楽しむ異世界生活

フーミン

8話 家族の愛情

 昼食を食べながら、初めての街の事や、買ってもらった重い剣。見たばかりの魔法を使えるようになった。という話をしていた。
 

「えぇ〜!? レム凄いじゃん!」
「俺達の娘だもんな!」
「あ、あはははは…」


娘だから当然。という理屈の親バカ父は置いておいて。


「お母さんは、1人で暇じゃなかった?」
「暇だったわよ〜? レムの顔が見れなくて落ち着かなかったわ。無事に帰ってきてくれてありがとう」


母は優しく頭を撫でて微笑んだ。
 やはり、愛情というのは人の心を温かくしてくれる。
 俺は前世での嫌いな家族を思い出してしまい、少し苦しくなったが。ここが俺の家だ。
 前世での家族は、ヒステリックな母と俺の二人暮らし。
 父とは離婚して顔も見たことがない。
 母は朝から酒を飲んでは寝る生活を繰り返し、不機嫌になると俺に暴力を与えていた。
 そんな生活から救われて、異世界へと転生した俺は本気で楽しむことにしたんだ。


「あら? どうして泣いてるの? もしかして母さんに会えなくて寂しかったの? あはは」
「……お母さん、お父さん。ありがとう…ありがとう……」


俺は自然と涙を流していた。
 街から帰ってきて、固くなった心が一気に緩んで感情が漏れたのだろう。
 涙を拭って昼食を頬張る。


「急に泣き始めたと思ったら、一気に食べだしたなぁ。一体街で何があったの?」
「いや、特に何もなかったと思うがな。まあレムなりに何かがあるんだろうな」


母と父はそんな俺を、微笑ましく見ていた。
 そして俺は、半日移動した疲れと泣いた疲れが重なり、椅子に座ったまま眠ってしまった。
 最近、よく眠ることが多くなったが、成長期なんだろうな。
 目を覚ました頃にはベッドに移動してあり、窓の外は暗くなっていた。


『レム様、おはようございます。ベッドには母様が運んでくれましたよ』
「そうか……。レインもありがとうな」
『そんなっ! レム様にお礼を言われるような事してませんよ!』
「いいや。居てくれるだけで俺は嬉しいんだ……ありがとう」


 俺は寝返りをうってドアのある方へと向いた。
 その時、何か硬いものが当たったので、布団の中を見ると鞘に入った剣があった。


『寝ながらも、自分で大事そうに持っていたので。母様が運ぶ時に一時的に重量を軽くしました』


そういう気遣いができるレインは本当にありがたい。
 俺は剣を持って部屋の外へと出た。
 母と父はすでに眠っているようで、俺は特にすることもなく椅子に座った。
 この際だし、《竜の力》とやらを試してみるか。


『早速ですね! まず鱗追加ですが、このスキルは自動と手動に分けることができます。自動の方が断然良いですよ』
『自動だとどうなるんだ?』


一応親が寝ているので声に出さずに会話をする。


『自動の場合、突然攻撃を受けた箇所に鱗を生やして防御することができます』


ふむ。とりあえず手動で左手に鱗追加ってのをやってみるか。


『では、左手に魔力を集中させて鱗追加と念じてください。1度念じれば、後はイメージで自由に発動できます』


言われた通りに、鱗追加と脳内で念じる。
 すると、左手に白く輝く鱗がブワッと生えてきた。
 生えてくる瞬間は気持ち悪かったが、後に見ると実に綺麗だ。
 試しに右手で鱗を剥くように触ってみると、指が少し切れてしまった。
 痛てぇ……。しかしこれだけ鋭利なら攻撃にも使えるな。
 鱗は指先から肘にかけて生えている。


『回復しましょうか?』
『ああ頼む』


《医療スキルを獲得しました》
《医療魔法を使用しました》


というアナウンスが脳内に響き、傷は一瞬で治った。
 次は鱗追加を自動にしてみるか。


《鱗追加を自動に設定しました》


すると、左手にあった鱗が消滅して元の手へと戻る。
 少し心配だが、机の角にすねをぶつけてみるか。
 思い切って蹴ってみると、痛みは全く感じず、しっかりと鱗が生えていた。
 今後、鱗追加は常時オートにしておこう。



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