魔王LIFE
26話 弄られてから
脳を弄られてから、サハルの動きが分かるようになった。
ㅤ何か悪戯しようと手を動かした瞬間。何かを食べる時の口の動きや、どちら側で噛むのか。他にも体重を左足側にかける事も。新しい発見がどんどん現れた。
ㅤ普段気にしていない動き、その中に意外なことが隠されたいるもんだな、と俺は思った。
ㅤそして今日もまた、サハルとの勝負だ。
ㅤ俺から望んで挑んだのだが、サハルは清く受け入れてくれた。
「ルト様、頑張ってください!」
リアンもサハルの作った異世界に来て、俺を応援しにきている。
「昨日と同じで、僕から攻撃するからまずは避けてくれ」
「こい!」
サハルの動きに集中する。
ㅤ昨日はこれで激しい頭痛がしたが、今は全くしない。
「っ!」
サハルが俺の右側へ周ったのが見えた。
ㅤすぐに俺の方へ飛んでくる拳を目視し、後方に飛ぶ。するとそのままの勢いで蹴りが飛んできた。狙いは腹。
ㅤ俺は地面に足が着いていない状態、避ける事は不可能。ならばと思い、鍛えられた両手でサハルの足を抱え込むように掴み、俺に触れる前に上へと投げあげた。
「おぉ凄いねぇ!」
しかし、いつの間にかサハルは地上に戻ってきていた。まだ本気を出していないという事だろう。
「何も見えませんでした!」
リアンはこの一瞬に何が起きたのか分かっていない様子だ。
ㅤま、0.5秒程俺の判断が遅れていたら腹が吹き飛んでたところだろう。咄嗟に判断出来たのは脳を弄られたお陰だと思う。
「どうだい、目には慣れた?」
「一応慣れたけど……痛みはないけど頭がボーッとするな」
「痛みは無くても脳は興奮状態だからね。ちゃんと休みながらやった方が身のためだよ」
「いや、まだ行ける」
「ダメだ。しっかり休むんだよ」
サハルが威圧するようにそう言った。
ㅤそれに逆らえずに、リアンの元に戻って座った。
「大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
リアンに膝枕されながら、なるべく脳を休ませるようにしている。
「サハル様、ルト様は大丈夫と言っていますが」
「ダメだよ。自分で痛みは感じなくても、身体はどんどん傷んでいってるんだ。それに気づいて休ませないと、壊れちゃうよ」
ロボットでそんな話があったな。前世の話だけど、痛みを感じないロボットが主人を救うために戦った。まだ戦える、と立ち上がろうとすると、体が動かなくなっていた。ってやつだ。
ㅤそこから先は覚えてないけど、悲しい結末だったような……。そうならない為にも、か。
「サハルは優しいな」
「女性の体は大事に扱わないとね」
まるで物みたいな言い方だな。ま、俺はサハルの所有物である事に代わりはないんだが。
「そういえばサハル。城にいた仲間達はどうしてる?」
「地下空間ごと僕の城の下に転移させたよ」
「え……魔力尽きなかった?」
俺は地下空間を作っただけで魔力が無くなり、気を失ったんだが。
「僕を舐めてもらっちゃ困る」
と、余裕そうな表情で俺の横に座った。
「ルト様」
「ん?」
「1度仲間達に顔を見せた方が宜しいのではないでしょうか。突然別の場所に連れてこられ、混乱していると思います。一応ルト様がいる事は伝えました」
「それもそうだな」
この勝負が終わったら顔合わせに行くか。久しぶりにテスラやキルシュ、他にも関わりのある仲間と会おう。
「そういえば、ヴァンパイアが言っていたのですが。城にミシェルがやってきた、と」
「ミシェルが……?」
