シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

4-2 久しぶりの里帰り 3


「さあみんな。新しい先生とお友達を紹介しよう。トリス先生とちびトリスだぞ~♪」

 空の家という場所に連れてこられたトリスとシデン、そしてちびトリスは、周りの子供達の反応に戸惑っている。

「うわ~。新しい先生おっきいね~」

「尻尾もっふもふ~」

「俺も大きくなったらあれぐらい尻尾が立派になるかな~?」

「ちょっと触ってもいいかな?」

「どうしてちびトリスと同じ顔なの?」

「兄弟なんじゃない?」

「ああ、なるほど。それにしてもよく似てるね~」

 ちなみにここにいる子供達の半数以上は亜人だった。

 各惑星から亡命してきた亜人達の子供や、リーゼロックが保護した亜人の子供達を集めている。

 それだけではなく、行き場の無い子供達も一緒に集めているので、亜人と人間が共存する小さな世界が出来上がっていた。

 子供達には何の偏見も無いので、亜人と人間であってもわだかまりなく過ごすことが出来ている。

 亜人と人間の共存という夢が、小さな箱庭の中で叶っているのだ。

「マ、マーシャ。これは一体……」

 戸惑った表情でマーシャを見るトリス。

 どうしてこんなことになっているのか、さっぱり分からないらしい。

「俺の仕事はここの警備員じゃないのか?」

「警備員なら他にいるからな。人数は足りているんだ」

「………………」

「じゃあ、どうして先生なんか……」

「トリスには向いていると思ったからな」

「ど、どうして……」

「大丈夫大丈夫。トリスなら出来るさ。ここにいる子供達はまだ幼いから、勉強もそれほど難しいことは教えなくていいからな。トリスは元々私よりもずっと頭が良かったんだから、大丈夫大丈夫♪」

「………………」

 そういう問題ではない……と言いたい。

 散々人を殺してきて、戦うことしか知らない自分が、どうして幼い子供達の『先生』が務まると思えるのだろう。

 それが不思議でならなかった。

「基本的には子供達と一緒に遊んだり、面倒を見てくれるだけでいいんだ。もちろん勉強も大事だけど、授業もみんなまとめて行われるからな。一般科目だけじゃなくて、興味がある分野なら特殊科目も学べるようになっている。流石にその為に講師を呼びつけることは出来ないけど、VR通信教育システムも導入しているから、その気になればかなり高度なことも学べる。一応この環境で大学院ぐらいまでの知識は修得出来るようになっているんだ」

「………………」

 さらりと言っているがとんでもないシステムだった。

 ここにいる子供達はまだ幼い。

 最も幼い子供で五歳ぐらいだ。

 年齢が上の子であっても十三歳ぐらいにしか見えない。

 それぐらいの子供達を大学院レベルまで面倒を見るということは、どれだけの予算を掛けているのかと言いたくなる。

 少なくとも、経済的な帳尻は合わない筈だ。

「そこはまあ、いろいろあってな。それよりもほら。トリス先生と遊んで欲しい子供達が待って居るぞ」

「え? うわっ!?」

 マーシャがそう言うと同時に手を引っ張られた。

 小さな手がトリスの手をぐいぐいと引っ張る。

「ほら、トリス先生。向こうに行って遊ぼうよ」

「え? え?」

 戸惑うトリスなどお構いなしにぐいぐいと引っ張っていく子供達。

 新しい先生が来てくれて嬉しくてたまらないらしい。

 トリスはぐいぐいと引っ張られ、あっという間にボール遊びの輪に入れられてしまった。

「あの……その……ええと……こう……か……?」

 おろおろしながら手加減してボールを投げ返す。

 ドッヂボールだが、あまり強い弾を投げると子供達に怪我をさせてしまいそうで不安なのだ。

「違うよーっ! 俺たちもっと強くても平気だもんっ!」

「そ、そうか。済まない。じゃあ、これぐらいか?」

「なんで手加減するんだよっ!」

「何でって言われても……。手加減しないと、本当に怪我をさせてしまうし……」

「むーっ!」

 子供達は本気でむっとしているが、トリスが本気で投げたら骨折では済まない怪我を負わせる筈だ。

 それが分かっているので、力加減に戸惑っているのだ。

 しかしおろおろしながらも、嫌がってはいないトリスを見て、マーシャは満足そうに笑う。

「やっぱり向いているみたいだな」

「……トリスにこういう一面があったとは、知らなかったな」

 マーシャにとっては予想出来ていたことだが、シデンにとっては意外だったらしく、おろおろしながらも子供達と遊ぶトリスを見て、不思議そうにしている。

「トリスは元々面倒見がいいんだ。優しいし、こうやって誰かの為に動いている方が性に合っている。戦うよりも、こうやって誰かの背中を押す立場にいる方がいいんだ。トリスにとっても、周りにとっても」

