シルバーブラスト Rewrite Edition
4-3 レヴィさん疲労困憊です
トリスを空の家に送り届けた後、マーシャはリーゼロックPMCにレヴィを迎えに行った。
今頃はハロルド達とぶっ通しの模擬戦を繰り広げている筈だが、まさか負けてはいないだろう。
「マーシャーーーー!!!」
マーシャが迎えに来るなり、レヴィが飛びついてきた。
「ふぎゃっ!?」
飛びついてきたのを支えきれず、マーシャはそのまま床に押し倒される。
マーシャを怪我させないようにレヴィがしっかりと受け身を取ったので、痛みは無かったが、かなり驚いてしまう。
「うわあああああああっ! マーシャマーシャマーシャー!!」
マーシャに抱きついてから号泣するレヴィ。
かなり酷い状態になっている。
「ど、どうしたんだ?」
そんなレヴィを宥めながら、マーシャはよしよしと頭を撫でる。
子供相手にするようなことだが、この状態のレヴィは子供よりも酷いので、これぐらいでちょうどいいのだ。
「うううう~っ! あいつら酷いんだぜ。一対一の模擬戦をぶっ通しでさせた後、集団戦で俺をリンチしてきたんだぜ……」
「うわ……それは酷いな……」
「しかもそれに勝ったら今度は盛大なブーイングなんだぜ」
「……それも酷いな」
どちらがより酷いかは意見が分かれるだろう。
レヴィにしてみれば連戦の後のリンチであり、ハロルド達にしてみれば連戦で疲弊させたにも拘わらずボロ負けしたのだ。
どちらにとっても相手を酷いと罵りたくなる結果なのは間違いない。
「しかも終わったら格闘訓練に付き合わされたんだ……」
「それは流石に負けただろう?」
「ボロ負けだよっ! リンチだよっ! 生身であれだけ戦えるなら戦闘機でちょっと負けるぐらいいいじゃねえかっ! ってぐらいにボロ負けだよっ!」
「ご愁傷様……」
「やっと、やっと迎えに来てくれた。これで解放される……」
「よしよし。大変だったな」
本当に大変だったらしいので、心からいたわる。
「もふもふに癒やされたい……」
「既にもふってるじゃないか……」
言葉にする前にマーシャの尻尾を撫でまくっているレヴィだった。
これで本当に回復するのだから、もふもふマニアとは恐ろしい。
マーシャにぎゅーぎゅー抱きついてもふっているレヴィに、ハロルドとイーグルが近付いてきた。
「やれやれ。情けないな、この程度で音を上げるとは。リーゼロックPMCの訓練はもっと過酷だぞ」
「そうだぞ。腕利きの操縦者の癖に情けないな」
ハロルドもイーグルも言いたい放題だった。
自分達が可愛がってきたマーシャを独占されて面白くないらしい。
気持ちはよく分かるが、レヴィも譲るつもりはなかった。
「俺はPMCじゃねえしっ! あとこれだけリンチが続けば体力関係無しにメンタルが疲弊するわっ!」
「リンチとは失礼な。集団戦を想定した訓練じゃないか」
「そうだそうだ。たった三十対一ぐらいで情けないことを言うな」
「その認識がおかしすぎるだろっ!?」
「…………確かにおかしいな」
三十対一って……
それはもうリンチを通り越して拷問というのではないだろうか。
「というか、よく勝てたな……?」
いくらレヴィでも連戦後にその数はきついと思うのだが、どうして勝てたのかが不思議だった。
「スターウィンドのリミッターを解除したから」
「な……。あれを使ったのか」
「使わなきゃ負けてたしなぁ……」
「模擬戦で使うようなものじゃないだろうに」
「模擬戦で慣れておかないと本番で使いこなせないかもしれないだろう?」
「それはそうかもしれないが。身体は大丈夫なのか?」
「全然大丈夫じゃない。その状態で格闘訓練だぜ。虐めだよ」
「それは間違いなく虐めだな……」
スターウィンドにはある程度のリミッターを掛けてある。
機体の全能力を出せないように、手順を踏まないとそのリミッターを解除出来ないようにしてあるのだ。
どうしてそんなことをしているのかというと、単純に操縦者の命を守る為だ。
スターウィンドはマーシャとヴィクターの共同開発だが、ヴィクターの方は人間の耐久度や感性に無頓着な為、性能重視の設計をしてくる。
お陰でそのまま乗ってしまえば操縦者を殺しかねないほどに危ない仕様になってしまう。
