シルバーブラスト Rewrite Edition
3-8 復讐の残骸
トリスはホワイトライトニングをセッテの船であるビーチェに向かわせたが、船ごと破壊しようとは思わなかった。
セッテがいるとは限らない。
いると確信していても、本人の姿を見るまでは納得出来ない。
だからこそ、セッテを殺す時は、直接乗り込んでやると決めていた。
ビーチェの発着場にホワイトライトニングを停めて、トリスは必要な武装を整えてから船内を歩き出す。
中には警備員がいて、次々と攻撃を仕掛けてきたが、その全てを返り討ちにした。
人間の警備員の動きなど、トリスにとっては亀が動いているようなものだった。
恐るべき反応速度で全ての攻撃を避け、相手が攻撃されたと気付く間もなく倒していく。
「もうすぐ。もうすぐだ……」
広い船内でセッテの姿を見つけるのは容易ではない。
しかしマーシャがこっそり送ってくれたデータには、ビーチェの船内図データが入っていた。
戦闘が始まってから、彼女の仲間である電脳魔術師《サイバーウィズ》が探り出してくれたらしい。
邪魔をするなと言っておきながら、肝心な部分で頼ってしまっている。
貸してくれる手を、遠慮無く掴んでしまっている。
情けない、と思う。
この七年間、一人でなんとかするつもりで生きてきた。
しかし戦力を整え、セッテを探し出し、ようやく殺せるという段階に来た時、トリスの周りには過去の絆が集まっていた。
マーシャ、リーゼロック、そしてレヴィ。
かつてトリスが捨てた絆。
それらが、トリスを心配して再び集まってくれた。
その温かさに涙が出そうになる。
捨て去った心を取り戻しそうになる。
「まだ、駄目だ」
今はまだ、あの時の心を取り戻す訳にはいかない。
殺すべき相手を殺し尽くし、仲間の遺体を破壊するだけの冷徹さを保たなければ、いつまで経っても自分の時間は止まったままだ。
何度も諦めようとして、それでも諦めきれなくて、自分はきっと、こうしなければ一歩も進めないのだと痛感したからこそ、ここにいる。
だからこそ、まだその心は閉じたまま、冷徹の自分を保たなければならない。
助けてくれたみんなにありがとうと言えない。
ただ利用する。
そんな自分であり続ける。
全てが終わったら、ようやく礼を言えるだろうか。
「………………」
それすらも、今は考えてはいけないと自分を律する。
マーシャに提供されたデータを辿り、セッテのところへと向かう。
仲間の遺体が保管されている場所を先にしようかと思ったが、どうやら二つは同じ場所に存在しているようだ。
やはりいざという時の為に逃げ出す準備をしていたのだろう。
「急がないとな」
逃げたとしても、マーシャ達が監視している。
セッテは追い詰められている筈だ。
しかしここでパージを許してしまえば、とどめをマーシャに譲ることになってしまう。
ここまで来てそれは嫌だった。
「トリス」
「マーシャ?」
後少しで辿り着くというところで、マーシャから通信が入ってきた。
「セッテが逃げ出す心配はしなくていいぞ。こっちでビーチェの管制頭脳をロックしたからな。生命維持システム以外はこっちで操作出来る。余計なことをするつもりは無いけど、これであいつは逃げられない」
「……既に余計なことなんだが」
本当に、何から何まで手を貸して貰っている。
七年前に置いていった筈の少女は、今やトリス以上に頼もしい存在になってしまっている。
しかし自分の手でやるべき事を、何から何までやられてしまうのは面白くなかった。
礼を言いたいのに、言えない気持ちにさせられてしまう。
「そう言うなよ。セッテは私にとっても仇なんだから。これぐらいはさせてくれてもいいだろう」
「……マーシャは、彼らを悼んでいるのか?」
「私にその資格は無いよ。それが許されるのはトリスだけだ。ずっと自分を犠牲にして、彼らを護り続けて、そして護れなかった今も救おうとしているトリスだけだ」
「………………」
「私がセッテを仇だと言っているのは、トリスのことがあるからだよ」
「……?」
意味が分からず首を傾げるトリス。
トリスは生きている。
それなのに、どうしてそんな事を言うのだろう。
「私はトリスと一緒に生きたかった」
「マーシャ……」
「幼い頃の時間を、家族として、幸せな日常として過ごしたかったんだ。その未来を奪ったのがセッテだから。だから、あいつは私にとっての仇なんだ。トリスとの未来を奪った仇」