「ルト様と私が敵に捕らえられたから、全世界から有力な仲間を集める。手伝ってくれ、と」
全世界から有力な仲間……。
「で、どう答えたんだ?」
「ルト様が捕らえられる筈がないと、人間の言う事は信じられないからと何もしなかったようです」
「へぇ、人間のいう事は信じられない。良い仲間になれそうだ」
サハルがニコニコとしている。
ㅤしかし、ミシェルが全世界から有力な仲間を……か。フェンディアのような転生者だとか、勇者とかだろうか。
「まあサハルに勝てる者はいないだろう」
「よく分かってるね」
「いつか私が勝つけどね」
まだサハルの本気は見ていないが、俺はいつかサハルを超えて最強を目指そうと思う。
ㅤ近々魔眼なんかも作れるか試そうとも思う。
「サハル様、ルト様。世界征服についてはどうなさいますか?」
「全世界の人間をここに集めて、一つの国を作る。僕とルトが王だ」
一つの国を作るっていうのは俺の計画と似ているな。ただ、全世界っていう規模が大きい。
ㅤあ、全世界ってこの異世界の中のって意味だからな? 他の異世界からなんて無理に決まってる。
「となると、何かその為に目標を決めた方が良いのでは?」
「簡単な事さ。まず全ての人間を奴隷にしてこの国に住ませる。ここでの生活になれたら国民として扱う」
奴隷になった場合、主人に逆らえなくなるからな。
ㅤちゃんと国民に戻すあたり、サハルは優しいな。
「さ、もうそろそろ二戦目を始めよう。今度は反撃有り、魔法有りだ」
「分かった」
白い剣を握り、立ち上がる。
ㅤ今から二戦目。5戦目ほどやったら終わりにしよう。
ーーーーー
「お疲れ様」
「お疲れ……様……」
かなり息切れしているのは俺だ。サハルに2回ほど殺された。いや実際には死ぬ寸前なんだろうけど、回復してもらわなければ死んでいただろう。
「ルト様大丈夫……ですか?」
リアンが心配そうな顔をしている。
「大丈夫……無理はしてないから」
「脳は無理してるけどね」
「ちょっと眠いから寝させて……」
頭がボーッとして眠気がやってきた。そのままリアンにもたれかかり、あっという間に眠りについた。
ーーーーー
目を覚ますと、自室のベッドの上。
ㅤどのくらい眠っていたか分からないが、疲れは完全に取れている。
「ふぅーっっっ……っはぁ」
欠伸をして立ち上がると、少しだけ立ちくらみをしたがテーブルに手をついて体を支えた。
ㅤやはり脳がかなり疲れているようだ。平衡感覚まで若干薄くなっている。
ㅤふと、手に何かが触れたような気がして視線を落とすと、俺宛の手紙が置いてあった。
「誰からだ……?」
折られた紙を広げ、書いてある内容に目を通す。
□■□■□
ルト様へ
ㅤ私達は、今ルト様がいる城の下に転移しています。
ㅤ最初こそ混乱していましたが、リアン殿にルト様は無事だと伝えられた時からは、いつも通りの生活をしております。
ㅤ早くお会いしたいです。配下一同、ルト様に会えることを願っております。
ㅤㅤㅤテスラ・その他一同
■□■□■
皆俺を心配してるんだな。
ㅤ今から顔合わせに行こうかと思ったが、窓の外が暗かったため寝ている時間だろう。明日会いに行こう。
ㅤミシェルも俺のことを心配しているのだろうか……ミシェルには悪いが、俺はここでの生活で十分だ。
ㅤサハルとリアンがほとんどの事をしてくれている。
「ミシェルはまだ……俺のことを好きなのかな……」
凄く申し訳ない気分だ。貰った首飾りの行方も知らず、別の相手に浮気。
ㅤ昔はミシェルに会っただけでドキドキしていたな……あの顔……っ?