具体的には慣性相殺が機能しきれないほどのスピードを出したり、人間の脳が耐えられないほどの強度で同調波を送って機体との同調を高めたりなど。
操縦者の命を無視しているような仕様を採用する訳にはいかず、マーシャはそこからマイルド仕様に調整しているのだが、そのまま切り捨てるにはあまりにも惜しい性能でもあるので、リミッターを掛けることによって本来の性能を封じているのだ。
リミッターを解除するとスターウィンドのスピードはおよそ一.七倍になるが、その分慣性相殺システムがサポートしきれなくなり、レヴィの身体にかなりの負荷がかかることになる。
長時間操縦すれば内臓も圧迫されて命に関わるだろう。
それだけではなく、機体にもかなり無理をさせることになるので、外壁が凹んだり、推進機関のオーバーホールが必要になったりもする。
一度解放すれば操縦者の命だけではなく、機体の命も危うくなるような切り札なのだ。
そんな物騒な切り札を模擬戦で使うというのは、かなりどうかと思うが、確かに本番に向けた慣れが必要なことも確かだった。
しかしレヴィは現状で無敵なのだから、無理にリミッター解除モードを使う必要も無いと思うのだが。
「身体の方は大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえし。その状態で格闘訓練リンチだぞ。マジで死ぬかと思った」
「………………」
それは惨い。
呆れた顔でハロルド達を見るマーシャ。
いくら何でも大人気ないと責めているのだろう。
「……そうは言うけどなぁ」
「割とぴんぴんしてたぜ」
ハロルドとイーグルはマーシャに恨みがましそうな視線を向けられて、気まずそうに視線を逸らす。
ずっと可愛がっている女の子にそんな視線を向けられるのはいたたまれないのだろう。
「つーかスターウィンドにあんな隠し球があったなんて聞いてねえし」
「今回ばかりは勝つつもりでいたのにな」
「どうやったら負けさせられるのか、また考えなければならない」
「負けっぱなしのこっちの身にもなってくれよ」
「うーん……難しいところだなぁ……」
リミッター解除についてはマーシャにも責任がある。
それにリーゼロックPMCは腕利きの傭兵達の集まりであり、戦闘機操縦者達は特に自分の腕に自信を持っている。
いくら相手が『星暴風《スターウィンド》』とはいえ、集団リンチでなお負けっ放しでは悔しい気持ちになるのも理解出来る。
「そこまで悔しいならレヴィと模擬戦をしなければいいんじゃないか? そうすれば不愉快な気分になることもないし」
「そうだそうだ。このバトルジャンキー共め。俺はマーシャとトリスとちびトリス達ともふもふしたいだけなんだ。むさい男共と模擬戦三昧なんてまっぴらご免だ」
「……その理由もどうかと思うけど」
マーシャに便乗して抗議するレヴィだが、理由がかなり酷い。
「それは駄目だ」
「俺たちが全力を出しても勝てない、つまり目標として追いかけられる相手っていうのは珍しいからな。ここは是非ともPMCの質向上に協力して貰いたいね」
「うーん。そう言われるとリーゼロックの身内としては断りづらいものがあるなぁ」
「マーシャ!?」
「いや、ほら。私もリーゼロックの一員みたいなものだし」
「そ、それはそうかもしれないけど。だからってリーゼロックに俺を売るつもりかよ?」
「お爺さまは買う気満々っぽいけど?」
「売るなっ!」
「だから私が先に売約したんだ。お爺さまに買われていたら真っ先にPMC行きだったぞ」
「それは困るっ!!」
「だろう? だったらたまに協力するぐらいは妥協して欲しいな。レヴィが全力で戦う機会が増えれば、その分、スターウィンドのデータも取れるし、機体強化も出来るんだから」
「むむむ……確かに機体強化は魅力的だが……」
レヴィも一流の戦闘機操縦者だ。
自分の機体が強化されると聞けば嬉しくなるのは必然だった。
しかし虐めだと言いたくなるぐらいの模擬戦三昧には耐えられない。
どうすればいいのか、本気で悩んでしまう。
「それに操縦者であっても格闘訓練はしておいた方がいいと思うぞ。なんだかんだで身体が資本だしな」
「俺が言いたいのは頻度の問題だ。こいつらは明らかにやりすぎ」
「うーん。本人はそう言ってるけど?」
マーシャは困ったような視線をハロルド達に向ける。
しかしハロルド達は首を横に振って否定した。