「戦闘も向いていると思ってたんだがな」

 シデンはトリスの戦闘能力を知っている。

 それだけではなく、戦術指揮の見事さも知っている。

 ファングル海賊団をあれほどの長期間生き残らせてきたのは、彼が頭目だったからに他ならない。

「出来ることと向いていることは違うよ」

「む……」

「トリスは確かに戦闘をこなせる。戦術指揮だって出来るし、戦闘機の操縦も出来る。だけど、好きで戦っていた訳じゃない。ただ、そうすることしか出来なかったから戦っていただけなんだ。自分をすり減らして、向いていないことを続けていただけなんだ」

「それも腹立たしい話だな」

「腹立たしい?」

「だってそうだろう? あれほどの天才性を見せつけられて、憧れすらも抱く奴を生み出しておいて、本人は嫌々ながらやっていただけなんだろう? あんまりな話だと思わないか?」

「……それは、トリスの所為じゃないよ」

「分かってる。今のトリスを見て、ようやく分かった。あいつは、ああいうことの方が向いているんだな。あっちが本来のトリスだって、今なら分かるさ」

「うん」

「ところで、俺の仕事は何なんだ? まさか子供達のお守り二号……?」

「いいや。シデンには別の仕事を用意してある」

「そうか……」

 先生をやらせるとか言われなくてほっとするシデンだった。

 トリスには向いているかもしれないが、自分には明らかに向いていない。

 となると、やはりこっちは警備員だろうか。

「警備員は足りてる」

「え……」

「ちょうど用務員が不足していてな」

「よ、用務員……?」

「そう。用務員だ」

「な、何をする仕事なんだ?」

「端的に言えば雑用だな」

「ざ、雑用……」

「施設内の清掃と整備、樹木や花壇などの手入れ。雑草とか抜いたり、剪定したり。後は空調の整備と、施設の補修。後は……飼育動物や教材関係の整備だったかな?」

「……本当に雑用じゃねえか」

「だからそう言っただろう?」

「それを、俺にやれと?」

 元軍人であり、ファングル海賊団の頭目としてそれなりに活躍し、トリスに頭目の座を譲ってからも副頭目として戦場を駆け抜けてきた腕利きの戦闘職人に対して、児童養護施設の用務員をやれと言っているのだ。

 確かに文句の一つも言いたくなるだろう。

「嫌なら別にいいぞ。リーゼロックPMCあたりの方が向いているとは思うしな。ただ、トリスの様子を近くで見守りたいと思ったから、こっちの仕事を紹介しただけだし」

「……警備員、マジで空きが無いのか?」

「無い。そもそも、警備システムも充実しているから、人間の警備員なんてほとんど飾りみたいなものだしな。人間の警備員が巡回しているから、下手なことをしようとしても無駄だぞと示している張りぼてみたいなものだし」

「……それは本職の警備員が聞いたら泣くんじゃないか?」

「はりぼてで給料が貰えるんだから、文句なんて出る訳がないだろう」

「……そいつ、戦闘はこなせるのか?」

「問題無い。定期的にリーゼロックPMCに出向させて戦闘訓練を受けさせているからな。流石に本職の傭兵には及ばないけど、一般的な警備員としては腕利きの部類に入ると思う」

