朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第27話「迷いの森」

「準備完了!!!」


 アルとの戯れが終わり、俺たちは旅の支度を済ませていた。世界を救うための冒険。いよいよ勇者じみたイベントの始まりだ。


「まずは自然族の国、ネグラフィリアに向かうぞ」


「ここからネグラフィリアに行くまでの間に迷いの森があるのです。なんでも、一度入ったら二度と出られないとか」


「よし、行くのやめるか」


「小心者」
「クソビビり」
「ダッサ……ぃのです」


「泣きそう」 


 てか純粋に考えて一度入ったら出られないとか正気の沙汰じゃねえ。入って出られないならネグラフィリアにも行けねえし単純にクエスト失敗、ゲームオーバーじゃねえか。そんな森焼き払っちまえよ。てかなんでこいつらはこんなに平然としてられるんだよ。


「じゃあ聞きますけど、あなた達は怖くないんですかぁ?」


「えー、だって今までプレイしたゲームの中で本当に出られなかった【迷いの森】なんてないもん」


「私は燈矢が守ってくれるし」


「迷いの森は前から行ってみたかったのです」


「おぉう……鍵乃とミクはともかくユミスは全幅の信頼をありがとな。はぁ、じゃあ行くか……」


「「「おーっ!!!」」」


 今回の旅に使う主な移動方法は竜車だ。ギルドに借りようかと思っていたが借り物でムチャするのもどうかと思い購入することに決定した。で、選びに王都まで来たのだが……


「こーれーがーいーいーっ!!!」


「これがいいのです。目が一番輝いているのです」


「えへへ……この子可愛い……」


「はぁ……お前らもうちょっと話し合ってだな……」


 この通り、どの竜を買うかで大論争勃発中なう。鍵乃は羽がカラフルな一見グロテスクにも見える翼竜。ミクは血に飢えた目をしている戦闘特化種。ユミスはまだまだ体の小さい幼体を眺めている。


「全部却下」


「「「えーっ……」」」


「そうだな、こいつとかいいんじゃないか?」


 頑強な両足を持ち、尻尾はしなやかに揺れ、瞳は鋭く遠くを見つめている。とても賢そうな陸竜だ。


「「「却下」」」


「お前ら今日は声が揃うなぁ」


「てかむしろなんでこの子がダメなの?」


「まず、鍵乃が選んでるそいつは翼竜じゃん。そいつじゃ車引いて歩けないだろ、ミクのは戦闘種だからダメ。ユミスに至っては子供じゃねえか」


「「「確かに……」」」


 今日のこいつらはどこかおかしいのかもしれない。今日の夜はゆっくり休ませよう。


「よし、じゃあこいつにしよう! おっさん! この陸竜をくれ!」


「そいじゃ、50万リシアだよ。兄ちゃんたちとてもこんな大金持ってるようには見えないが……」


「ちょいと待ってな、おっさん! 四次元箱ユナルモワール!」


 唱えた途端、煙と共に目の前に大金が現れた。てかこの魔法名大丈夫? アウトじゃない? ギリギリセーフ? セーフだ、そう信じよう。


「お兄ちゃん、これってドラえ……」


「ストップだ妹よ。それ以上言ったら消される」


「誰に?」


「まぁ、魔王より強い何かだ」


 この世界までその力が及ぶかは知らんが危ないことは回避しないとな。


「こりゃ凄い! まいどあり!」


 こうして俺らは竜車を手に入れ、ついに王都の門を潜り、レイフィリカを後にした。


「なんかこう、いざ旅に出るってなるとわくわくするねっ」


「おーっ! ヨツメバジリスクの大群なのです。初めて見たのですよ」


「お茶持ってきたよ、燈矢飲む?」


「う~む……」


 俺の想像してた旅と違うんですけど。俺的にはもっと緊張感のある旅だと思ってたんだが、これじゃ平和すぎてまるでピクニックだ。俺の予想とこれまでの流れからいくとこの辺で何かイベントが起こってもおかしくないのだが。


「あ、お茶もらうわ。サンキュ。ま、こんなのもいいか。にしても速いなー、もう森に着いてもおかしくないんじゃないか?」


「ん? ありゃなんだ?」


 この辺は細い一本道になっているのだが、竜車が詰まっているらしい。この世界にも渋滞ってあるんだな。


「どうしたんですか?」


「あんたらもここ通るのかい? 何だか知らねえがでっかい岩に道が塞がれてるんだとよ、それでこのざまさ」


 知ってんじゃん……というしょうもないことは心の奥にしまっておくとして、困っている人がいるなら助けてあげようじゃないか。この際だし冒険者として好感度上げていくってのも大事なイベントだろう。


「俺たちに任せてください! 鍵乃いけるか?」


 そこには何でこんなもんが道端に転がってんだよと思うほどに大きい岩の塊があった。


「まっかせなさーい! 消滅バニッシュ! ってあれ? 消えない……」


「ん? 今なにしたの? お兄ちゃんに説明して」


「えっとね、この魔法は対象の物体を消すことができる魔法なんだけど、生命がある物には発動しないの」


「ってことは……こいつ生き物ってこと?」


 血の気がちょっとばかり引いたのが分かった。じゃあつまりこの巨大な大岩全部が生き物で俺らはこいつにケンカを売ったって認識でオーケー? え、無理無理こんな怪獣。戦えるわけないって。あ、こっち向いた。


「こ、こんにちは……」


「い……」


「い?」


「痛いよーうっ! いきなり何するんだよ全く!」


「シャ、シャベッタァァァァ!!!」


 拝啓、お父さんお母さん。僕は今日、怪獣とお喋りしました。


「す、すまん! ちょっとここをどいてほしいんだ!」


「えー、めんどくさいよー」


「そこをなんとか!」


「うるさいなあ」


 岩の尻尾が風を切りながらこちらに向かってくるのが見える。


「アイギス!」


 眩い光とともに盾が現れる。防護壁が盾を中心に広がり、後ろにいた皆を守った。瞬時に展開できるとかなんだかんだ俺も強くなってるんじゃないか?


「おっきい岩さんおねがい! ……ダメ?」


「君可愛いねー、僕のものになってよ」


 やっぱり鍵乃の可愛さは国も種族も超えて共通なんだn……ん? 今なんて言ったコイツ。


「あ、お断りします♡ 灰燼覇グラン・ネロ……ごめんね、私は……のものだから」


 瞬間、爆音とともに大岩の怪獣が灰になった。鍵乃がなんか大事なこと言ってた気がするけど音のせいで生憎何にも聞こえない。無能な耳め。


「てかやりすぎじゃね?」


「わたしもここまでひどいことになるとは思わなかったよ」


「うん、まぁこれで一件落着なのかな?」


「ウオアアアアアアアッ!!!」


 渋滞に巻き込まれていた人たちが歓声を上げる。どうやら喜んでくれているらしい。


「あんたら凄いな!! 大賢者か何かか?」


「うーん、大賢者より強い魔法使いかな なんたって神様に選ばれてるからな」


「ははっ! そりゃすげぇ!」


 大岩が撤去され、割とスムーズに渋滞は解消された。俺らの目的地である迷いの森が見えるころには周りに他の冒険者はいなかった。


「あれが入ったら出られないクソフォレストか」


「攻略するっきゃないっ!」


「あーっスナモグリサラマンダーの大群なのです。初めて見たのです」


「あ、お茶無くなっちゃった……」






 そこはいまだピクニック気分の俺たちをどん底に突き落とすにはあまりに十分すぎる場所だった。

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