「俺たちには十分元気に見える」
「マーシャちゃんが傍に居ればもふもふパワーですぐに回復だろうしな」
「鬼畜発言してんじゃねえよっ!」
「あはは……」
確かにマーシャのもふもふパワーがあれば元気いっぱいになるのは間違いない。
もふもふマニアとはそういう生き物なのだ。
「まあしばらくは大丈夫だ。スターウィンドのリミッターを解除した以上、オーバーホールが必要だからな。それが終わるまでは模擬戦も出来ない」
「お~。そうだそうだ。よし。じっくりしっかりオーバーホールしてくれよな♪」
「うちの機体を使ってくれてもいいんだぜ」
「そうそう。他の機体にも慣れておかないとな」
「お断りだよっ! つーかスターウィンドは俺の専用機で、あれ以外に乗るつもりは無いからなっ!」
「………………」
その発言にマーシャが嬉しくなる。
スターウィンドはマーシャがレヴィの為に開発した機体であり、レヴィの為だけに存在するものだ。
そしてレヴィもそれを受け入れてくれている。
それがとても嬉しい。
尻尾がぱたぱたと揺れている。
「つーかレヴィだけがあんなすげー機体に乗れるっていうのは羨ましすぎる。マーシャちゃん。俺たちにも専用機を開発してくれよ」
「そうだそうだ。機体性能の差も大きいと思うぞ」
「そうは言うけど、スターウィンドの操縦シミュレーションの段階でみんな全滅だったじゃないか」
スターウィンドの開発にあたって、当然、テストパイロットは存在した。
テストパイロットでデータを取らないまま本番のレヴィに引き渡すほど無謀ではないからだ。
しかしVRシミュレーションの段階でリーゼロックPMCの人間はほぼ全滅だったのだ。
ハロルドやイーグルなど、隊長クラスならば辛うじて操縦出来るが、それでも機体性能の五十パーセントも引き出せなかったという切ない過去がある。
「うぐ……。あ、あれはピーキーすぎるからな」
「言えてる。コンソールの配置は普通だけど、あんなタイミングと反応速度で操縦をこなすなんて無理無理」
「レヴィはあっさりとこなしたぞ。もっと引き上げてもいいぐらいだと言っていた」
「………………」
「………………」
呆れた視線、というよりは化け物を見るような視線を向けられるレヴィ。
変態を見る目かもしれない。
自分達も戦闘機操縦者としては一流だという自負がある。
しかし本物の天才を前にすれば、凡人の一流など霞んでしまうものだと思い知らされる。
それが尊敬に値する人間ならば、素直に賞賛していたかもしれない。
彼らも本来のレヴィを知る前ならば、伝説の『星暴風《スターウィンド》』に尊敬の念を抱いていた。
しかし本人のアホっぷりを目の当たりにすると、そんな気持ちを抱くのも馬鹿馬鹿しくなるのだ。
尊敬するよりも、特殊な変態だと思い込む方がしっくりとくる。
性的な変態ではないにしても、異常な反応速度と操縦能力を持つ変態であることは間違いない。
「まあ、みんな音を上げてしまったから、実地でのテストパイロットはほとんど私がこなしたんだけどな。性能は十割引き出せたけど、タイミング的に使いこなせているとは言えない状態だからな。まあ私は本職の戦闘機操縦者じゃないからそれでもいいけど」
「マーシャがテストパイロットだったのか」
「そうだぞ。なるべくレヴィをイメージしながら改良を続けたからな」
「そうかそうか。だからあんなにしっくりくるんだな~♪」
マーシャを抱っこしてからぱたぱたと揺れる尻尾をもふりまくる。
どこからどう見てもいちゃつきまくるバカップルの姿だった。
マーシャも人前でいちゃつくことに抵抗がなくなっているので、大人しく身を任せている。
特にリーゼロックに戻ってくると、警戒心が緩むので、どうしてものんびりとしてしまうのだ。
「あーあ。俺たちのマーシャちゃんが……」
「仕方ないけど、面白くないよな……」
そして可愛がってきた女の子が彼氏を連れてきていちゃいちゃしている姿を見せつけられた近所のおじさん……もといお兄さん(自己主張)の気分を味わうことになったハロルド達は複雑な心境になっていた。
「それにみんなの機体だって私達の研究データをリーゼロックに提供して、最適化して還元しているんだから、他の会社の機体よりはずっと性能がいい筈だぞ」
