魔王LIFE

フーミン

25話 第2の目標

 サハルとの心の距離が縮まった事で、サハルによる『理由のない悪戯』が始まった。
ㅤ執事さんが持ってきた紅茶を飲もうとすると、サハルが魔法でコップを動かし、落としそうになったり等。
ㅤ俺が注意すると、「何もしてない」と笑いながら言うため、仕方なく耐えているところだ。


「さてと、沢山遊んだし、今からルトに付き合ってもらおうか」


ついにきた。俺とサハルの勝負だ。


「剣を持って立ってくれ」


サハルにプレゼントされた白い剣。それを片手に持ち、立ち上がる。
ㅤすると、周りの景色がパッと切り替わり、真っ白な空間にやってきた。


「ここは?」
「今までいた世界とは違う、僕が作り出した異世界。と言ったら分かりやすいかな?」


サ、サハルが異世界を作った? それ普通神様しかできなさそうな魔法だろう。


「な、なんでサハルができるの……?」
「技能のボーナスだよ。この世界に来る時にランダムでボーナスの技能を貰ったんだ」
「ボーナス技能……」


というと、フェンディアみたいにポイントが貯まりすぎてたからか。


「どういう技能?」
「確か《全能》って名前だったかな。それでルトの剣も服も作ったんだ」


全能……それって神様と対して変わらないんじゃ……。


「ってことは……私は全能のサハルに勝てない……ってこと?」
「そういうこと。僕と戦いを始めた時点で相手は負けが確定してる」
「こ、殺さないでね……?」


サハルってやっぱりとんでもない奴だった……。
ㅤそんなサハルに俺とミシェル2人で戦おうとしてたとは……捕まってよかった。


「折角の同じ日本人で同じ魔王なんだから。ルトは殺さないし、ルトの仲間を殺す事もしない」
「ほっ……」
「ただ、僕のお嫁さんに相応しい強さを身につけて貰うために、地獄の訓練を味わってもらうよ」
「大丈夫。訓練は慣れてるから」


勇者のミシェルに鍛えてもらってるからな、サハルが手加減してくれればある程度は耐えられる。


「よし、今から僕が攻撃するから全部避けて」
「え……?」


気づいた時には、俺は宙を舞っていた。
ㅤなんとか剣は持っていたが、意識が飛びそうな衝撃に何が起きたのか理解していない。


「えふっっ!!……」


地面に背中から落ち、体内の酸素が一気に吐き出された。
ㅤすぐにヒューヒューと息を吸うが、肺が機能していないのかと思うほど息が吸えない。


「あ、ごめん。少し速すぎた」
「っ……ふぅ……」


サハルが治癒してくれたのだろう。なんとか冷静を取り戻し、立ち上がる。


「えっと……何が起きたの?」
「ルトなら見えるかなと思ってね。お腹をパンチしたんだけど貫通しちゃった」
「かっ……!?」


貫通!? どおりで息が吸えないと、じゃなくて!


「殺す気!?」


貫通する程のパンチを俺に対して使うという事は、確実に殺る気で来てるんだよねぇ? 


「違う違う。ルトなら見えると思ったんだよ」
「いやいや……あんな一瞬の状況で何を見ろと……」
「ん〜仕方ないなぁ。ちょっと脳を弄らせてもらうよ」
「えっ何するの!? 怖い!」


脳を弄る、と言いながら俺の方へ近づいてきた。


「僕のお嫁さんに相応しい能力を手に入れてもらうために、僕の動きを見えるように弄るんだよ」
「え……それって……痛いことするの?」
「最初の1週間は激しい頭痛に襲われて、死にたくなるほど辛いよ」
「嫌だぁぁあああ!! いますぐここからだしてぇぇ!!!」