「レヴィさんがいるだろう」
「そうだな。でも、私は強欲なんだ。レヴィも、トリスも、みんなが居てくれないと嫌だ」
「………………」
それは強欲なのではなく、優しいというのだ。
しかし口にしたところでマーシャは否定するだろう。
それにある意味では正しく強欲だ。
何もかもを望む強欲さ。
だけどそれはとても眩しい在り方だと思う。
「だから全部終わらせて、早く帰ってこい。みんな待ってるから」
「……ああ」
ここまでしてくれたのだ。
その言葉を無碍にすることなど出来なかった。
一人でやるつもりだった。
だけど、一人ではここまで辿り着けなかったことも確かだ。
だから自分もマーシャの願いに応えるべきなのだろう。
「約束する。もう一度、あの時間を取り戻そう」
「うん。約束だ」
マーシャは穏やかな声で答えてくれた。
トリスの表情も少しだけ和らいでいる。
こんな気持ちになるべきではないと分かっていたが、それでも、心の中が温かくなるのを止められなかった。
通信が切れて、セッテのいる場所の前へとやってくる。
マーシャがロックをかけている所為でセッテはここからも逃げ出せないらしい。
教えて貰った解除コードを入力すると、すぐに自動扉が開いた。
「……セッテ・ラストリンド」
「………………」
セッテはそこにいた。
七年前よりも随分と老け込んだが、それでも癖の強い目の光りだけは変わっていない。
「ようやく会えたね」
「ああ。ようやく会えた」
お互いに、同じ言葉を告げる。
セッテは研究素体としてのトリスを欲していた。
その為に再会を望んでいた。
トリスは復讐の対象としてセッテを探していた。
その為に再会を望んでいた。
お互いに同じ願いを抱きながらも、その想いは正反対だった。
「どうして、こんなことになったんだろうね」
セッテは周りを見渡す。
彼が研究素体として切り刻んできた亜人の子供の死体が沢山並んでいる。
ホルマリン漬けにされた幼い身体。
五体満足に見えるものもあれば、手足や首もばらばらに切断されているもの、内蔵の一つ一つまで腑分けされたものまであった。
脳だけがたゆたっているものもある。
「俺がお前を殺そうとするのは必然だろう。俺の仲間にこれだけのことをしたんだ。何を不思議に思う?」
「……いや。それは理解出来る。しかしその上で君を手に入れる為に万全の準備をしたつもりなんだ。それをことごとく破ってきて、私が追い詰められている現状が不思議でね」
「………………」
「まさかここでマーシャ・インヴェルクが出てくるとは思わなかったし、リーゼロックの戦力が集結するとも思わなかった。君はよほど大切にされているんだね」
「………………」
「そこまで計算していなかった。それに、最大の誤算はあの蒼い戦闘機だ。まさか虎の子のAI戦闘機五十と、キュリオスまで無力化されるとは思わなかった。亜人の生き残りが他にもいたのかな?」
「あの人は人間だ」
「……そうなのか。人間があれほどまでの戦闘能力を発揮するのか。それは驚きだ」
「無理に亜人を研究しなくても、人間のままであそこまでなれる可能性があるんだ。こんなことをする必要なんて、無かった」
「そうかな。あれはあくまでも一部の天才、一種の特異能力だと私は思うがね」
「………………」
それも否定出来なかった。
レヴィは『星暴風《スターウィンド》』と呼ばれるほどの能力を得る為に、努力だけでは到達出来なかったものを持っている筈だ。
それは天性の才能。
特異能力といっても過言ではない。
あれほどまでの戦闘能力を持つ人間が他にいるとも思えない。
亜人であるトリスですら、レヴィを相手に戦えば間違いなく敗北するだろう。
「あれが人間だとすれば、そちらも興味深いな。機会があれば調べてみたかったが……」
「それは叶わない。お前はここで死ぬ」
トリスは持ち込んだ銃をセッテに向ける。
本当ならば仲間と同じ目に遭わせてやりたかった。
切り刻んで、腑分けして、苦しみ抜いた末に殺したい。
そんなどす黒い気持ちがトリスの中にある。
しかしそれをしないのは、ここまで手を貸してくれた人たちに対する想いだった。
彼らに恥じることは出来ない。
ここまで手を貸して貰っておいて、そんな風に殺しましたなどと、言える訳がない。
だからこそ、必要な分だけ殺す。
そう決めた。
頭に一発。
心臓に一発。
トリスは射撃の名手でもあるので、それで確実に死ぬだろう。
「私を殺したら、君も死ぬよ」