「あれ?」
何故か涙が頬を伝った。とてつもなく大きな喪失感が俺を包み込んだ。
ㅤ俺……やっぱりミシェルも好きだ……。
ㅤサハルも好きだしミシェルも好きだ。でもサハルに対する『好き』の気持ちが大きすぎて、ミシェルの事を忘れていただけだった。
ㅤ俺は……別にミシェルを好きじゃなくなった訳じゃないんだな。
ㅤなんとなく、複雑な気持ちになった。脳を弄られて、サハルを好きになった。でも、今でもミシェルの事が好きだ。その気持ちは変わらない。
「……恋の悩み……か」
乙女心が分かった気がする。
ㅤ何か悪戯しようと手を動かした瞬間。何かを食べる時の口の動きや、どちら側で噛むのか。他にも体重を左足側にかける事も。新しい発見がどんどん現れた。
ㅤ普段気にしていない動き、その中に意外なことが隠されたいるもんだな、と俺は思った。
ㅤそして今日もまた、サハルとの勝負だ。
ㅤ俺から望んで挑んだのだが、サハルは清く受け入れてくれた。
「ルト様、頑張ってください!」
リアンもサハルの作った異世界に来て、俺を応援しにきている。
「昨日と同じで、僕から攻撃するからまずは避けてくれ」
「こい!」
サハルの動きに集中する。
ㅤ昨日はこれで激しい頭痛がしたが、今は全くしない。
「っ!」
サハルが俺の右側へ周ったのが見えた。
ㅤすぐに俺の方へ飛んでくる拳を目視し、後方に飛ぶ。するとそのままの勢いで蹴りが飛んできた。狙いは腹。
ㅤ俺は地面に足が着いていない状態、避ける事は不可能。ならばと思い、鍛えられた両手でサハルの足を抱え込むように掴み、俺に触れる前に上へと投げあげた。
「おぉ凄いねぇ!」
しかし、いつの間にかサハルは地上に戻ってきていた。まだ本気を出していないという事だろう。
「何も見えませんでした!」
リアンはこの一瞬に何が起きたのか分かっていない様子だ。
ㅤま、0.5秒程俺の判断が遅れていたら腹が吹き飛んでたところだろう。咄嗟に判断出来たのは脳を弄られたお陰だと思う。
「どうだい、目には慣れた?」
「一応慣れたけど……痛みはないけど頭がボーッとするな」
「痛みは無くても脳は興奮状態だからね。ちゃんと休みながらやった方が身のためだよ」
「いや、まだ行ける」
「ダメだ。しっかり休むんだよ」
サハルが威圧するようにそう言った。
ㅤそれに逆らえずに、リアンの元に戻って座った。
「大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
リアンに膝枕されながら、なるべく脳を休ませるようにしている。
「サハル様、ルト様は大丈夫と言っていますが」
「ダメだよ。自分で痛みは感じなくても、身体はどんどん傷んでいってるんだ。それに気づいて休ませないと、壊れちゃうよ」
ロボットでそんな話があったな。前世の話だけど、痛みを感じないロボットが主人を救うために戦った。まだ戦える、と立ち上がろうとすると、体が動かなくなっていた。ってやつだ。
ㅤそこから先は覚えてないけど、悲しい結末だったような……。そうならない為にも、か。
「サハルは優しいな」
「女性の体は大事に扱わないとね」
まるで物みたいな言い方だな。ま、俺はサハルの所有物である事に代わりはないんだが。
「そういえばサハル。城にいた仲間達はどうしてる?」
「地下空間ごと僕の城の下に転移させたよ」
「え……魔力尽きなかった?」
俺は地下空間を作っただけで魔力が無くなり、気を失ったんだが。
「僕を舐めてもらっちゃ困る」
と、余裕そうな表情で俺の横に座った。
「ルト様」
「ん?」
「1度仲間達に顔を見せた方が宜しいのではないでしょうか。突然別の場所に連れてこられ、混乱していると思います。一応ルト様がいる事は伝えました」
「それもそうだな」
この勝負が終わったら顔合わせに行くか。久しぶりにテスラやキルシュ、他にも関わりのある仲間と会おう。
「そういえば、ヴァンパイアが言っていたのですが。城にミシェルがやってきた、と」
「ミシェルが……?」
「ルト様と私が敵に捕らえられたから、全世界から有力な仲間を集める。手伝ってくれ、と」
