごろしているところだ」

『分かりました。じゃあヒルトンガーデンに向かいますね』

「西六エリアにいるからな」

 ヒルトンガーデンはかなり広いので、エリアをきちんと伝えておかないと、シオンが無駄に探してしまうことになる。

 ここは西六エリアなので、これでシオンもすぐに分かるだろう。

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