マーシャとヴィクターの研究データは、その一部をリーゼロックへと還元している。
全てという訳にはいかないが、出来る限り恩返しをしたかったし、リーゼロックの一員としてなるべく役に立ちたいという気持ちからだ。
お陰でリーゼロックの宇宙船開発部門と戦闘機開発部門、そしてその影響を最も大きく受けるリーゼロックPMCはかなりの技術を有している。
他の国のPMCや軍に較べてもリーゼロックPMCが優秀だと言われるのは、この技術還元による理由も大きいのだ。
もちろん、操縦者達の腕の良さも大きな理由になっているが。
「それはそうだけどなぁ」
「あそこまで性能が違うと羨ましくなるというか。マーシャちゃんが俺たち一人一人にチューニングしてくれたものを造ってくれたら、かなり違うと思うんだけどな」
「無茶言うな。そんなことをしたら身体がいくらあっても足りないぞ」
何十人もいるPMCの人間一人一人にチューニングしていたら、マーシャの身体がいくつあっても足りない。
無茶どころか無謀な要求だった。
「そうだそうだ。マーシャは俺専用だからな。いろんな意味で。諦めろ♪」
マーシャを抱っこしたままそんなことを言うので、レヴィはハロルド達からギロリと睨まれる。
可愛いもふもふちゃんを独り占めしているというだけでも許しがたいのに、そんな姿を見せつけられたらかなり苛つくのも当然だった。
集団リンチで模擬戦地獄に引きずり込みたくなる気持ちも分かるというものだ。
「……やっぱりシメとくか?」
「そうだな。スターウィンドに乗れなくても、格闘訓練ぐらいなら出来るしな」
メラメラと怒りの炎を醸成する二人。
物騒な気配を漂わせ始めたので、レヴィはマーシャと一緒に立ち上がった。
「さ、さてと。今日は疲れたし、そろそろ戻ろうぜ、マーシャ」
「そ、そうだな。そろそろ戻ろうか」
メラメラと燃えているハロルド達を見て、マーシャもちょっと怖くなった。
自分のことはかなり可愛がってくれるが、レヴィがいると対抗心や嫉妬心の方が大きくなるので、これ以上は良くないと思ったのだ。
「また来てくれよな、マーシャちゃん」
「レヴィもまた来いよ。たっぷりシメ……じゃなくて鍛えてやるからな」
「誰が来るかっ! トリスの借りは十分に返しただろうがっ!」
今回はトリスを助ける為に手を貸して貰って、その報酬としてレヴィを派遣されたのだ。
だからこそレヴィは借りを返す為に模擬戦や格闘訓練に応じたのだが、これ以上は流石に付き合いきれない。
戦うのは嫌いではないが、バトルジャンキー共に付き合っていたら身が保たない。
「つれないことを言うなよ。友達の願いは聞き入れるもんだぜ」
「その通りだ。友達だろ? 俺たち」
「……一体いつ友達になったんだ?」
いつの間にか友達扱いされていることに辟易するレヴィ。
顔見知り程度のものだった筈だが、どうしてそんなことになっているのだろう。
「何を言う。同じ戦場を共有して、味方として戦ったんだから、戦友だろう? つまり友達だ」
「そうそう。立派な友達だ」
「………………」
戦場戦友理論。
確かに正しい意見ではあるのだが、こういう時に使われると実に恐ろしい。
平時に戦友理論を振りかざされると物騒なので止めて欲しい。
「モテモテだな、レヴィ」
マーシャの方は既に諦めた表情でレヴィを見ている。
「男にモテても嬉しくない」
「女ならいいのか?」
「そりゃあ、男よりは女の方がいいに決まってる」
「ほほう」
「あ……。嘘ですごめんなさい睨まないでください」
マーシャが銀色の瞳に物騒な光を込めて睨んでくるので、すぐに謝るレヴィ。
嫉妬する気持ちを素直に出すようになったマーシャは、時々かなり物騒なのだ。
しかし我慢されるよりは素直に出される方が嬉しいので、やめろとも言えないのが辛いところだ。
嫉妬するということは、想われているということなのだから、嬉しくない筈がない。
「バカップルだな」
「ああ。バカップルだ」
そしてそんな二人を見てバカップル扱いするハロルド達。
砂でも吐きそうな表情だった。
甘すぎて辟易する。
そしてちょっぴり悔しい。
「バカップル言うな!」
「まあ、否定は出来ないな~」
「………………」
マーシャが憤慨して、レヴィは飄々としている。
人前でこれだけ堂々といちゃついているのだから、バカップル呼ばわりぐらいは受け入れられるのだ。
