魔王LIFE

フーミン

27話 欲求不満

寂しい気分になり、枕を抱きしめながら眠ったその日。夢にミシェルが現れた。
ㅤミシェルと手を繋いで森の中を歩いていて、そこに大きな熊が現れる。そこにサハルが現れ、熊を退治してくれた。
ㅤという夢だ。


「夢は夢だしなぁ……」


現実味のない事を見るのが夢だ。でも夢の中ではそれを不思議に思わずに生きている。
ㅤ夢って不思議だな。


ㅤヨダレがついた枕から離れ、口の周りのヨダレを拭く。外は明るい為、ちゃんと朝までしっかり眠れたようだ。
ㅤ今からすることは、城の地下にいる仲間達に会いに行くこと。


「あいつら元気にしてるかなぁ」


アイツらは俺にとって、家族のようなもんだからな。
ㅤ鏡の前で髪や服を整え、部屋の外でリアンの名前を呼ぶとすぐにやってきた。


「地下に連れていってくれ」
「あ、ついに行くんですね! 皆さんが待っておられます! 早く行きましょう!」


リアンが地下に入れるという魔法陣の元に連れてきてくれた。


「では行きましょう!」


リアンが魔法陣の上に乗ると、光と共に消えた。転移系の魔法陣だろう。
ㅤ何の疑いもなく、足を乗せる。


ヒュンッ 「おぉっ」


エレベーターが急降下するような、ゾクッとする感覚だ。


「あ、懐かしいなぁ……」
「広場に皆いますよ!」
「うわっ」


リアンが俺の手を握り、広場の方へと走り出した。
ㅤかなりテンションが高いようだな。一体どうしたんだ?


ㅤザワザワと話し声がする広場の近くへとやってきて、リアンが足を止めた。


「ちょっと待っててください……」
「う、うん……」


ニヤニヤと変な笑みを浮かべながら、俺を置いて広場に進んでいった。
ㅤ何をする気だ。


ㅤしばらくして、リアンの声が響き渡った。


「皆さん注目! ついにルト様が会いにこられました!!」
「「うおぉぉおおおおおおおお!!!!」」


懐かしい雄叫びだな。


「ルト様は、この短期間でこの国の王女となり! もう1人の魔王、サハル様と婚約! とても美しく、そしてカッコいいルト様になられました!」


な、なんだか皆に会うのが恥ずかしくなってきたな……。


「皆さんは今まで、ルト様と私がいない状況で城を守ってきました! ルト様の美しく鍛え上げられた肉体で、ご褒美を貰いましょう!!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」
「それではルト様!! どうぞ!!」


いや "どうぞ" じゃねぇだろ!? そんな壮大に俺の帰りを伝えられて、更には美しい肉体でご褒美? 何かイヤらしいイメージが脳内に現れたけど違うよね? 普通のハグだよね?
ㅤ俺凄く出づらいんだけど?


「……どうぞ!!」


や、やばい広場がザワついてる。早く出ないと余計に恥ずかしくなる。
ㅤすぐに転移してリアンの横にやってきた。


「「おぉっ!!」」
「待たせたな!!」


い、言ってみたかったセリフ言っちゃったっ! 恥ずかしい!


「「ルト様ァァァァァァァアアアア!!!」」
「皆さん静かに! ルト様からのお話です!!」


え、別に何も無いんだけど……。ただ顔を見せに来ただけなんだけど……。
ㅤしかし、広場は俺の声を聞くために静まり返っている。


「あ……そ、そのぉ〜……なんだ。いままで寂しい思いをさせて悪かった。皆……私の家族と再開出来たことを嬉しく思う」


うっ……上手いこと何も言えない……。
ㅤどうしよう……俺何も出来ないし、好きに広場で暴れ回るなり、喜びを踊りで表現するなり。祭りでも開いてほしい。


「まあ……あれだ。もう……好きにしてくれ!!」
「好きに……」
「美しい肉体……」
「ご褒美……」


ん、なんだ。皆とりあえずハグが欲しいのか。


「あ、そうだな。まずは一人一人にご褒美をやろう」


俺がそう呟くと、魔物組、魔族組。全員が獲物を狩るような目で迫ってきた。それも女を除いた男だけが。


「……え?」
「まずいですルト様! 最近ルト様のご褒美を全く貰っていなかった為、欲求が爆発して皆の頭の中は***を***に***して***する事しか無いようです!」
「なっ!? それ欲求不満って奴か!?」


不味い! このままじゃ俺が襲われちまう! 色んな意味でヤバイぞ!


「と、とりあえず皆落ち着け!!」
「ダメです! 理性を失っています!!」
「くっ……逃げるぞ!」
「あっルト様っ!!」


リアンの呼び止める声を無視して、迫り来る男集団から逃げる為に建物の上へ飛び移った。
ㅤすぐに男達も屋根に飛んできた。


「あいつらそんな身体能力あったのかよっ!!」


すぐに別の建物へ飛び移り、まるで忍者が敵忍者から逃げる映画のワンシーンのようだ。
ㅤってそんな事考えてる場合じゃない。アイツらとんでもない速度で近づいてきやがる。このままだと犯される!
ㅤ俺の処女は誰にも渡さんっ!!


全身に魔力を流し、身体能力を最大まで上げる。
ㅤその後、最も効率の良いルートで距離を引き離す事に成功した。


「ルト様!!」
「リアンッ! サハルを呼べ!」
「呼びました!!」


仕事が早い!


「僕のお嫁さんに手を出そうとしている、と……。つまりそいつらは殺して良いんだね?」
「殺しちゃダメだ! とりあえず理性を取り戻させてくれ!」


サハルが珍しく怒っている。


「分かった」


そう言いながら片手に巨大な炎の玉を作り出していた。


「ねぇそれ分かってないよね!?」
「大丈夫。理性を取り戻させるには半殺しが良いんだ。この世界の常識」
「そんな常識は無いのですが……」
「リアンも言ってるよ!?」


しかし、俺の声を無視して殺気を纏ったサハルは消えた。


「サハル呼ぶのは失敗だったかも……」
「すみません……」


結局、ボコボコでほぼ死に近い状態のテスラ含む他全員の男が、泣きながら広場に帰ってきた。
ㅤ……テスラお前もか……

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