「どういう意味だ?」
「これだよ」
セッテは左手に嵌めてあるブレスレットを示した。
赤いランプがピカピカと光っている。
アクセサリーではなく、システム的要素の強い代物だということが理解出来る。
「それは?」
「この船の自爆装置」
「………………」
「私が死んだら、自動的に自爆するようにセットしてある。君は仲間の身体を取り戻す為にここまで来たんだろう? 私を殺せばその願いは叶わない。そして君も死ぬ」
「………………」
「さあ、どうする?」
ここで交渉したところで、トリスがセッテを見逃すとは思えない。
ただ、最後の悪足掻きをしているだけだろう。
トリスは躊躇わなかった。
すぐに心臓を撃ち抜く。
「ぐっ!」
激痛と共に片膝をつくセッテ。
血の滲む胸の感触を確かめながら、トリスを見上げた。
「予想は……していたけど……少しも、躊躇わなかったな……」
「当然だ。俺は仲間の遺体を取り戻す為にここにいる。だけどそれは持ち帰る為じゃない。これ以上利用されないように、塵に還す為にここに来た。だからここでお前が自爆してもろとも破壊するというのなら、逆に好都合だ」
「なる……ほど……。しかし、君の命は……どうするつもりだ……?」
「自爆スイッチ起動から爆発まで多少なりとも猶予があるだろう。それに賭ける」
トリスは銃口をセッテの頭へと押し当てる。
絶対に外さない、絶対に逃がさない距離だった。
心臓を撃ち抜いたので確実に死ぬが、完全に死ぬのを見届けるつもりだった。
「死ね」
ただ一言、冷徹に告げる。
セッテは口から血を吐きながらも、残念そうに笑う。
これまで酷いことをしてきた。
それを酷いことだと分かっていたが、止めようとは思わなかった。
それが自分にとって必要なことだと思ったから。
亜人の可能性、天才の創造。
それを自分の手で成し遂げたかった。
「ああ……亜人の可能性……この目で……見たかったなぁ……」
最後の未練だけを口にして、セッテは儚げに笑った。
「………………」
トリスはそのまま引き金を引く。
頭に穴を開けたセッテがその場に倒れる。
同時に自爆装置が起動した。
『本船の自爆装置が起動しました。乗組員は速やかに脱出して下さい。後五分で起爆します』
「五分か」
システム音声によってタイムリミットが告げられた。
トリスは仲間の遺体を破壊する為に爆薬も持ち込んでいたが、それらを持ったままでは死ぬ時間を早めるだけだと分かっていたので、すべてこの場に置いていった。
「……遅くなって済まない。今、楽にしてやるから」
トリスは刻まれた仲間の遺体を痛ましげに見つめてから、頭を下げた。
死んでからも痛めつけられ、弄ばれ続けた仲間達に何をしてやればいいのか、本当は分からない。
これはただの自己満足なのかもしれない。
それでも、何もしないよりはいいのだろうと信じることにした。
「約束したからな。最後まで、努力はしよう」
このまま、ここで仲間と一緒に朽ち果てるのも悪くない。
そういう気持ちも確かにあった。
しかしマーシャの言葉がトリスを縛る。
生き延びることを強いる。
だからこそ、トリスはビーチェから逃げ出す為に走った。
気密ヘルメットを装着して、船内を駆け抜ける。
倒した警備員の死体を飛び越え、ひたすら走り続けた。
トリスが全速力で走れば、何とか五分以内にホワイトライトニングのある発着場まで到着出来る。
その確信があったからこそ、トリスは走っている。
しかしそれはトリスが万全の状態の話だ。
戦い続けて、疲労の蓄積されているトリスが力を振り絞って全力で走ったところで、間に合わないことは分かりきっていた。
本人が信じていても、客観的な事実としてそれが不可能だと、状況が示していたのだ。
「くそっ!」
後少しでホワイトライトニングまで辿り着けるというところで、爆発は起こった。
「ぐっ!!」
ホワイトライトニングの推進機関に誘爆が起きて、少し離れた位置にいたトリスが爆風で宇宙空間へと投げ出される。
「っ!!」
凄まじい衝撃に意識を失いそうになる。
しかし自らの愛機が中途半端な状態で失われていく様を見届けない訳にもいかなかった。
今までトリスに力を貸してくれていた大事な愛機なのだ。
護れなかった分、せめて見届ける。
それぐらいはしなければならないと思っていた。
「………………」
利用するだけの兵器だと思い込もうとしていた。
しかしいざ目の前で失われると、切ない喪失感に苛まれてしまう。
