シルバーブラスト Rewrite Edition
0ー4 絶望の牙 2
「……最悪の気分だ」
「同感です」
そして惑星ジークスに降り立って極秘任務についているレヴィアース・マルグレイトとオッド・スフィーラは不快極まりない表情でそう呟いた。
彼らは地下闘技場にいた。
亜人の生き残り、子供の生き残りを探す為だった。
上官達がジークス政府や軍と連合加盟の手続きをしている間に、レヴィアース達は加盟に必要な調査という名目で自由に歩き回っていた。
立場はエミリオン連合の方が強いので、ジークス側に拒否する権利は無い。
それでもこっそりと動いているのは、彼らが隠したがっている後ろめたい事実も掴むことを目的としている為だ。
そうやって交渉を有利に進めようとしているのだろう。
隠密行動が基本だが、仮に見つかったとしても、堂々としていればジークス側は引き下がるしかない。
その強みを最大限に活かして、レヴィアース達は子供達を闘わせていたという地下闘技場の方に足を踏み入れていた。
そしてそこで目にしたのは、百人以上の子供の死体だった。
血は一滴も流れていない。
だけど彼らが死んでいることは明らかだった。
「恐らく、この首輪に電撃が仕込んであったのでしょう。囚人に対するものと同じ仕組みです」
「こんな子供にそこまでするとはな……」
「子供と言っても亜人ですからね。その身体能力は侮れません。銃殺よりもスイッチ一つで始末できるこちらの方を優先したのでしょう」
「………………」
理屈は分かるが不快であることに変わりは無い。
確かに狙いを定めて撃たなければならない銃では、避けられる可能性がある。
亜人の身体能力であれば、弾丸を避けながら接近を成功させ、返り討ちに遭う可能性も否定できない。
彼らはそう考えたのだろう。
そしてそれは正しい。
その身体能力があったからこそ、亜人達は技術で大幅に劣っていながらも、ここまで抵抗することが出来ていたのだから。
「上は死体でもサンプルを欲しがるかな」
「欲しがるでしょうね。ここまで綺麗な死体ならば尚更」
「気が進まない」
「ならば無視すればいいのでは?」
「え?」
「俺たちが受けた命令は『生き残りの確保』ですからね。『死体の回収』までは命じられていません。上が欲しがっていると分かっていても、命令に含まれていない以上は無視しても問題ないでしょう」
「それもそうか。しかしこのままにしておくのも可哀想だけどな」
「そこは割り切ってください。どうしようもないことです。俺たち個人の意志で彼ら全員を埋葬することは出来ませんし、そんな目立つ行動を取ったら、死体の回収をしろと追加命令をされかねません」
「だよなぁ……」
それは嫌だった。
野晒しの死体になってでも、このままの方がマシだろう。
生きている間に地獄を味わい続け、死んでからも身体を弄くり回されるのは遠慮したい筈だ。
「仕方ない。ここは放置でいいか」
「ええ」
レヴィアースとオッドは軽く話し合いながら、その場から立ち去ろうとした。
しかしその直後、レヴィアースの背後から黒い影が襲いかかってきた。
「大尉っ!?」
オッドが驚きの声を上げた時には、既に遅かった。
★
マティルダはじっと息を潜めていた。
動けるようになるまでもう少し。
身体の痺れは徐々に取れてきている。
もう少しでここから逃げ出せる。
それまでは死体のふりをしていなければならない。
そうしなければ生き残れないと理解していた。
動けるようになったら、念の為にトリスのことも見ておこうと思った。
他の仲間は駄目だが、トリスだけならば生き残っている可能性もある。
そうでなくとも、蘇生できる可能性は残っている。
あそこまで嫌っていた相手にそこまでしようという気になったのは、やはり彼の本心を知ったからだろう。
強かったのではなく、弱かったからこそ助けたかった。
辛い記憶から逃げる為に、仲間を助けようとした。
そんな弱さと脆さが、マティルダにとっての安心となったのだ。
彼も自分と同じように足掻いているだけなのだと分かったから。
だからこそ、生きているのなら助けたいと思った。
合理的な判断としても、一人よりも二人の方が生き残りやすい。
だからトリスには是非とも生き残っていてもらいたかった。
そうやって息を潜めていると、新たな人間がやってきた。
「?」
ジークスの軍人ではない。
着ている服が違う。
どこか別の場所から来た軍人だろうか。
服の種類からして、軍人であることは理解出来る。
つまり、敵だ。
マティルダはじっと息を潜めて、彼らの様子を監視することにした。
「……最悪の気分だ」
「同感です」
二人はどうやらこの状況を見て悲しんでくれているらしい。
この発言からもジークス側ではないことは確認出来た。
ならば助けを求めてみるのもありだろうか。
すぐに行動を起こしたりはしないが、一応は選択肢の一つとして加えておく。
判断するにはもう少し情報が必要だ。
「上は死体でもサンプルを欲しがるかな」
「欲しがるでしょうね。ここまで綺麗な死体ならば尚更」
……助けを求める判断は撤回。
間違いなく敵だ。
彼らはサンプルと言った。
ならば死体よりも生き残りである自分ならば尚更貴重な筈だ。
見逃す理由が無い。
ここで生体反応を調べられたりしたら、マティルダは見つかってしまう。
警戒されて攻撃を仕掛けられるよりも、油断している間にこちらから仕掛ける方が確実だ。
マティルダはそう判断して、いつでも飛びかかる準備をする。
その後の会話は耳に入っていない。
極限の集中状態を維持している為、外部の会話が耳に入ってきても、認識は出来ないのだ。
手足の状態、筋肉の状態、自分の身体の状態をすべて把握する。
戦闘を行う分には支障が無いことを確認して、マティルダは赤い髪の男へと飛びかかった。