「なるほど……」

 確かにそれなら自分の出る幕はなさそうだ。

 自分の適性を考えるなら用務員よりはリーゼロックPMCの方が向いていると思う。

 しかしそうなるとトリスのことを見守れなくなる。

 この環境にいればトリスは安心だと思えるのだが、それでも近くで見守りたいと思うのは、やはり情が湧いてしまっている所為なのだろうか。

 というよりも、ここでトリスが変わっていくのを見届けたいという気持ちの方が強いのかもしれない。

 マーシャが言うようにあれこそが本来のトリスならば、シデンと出会ってから過ごしてきたトリスの姿は無理をしていたものということになる。

 情が湧いている相手に対して、それはあまりにも寂しい。

 もっと精神的な距離を縮めたいと、そう考えているのかもしれない。

「それで、どうする? ここで用務員をやるか?」

「うぐぐぐ……」

 用務員が向いているとは思えないが、それでもここでトリスを見守りたいという気持ちの方が強い。

「俺は用務員の仕事に関しては素人だぞ。それでもいいのか?」

「構わない。プロフェッショナルを養成している訳じゃないんだ。本当に雑用を任せられるだけだし、知識が必要な部分に関してはきちんと研修を受けられるようにする。だから、分からないことも追々学んでいけばいいさ」

「そういうことなら、やってみようか」

「うん。前向きな返事を貰えて嬉しい。ならこれをプレゼントだ」

「?」

 マーシャは紙袋をシデンに渡す。

「これは?」

「用務員の制服だ」

「………………」

 袋を開くと、作業着が入っていた。

 帽子と靴も入っている。

 これを着用すれば正しく『用務員のおじさん』だった。

「ふ、普段着じゃ駄目か?」

「仕事は制服が基本だろう?」

 にやにやと笑うマーシャ。

 明らかに面白がっている。

「あんた、ドSだと言われたことはないか?」

「無い♪」

「………………」

 絶対に嘘だ……と反論したくなったが、そんなことをすればあっさりとクビにされかねない。

 元よりマーシャ達に助けられた命であり、生殺与奪権は彼女たちが握っているのだ。

 保護してもらい、仕事まで紹介して貰い、更には当面の衣食住まで保証されている。

 マーシャに紹介して貰ったマンションはリーゼロック所有の高級マンションであり、家賃はなんと無料だった。

 水道光熱費も無料で、唯一自前で揃えなければならないのは食材と衣服だが、それも当面の支度金としてある程度の金額を受け取っている。

 至れり尽くせりの状況で文句を言ったら罰が当たる。

 たとえほんのりドSな悪意が見えたとしても、そこはぐっと堪えるのが正解だろう。

「わ、分かった。この制服でやるよ……」

「それでいい。ふふふ。それを着て草むしりをしている姿をトリスが目的したら、どんな反応をするだろうな~。よかったら教えてくれ」

「お断りだっ!」

 メンタルのいたぶり方が酷すぎる。

 悪意からではなく、完全にからかわれているのが分かるので面白くない。



「マーシャ」

 シデンとの話が終わると、今度はちびトリスがくっついてきた。

 どうやら話が終わるのを待っていたらしい。

「どうした? ちびトリス」

 マーシャはちびトリスにはかなり甘いので、笑顔で抱っこをしてやる。

 抱き上げられたちびトリスは嬉しそうに尻尾をぶんぶん揺らしている。

 マーシャの尻尾もぶんぶん揺れているので、お互いにかなり仲がいい証拠だ。

「俺、どうしてもここに通わないと駄目かな」

「なんだ。嫌なのか?」

「他の子供達にどう接したらいいのか分からないし」

「それを含めて学ぶのも大事だぞ。ちびトリスはこれから一般社会で生きていく術を身につける必要があるんだからな。その為には普通の子供達とのコミュニケーションに慣れていかないと」

「う~」

「それともお爺さまの屋敷から一歩も出られない引きこもり生活がお望みか?」

「そ、それはちょっと……」

 そんなニートじみた大人にはなりたくない。

「そうだろう? だったらここで頑張らないとな。同じ亜人もいることだし、他の場所よりはずっと学びやすいと思うんだけど」

「う~。でも、あいつが……」

「トリスか」

「うん。あいつがいるから……」

「そんなに嫌いか?」

「そうじゃないけど……」

「出来れば、トリスとも歩み寄って欲しいな。ちびトリスが自分を偽物だって思う必要は無いんだ。たまたま同じ細胞から創られただけで、兄弟みたいなものなんだから。実際、トリスの小さい頃と、今のちびトリスはかなり違うし」

