魔王LIFE

フーミン

18話 ドッキリ?

「はぁぁぁぁ…………」
「随分と長い溜息だな。何かあったか?」


何かあったかじゃない。フェンディア、お前のせいで俺はずっとソワソワしたまま眠れなかったんだぞ。
ㅤしかし歳上にそんな事言えるはずもなく。


「ただの寝不足です……」


としか言えなかった。


「最近のルトはあまり眠れてないようだからな。今日中に街につくし、すぐに休ませよう」
「ありがとうミシェル」


やっぱりミシェルは優しいな。これが頼れる男ってヤツだ。フェンディアさんとは大違いだな。


「皆、荷物は持ったかい?」
「おうバッチリだ」
「……大丈夫」
「よし、じゃあ行こうか」


ミシェルがコンパスを確認し、街がある方角へ進み始める。
ㅤ俺とフェンディアさんも後に続いて歩き始めた。


「魔物でねぇかなぁ……」


フェンディアさんが珍しく弱気だ。


「大丈夫ですよ。魔物は皆逃げていくので」
「逃げる? なんで?」
「理由は分かりませんが、多分勇者がいるからでしょうね」


俺が魔王だからなんだけどな。


「へぇ〜じゃああのイケメンと一緒にいれば安全ってことか」
「そうだね」


フェンディアさんは歩くスピードを少し上げた。
ㅤ俺はまだ眠いため、自分のペースでミシェル達を見失わないように進んでいく。


「ふわぁっっ……眠い……」


欠伸が出た。今日こそはしっかり寝たいな。
ㅤ目を擦りながら進んでいると、突然前を歩いていた二人の姿が見えなくなった。


「あれ? ミシェル〜? フェンディア〜?」


二人の名前を呼んでも返事は帰ってこない。
ㅤ周りを見渡しても、何も見えない。


ㅤまさか……俺が離れすぎたから二人が魔物に襲われたとか……?
ㅤ最悪の事態を考え、辺りを魔力で囲み、気配を探す。


「どこ……どこに…………」


しかし、いくら探しても二人の気配は見つからない。
ㅤ一気に眠気が無くなり、胸が痛くなった。


「っ……どこっ……二人とも私のせいで……」
「ははははははは!」


すると、フェンディアの笑い声が聞こえた。


「っ!? ど、どこっ!?」
「ここだよ〜、驚かせてごめんよ」
「フェンディアがルトの眠気を覚めさせるためにって考えたんだ。すまない」


二人が笑って目の前に帰ってきた。


「ふ、二人とも……」
「あぁ! ごめんって、泣かないで」
「すまない……僕は悪気は無かったんだ」
「お、俺も無かったよ!」
「しかしルトの探知魔法、範囲凄く広かったな」


二人とも、俺が凄く心配したのに笑ってる……。
ㅤ安心と怒りと。複雑な感情が合わさり悔しくなった。


「二人とも、次こんな事したら口聞かないから」
「ご、ごめん! 僕はもうしないよ」
「俺も悪かったよ……」


二人とも反省したようだ。
ㅤ全く、俺もこんな事で泣くなんて……弱くなったな。


ーーーーー


俺の気分も落ち着いてきた頃、やっと街についた。


「ふぅ……大変だったなぁ」
「そだな」
「二人のせいでしょ」


二人が必死に俺の機嫌を取り戻そうと、変な話ばっかりしてくるもんだから、つい自分が馬鹿らしくなった。


「この街は人が居るみたいだな」
「良かった、というべきか」
「いつ魔王が来るか分からないってなると、それも恐ろしいよね」


人が残ってるという事は、魔王がこの街に来る可能性もあるということ。この街ではゆっくりできなさそうだ。


「あれハンターじゃねぇか?」
「ん? いや、ありゃ勇者様じゃねぇか!」
「「勇者様〜!!」」


ミシェルも随分と人気者だな。勇者だから当たり前か。


「ははは、人が集まってきちゃった」
「ミシェル、どう対応するの?」
「……とりあえず適当に話しながら宿に行こう」


街の人達に囲まれながら歩く様子は、俺も有名人になった気分だ。
ㅤ何故か体に触れる人が多い、それも俺の方に手を伸ばすのが見える。
ㅤ《モテモテ》 のせいだろう。


「うわっちょっ、お、押さないでくれ!」


ミシェルが押されて慌て…ムニュッ…て……


「「おぉぉぉぉおお!!」」
「ミシェル……」
「あぁごめん!!」


また胸を掴まれた。《ラッキースケベ》の発動だ。


「ルトちゃん! 俺に任せろ!」
「えっ?」


フェンディアさんに担がれて、周りの空間が歪んだように見えた。気がつくと木製の建物の中。
ㅤどうやら 《神速》 で一気に宿に来たようだ。


「えっと、あそこに勇者の分も合わせて三部屋!」
「三人でしたら広い部屋が空いてますので、一部屋で済みますよ」
「じゃあその部屋!」
「では5000マニーです」


銅貨50枚だな。覚えてるぞ。
ㅤフェンディアが銅貨50枚を渡し、すぐに部屋へと駆け込んだ。


「ふぃ〜」


かなり広い部屋だ。


「ミシェル大丈夫かな」


窓の外を見ると、ミシェルがまだ人々に囲まれている。大変そうだな。


「しっかし、ルトちゃんセクハラされてるんだから叫びなよ」
「え? あれセクハラなんですか?」


肩や腰、頭や足を触られたのは分かってるがセクハラなのか。


「人生経験が浅いから仕方ないね。次から男性に体触られたら叫ぶか助けを求めるかしなよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ガチャッ「はぁっ……はぁっ……助かったっ!」
「あ、おかえり」


ミシェルが汗だくで部屋に入ってきた。
ㅤ随分と疲れてるようだ。


「何かあったの?」
「なにかあったのって……人に囲まれて暑いし酸素薄いし……男の人にはパンチされるし、女の人にはキスされるしで……」


そりゃ散々な目に会いましたな。キスは分かるが、男からパンチってどういう事だ。まさか美少女が二人いるから憎しみでも込めたんだろうか。


「とりあえず、3人とも休もうぜ。特にルト、疲れてるだろ?」
「うん、じゃあ遠慮無く寝させていただきます」


3つあるベッドの内1つに横になり、目を閉じる。
ㅤまだミシェルとフェンディアが何か話しているが、疲れが溜まってるのか一気に夢の世界へと入っていった。

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