魔王LIFE

フーミン

61話 帰るべき場所

「本当に別世界から来たんですか!?」
「まぁ……はい」
「その名前は本当ですか!?」
「はい……」
「その剣は日本の法律に触れるのですが、どうなんですか!?」
「よく分からないです」


あれ……こんなに面倒くさかったっけ……。
ㅤあぁ……これあれだ。よく炎上した有名人がこんな人達に追われて、有名人はというとどこかに走って逃げるあれだ。
ㅤ皆逃げたがる質問攻めに、俺は自ら突撃したのだ。


「今回の事件、貴女の仕業じゃないんですか!?」
「えっと……私の仕業というより……ただの事故というか」


こんな事を話していると、メディアは都合の良いように解釈して報道していく。面倒くさいな。


「と、とりあえずですね。今回の事件は私達で解決しましたし、一件落着という事です」
「チュイッターのアカウントは本物ですか!?」
「はいそうです」
「今後テレビに出るといった予定は?」
「今のところ無いですね」


ーーーーー


そんな質問攻めがかなりの時間続き、やっと終わった。
ㅤ数名の記者が水を持ってきてくれて、ありがたく頂戴したが、こんなに疲れたのはお前達のせいだという事を忘れないでほしい。


ㅤ後日ニュースを見ると、質問攻めの映像がニュース番組で流れていた。


「あっという間に有名人だな」


ゴロゴロしながら他人のように話しかけてくるのは友人のアキ。
ㅤちょっとした騒動と売名活動によって、有名人になったのは良いが、更に忙しくなってしまった。


「そろそろ家族に会いに行った方が良いんじゃないか?」
「そうだね……技能も使えるようになったし、大丈夫そうかも」


《世界の神》を使った以前の姿に戻って家族に会いに行くか……。未だに行方不明扱いになってるし、突然顔を出せば怒られそうだな。


「あ、アキ……」
「一緒に来てくれ。なんて言うんだろ?」
「うん……」
「話が早くて助かる。なんて思ってないで、さっさと準備するぞ」


こいつ……完全にオレの心を読んでやがる。まさかそんな技能を……な訳ないか。


ーーーーー


他人からは以前の姿に見えるように幻影魔法を使った。服はドワーフに作ってもらったシンプルな物だ。
ㅤ見た目は、黒髪茶色の瞳という普通の日本人。顔も中の下といった目立たない人間だ。


「懐かしいな」
「口調も変えなきゃ……変えないとな」


幻影なので、体の違和感は全くない。
ㅤ荷物は持たずに、アキと一緒に俺の家族が住んでいるであろう家に向かった。


「変わらねぇな……ここも」
「すげぇ心配してたぞ。お前の親」
「なんか……会うのが嫌になってきた」


別に俺が悪い訳じゃない。それでも、突然いなくなったという罪悪感で、家族に会うのを拒否している。
ㅤそれでも、今会わないと更に罪悪感は膨れ上がってくる。


「ふぅ……」


インターホンを押そうとして、1度深呼吸をする。


「押せよ」
「ちょっ!?」
ピンポーン


アキに無理矢理指を押されて、そのままインターホンを押してしまった。


「は〜い」


扉の奥から懐かしい母の声が聞こえる。
ㅤその瞬間、俺の心の中から感情が溢れ出してきた。


扉が開かれて、母と目が合った。


「……た、ただいま」
「はる……と……?」
「……」


俺は、子供のように涙を流しながら頷いた。


「っっっ!! 悠人なのね!? おかえりなさいっっ!!」


母は怒るどころか、涙を流しながら抱きしめてくれた。
ㅤ2人は泣きながら抱きしめあった。


「もうっっ! どこに行ってたのよ!」
「ごめん……」
「謝らなくていいのよっ! ……帰ってきてくれてありがとうっ……!!」


俺の帰るべき場所に帰ってこれた。


「お母さ〜ん? どうしたの……って……お兄ちゃん!?」
「ああ…………ただいま……」


妹の晴香はるか。俺とは2つ歳が違う。


「心配したんだからねっ!? まあお兄ちゃんなら自分の探しの旅に出かけそうとは思ってたけど……まさか事故を起こしていなくなるなんて…………死んだのかと思ったんだからっ!!」


最初はハルカも強がってみせたが、やっぱり兄と再開できて嬉しかったのだろう。


「おかえりっ……お兄ちゃん!」


泣きながら抱きしめられた。
ㅤこんな状況じゃなかったら、妹に抱きしめられるなんて体験できなかっただろう。


ーーーーー


一頻り泣いた後、アキが居ることに気づいて冷静になった。しかし、アキは空気を読んでくれて、家に帰ってくれた。
ㅤ俺は、懐かしい家に久しぶりに入った。


「久しぶりの匂いだ……」
「ほら、お兄ちゃんの席。ずっとここにあるんだよ」


家族4人で食事をする時、俺はいつも壁側の椅子に座っていた。
ㅤ俺はそこに座って、懐かしい景色を楽しんだ。


「いつも振り返ってテレビ見てたな……こうやって。
ㅤで、そこに花瓶があって……前は赤い花だったか。今は黄色になってる。
ㅤここでよく父さんと腕相撲したな……全敗」


懐かしい思い出が蘇ってくる。


「お兄ちゃんまた泣いてる」


いつの間にか溢れていた涙を、妹がティッシュで拭いてくれた。


「ふふっ……ごめんな……」

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