全世界から有力な仲間……。
「で、どう答えたんだ?」
「ルト様が捕らえられる筈がないと、人間の言う事は信じられないからと何もしなかったようです」
「へぇ、人間のいう事は信じられない。良い仲間になれそうだ」
サハルがニコニコとしている。
ㅤしかし、ミシェルが全世界から有力な仲間を……か。フェンディアのような転生者だとか、勇者とかだろうか。
「まあサハルに勝てる者はいないだろう」
「よく分かってるね」
「いつか私が勝つけどね」
まだサハルの本気は見ていないが、俺はいつかサハルを超えて最強を目指そうと思う。
ㅤ近々魔眼なんかも作れるか試そうとも思う。
「サハル様、ルト様。世界征服についてはどうなさいますか?」
「全世界の人間をここに集めて、一つの国を作る。僕とルトが王だ」
一つの国を作るっていうのは俺の計画と似ているな。ただ、全世界っていう規模が大きい。
ㅤあ、全世界ってこの異世界の中のって意味だからな? 他の異世界からなんて無理に決まってる。
「となると、何かその為に目標を決めた方が良いのでは?」
「簡単な事さ。まず全ての人間を奴隷にしてこの国に住ませる。ここでの生活になれたら国民として扱う」
奴隷になった場合、主人に逆らえなくなるからな。
ㅤちゃんと国民に戻すあたり、サハルは優しいな。
「さ、もうそろそろ二戦目を始めよう。今度は反撃有り、魔法有りだ」
「分かった」
白い剣を握り、立ち上がる。
ㅤ今から二戦目。5戦目ほどやったら終わりにしよう。
ーーーーー
「お疲れ様」
「お疲れ……様……」
かなり息切れしているのは俺だ。サハルに2回ほど殺された。いや実際には死ぬ寸前なんだろうけど、回復してもらわなければ死んでいただろう。
「ルト様大丈夫……ですか?」
リアンが心配そうな顔をしている。
「大丈夫……無理はしてないから」
「脳は無理してるけどね」
「ちょっと眠いから寝させて……」
頭がボーッとして眠気がやってきた。そのままリアンにもたれかかり、あっという間に眠りについた。
ーーーーー
目を覚ますと、自室のベッドの上。
ㅤどのくらい眠っていたか分からないが、疲れは完全に取れている。
「ふぅーっっっ……っはぁ」
欠伸をして立ち上がると、少しだけ立ちくらみをしたがテーブルに手をついて体を支えた。
ㅤやはり脳がかなり疲れているようだ。平衡感覚まで若干薄くなっている。
ㅤふと、手に何かが触れたような気がして視線を落とすと、俺宛の手紙が置いてあった。
「誰からだ……?」
折られた紙を広げ、書いてある内容に目を通す。
□■□■□
ルト様へ
ㅤ私達は、今ルト様がいる城の下に転移しています。
ㅤ最初こそ混乱していましたが、リアン殿にルト様は無事だと伝えられた時からは、いつも通りの生活をしております。
ㅤ早くお会いしたいです。配下一同、ルト様に会えることを願っております。
ㅤㅤㅤテスラ・その他一同
■□■□■
皆俺を心配してるんだな。
ㅤ今から顔合わせに行こうかと思ったが、窓の外が暗かったため寝ている時間だろう。明日会いに行こう。
ㅤミシェルも俺のことを心配しているのだろうか……ミシェルには悪いが、俺はここでの生活で十分だ。
ㅤサハルとリアンがほとんどの事をしてくれている。
「ミシェルはまだ……俺のことを好きなのかな……」
凄く申し訳ない気分だ。貰った首飾りの行方も知らず、別の相手に浮気。
ㅤ昔はミシェルに会っただけでドキドキしていたな……あの顔……っ?
「あれ?」
何故か涙が頬を伝った。とてつもなく大きな喪失感が俺を包み込んだ。
ㅤ俺……やっぱりミシェルも好きだ……。
ㅤサハルも好きだしミシェルも好きだ。でもサハルに対する『好き』の気持ちが大きすぎて、ミシェルの事を忘れていただけだった。
ㅤ俺は……別にミシェルを好きじゃなくなった訳じゃないんだな。
ㅤなんとなく、複雑な気持ちになった。脳を弄られて、サハルを好きになった。でも、今でもミシェルの事が好きだ。その気持ちは変わらない。
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