「そうなの?」

「ああ。昔のトリスはこんな風に私に甘えたりはしなかったしな。ちゃんと違う人生を生きている、別人なんだよ。だから安心していい」

「……うん」

 ちびトリスはまだ納得していないようだが、マーシャの言うことなので素直に聞き入れることにした。

「ずっとマーシャと一緒にいられたらいいのに……」

「うわ。可愛いこと言ってくれるな~♪」

 すりすりとトリスに頬ずりするマーシャ。

 あのトリスと同じ顔でここまで甘えてくれるというのが、なんとも萌える感じになっているらしい。

 ここにいるのがレヴィだったら萌えすぎて可愛さ爆発暴走をしているかもしれない。

「大丈夫だよ、ちびトリス。ここにいたら、きっと新しいことが見つかるから。ここでいろんなことを学んで、そしてやりたいことを探してみるのも楽しいと思うぞ」

「やりたいこと……」

「そう。もちろん、それだけじゃない。同じ子供達と遊んだりするのも大事だぞ。ここに居るのはちびトリスとそれほど変わらない子供達だからな。きっと楽しいぞ」

「うん」

「じゃああのドッヂボールに混ざっておいで」

「あれに?」

「そう。ルールは分かるか?」

「よく分かんない」

「そうか。まあ細かいルールは色々あるけど、シンプルなのは、ボールを敵陣営の奴に当てればオッケー。そして敵陣営が投げ返してくるボールは避けるかキャッチするかすればオッケーだ。そしてそのボールを敵に投げ返す。それだけでいい」

「なるほど。本気で投げていいのかな?」

「あ……」

 忘れていた。

 トリスですら力加減に戸惑っているのだ。

 ちびトリスも亜人としては破格の戦闘能力を誇っていた。

 ここでパワー調整も無しにドッヂボールを投げたりしたら、大惨事になるかもしれない。

「えーっと……ちょっと、腕相撲してみようか」

「え?」

「ちびトリスがどれぐらいのパワーを持っているのかを知りたいんだ」

「う、うん」

 近くのテーブルについて、腕相撲の準備をする。

 マーシャの手の方がかなり大きいのでバランスの悪いことになっているが、それでもパワーを見るにはこれが一番手っ取り早い。

「よし。じゃあ、始めっ!!」

「んっ!」

 ぐっと力を入れるちびトリス。

「………………」

 そこで負けたりするマーシャではないが、明らかに子供離れした力であることは間違いない。

 大の大人並みのパワーを持っている。

 レヴィともいい勝負が出来るかもしれない。

 人間離れはしていないが、子供離れはしている。

 ナノマシンで体内の劣化しかけた細胞を再生治療中の段階でこのパワーならば、万全の状態でやったらどうなることか……

 少しばかり冷や汗が流れるマーシャだった。

「よし。もういい」

「やっぱり勝てなかったな……」

 むっとした表情のちびトリス。

 どうやら勝つつもりだったらしい。

 そのあたりは普通の男の子らしいメンタルで安心する。

「流石に今のちびトリスに負けたらこっちが凹むよ」

「う~。だってその辺りも強化されているのに」

「……今度はちびトリスの地力で勝てるようになって欲しいな。強化されているのは自分自身で鍛えた力じゃないんだから」

「む……」

「私はちびトリスがちゃんと自分の力で強くなってくれた方が嬉しい」

 温かい表情でちびトリスの頭を撫でるマーシャ。

「う~。早く強くなってレヴィからマーシャを奪い取りたいのに」

「へ?」

「だって俺、マーシャが大好きだもん」

「そうなのか?」

「うん。だからレヴィなんかより俺がいいって分からせてやるんだ」

「えーっと……流石にちょっと反応に困るな……」

 トリスからそういう感情を向けられたことは無かったので(気付いていないだけ)、ちびトリスからそういう感情を向けられたことにはかなり驚いてしまうマーシャ。

「だから強くなって奪い取ってやるんだ」

「うーん。私はちびトリスにはそういう感情は抱いていないんだけど……」

「大丈夫。俺がレヴィをぶっ飛ばしたらきっと惚れ直すから」

「あ、あはは……なんというか、反応に困るなぁ……」

 まっすぐな感情を向けられて困るマーシャ。

 可愛い弟みたいだと思ったが、どうやらちびトリスの方は違うらしい。

 というよりも、ちびトリスの方も恋愛感情というよりはただの憧れとか、お姉さんに対する独占良くなのだが、マーシャはその辺りのことまでは分かっていない。

 ただ、どうやったらこの少年を傷つけずに諦めさせることが出来るのか、必死で考えている。

「ちびトリスはレヴィが嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃないよ。腹立たしいけど、傍に居ると安心するし」