サハルから逃げる為に、後ろへ走る。
ㅤしかし、サハルと距離が離れない。サハルが作った世界は全ての法則をイジれるらしい。
ㅤ結局サハルに頭を掴まれた。


「頭痛しないように……して……」
「無理かな」
「あああぁぁぁぁぁぁあぁああ!!!????」


脳が弾けたような痛みに悲鳴をあげた。
ㅤ人生でこんな酷いことを経験するなんて……。


「はい。終わり」
「……あ……終わり?」


今のところ普通だ。特に変わった様子はない。


「今からルトの目の前をさっきの速さで走るから、僕から目を離さないで」
「わ、分かった……」


サハルを見つめる。すると、一つ一つの動作や口の動き、瞬きなど。様々な情報がスルスルと脳内に入ってきた。


ズキンッ 「っ!」


頭痛だ。


「あ、もう頭痛来たのか」
「い……痛い……」
「じゃあ今日は休もうか。今から数時間はその頭痛が続くから、耐えて」


ドクンドクンと脈打つ音が聞こえる。頭が割れそうなほどの痛みに、視界が暗くなる。


「痛い…………」
「一緒に寝ようか」


いつの間にか、サハルと同じベッドに横になっていた。
ㅤでも今はそんな事はどうでも良い程、頭痛が酷い。汗がダラダラと出て、めまいと吐き気。本当に辛い。
ㅤサハルが俺の頭を撫でるが、今は抵抗する気分じゃない。
ㅤサハルのもう片方の手を強く握り、ひたすら頭痛に耐えた。


ーーーーー


頭痛が始まって何時間経ったか分からない。やっと頭痛が収まり眠りにつけた。


ㅤ次に目を覚ました時も、頭痛は無くなっていた。


「体調はどうだい」
「最悪……」
「訓練の時以外は物を集中して見たらダメだよ」
「分かった……ってっっ……!」


サハルの手を握り続けたままだった。


「僕は一日中集中していたから、激しい頭痛にも慣れたよ。いつか頭痛がしなくなる日が来る」
「あの頭……もう嫌だ……」
「じゃあ痛みを感じないようにする?」


ん? そんな事ができるのか?


「でも、死んだ時に気づけなくなるけどね」
「……まあいいよ。痛みを無くして……」
「痛みが無い。ということはーー」
「難しい話聞くと頭痛がしそうだから、お願い」


もうあの激しい頭痛は嫌だ。俺の心の底からの願いをサハルに伝えた。


「……じゃあ条件がある」
「何?」
「苦痛も無く強くなれる代わりに、街の人達を助ける、いつか逃げれるなんて考えないなら。良いよ」
「っ……」


奴隷を……リアンを……助け出せない。ミシェルにも会えないのか……?


ズキンッ「あぁっ……! お願い! 痛みを無くして!」


そんな事考えてられない。狂いそうな程……いや、もう狂うことすらできないほどの痛みが襲ってくる。
ㅤ今は痛みを消すことしか考えれない。


「分かった」


サハルが俺の頭に触れる。
ㅤ段々痛みが引いていき、普段通りに戻った。


「はぁ……良かった……」
「僕も良かったよ。これで君は完全に僕側さ。僕以外と結婚することも、何も出来ない。
ㅤ僕だけを見ることを誓ったんだからね」
「……そうなの……?」
「ミシェルを好きになることも、許されない。僕だけを好きになるように……脳を弄ったよ」


脳を弄った。その言葉に様々な思考が脳を巡った。
ㅤ俺はまだミシェルが好きなはず。でも今はそうじゃない。サハルに……好意を持っている。
ㅤ痛みを無くしてくれたから……? 違う、脳を弄られたから……俺はサハルに全てを捧げたのか……?
ㅤ俺はサハルの物……?


ㅤその一瞬で、俺はサハルの言葉の意味を理解した。
ㅤ以前までなら、混乱して何も出来なかったのに。何故か今は理解した。なぜなら脳を弄られたからだ。


「でもお願い……リアンの記憶だけは……」
「うん。君が完全に僕のものになった今、リアンの記憶は戻してあげるよ。リアンも主が魔王と結婚するのは喜ぶだろうね」


サハルの顔、声、全てが愛しく感じる。
ㅤ俺はホモじゃないけど、あの痛みを感じない代償と考えれば楽なことだ。
ㅤそしてついにリアンの記憶が戻る。リアンは今の俺をどう思うだろうか。
ㅤ魔王同士が結婚し、俺とサハルは幸せになっている。元々の俺の計画を潰したサハルが。リアンを奴隷にしたサハルと。俺が結婚する。


「喜んでくれたら嬉しいな」


サハルの手を握り、未来が楽しくなった。


ーーーーー


脳を弄られてから、俺から見た世界が180°変わった。
ㅤ様々な視覚情報がスルスルと脳内に入り、細かい動きも分かるようになった。脳の情報処理能力が高くなったのだろう。


