楽しむ異世界生活

フーミン

48話 謎の依頼人

しばらくの間、掲示板の前で突っ立っていると、獣人族の店員さんが俺の達の元へ、1枚の依頼書を持ってきた。


「あの、それはなんですか?」
「実はレムさん達に、指名依頼が来てまして……。
 依頼人は不明。依頼内容が、この街から東側にある廃墟の探索です」


 依頼人が不明の指名依頼? 俺達の実力を見込んでの指名依頼なら嬉しいが、誰から指名されたか分からないとなるとな……。


「あの廃墟は、特に魔物がいたという報告も何もないのですが。依頼達成報酬が10金貨という高額で……」


何っ!? そんなに簡単に稼げるのか!?
 いや待てよ……? 報酬を餌に、廃墟に俺達を誘い込む罠の可能性もあるな。
 いや、でも《大天使》とかいうチートスキルがある限り、危険性はない。


「じゃあ行きます」
「大丈夫ですか……?」
「大丈夫です! 僕、強いですから!
 ねっ!ケルミア!」
「レム姉なら一瞬で達成できるよ」
「そうですか、では依頼を受けますね。
 お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「は〜い」


全く、俺なんかを罠にハメようなんて思ってる冒険者はどこのどいつだろうなぁ。
 俺達は街の東側に出て、目的地の廃墟まで楽しく話しながら向かっていった。


 廃墟の道中は、魔物も特に湧いていない。安全に向かうことができた。
 薄暗い協会のような廃墟を前にして、俺とケルミアはなんらかの嫌な雰囲気を感じる。


「このタイミングで依頼が来たということは、何か問題が起きている可能性もあるね」
「レム姉、大丈夫かな?」
「ん〜……とりあえず協会の中に入ろうか……」


俺とケルミアは、一緒に協会のドアを開けて中に入る。


「なんか嫌な雰ぃっ゛っ゛っ……」
「ケルミアッッ!?」


突如、ケルミアの頭に大きな矢が刺さる。


「ケルミアッッ!! ケルミアッ!」


くそっ! 油断したっっ!!


『安心してくださいレム様。《時空旅行》で巻き戻れば大丈夫です』
『頼む!早く!!』


ーーー


「レム姉、大丈夫かな?」


……戻った…のか?


「……? レム姉?」
「あ、あっ……大丈夫。玄関から入るのは危ないから別の入口を探そうか……」


ケルミアの顔を見ると、ついさっきの光景を思い出す。
 ケルミアの頭に、大きな矢が貫通して、死んでしまった。


「うぅっ……」


思い出すと、嫌な吐き気が襲ってきた。こんな事をする奴は一体誰なんだ……?
 協会の裏口にやってきた。次こそは何が起きても大丈夫なように、ケルミアをすぐに守れる準備をする。


 裏口のドアを開いて、協会の中へと入る。


「うっ……臭いね……」
「そうだね……」


罠が作動した気配はない。
 協会の奥へ、慎重に罠に注意しながら進んでいく。


(ガララッ!)「きゃっっ!!」
「ケルミアッッ!!」


慎重に進んでいたはずなのに、ケルミアの足元の床が崩れた。
 すぐに下を除くと、剣山に串刺しにされたケルミアの姿が……。


ーーー


「レム姉、大丈夫かな?」
「……」
「レム姉?」


……何回目……、いや何百回目だろうか。
 協会に入ると必ずケルミアが死んでしまう。


『レム様、この協会は何かがおかしいですよ』
『ああ、とっくの前に分かっていたが、どうすることもできない。
 何をしてもケルミアが死んでしまう運命に……』


運命。こうも有り得ない運命があるのだろうか。
 これを有り得る現象にする事ができるのは、アイツしかいない。
 アイツがここにいるのか……? それこそ有り得ない。


「おいっ! ここにいるんだろ! "ソルナント
"!」


強めの口調で、ソルナントの名を呼んだ。
 ソルナント。アイツは以前、学園で俺に襲ってきた転生者だ。能力は運命を操る能力。


「あれ〜? おっかしいなぁ〜、どうして気づいたの?」


協会のドアから、真っ白な目をしたソルナントが現れた。
 以前の姿とは違って、髪が伸びきって汚い体をしている。


「お前……何故ケルミアを殺そうとする……」
「あれ? レムちゃんがそんな口調になるなんて、もしかして怒ってるの?
 酷いなぁ……僕まだ何もしてないよ?」


コイツッ…………何百回もケルミアを殺しておいて……。


「……ふぅ…………。ソルナント、なぜ僕達に指名依頼をしたのか、詳しく聞かせてもらおうか」
「聞かせるまでもないよ。君達が僕を……この僕をあんな人生に追いやったんだからなぁ……」
「どんな人生かは知らないけど、僕達になんのようだ」
「なんのようだぁぁ!? 僕にあんな苦痛を味合わせた本人が、何を言ってんだ!!
 僕はなぁ……あれからずっと…魔力も使うことも、声を出すことも……。君に会うことも何もかもできなくなった……。
 3年間、僕は魔道具で全てを封じられた。そして封印が解かれて……僕は君に復習する為に力をつけた。
 運命を操る力を……全てを鍛えた!」


ソルナントの目は、正気を失っていた。狂った人間というのは、怖いものだ。


「僕は……君を殺すために……復習する為に……人生の全てを捧げたっ!!
 お前はぁっ……僕に殺される運命なんだよっ!!!」


叫んだソルナントの体から、莫大な量の魔力が放たれている。体の魔力が、体から抜け出ていっている。
 ソルナントの周りには、莫大な量の魔力によって腐敗した木や草が、全てを飲み込むように広がっている。


『不味いです! ソル君は運命を操るスキルに操られています!』
『どういうことだ?』
『ソル君がまともに戦ったとしても、レム様には勝てません。
 ですが、全身の魔力のリミッターを解除することによって、全身の魔力を最大限使用して戦うことができるのです。
 その代わり、体にとんでもない負担がかかります。
 このままだとソル君の体も壊れて、レム様も……その……』
『殺されてしまう。そういうことか?』
『はい……』
『俺が大天使化しても勝てないのか?』
『はい……勝つ方法は、1つしかありません……』


いきなり、命の危機に陥ってしまったようだ。


「ケルミア。安心して宿屋で待っててね」
「えっ!? レムn」


ケルミアを、宿屋へと転移させた。
 今この場にいるのは、レインとネロと俺。そしてソルナントだ。
 既に周りは、莫大な魔力によって真っ黒に染まっている。


『勝つ方法を教えてくれるか』
『レム様が大天使化して、魔力のリミッターを解除すれば……。
 しかしっ! そうすると、大天使化しても体に大きな負担を掛けてしまいます!』


最短でソルナントを殺さないと、俺の体が壊れてしまうのか。


『レインとネロが、なんとか体の負担をゼロにする時間を作れば、戦闘中でもリミッターをかけて回復することはできるが。
 レイン、ネロ。一緒に戦ってくれるか?』
『私達で、時間稼ぎになるかどうか……』
『全力を尽くすよ』


レインが実体化して、ネロが人型になって現れる。二人とも、剣術の達人と魔法の達人だ。
 だが、いまのソルナントはそれらも上回るだろう。
 俺は大天使化を行い、剣を引き抜く。


「ソルナント……。最短で終わらせるっ!」

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