そしてその余波はトリス自身にまで届こうとしていた。
「……まあ、そうだよな」
ホワイトライトニングを失った以上、脱出手段は無い。
正確には現状で脱出しているが、船からあまりにも近すぎるので、巻き添えで死ぬのは免れないだろう。
宇宙服で漂っているだけの状態なのだ。
自分自身ではどこにも進めない以上、ここで覚悟を決めるしかないだろう。
「仕方ない、か」
諦めたくはなかった。
しかしどうしようもないと分かると、不思議なほど穏やかな気持ちで終わりを迎えようとしていた。
目を閉じて、爆発が届くのを待つ。
しかしその前に大きな影が立ちはだかった。
「っ!?」
ブラウンの戦闘機。
機体名称は『ベアトリクス』。
ファングル海賊団で使用している戦闘機だった。
トリスのホワイトライトニングとは違い、量産機なので性能は多少落ちるが、それでもかなり高性能な機体だった。
ベアトリクスがトリスの盾になって爆発を受けている。
「誰だ……?」
ファングル海賊団は消滅したと思っていた。
全員が己の戦いに殉じた筈だった。
しかしまだ生き残りがいたらしい。
ここに来て生き残りがいるというのは都合が悪いが、それでも身体を張って護ろうとしてくれた相手を殺す訳にもいかない。
なんとも困る状況だった。
「無事でしたね、頭目」
「……シデン?」
通信で呼びかけてきたのはシデンだった。
気密ヘルメットに装備されている通信機なので、それほど遠くの通信は出来ないが、それでもここまで近くにいれば問題無い。
「ええ。何とか生き残っていますよ、俺も」
「死んでなかったのか」
「えらい言われようですね」
「ここで全滅させるつもりだったからな」
「望んでそうなった訳じゃないでしょう。エミリオン連合軍相手に暴れ回り続けたのだから、いつかはこういう終わりが来ることは分かっていた筈です」
「………………」
「俺もヘマして死ぬにはちょっと未練がありましてね。ここまで生き残ってしまいました」
「未練?」
「ええ。未練です」
「それは果たされたのか?」
「今のところは」
「………………」
弟に重ねているトリスを死なせたくないからとは言わなかった。
ただそれが自分のことだと、トリスは悟った。
なんだかんだで心配してくれる相手には敏感なのだ。
「助けるつもりがあるのなら、中に引き入れろ。このままだと二次爆発に巻き込まれるぞ」
「……そのつもりだったんですけどね」
「?」
「今の爆発で制御系がやられました。操縦不可能です」
「………………」
これだけの爆発の盾になったのだ。
運が悪かったことは間違いないが、ある意味では仕方ないとも言える。
「すみませんね。助けに来たつもりだったんですが、結局、死なせることになりそうです」
「……犠牲者が増えただけだな」
「返す言葉もありませんね」
助けに来てくれた相手に随分な物言いだったが、それがトリスなりの不器用な気遣いだと分かったので何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけでも護ったという自己満足だけを抱えて死んでいくのなら、それほど悪くはないと思った。
「………………」
トリスの方も、助けに来てくれた相手を巻き添えに死なせるのは気が引けたが、それでもこんなところまで助けに来てくれる相手が居てくれたのが、少しだけ嬉しかった。
セッテを殺し、仲間の遺体を塵に還した今ならば、本来の心を取り戻してもいいのではないかと思ったのだ。
「まあ、いいか。悪くない人生だった」
これまで自分を生かしてきた目的は果たしたのだ。
未来は手に入れられなかったが、それでも満足していた。
未練は少しだけある。
しかし、諦めてもいい気分だった。
トリスは最後の爆発を待つように目を閉じた。
最期は穏やかな気持ちで死のうと思ったのだ。
「こら。マーシャとの約束を破るつもりか?」
「っ!?」
聞き覚えのある声にはっと目を開くトリス。
すぐ傍には蒼い戦闘機があった。
「レヴィさん!?」
「おう。もふもふマニアのレヴィ参上だ。助けにきたぜ、俺のもふもふ……もといトリス」
「……本音がダダ漏れなんだが」
「わははは。気にするな♪」
すぐ近くに来たレヴィはスターウィンドを停止させてから、宇宙服姿でトリスのところまでやってきた。
レヴィの宇宙服にはポータブルジェットが付いているので、ある程度は自由に動くことが出来るのだ。