ㅤそして今日、ついにリアンの記憶が戻る。


「リアン。そこに座って」
「な、なんでしょうかサハル様」


リアンは自分が何かやらかしたか、と心配している。


「じっとして」
「はい……」


サハルがリアンの頭に触れる。


「っ……!」


すぐにリアンが反応を示した。
ㅤ瞳孔が開いて、口をパクパクと。何か理解したかのように。
ㅤその状態がしばらく続いた後、俺に飛びついてきた。


「ルト様! 私……今までルト様のことを忘れていましたっっ!! 申し訳ありません!!」


以前のような、俺に甘えてくるリアンが帰ってきた。


「どうしてサハルなんかに……」


サハルを見て怒りを表している。


「リアン」
「はいなんでしょう!」
「サハルと仲良くしよう」
「えっ……ど、どうして……ですか? だって! ルト様が頑張って考えた計画を……夢を壊した……。街の人を連れ去って、私も連れ去って奴隷にした。
ㅤそんな奴に仲良くなんて!」


気持ちは分からなくもない。


「でも、分かったんだ。サハルは、ただ魔王らしくしたいだけ。私のように人間と仲良くする、なんてのは魔王じゃないんだって。私の計画が間違ってたんだよ」
「ルト様……何かおかしな事されましたか?」
「大丈夫。だってこうしないとリアンの記憶が戻らなかったんだ。リアンの為だよ」
「そんな……私のためなんて…………分かりました」


リアンが決心したかのように、背筋を伸ばした。


「サハル様、今後ともよろしくお願いします。
ㅤしかし、一つだけお願いがあります」


一つだけ。なんだろうか。


「以前、私とルト様が住んでいた城には、私達の仲間がいます。仲間をこの国の住民にしても良いでしょうか」


仲間……そうだ。俺には大事な仲間が城に待っていたんだ。そいつらをここに連れてくれば、王女となった俺を見て喜ぶだろう。


「分かった。じゃあルトとリアンは好きなことを話しているといい」


サハルが俺に手を振った後、転移してどこかへ消えてしまった。

ㅤリアンが向かい側のソファに座る。


「私の記憶を戻してくれてありがとうございます」
「お礼なんていらないよ」
「ついにルト様も国を持つのですね……」


リアンは嬉しいのか、俺が変わってしまい悲しいのか分からない複雑な表情で笑った。


「リアン。私の目的は国を作ることだったよね?」
「は、はい……」
「計画通り、とはならないけど。目的は達成できつつあるんだ。俺は王女としてサハルと結婚する。リアンの記憶も戻って、何も悪い事はないよ?」


これ以上の国の作り方はないだろう。
ㅤ魔物や魔族が住民になることで、更にこの国の生活も豊かになり、奴隷達も奴隷から国民に変わる。


「ですが……納得いかないんです……。何が、とは分かりませんが、いままでしてきた事。全てを否定するような物です……それは……」
「確かにそうかもしれない。でも、それは私達の考えが間違っていたって事なんだよ。
ㅤ自分とは違う考えを、時には認めることも大事だよ。リアン」
「そう……かもしれません。……そうですよね。私は過去に囚われすぎていました。
ㅤ折角ルト様が私を助けてくださって、目的まで達成したのに……私って何を」


あまり自分を攻めるのも良くないけどな。
ㅤリアンの気持ちも分かる。でも、今は今いるこの国の発展が重要なんだ。この国から奴隷達を救い出すんじゃない、奴隷達をこの国で国民として、成長させるんだ。


「私達のスタートはここからだよ。いままではリアンが私を支えてくれた。今度はサハルが増えて忙しくなると思うけど、執事さんもいる。皆が助け合って頑張っていこう」
「分かりましたルト様」
「ありがとう。はい、ご褒美」
「っ……」


以前の時のように、ご褒美というなのハグをした。


「っ……ルト様っ……ありがとうこざいます……」
「泣かない。今は暗い世の中だけど、私達で明るい世の中を作っていこう」
「はいっ……!」


当初の目的とはズレているかもしれない。でも俺は、これで良いと思っている。
ㅤ異世界に転生して、女魔王として普通に生活する。普通じゃないかもしれないけどな。
ㅤまだまだ忙しい事が沢山あると思う。王女としての仕事、国民と仲良くなる目標。他国との同盟関係。


ㅤ俺の生活は、ここから作られていくのかもしれない。

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