魔王LIFE

フーミン

46話 愛の在り方

建築開始からどのくらいの時間が経っただろうか。
ㅤ空は紅色に輝き、フワフワと浮かぶ雲の下。手を伸ばせば届きそうだと錯覚してしまう程の大きさだ。


ㅤ作られた建物は3つ。城から離れた場所に、皆の休むための小屋。いずれ大きな宿屋になりそうだ。
ㅤそこから少し離れた場所には、ヴァンパイア達が設計図を描き、ドワーフが細い部品を作る小屋。最後にエルフ達が料理を作るレストランだ。
ㅤここで寝泊まりすれば手間が省ける、といって建てたようだ。


ㅤ城の周りには石の壁。小さな隙間に魔力を詰め込み、衝撃を吸収するようにしてある。
ㅤ他にも様々な道具やテーブル等が作られている。


「1日でこんなに作れるんですねぇ……」


全体に指示を出していたリアンが、改めて感動している。


「この広い大地全体を埋め尽くす程、大きな街を作るよ」
「何ヶ月……何年かかるのでしょうか」
「皆で頑張ればすぐ出来るよ」


俺が作れば一瞬で出来るのだが、やっぱり頑張って作った国こそ理想郷だ。それにセンス無いし。


「お疲れ〜」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」


ミシェルが飲み物を持ってやってきた。
ㅤ3人で木製の椅子に座って、何も無い大地を眺める。


「……ルト」
「ん?」
「少し話したい事がある。来てくれ」
「ん、分かった。ちょっと待っててね」
「分かりました。二人の席は死守します!」


話したい事とは何だろうか。まあ雰囲気からして、重要な話なんだろうけど。

ㅤエルフのレストラン裏側に来ると、ミシェルは真剣な顔でこちらを向いた。
ㅤ何故かドキッとしてしまった。なんだろう、この胸騒ぎは。


「前から知っていると思うけど、僕はずっとルトの事が好きだ」
「うっ……うん」


そのまま言われると照れるな。


「例え、別の男に取られようとも。僕はルトを愛し続ける」
「うん……初恋……だもんね」


ミシェルの初恋の相手は俺。そして俺も、男に恋をするのはミシェルが初めてだ。
ㅤお互いに初恋相手として、理想的な恋人になれそうだな。でも、俺には大きな壁がある。


「ルトは……今好きな人はいるのかな」
「……うん」


それも女だ。


「その人は、僕とどう違うんだい? 僕なら……ルトの理想の相手になれるよう、努力するよ」


違う。ミシェルとリアンの違いが大きすぎる。


「私の好きな人……女、なんだよね」
「っ……」
「も、勿論ミシェルも好きだよ。でも、どっちを選んだら良いか分からなくて……」


最近は、自分が女だという事実を認めてきている。感情的な所、すぐに寂しくなる所、自分の答えがハッキリしない所。
ㅤそれでも、男の部分だって残っている。俺は女を好きになりたいし、女と結婚したい。でも恋愛対象は男。ミシェルが大好きになった。
ㅤそんな時に、リアンを好きになっちゃったら選べない。


「選ぶんじゃない。どっちが好きかで、決めなきゃいけないんだ」
「決めなきゃいけないって……簡単に決めれないから悩んでるんだよ? ミシェルには分からない。
ㅤ……ごめん」
「僕は、分かってあげれる。ルトの事を、理解したい。
ㅤルトはどんな人で、何が嫌で、何が好きで、何をするのが楽しくて、何が辛いのか。
ㅤいままで自分から言ってくれなかったよね」


……確かにそうだ。


「無理にとは言わない。でも……もしこの国が完成するまでに、答えが決まったら……教えてくれるかな。
ㅤルトの悩みは何でも聞くし、必ず助ける。これからもずっと、ルトを愛し続ける。
ㅤだから……いつの間にか僕の傍から離れるような事は……しないでくれ」


俺だけじゃなく、ミシェルも同じくらい悩んでる。サハルに攫われた時のような事になってほしくないのだろう。
ㅤでも、それを言われると余計に俺が悩んでしまう。
ㅤミシェルとリアン。2人とも話してると楽しいし、嬉しい。どっちとも同じくらい好きだ。


「……ミシェルの傍から離れる事は絶対に無いし、嫌いになることもない。でも、今の私に選ぶ事はできない」
「ルトのもう一人の好きな人。誰だか教えてくれるかな……」
「……リアン」
「それは……僕も難しいね……」


ミシェルがリアンになる事はできないし、リアンがミシェルになる事もできない。
ㅤ二人とも別々の良さがある。それをどう選ぶのかなんて、絶対にできない。


「分かった……ルトに選ばれるように頑張るよ」
「……」
「また明日も、一緒に頑張ろう」


そういうと、手を振って去っていった。


「……はぁぁ〜……」


大きな溜め息が出る。
ㅤ恋愛っていうのは難しいな。


ーーーーー


次の日。昨日と同じように皆作業に入った。
ㅤ俺とサハルは資材を生み出す。フェンディアがそれを運ぶ。ヴァンパイア達とミシェルは設計図。ドワーフ達はそれに沿って建築。チヒロは適当に手伝い、リアンは全体指揮だ。


「どうしたんだい? 今日は調子が悪いみたいだね」
「うん……昨日の夜ちょっとね」


資材を生み出す速度が昨日より遅い。集中力が切れている。


「僕なら相談に乗るよ」
「うん……でもこれは私の中の問題だから」
「そうやって溜め込んでるから、段々気分も落ち込んでくるんだよ。吐き出さないと」
「サハルにしては良い事いうね」


意外と俺について考えてくれてたんだな。


「ま、ルトを愛する者の1人として当然さ」
「愛する……」


俺は本当にどうしたら良いのだろうか。
ㅤこの件について放っておいても良いのか。もう恋愛なんていう悩みを捨てて、皆を平等に愛せればそれで良いんじゃ……。


「ねぇサハル」
「なんだい?」
「何股までなら大丈夫?」
「……突然だね」
「答えて」
「僕としては1人だけを愛してほしいけど、ルトの好きな人を制限するなんて事をする権利は僕にはない。
ㅤ好きにするといいよ」


とはいってみたものの。何股もする勇気がある訳では無い。
ㅤしかし、この考えも頭に入れた方が良いだろう。


「ありがとう」
「好きな人が何人もいるのかい?」
「この世界にいる全ての人が大好きだよ」


誰かを好きになって、誰かを嫌いになる。
ㅤ理想を求めるなら、全ての人を愛し続けることなのだろうか。と、俺は思う。

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