それにバカップル扱いされたくないからといって、人前でいちゃつくのをやめるつもりもない。
素直になったマーシャはかなり可愛いし、レヴィとしても堂々といちゃつきたいと思うようになったのだ。
だから遠慮はしないし、恥ずかしがったりもしない。
堂々とバカップルになってみせる。
そんないちゃつきっぷりを見せながら、レヴィとマーシャはリーゼロックPMCを後にするのだった。
「まったく。レヴィの所為で私までバカップル扱いじゃないか」
バカップル扱いが気に入らないのか、マーシャはまだ憤慨している。
ふくれた顔が面白くて、レヴィがニヤニヤしている。
可愛い顔が間近にあると、それだけで気分がいいのだ。
PMC本社とリーゼロックの屋敷は距離が近いので、二人とも歩いて移動している。
街中にはちらほらと亜人の姿も見えている。
当たり前の隣人として亜人が存在している光景を目にして、レヴィが嬉しそうに目を細めた。
「凄いな。他の惑星からは考えられないぐらいのもふもふパラダイスじゃないか」
「……視点がおかしいぞ」
「俺らしいだろ?」
「確かにそうだけど」
レヴィらしいと言えばその通りだった。
「これもお爺さまの努力の成果だよ」
「クラウスさんの努力?」
「ああ。リーゼロックの人材をフル活用して各惑星の亜人の生き残りを捜して、移住を提案してロッティに連れてくるんだ」
「各惑星って……それはかなりの費用がかかったんじゃ……」
「もちろんかかった。これはリーゼロックの事業じゃなくて、お爺さまの個人的なポケットマネーから出ているものだからな。もちろん私も協力しているけど。そうやって潤沢な予算を使って探し続けられた亜人たちは、意外と多く生き残っていたんだ。そして移住当初は衣食住も保証して、仕事を紹介して、安定した生活を送れるように支援している。最初は亜人専用の区画に住んで貰っていたけれど、その姿がロッティに馴染むにつれて、一般の居住地域にも住むようになってきた。今では街中で当たり前に見かける姿になっているよ。だから私も耳尻尾を隠さずに堂々と歩いていられる」
「凄いな」
「ああ。お爺さまはすごいよ」
「それもあるけど、そうじゃなくて、マーシャ達が凄いんだよ」
「私?」
「そう。あのクラウスさんにそこまでのことをしようという気にさせるマーシャ達が凄い。きっと愛されて育ったんだろうな」
マーシャがのびのびと生きることが出来る環境。
トリスがいつ帰ってきても、心地よく過ごせる環境。
それらを用意する為に、ロッティに住む人間の価値観すらも変えてしまったのだ。
他の惑星ならば、亜人が堂々と歩いているだけで差別されたり、避けられたりするのが当たり前だ。
獣に近い外見をしている亜人は怖がられたり、見下されたりする対象になってしまうのだ。
亜人の優秀さを知っている人間は逆に利用しようとするし、こうやって当たり前の隣人として過ごせる環境を創り上げるのに並大抵の努力では足りなかったことぐらい、レヴィにも分かっている。
亜人の調査だけではなく、世論調査や情報操作も巧みに行ったのだろう。
ロッティの人間が亜人の存在を当たり前のものとして受け入れられるように、見えないところで色々と動いていたに違いない。
そう考えるとクラウスがどれほどマーシャとクラウスを慈しんで、愛していたのかが理解出来る。
「うん。そしてお爺さまに出会わせてくれたのがレヴィだ」
「偶然だけどな」
「それでも、レヴィが始まりなんだよ」
「む。そう言われるとなんか照れるな」
「ふふふ」
マーシャは楽しそうな表情でレヴィの腕にすり寄る。
最初は恩人だった。
そして次は憧れた。
憧れた先に、恋心があった。
そして今はこうやって恋人同士として隣にいられる。
昔からは考えられないぐらいに幸せだった。
「トリスにも、ちびトリスにも、ここで幸せを見つけて欲しいと思うんだけどな」
「きっと見つけられるさ。ここにいる人たちはみんな温かいからな」
「そうだな」
ここは揺り籠のような環境だ。
ゆっくりと、のんびりと、成長を見守ってくれるような温かさがある。
だからきっと、あの二人は大丈夫だろうと信じられるのだ。
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