魔王LIFE

フーミン

15話 街の生存者

「……おはよ〜……」
「おはよう。まだ寝てても大丈夫だよ」
「いや、迷惑かけてられないし……」


まだ明るい、街につくまで時間がかかるのだろう。
ㅤ目を覚ました俺は、ミシェルの背中から降りて荷物を受け取り、自分の足で歩くことにした。


「ふわぁ〜っっ……あとどのくらい?」
「日が落ちる前には到着するかも」
「そっか……」


寝起きでまだ意識がハッキリしない。
ㅤポカポカとした太陽の暖かさに、心までポカポカ。


「最近疲れてる?」
「うん……訓練の疲れが一気に来たんだと思う……」
「じゃあ街についたら数日ゆっくりしよう」


リアンや国の人々には申し訳ない。俺だって普通に生活したいんだ。ゆっくりさせてくれ。


「そういえば、魔物と会ったりした?」
「うん。でも僕に威嚇はしてくるけど、攻撃はしてこないね」


やっぱ俺が魔王だからか……これじゃあレベル上げすらできないな。
ㅤサハルはドラゴンを倒したって言ってたな。


「ねぇ、ドラゴンってどこにいるの?」
「ドラゴン? ……かなり遠くの雪山に、ドラゴンの巣があって……他の山にも。基本的に高い山にいるよ」
「じゃあドラゴン倒そうよ」


その方がレベルもかなり上がると思うしな。


「う〜ん……ドラゴンも山の守り神だしね。群れからはぐれたドラゴンは討伐してもいいけど、群れを滅ぼすと災害が起きるんだ」
「災害?」
「ドラゴンが放出する炎には、魔素が含まれていてね。その魔素が山の噴火を止めているって言われてるんだ。
ㅤ山に住むドラゴンがいなくなると、魔素が薄くなって噴火するって、本に書いてあったよ」


へぇ〜、体内で魔素から魔力を作るのは当たり前だけど、魔力から魔素を作り出すなんて初めて聞いたな。
ㅤん? 確かサハル、ドラゴンを50体倒したって言ってなかったか?


「ドラゴンって大体どのくらいの数で群れを作るの?」
「30〜50くらいだよ」


え……じゃあどこかの山が噴火するんじゃないか?
ㅤあの馬鹿……勝手に災害起こしやがって。


「はぁ……」
「どうしたの?」
「なんでもない」


その山や近くに拠点構えてたりしないよな。もし噴火してリアンが巻き込まれたら……早く居場所を突き止めなくては。


ーーーーー


「おっ、見えた見えた」


日が沈みかけて、空が紅く染まっている。
ㅤそんな時、ついに街へとやってきた。
ㅤ石と木て出来た建物が並んでいる。


「人は……もしかして魔王に連れ去られた後?」
「かもしれない……」


街には誰もいなかった。


「とりあえず、どこか宿にでも入って休もう」
「勝手に使って大丈夫かな?」


人がいないんだし、仕方ないのは仕方ないんだが……。


「ここ宿っぽい」


ミシェルがウエスタン風の扉を開いて中に入る。


「このぉぉっっ!!」
「っ!」


突然、横から何者かがミシェルを襲った。
ㅤすぐに避けたミシェルは、何者かの手を掴み拘束した。


「くっくそぉっ……」
「? 君は?」


ミシェルに拘束されていたのは、金髪の女性だった。
ㅤ緑のエプロンを着ている。店員さんだろうか。


「このっ……魔王の使いめっ!! ……離せっっ!」


その女性は必死に拘束から逃れようとジタバタしていた。


「君、僕等は魔王の使いじゃないよ。魔王に捕らえられた人々を助ける為に冒険してる一般人だ」
「そんな嘘っ! 俺には通じぬっ!!」
「はぁ……ほら、グラニュート家の紋章見える? 僕は人間で、貴族であり、勇者のミシェル。ミシェル・グラニュート」


ミシェルが丁寧に自己紹介をしている。
ㅤこの女性、ミシェルが話している時は動きを止めてしっかり聞いてるけど、話してない時だけもがく。


「で、こっちはルト。突然現れた城の主さん」
「え? 貴族と……城の主?」
「そ。魔王を探した街に来たんだけど、誰も人がいなくてね。君にあえて良かった、話を聞かせてくれるか?」


君にあえて良かった。その言葉を俺に行って欲しい……、なんて嫉妬してしまった。


「ふんっ、俺はイケメンにゃ興味ないね。その城の主のルト? に話をしたい」
「まあそれでいいさ」


女性なのに一人称が『俺』。イケメンに興味が無い。
ㅤ俺の理想じゃないか。


「ルトさん、私はフェンディア。異世界転生者であり唯一魔王から逃げ切ったおとっ……女だ!」
「「異世界転生者!?」」


俺はその言葉を聞き、つい叫んでしまった。
ㅤミシェルも俺とは別の意味で驚いているだろう。


「えっ……ってことは、元々どこの人?」
「俺か? ニホンってとこだな。この世界より充実してるぜ」
「異世界から来たって事は、もしかしてあれかい? 何か能力を持ってるのかい?」
「あ? イケメンには教えねぇよ」
「フェンディアさん、ちょっと来てください!」
「お? おう!」


ミシェルに話を聞かれないように、建物から出て本題に入る。


「誰にも言わないでくださいね……私も転生者なんです」
「てんせ……お前も!?」
「はい。日本で交通事故にあってここに来ました」
「おぉっ!! で、前世は? 男? 女? でもイケメンと一緒にいるんだし女か?」


い、言いにくい……男なのに男を好きになってしまったなんて。フェンディアは女が好きって……俺が特殊なのか?


「お……」
「お?」
「女です……」
「おっほぉっ!」


嘘をついてしまった。


「そかそか! 俺は男だ、今は女だがな。がっはっはっ!」
「ははは……」


肩を掴んで豪快に笑う金髪の美女。男にしか見えない。


「ルト〜? フェンディアさん〜?」
「あ、いまいく〜」


建物の中に戻ると、ミシェルが俺とフェンディアの距離感にビックリしていた。


「この短時間に何が……?」
「何でもないよ」
「あぁ、何も無かった」
「そ、そう」


少し嫉妬しているようだ。


「あ、ミシェル?とルトはどういう関係なんだ? 夫婦?」
「ふうっ……!?」
「ぶっ!! ふ、夫婦って、まだ付き合ってもいませんよ」


ミシェルが冷静に対応した。


「でも同じ首飾り付けてるしさ、お似合いだぜ」
「ははは……」
「そうかな…」
「ちょっとキスしてみろよ!」
「「キッ!?」」


フェンディアの空気に飲まれつつある2人であった。

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