朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第4話 「美味しいものを食べてる妹は世界で一番可愛い」

 ガチャ…


 アンティーク調の受付には美人なお姉さんが座っていた。こちらの世界の女性は総じて顔が整っている気がする。まぁ、オバサンはオバサンだけど。


「すみません…これ、買い取っていただきたいんですが」


 俺は袋に詰まった金の腕を渡すとお姉さんは素早い対応で鑑定を始めた。


「すごく上質な金ですね、恐らくかなり昔の物です。歴史的な価値もあるでしょう。」


 じっくり見回した後に一言、
「これをどこで手に入れたのですか?」


 マズイ、この質問は想定外だった。もしもダンジョンやら遺跡などが存在しない場合、ここで遺跡だのダンジョンだの言ったところで頭のおかしいやつだと思われるか、最悪警察行きだ。


「えっと…これは、その…」


 俺が口ごもっていると
「実は私達冒険者をやっておりまして、最近近くの山で大規模な爆発があったでしょう?」


「ええ、突然の爆発に街が大パニックに陥ったとかいう」


 鍵乃が罪悪感から泣きそうになっている。が、結構いい働きをしてくれた。話が途切れないことから冒険者稼業は存在する。つまりダンジョンや遺跡などを口に出してもいいことが分かった。


「その山の爆発の原因を探りに行った時に遺跡の様なものを発見したのです。これはその遺跡から持ち帰った物です。」


「なるほど、それは興味深いですね。私も個人的に行ってみようと思います」


「あ、あぁ、お気を付けて」


 無かったらゴメン、多分無いと思う。


「鑑定結果ですが、一億リシアになります。」


「はぁ」


 リシアが分からなかったが恐らく円の様なものだろう。こちらの世界の通貨の価値も知らないため、あまり大きいリアクションは取れない。
 すると店内の客がざわついてそこらから一億という単語が聞こえてくる。一億ってすごそう。


「や、やったーうわーい(棒)」
「お兄ちゃん、なんかすごそうだね」


 目の前に置かれた大量の札にビビる。これ、持って帰れるんだろうか


「百リシア札が十万枚で計一億リシアとなります。持ち帰られますか?当店の金庫に納めておきますか?」


「半分、金庫で」


 とりあえず俺達は5千万リシアを持って、店を出た。日本円換算がしたかったため商店街へ行くとする。


「すごい活気だね、美味しそうなものもたくさん売ってるよ!」


 楽しそうに目をキラキラと輝かせる鍵乃がとても愛らしい。


「そうだな、なんか食べていこうか」


 と、他愛ない話をしていると


「うわっ…痛たた、転んじゃった…」


「大丈夫か?どこか怪我してないか?」


 鍵乃の膝を見ると小さな擦り傷が出来ていた。血を拭いていると少しの異変を感じる。血がなかなか止まらないのだ。普段ならすぐに止まるはずなのだが遅い。仕方が無いので布で巻くことにした。


「歩けるか?」


「全然大丈夫だよ!早く美味しいもの食べに行こ?」


 少し歩くと行列になっている店を発見した。食欲をそそる匂いも漂ってくる。思えば朝から何も食べていない。そう認識すると余計に腹が減る。


 ぐぅ〜〜〜〜


「ん?」


 少し下を見ると鍵乃が顔を真っ赤にして震えていた。
「お兄ちゃん、今の聞こえた…?」


 からかってもしょうがない。クールにいこう。


「何も聞こえなかったぞ」
「気を遣われる方が恥ずかしいよ!!」


 理不尽なパンチが空腹の脇腹を突く。ちょっとだけ痛い。


 そんなことをしているうちに順番が来た。


「何がオススメなんですか?」


「そうさねぇ、このドラゴンの照り焼きとシュルカパフェが人気だよ!」


 店主のおばちゃんが元気に接客してくれる。いい人なんだろうと肌で感じることが出来るくらいいい人そうだ


「じゃあその二つをお願いします、いくらですか?」


「二つで二十リシアだよ!」


 聞き間違いだろうか、二十と聞こえたのだが。
こちらの世界での主食は日本の駄菓子と同価値なのだろうか。物価が安いのか、一億が頭おかしい位に大金なのか分からず、困惑する。


「じゃあこれで」
俺は1枚だけ札を店主に渡した。
「百リシアだね、お釣りの八十リシアだよ!百リシア札出すなんてお金持ちだねぇ!」


 それもそうだ見た目は高校生と中学生の子供が百リシアという大金で支払う。おかしな光景だろう。換金所は…気にしてなかったみたいだけど。


 テラス席で待っていると大皿に乗ったドラゴンの照り焼きとシュルカパフェが運ばれてきた。一口、口に含むと、
「うっま!?なんだこれめちゃくちゃ美味い!」
「美味しい…」


 ドラゴンは肉質的には鳥に似ていたが、溢れる肉汁と旨みが半端じゃなかった。付いていたタレもとてつもなく美味い。おばちゃん凄腕のシェフかなんかかな。


「はぁあふぅ…美味しい…」


 鍵乃は恍惚とした表情すら浮かべている。恐るべし。おばちゃんマジック。
 ものすごい勢いでドラゴンを完食し、パフェに取り掛かる。先に鍵乃が食べたみたいだが、様子がおかしい。顔は火照り、なんだが色っぽい。


「お兄ちゃん、あ〜ん」


 !?!?!?突然の出来事に頭の処理能力が追いつかない。普段なら絶対にしないのに鍵乃があーんして来た!?


 パフェが口に近づくとその正体が分かった。ウイスキーボンボンとかカルヴァドスとかそういう感じの匂いがする。多分お酒だろう。


「あ、あ〜ん」
「どう?美味しい?」


 あーんしてもらうだけで百倍美味しく感じる。幸せすぎる。俺はもしかしたら明日死ぬのかもしれない。


「鍵乃があーんしてくれたら何でも美味しくなると思うぞ…ゴーヤとかも。」


と馬鹿な事を口にしていると、鍵乃が物欲しそうにしている。これは逆にあーんするチャンスなのでは?


「鍵乃、ほら、あーん」


 火照った顔がさらに赤くなる、こいつもしかして俺のこと好きなんじゃないか?いや、流石に無いか。


「あ、あ〜ん」
「美味しい?」
「最高です。お兄ちゃんの味がします」


 関節キスがとてもいやらしく感じる表現をされてお兄ちゃん今すごく困ってるよ。
 酔った妹がこんなに可愛いとは。これからも来よう。寧ろ常連になろう。


「お腹も膨れたし、次は家を探さないとな」
「そうだねぇ〜…ふにゅぅ…」


 鍵乃さん少し酔いすぎじゃね?


 フラフラしていた鍵乃を支えるようにして歩き、不動産を探すことにする。お金持ちらしいし、結構な家を建てることが出来るかもしれない。


 少し早めにやってきた夢のマイホーム(妹との同棲オプション付き)をゲットするチャンスに高鳴る気持ちが抑えられない俺だった。



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