「同感です」
そして惑星ジークスに降り立って極秘任務についているレヴィアース・マルグレイトとオッド・スフィーラは不快極まりない表情でそう呟いた。
彼らは地下闘技場にいた。
亜人の生き残り、子供の生き残りを探す為だった。
上官達がジークス政府や軍と連合加盟の手続きをしている間に、レヴィアース達は加盟に必要な調査という名目で自由に歩き回っていた。
立場はエミリオン連合の方が強いので、ジークス側に拒否する権利は無い。
それでもこっそりと動いているのは、彼らが隠したがっている後ろめたい事実も掴むことを目的としている為だ。
そうやって交渉を有利に進めようとしているのだろう。
隠密行動が基本だが、仮に見つかったとしても、堂々としていればジークス側は引き下がるしかない。
その強みを最大限に活かして、レヴィアース達は子供達を闘わせていたという地下闘技場の方に足を踏み入れていた。
そしてそこで目にしたのは、百人以上の子供の死体だった。
血は一滴も流れていない。
だけど彼らが死んでいることは明らかだった。
「恐らく、この首輪に電撃が仕込んであったのでしょう。囚人に対するものと同じ仕組みです」
「こんな子供にそこまでするとはな……」
「子供と言っても亜人ですからね。その身体能力は侮れません。銃殺よりもスイッチ一つで始末できるこちらの方を優先したのでしょう」
「………………」
理屈は分かるが不快であることに変わりは無い。
確かに狙いを定めて撃たなければならない銃では、避けられる可能性がある。
亜人の身体能力であれば、弾丸を避けながら接近を成功させ、返り討ちに遭う可能性も否定できない。
彼らはそう考えたのだろう。
そしてそれは正しい。
その身体能力があったからこそ、亜人達は技術で大幅に劣っていながらも、ここまで抵抗することが出来ていたのだから。
「上は死体でもサンプルを欲しがるかな」
「欲しがるでしょうね。ここまで綺麗な死体ならば尚更」
「気が進まない」
「ならば無視すればいいのでは?」
「え?」
「俺たちが受けた命令は『生き残りの確保』ですからね。『死体の回収』までは命じられていません。上が欲しがっていると分かっていても、命令に含まれていない以上は無視しても問題ないでしょう」
「それもそうか。しかしこのままにしておくのも可哀想だけどな」
「そこは割り切ってください。どうしようもないことです。俺たち個人の意志で彼ら全員を埋葬することは出来ませんし、そんな目立つ行動を取ったら、死体の回収をしろと追加命令をされかねません」
「だよなぁ……」
それは嫌だった。
野晒しの死体になってでも、このままの方がマシだろう。
生きている間に地獄を味わい続け、死んでからも身体を弄くり回されるのは遠慮したい筈だ。
「仕方ない。ここは放置でいいか」
「ええ」
レヴィアースとオッドは軽く話し合いながら、その場から立ち去ろうとした。
しかしその直後、レヴィアースの背後から黒い影が襲いかかってきた。
「大尉っ!?」
オッドが驚きの声を上げた時には、既に遅かった。
★
マティルダはじっと息を潜めていた。
動けるようになるまでもう少し。
身体の痺れは徐々に取れてきている。
もう少しでここから逃げ出せる。
それまでは死体のふりをしていなければならない。
そうしなければ生き残れないと理解していた。
動けるようになったら、念の為にトリスのことも見ておこうと思った。
他の仲間は駄目だが、トリスだけならば生き残っている可能性もある。
そうでなくとも、蘇生できる可能性は残っている。
あそこまで嫌っていた相手にそこまでしようという気になったのは、やはり彼の本心を知ったからだろう。
強かったのではなく、弱かったからこそ助けたかった。
辛い記憶から逃げる為に、仲間を助けようとした。
そんな弱さと脆さが、マティルダにとっての安心となったのだ。
彼も自分と同じように足掻いているだけなのだと分かったから。
だからこそ、生きているのなら助けたいと思った。
合理的な判断としても、一人よりも二人の方が生き残りやすい。
だからトリスには是非とも生き残っていてもらいたかった。
そうやって息を潜めていると、新たな人間がやってきた。
「?」
ジークスの軍人ではない。
着ている服が違う。
どこか別の場所から来た軍人だろうか。
服の種類からして、軍人であることは理解出来る。
つまり、敵だ。
マティルダはじっと息を潜めて、彼らの様子を監視することにした。
「……最悪の気分だ」
「同感です」
二人はどうやらこの状況を見て悲しんでくれているらしい。
この発言からもジークス側ではないことは確認出来た。
ならば助けを求めてみるのもありだろうか。
すぐに行動を起こしたりはしないが、一応は選択肢の一つとして加えておく。
判断するにはもう少し情報が必要だ。
「上は死体でもサンプルを欲しがるかな」
「欲しがるでしょうね。ここまで綺麗な死体ならば尚更」
……助けを求める判断は撤回。
間違いなく敵だ。
彼らはサンプルと言った。
ならば死体よりも生き残りである自分ならば尚更貴重な筈だ。
見逃す理由が無い。
ここで生体反応を調べられたりしたら、マティルダは見つかってしまう。
警戒されて攻撃を仕掛けられるよりも、油断している間にこちらから仕掛ける方が確実だ。
マティルダはそう判断して、いつでも飛びかかる準備をする。
その後の会話は耳に入っていない。
極限の集中状態を維持している為、外部の会話が耳に入ってきても、認識は出来ないのだ。
手足の状態、筋肉の状態、自分の身体の状態をすべて把握する。
戦闘を行う分には支障が無いことを確認して、マティルダは赤い髪の男へと飛びかかった。
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