楽しむ異世界生活

フーミン

28話 マルコフに夢を

「俺がアンタと戦っても、勝てるはずがない。
 そこでだ。死んでも嫌だが、目的の為に俺に指導してくれないか?
 勉強も、戦闘も。アンタに教われば上達する」


こいつも相当苦労してるんだな。
 だが、俺は人に教わることは得意だが教える側となると、残念になる。
 そして、俺は常に男に警戒心を持っている。簡単にお願いされて聞くような男じゃない。あ、女か。
 俺は女だ。男が女に勉強を教えてもらうなんて羨ましいじゃないか! なんでコイツはそんな事を堂々と頼めるんだ!?
 普通、幼なじみ的立ち位置にいる女の子が、ドジな男の子に無理矢理勉強を教えるもんだろ?


「君が僕に頼んでくれたのは嬉しい。でも、僕はそういう人に教えることだけは苦手なんだ。そして僕の役にも合わない。
 そこでだ。僕が教えることはできないが、いつも僕が訓練している方法で、戦闘能力だけは上げることができる」


勿論、それは夢の中での訓練だ。
 レインにかかれば、人に《幻想世界》を使用することもできるだろう。


「何? それは一体どんな方法だ?」
「僕には剣術の先生と魔術の先生、2人の先生がいる。
 その方に教わるんだけど、普通の方法で教わることはできない。ここで話すのもなんだ、君の部屋に行こうか」


思春期の男の部屋に行くのは、少々危ない気もするが。コイツは俺の事を嫌っているようだから大丈夫だ。
 コイツの名前、マルコフ・ゼブルスというらしい。どこかの貴族の子だろうか。
 マルコフの部屋に、すんなり入ることができた。いや、少し準備があるといって待ってから入った。
 流石貴族といったところだろう。部屋は綺麗に整頓されていて、汚く男臭い俺の部屋とは大違いだ。
 そして部屋には香水の匂いもする。


「それで、その訓練方法とはなんだ?」
「実は僕の先生は、僕の脳内にいるんだ」
「……どうやら嘘ではないようだな。
 レムの脳内にいる先生とやらに、どうやって俺が教わるというのだ?」


それだ。それを今からレインに聞くのだ。
 マルコフにちょっと待って、といってレインに話しかける。


『ね、レインさ。他の人の夢にいって訓練してやることできるよね?』
『はい、できますよ。しかし、その間対象の人物にレム様が触れてなければいけません』


それは面倒臭いな。だが、1度言ったからには教えてやらないとな。


「まず、寝ます」
「寝る!?」
「そう。そして夢の中に僕の先生が現れて、剣術の指導をしてくれます。詳しい説明は先生に聞いてください」
「寝るだけで訓練ができるのか?」
「いえ。その間僕がマルコフ君に触れてないといけません。マルコフ君にとっては、嫌いな相手に寝てる間触られ続けるというのは嫌でしょう。僕も嫌です。お互い様ですね」
「しかし、それで本当に訓練ができるのだな? 早速やってくれ!
 俺は寝るだけで良いんだな」


そう言ってベッドに横になるマルコフ。案外嫌とは言わないようだ。
 俺は床に座りながら、ベッドに寝てるマルコフ君の右手を握る。


「じゃあ、俺は状態異常魔法ですぐに眠りにつく。頼むぞ」


そういうと、あっという間に眠りについた。
 体から魔力が移動する感覚を感じたので、すでにレインによる鬼の戦闘訓練が始まっている事だろう。
 俺はずっとマルコフの手を握ったまま、頬杖をついていた。


「暇だ……、俺は人の部屋で何をやっているんだろうか……。
 そして俺は何をしたら良いのだろうか……。俺はこの先何をして生きていけば……」


いかんいかん。暇すぎて悟りを開きそうだった。
 マルコフが寝てる間、俺はずっとこうしていなければいけないとは、辛いもんだ。
 マルコフ、すまんが今日限りで特訓は終わりだ。


ボーッとしつつも、手を離さないようになんとか意識を保つ。
 何回か意識が飛びそうになったが、ほっぺたを摘んで我慢した。


ーーー


結果、俺は熟睡してしまったようだ。
 気がつくとベッドに横になって、心地よい香りと気持ち良い布団で、二度寝しそうになった。
 この香りはマルコフの部屋じゃないか。訓練は無事に終わったのだろうか。


『はい。4時間ほど訓練して、マルコフさんがもう嫌だといって、起きました。
 そして、寝ているレム様をもう片方のベッドに寝せて、しばらくゆっくりした後部屋を出ていきました。
 その後、1時間後にレム様が起きました』


ということは、俺はマルコフの部屋に5時間もいたのか。
 早くケルミアちゃんの元に帰らないとな。今頃、急にいなくなった俺を心配していることだろう。
 眠い目を擦りながら、気持ち良いベッドから離脱。


「やっと起きたかレム。訓練についてだが、あれほどの訓練を毎日受けてたら、それは強くなれるだろうな。だが俺は無理だ。
 素直にお前の努力を認めるよ」


もう片方のベッドに座っていたマルコフが、優しい笑顔になってそういった。


「あ、いたんだね。それにしてもマルコフらしくないこと言うね」
「まあな……。普段お前がどんな事をしているのか分かって、やっと俺の中で納得したよ」
「?」
「お前はただの努力家だ」


笑顔でそういったマルコフの顔には、俺に対する憎しみは無くなっていた。
 鬼畜なレインの戦闘訓練を受けて、少しは俺の努力を分かってくれたようだな。


「そういって貰えると嬉しいよ。
それじゃあ僕は、ケルミアちゃんが待ってるから帰るね」
「ああ、気をつけてな。
いつかお前を超える日まで楽しみにしていろ」
「僕以上に頑張ることができたらね」


そういって笑顔で手を振って部屋を出る。
 久しぶりに清々しい気持ちになったな。
 俺は1度深呼吸して、愛しのケルミアちゃんの元へ帰るのであった。

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