魔王LIFE

フーミン

57話 マッチョマン

「我々の敵……つまり君達は人類の味方なのか?」
「隊長! 信じてはいけません! スパイの可能性も!」


ちっ、余計な事を。


「待て、まずは話を聞こうじゃないか。とりあえずお前達、銃を降ろせ。剣じゃ俺達には勝てない」
「ふぅ……ありがたいです」


やっと開放された。


「さてと……敵意が無い事は分かった。まず君達の目的を教えてもらおう」
「人類を魔物から救うことです」
「魔物というのは、今我々を襲っている生き物の事で良いのか? まるでファンタジーだな」


お? どうやらこの隊長と呼ばれてる人、ファンタジー系に興味があるのか?


「名前は?」
「ルト、といいます。後ろにいるのはミシェルにリアン」
「……何のコスプレだ」
「いえ、本当の耳と尻尾ですよ。触ります?」
「えっ」


隊長に触るか聞いたところ、リアンが嫌そうな顔をした。


「良いのか?」
「隊長! そんな事をしている暇はありません! 早く指示を!」
「待て待て! 他の部隊が戦ってるんだから、我々はまだ大丈夫だ!
ㅤ触ってよいのか?」
「どうぞ。ほら、リアン」
「うぅっ……」


触られたくない、といった表情をあからさまに見せるリアン。我慢してくれ。信用を得るためだ。


「……凄いなぁ……ちゃんと生えている」
「ひゃっ……」
「す、すまない」


尻尾の根元を触れたところで、触るのをやめた。
ㅤリアンは涙目で俺の後ろへと回った。


「さてと……まず君達の素性を明かしてもらおう。宇宙人なのか? それとも……」
「隊長さんの予想通り、異世界から転移してきました。魔法も使えます」
「ほぉ〜! 魔法! 見せてくれ」
「今使うと……魔物が寄ってくるので」


どうやら隊長さんはファンタジー物が大好物のようだな。接しやすい。
ㅤ更には興味の対象が俺にある。下手な扱いはしないだろう。


「ルト。魔素を出さない魔眼なら大丈夫なんじゃないか?」
「それ魔法って言わないよ……でも、隊長さん。見ててください」
「うむ」


目に魔力を集めて、魔眼を発動する。
ㅤ魔眼を発動すると、その目は赤く光る。


「おぉ〜! こりゃ凄い!!」
「隊長さん良い筋肉してますね」
「なっ、見えるのか!?」
「薄い物だったら何でも見通せますよ」


流石、自衛隊なだけあって筋肉が凄いな。俺よりもカッコいい。


「ルト様、魔物は近くにいないので、ゆっくり出来ると思います」
「分かった。隊長さん、今ここらへんは安全らしいので、ゆっくりと話しませんか? 他の隊員さん達も立ちっぱなしは大変だと思います」


そう言うと、隊長さんは1度隊員達を見て、口を開いた。


「お前達! まだしばらくは安全らしい、腰を下ろしていいぞ。
ㅤさて、我々もどこか座って話をしよう」
「あそこのテーブルはどうでしょう」


ミシェルが指を指したのは、木のテーブルと椅子がある場所。そこでよく、子供連れの母達が「あらあら」なんて話してる。


ㅤ4人でそこに座ると、2名の隊員が銃を持って近くにやってきた。


「こらお前達。そう警戒はいらん。隊長命令だ、銃を降ろせ」
「……」


銃は降ろしたものの、ミシェルとリアンのように椅子に座った。


「この3人の中で一番偉いのは……ルトさんで良いのかね」
「はい」
「……早速質問だが、戦えるか?」
「腕相撲……してみます?」


俺が右手を見せると、隊長さんはニヤリと笑った。


「私は腕相撲じゃ負けた事がない。もし私に勝てたら、今回の指揮は君に任せよう」
「良いんですか?」
「はっ、勝てたらの話だ」


随分と余裕そうだ。正直俺も勝てる気がしない。
ㅤなんで挑んだのかと言うと、お互いに触れると友情が芽生えるという話を聞いたことがある。手を握れば、仲良くなれるだろう。


ㅤ俺と隊長さんは手を組んだ。


「ほぉ……しっかりしてるな。鍛えてるのか?」
「最近は全く……。誰か合図を」
「大丈夫だ。君がしていい」


そうか。


「では……初め!」


すると、一気に隊長の手に力が入った。俺の右手がグンッと倒されていく。
ㅤこのままだと瞬殺されてしまうので、俺も本気の力を出した。


「おおっ!?」


なんとか形勢逆転。他の隊員からも驚きの声が上がっている。


「苦しそうだな」
「これで精一杯ですっ……」


隊長はまだ本気を出していない。やはり筋肉だけでは勝てないな。
ㅤ一気に力を緩めて、負けた。


「わぁ……」
「ルトが負けた……」


リアンとミシェルも驚いている。


「驚いた。ここまで私を追い詰めた人は初めてだ」
「そうなんですか?」


右手をブラブラと動かす隊長に、そう聞いた。


「その容姿でこの筋力……入隊しないか?」
「入隊……」


俺はミシェルとリアンを見る。が、よく分からない、といった顔をしている。


「一時的になら……良いですよ」
「助かる。隊員達にも癒しが必要だからな」
「癒し?」
「美人さんを見ると、元気になるんだよ」


下ネタ……俺はあえて分からないふりをした。


「協力できるのならありがたいです」
「ちょっと隊員達とも話してみないか?」
「そうですね。まだ完全に信用されてないみたいですし」


協力する為には信頼関係が必要だ。それに有名になるチャンスでもある。


「すまないな。お前達! 美人さんと今から話せるぞ! 立て!」
「では、行ってきますね。ミシェルとリアンは?」
「僕達は見守ってます」


そうか。じゃあ俺だけで話してくるぞ。
ㅤ俺はニコニコと微笑むムキムキの隊員達の中へと入っていった。

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