「腹立たしいのか?」

「だってすぐに俺の尻尾に触ってくるし」

「それはまあ、標準仕様だから諦めてくれ」

「アレが標準かぁ……」

 げんなりするちびトリス。

 気持ちはよく分かる。

「でもちびトリスが安心出来る理由ははっきりしてるよ。無条件で自分を護ってくれる相手だって分かるからだろう?」

「むぅ……」

 確かにその通りだった。

 レヴィは無条件で自分を護ってくれる。

 そう信じられる相手だった。

 もふもふマニアだから、という訳ではない。

 ちびトリスを自分が護るべき相手だと思って接してくれている。

 だからこそ、ちびトリス自身は護って貰えるという安心感があるのだろう。

「レヴィはそういう奴なんだ。どんな時でも大切な相手を護ろうとしてくれる。助けようとしてくれる。だから私はレヴィが好きなんだ」

「マーシャもレヴィに護られたり、助けられたりしたのか?」

「うん。今の私があるのはレヴィが助けてくれたお陰だ」

「だから好きになったの?」

「最初のきっかけはそうかもしれない。だけど短い間でも一緒に居たから、分かってしまったんだ。傍に居たい。ずっと隣で生きていきたい。そんな風に思えたから、追いかけて、捕まえた。そして今がある」

「マーシャが追いかけたの?」

「ああ。追いかけて捕まえて、恋人になったんだ」

「む~。今のところは俺が不利だな……。まだマーシャを護ってあげられないし……」

「あはは。まあ無理に奪わなくても、ちびトリスにもそう遠くない内に可愛くて素敵な女の子が現れると思うぞ」

「俺はマーシャがいい」

「困ったなぁ……。出来れば略奪愛系には目覚めて欲しくないんだけど」

「じゃあいつかレヴィに勝ったらデートしてよ」

「デート? それぐらいならいいけど」

「よし。頑張る」

「無理するなよ」

「うん」

「……話は戻るけど、とにかく子供達と遊ぶ際はそれなりに手加減すること。怪我をさせたらいけないからな。ただし、手加減していることはあまり悟られない方がいい。特に男の子は侮辱された気分になって悔しがったりするからな」

「難しいなぁ……」

「難しいけど、頑張って欲しい。私はちびトリスにはちゃんと普通の子供として幸せになってもらいたいから。だから、普通の子供みたいに過ごしてもらいたいんだ」

「今の俺が普通の子供みたいにっていうのが難しい」

「嫌か?」

「ううん。嫌じゃないよ。ただ、俺とあの子達は違いすぎるって、自覚しているだけ」

「自覚しているなら大丈夫さ。ちゃんと手加減出来る。それに、違っていたところで、楽しくない訳じゃないと思うぞ。普通におしゃべりしたり、体力勝負とは関係ない遊びなら、ちびトリスも全力で楽しめると思う」

「たとえば?」

「たとえばゲーム関係かな? ボードゲームとか。チェスとかなら単純な頭脳勝負だし。今のちびトリスでも負けることはあるんじゃないかな。後は普通にVRゲームでもいいと思う」

「なるほど。負けるつもりはないけど、確かにそういうものなら面白そうだ」

「だろう?」

「うん。ちょっと前向きになってきた」

「よし。じゃあ混ざっておいで」

「うん。行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 ちびトリスは小走りに子供達の群れへと向かう。

 子供達は急に混ざろうとしてきたちびトリスを嫌がったりはせずに、ぐいぐいと引っ張ってから輪の中に入れた。

 ちびトリスの方が戸惑うぐらいだったが、その戸惑いも含めていい経験になるだろう。

 すぐに楽しそうに遊び始めた。

 自分にぶつけようとしてきたボールをキャッチするのは難なく出来たが、手加減して投げるというのが難しいらしく、最初はへろへろの弾になっていた。

 しかし何度か投げる内にすぐコツを掴んだようで、適度な強さでいけるようになった。

 この辺りの要領の良さはオリジナルのトリス譲りなのだろう。

 すぐに本人も楽しそうにしていた。

 ただし、敵陣営にいるトリスに対しては仲良くなれなかったようだが。

 こうやって同じ環境に居て、少しずつ変わっていければいいと思う。

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