「つーかまーえた♪」
ぎゅっと抱きつかれるトリス。
レヴィは本当に嬉しそうにトリスへと抱きついた。
この宇宙服の下にあの大きなもふもふが隠されているかと思うと、愛おしくてたまらなくなる。
一刻も早くシルバーブラストに連れ帰って、思う存分もふもふしなければという気持ちになっているのだ。
「………………」
本当に嬉しそうに抱きついてくるレヴィを振りほどけず、トリスは少しだけ嫌そうな顔になる。
子供扱いされているようで不快だったのだ。
「さーてと。スターウィンドはちょっと狭いけど、我慢しろよな」
ポータブルジェットを操作してから、スターウィンドまで戻る。
二次爆発が起こるまで、それほど猶予は無いだろう。
レヴィはなるべく急いでスターウィンドへと戻る。
操縦席に座り、トリスを荷台部分に押し込んでから、再びスターウィンドのハッチを閉じる。
「よし。これで落ちついたな」
「レヴィさん」
「ん?」
「その……あそこにある戦闘機は……」
「もちろん助けるぜ。俺も生身じゃ運べないし、あのハッチをこじ開けていたらきっと間に合わないからな。ビームアンカーで牽引していく」
「そうか。ならいい」
「でもいいのか?」
「え?」
「あれはファングル海賊団の一員だろう? みんな死んだ方が後腐れがなくていいんじゃないか?」
「……貴方からそんな言葉が出るとは思わなかった」
「もちろん俺の意志じゃないさ。だけどトリスの立場的にどうなんだ? 生かしておいてもいいのか?」
「……後のことは、後で考える。今は助けて欲しい」
「了解」
後のことは後で考える。
今のを凌がなければ、後先を考えることも出来ない。
確かに正論だった。
トリスの害になるようならマーシャが黙っていないだろうし、なんとかなるだろう。
それに身体を張ってトリスを助けてくれた相手だ。
犯罪者であっても、見殺しにするのは後味が悪すぎる。
「おーい、という訳で助けてもいいか? ファングル海賊団の誰かさん?」
レヴィは通信でシデンへと呼びかける。
すぐに返事が返ってきた。
「そりゃあ助けてくれると嬉しいが、あんたは誰だ?」
「トリスの保護者みたいなものかな」
「……家族がいたり保護者がいたり、頭目もなかなかしがらみが多いな。似合わないというか」
「なんだそりゃ」
「だってそこまで大事にされている奴が復讐なんておかしいだろ。護るべきものを全部無くして、他にやることが無いからこそ、人は復讐に走るんだと俺は思っていたぜ。それなのに頭目はこんなに沢山の誰かに想われている。だから似合わないと思ったのさ」
「だとさ。言われてるぜ、トリス」
「………………」
トリスは気まずそうに視線を逸らした。
沢山の誰かに想われているという事実を突きつけられて、それを振り切ってここまでやってきたことに対して色々と思うところがあるのかもしれないい。
「ビームアンカーで牽引していくから、ちょっと操縦桿から手を離して大人しくしていてくれよ」
「助かるぜ。そもそも、操縦系がイカレてて握っていてもどうにもならないんだ」
「そりゃあ致命的だな。とりあえず俺達の船まで連れて行く。ただし、トリスの不利になる行動をしないと確信出来るまでは捕虜扱いだ。それは了承してくれるか?」
「当然だな。了承するぜ」
「よし。まあ命懸けでトリスを護ってくれたんだから、その心配はしてないけどな。しかし仲間をほとんど見殺しにした俺たちに助けられることに、何か思うところはないのか?」
「俺たちは覚悟の上で行動を起こした。頭目も含めて、全員がここで死ぬつもりだった。命を拾ったのは儲けものだけど、他の奴らまで助けて貰えなかったからといって、恨むのは筋違いだろう」
「ならいいけど」
ファングル海賊団については最初から見殺しにするつもりだった。
相手は何人も殺している犯罪者集団だ。
良心が咎めたりはしないが、それでも後味は悪かった。
せめてトリスだけは助けようと、それだけを考えてここまで戦ってきたのだ。
オマケで一人助けられるのなら、それに越したことはない。
レヴィはシルバーブラストまでシデンの乗るベアトリクスを牽引していくのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
39
-
-
26950
-
-
140
-
-
1978
-
-
140
-
-
0
-
-
841
-
-
4405
コメント