令嬢の一人語り。【メイド視点】後編

がーねっと

令嬢の一人語り。【メイド視点】後編

喚き散らすアバズレにお嬢様は笑顔でお話を続けます。




「嫌? 違う? 何が違うのかしら」




お嬢様は気になったのか、アバズレに問い掛けます。が、アバズレは答えるどころか耳を塞ぎ、踞ってしまいました。小さく、お嬢様が溜め息を吐いたような気がします。




「ほら、また貴女は自分の殻に閉じ籠る。嫌々と首を振っても本当のことでしょう? ねぇ、違うのかしら? 違わないわよね」




違わないと、笑顔で言い切るお嬢様に外野達が煩く騒ぎます。が、なにも気にした風もなく質問を投げ掛けていきます。アバズレが、目を背けている現実に対しての。それは、アバズレを酷く傷付けるものでしょう。




「ねぇ、貴女はいつから笑えるようになったの? ねぇ、貴女は何故笑えるようになったの? ねぇ、貴女の笑顔は、心から出てくる本当の笑顔なの? ねぇ、耳を塞がないで。本当のことなんだから。違うだなんて言わないで。これは貴女の感情なのだから。なのに、耳を塞いで、逃げていく。全く……」




呆れた声でお嬢様は追い込んでいきます。これは八つ当たりも含まれていることをアバズレ達が知らなくて良かったと思います。知っていたら更に酷い言葉を使っていたでしょうから。ですが、まだ優しい言葉でもアバズレは肩を震わせています。もしかしたら、泣いているのかも知れません。が、お嬢様は止まりません。




「……あら、もしかして泣いているの? それは本物の涙かしら。いえ、分かっているわ。本物の涙よね。分かっているわ。本当、貴女は弱虫ね。あぁ、一度壊れた人間は脆く弱いものよね。忘れていたわ。どうしたの? 違う、私はこんなこと知らない? あらあら……」




踞りながらアバズレは叫びますが、きっと自身は何を言っているのか分かっていないでしょう。叫んで、泣くのは自身の心を守るための行動だと、私は考えます。これが演技ならば没落しても役者として暮らしていけるのではないでしょうか。そして煩かったガキどもは、アバズレの変わりようになにも言えなくなって居るようですね。静かになって良かったのではないでしょうか。




「全く、これくらいで取り乱しちゃだめよ。きちんと聞いてくれないと」




満面の笑みで聞かせるように促します。が、アバズレは叫ぶだけ。このやり取りは何回目でしょうか。そろそろ耳が痛くなって来ました。が、お嬢様は止める気はないように見えます。まあ、実際に止めないのでしょう。




「ん? 違う、怖くない、私は単純にあの人が好きなだけ? まあ、本当に貴女はどこまでも逃げるのね。素直に好きだから怖い、と認めればいいのに。あら、それでも違うと言うの? 私は違わないわ。好きな人に嫌いと言われるのが怖い。あの人にムカついたとか、気持ち悪いと言われるのが怖い。だって、好かれたいもの。全てを受け入れてほしいもの」




途中からお嬢様の願望が聞こえたような気がします。気のせいでしょうか。いえ、きっと気のせいではないのでしょう。私は心の中で溜め息を付きました。どうせ、今から発言して、後で落ち込んでしまうのでしょうね。自身の発言に、お嬢様本人が落ち込むのは本当に止めていただきたいです。まあ、私は止めることなど出来るわけがありませんが。




「あぁ、ムカついたで思い出したわ。私のお話も少し聞いてくれるかしら? まあ、貴女のお話ばかりでは詰まらないですもの。別にかまわないでしょう? いきなりだけれど、私ね、写真がとても嫌いなの。ああ、撮るのは好きだけれど、撮られるのは嫌いという意味ね。というより、あまり自分の顔は好きな方ではないの。なのに、私の写真を撮ってあの人に送り付けたのよ。ああ、あの人と言うのは私の想い人のことね。それで、あの人に写真を送ったの。そうしたら、なんて返ってきたと思う? 何か調子乗っているようでムカつく、よ。ありえないわ。私は頑張って写真を撮って送ったのに、ムカついた、よ?
本当にあのときはふざけんじゃないわよって叫びそうになったわ。なのに、あの人は私に対して写真の一つも寄越さなかったの。しかも、その当時は少し心が弱っている時期に言われたから、連絡遮断を断ってやったわよ。あの時は少しすっきりしたわ。まあ、弱っていることに関しては何も言わなかったの。私、結構根に持つ方だもの。簡単に許さないわ」




とか言って、手紙とかが来たら喜んで返事を書いてしまうのでしょうね。全くこの人は。あの人に関しては本当にチョロいのですから。しかし、そろそろ連絡を取っても良いと思うのです。と、言うより早く連絡していただきたい。淋しい、淋しいと私に言うのを止めて欲しいのです。それを聞いて私はどうすれば良いのか分からないのですから。あの人に私からお伝えした方がよろしいのでしょうか? お嬢様に対して愛を囁けば良いと。でも、少しの間は一人させた方が良いのでしょうね。本当に手のかかる人です。ああ、でも一人にすると泣き出して仕舞うかも知れませんね。ああ、本当にどうすれば良いと言うのでしょう。手っ取り早く、お嬢様が我が儘を言ってしまえば多少はスッキリするでしょうに。それが出来ないからこうなっているんでしたね。全く、どうしましょう。




「ふざけないで頂戴。私、我慢するの苦手なの。今までよく普通に言葉を返していたと褒めて欲しいくらいだわ。私が同意しても変えられないことをいつまでもうだうだと言わないで」




さて、色々考えていたらいつの間にか話が進んでいます。どうしてでしょう。とりあえず笑顔で居たら良いのです。話がわからなくなっていても、私には出番などないのですから。いつの間にかお嬢様のカップのお茶がなくなっていたので注ぎなおし、事を見守りましょう。




「ねぇ…………私はいつまで、




貴女達に




笑い返せばいいの?」




ゆっくりと、はっきりと、アバズレ達に伝えていくお嬢様。それは言外にそろそろ潰すぞ、と言っても良いものです。お嬢様も、旦那様も、そろそろ我慢できなくなっているのでしょう。旦那様が怒る前になんとかしていただきたいですね。




「……リリー、この人たちを追い返してちょうだい。気分が悪くなってきたの。ごめんなさい。貴女にこんなことを押し付けて。それと、しばらくこの部屋に入ってこないでくれるかしら? 本当、貴女に迷惑をかけてばかりね」




私はお嬢様のお願いに分かりましたと頷き、アバズレ達を外へと連れ出します。しかし、お嬢様はきちんと迷惑をかけている自覚が在ったのですね。良かったです。出来れば、迷惑をかけることを減らして頂きたいですが。まあ、お嬢様ですから、それは無いでしょうね。部屋を出る前に、今から部屋に誰も入れないようにしますか、と聞くと少し考える素振りを見せました。きっと、一人にして欲しいと言うはずです。




「……ありがとう。お願いするわ」




やはり。私は畏まりました、と一言告げてアバズレを引き摺りながらお嬢様の自室から退出しました。部屋から出ると、お嬢様の護衛の人が王子を抱えながら立っていました。きっと、私を待と言われていたのでしょう。とりあえず、護衛にアバズレ達を渡し学園の方に乗り込むことにしました。煩いのは解消されましたが、これからまた忙しくなりそうですね。






公爵家の召し使いとして、お嬢様の専属の従者として、これからも精一杯の努力をしていく所存です。






でも、出来るだけ早くお嬢様にはあの人に対して素直になって頂きたいですね。




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