魔王LIFE

フーミン

10話 作戦開始

「皆さん、ここからは魔の森です。生きて帰れるよう気を引き締めて参りましょう!」
「「おぉぉおおお!!」」


私は勇者だ。魔の森の魔物なんかに負けてたまるか。
ㅤルトさんと約束した。必ず生きて帰ってくると。


ㅤ魔の森を、121人の武装した偵察部隊で進んでいく。いつ魔物が現れても対応できるよう、常に武器は構えたままだ。


「ミシェル坊ちゃん、魔物の気配がしません」
「坊ちゃんと呼ぶのはやめてくれ。魔物の気配がしないとは本当か?」


探知系の魔法が使える者が言った。


「はい。この近くには魔物はいません」
「あの城に集まっている可能性があるな……やはり魔王か。引き続き警戒を頼む」
「分かりました」


魔の森の魔物はかなり強い。熟練のハンターでも気を抜けば即死、そんな魔の森の魔物がいなくなった。
ㅤ全てあの城が原因だろう。
ㅤ私は今すぐ逃げ出したい気持ちがある。しかし国王様の命令となれば逃げ出す事は大罪。


「ルト……」


ルトとお揃いの首飾りを握り、静かな森の中を進んでいく。


ーーーーー


「ミシェル様、城まで200mを切りました」
「あぁ……デカイな」


たった1晩で作られたとは思えない程大きな城。その城は暗い色をしていて、魔の森の雰囲気と似ている。


「魔物の気配はどうだ」
「……おかしいですね。城にも魔物の気配は感じません」
「他に何かいるか?」
「えっと……300人以上の人間の気配がします……」


300人!? あの城の中に300人も人が住んでいるのか。
ㅤ人間がこの城を作ったとは思えない……何なんだ。


ーーーーー


ついに城の正面にやってきた。
ㅤかなり大きな門、とても静かだ。


「よし、それぞれ部隊は配置につけ」
「「はっ!」」


城の入り口付近に待機し、外から魔物が来ないか監視する為の部隊。
ㅤ城の中に入る、戦闘能力に優れた部隊。
ㅤ中にいる者と会話をする者が数名。


ギィーーーーッ
「「っ!?」」


それぞれが準備をしていた時、大きな入り口が開かれた。そこにいる者全員が、剣を構え息を飲んだ。
ㅤ開かれた門から現れたのは、1人の銀髪の女性だった。


「ようこそおいでくださいました。私はここのメイド長をしております、リアンと申します」


その美しい女性は、とても綺麗な動作で一礼をした。
ㅤ動きからして上級貴族のメイドだろうか。


「おい、こいつは……」
「……大丈夫です。人間です」
「そうか……」


人間。それを聞いた者達は皆安心し、肩を下ろした。


「リアン、といったか。この城の主に会わせてほしい」


私がリアンに頼むと、美しい笑顔を見せ


「まずは客人の歓迎をさせて頂きます。私達はか弱いですから、そのように危ない物を持った者達に簡単に主に会わせる事はできません」


それもそうか。


「お前達、危険はないようだ。剣を収めろ」


皆が剣を鞘に収めた。
ㅤこのリアンとかいうメイド長はかなり頭の回るものだな。それを雇った主……どんな人物なのだろうか。


「では皆さん中へお入りください。客人をもてなす部屋は用意してあります」


ーーー


リアンに案内された大広間。そこでは大きなステージや食事のできるテーブルなどがあった。
ㅤここに来る途中、多くのメイドや執事がいた。どれも貴族以上の動き。
ㅤもしかすると、私のいる国の城よりも良い人材がいるであろう。


ㅤ皆が椅子に座らされ、色とりどりの食事が運ばれてきた。


「毒は無いようです」
「そうか。しかし見たことのない食材だな」
「この森でしか育たない食材でございます」


リアンは私の横につき、色々とサポートしてくれている。一目で最も偉い人を見抜いていたのだろう。


「なんだこれ!! 凄く上手いぞ!」


仲間の1人が声を上げた。それと同時に、他の仲間達も食材を手をつける。
ㅤ見たことのない食材に調理法、とても綺麗な食器。そして二つの棒。先が細くなっている。


「これは……」
「"箸" でございます」
「箸……?」


私がそう尋ねると、リアンが背後に周っての持ち方と使い方を指導してくれた。


「す、すまない。胸が……」
「これは失礼しました。箸の扱い方は大丈夫でしょうか」
「ああ。しかしこれで食べるのか……」
「主の発明でございます」


益々この城の主に興味が湧いてきた。かなり財力と権力を持った方なのだろう。魔王などと疑っていた自分が恥ずかしい。


ㅤかなり美味しい食事を堪能した後、私はリアンに様々な質問をしてみた。念の為魔法で他のものにも聞こえるようにしてある。


「質問しても良いかな?」
「はい、なんでしょう」
「突然この城が現れた理由。そしてこれほどの多くの人々が何故集まったのか。聞かせてもらえるか」
「大精霊様のお陰でございます」


大精霊……確かに大精霊は莫大な魔力を持ち、法則を無視したダンジョンを作り上げると聞いているが、大精霊が城を?


「この森にて、主が弱っていた精霊を助けたところ。それが大精霊でして、お礼にとこの城を」


その話が本当なら、この城にその大精霊がいることになる。
ㅤダンジョンというのは一つのダンジョンに一つの精霊がいなければならないのだ。


「大精霊に会わせてもらう事はできるか?」
「まずはこちらが貴方方を信用してからです」


ふむ……かなりこちらを警戒している。やはり武装して出向いたのが、帰って相手に悪印象を与えてしまったか。


「それに対しては、私が謝罪しよう。こちらも突然現れた城に警戒していてな。国では魔王の復活等と噂されていたんだ」
「それはそれは、騒がせてしまい申し訳ありません」
「おぉ〜いミシェル坊ちゃん! 可愛い子に頭下げられるなんて何してんだ〜?」


酒を頼んでいた仲間が、からかうようにこちらにやってきた。


「そ、そんな可愛いだなんて」


なんて言って顔を隠すリアンメイド長は、かなりの美形だ。もしこのような女性が国にいたら王に気に入られて姫にさせられるかもしれない。


「それで、なぜこの城に貴族以上の方が大勢集まっているのか、聞かせてほしい」
「それは勿論。主がとても素晴らしい方だからです」


リアンが顔を赤くして、当然といったように喋った。


「そんなに素晴らしいのか?」
「はい。大精霊を救い、魔の森の魔物に負けない強さを持ち、そして何より……はぁぁっ…」
「だ、大丈夫か。熱でもあるのか?」
「こ、これは失礼しました。私としたことが……」
「失礼します。リアン様、少し休みましょう」


もう一人、かなりのイケメンが現れてリアンの肩を支えた。


「あの、貴女は?」
「私もメイドとして主に仕えるキルシュと申します」


生まれて初めて、このようなイケメンに会った。


「キルシュ、私メイド長よ。しっかりと客人をもてなさなくては……」
「少し休んでください」


2人のその様子に、私は少し嫉妬してしまった。
ㅤこのような美形が2人、まるで恋人同士のようだ。


「さて、これよりは私が城の案内を致します」


キルシュもまた、美しい一礼を見せた。




ーーーーー




「俺ここに住みてぇよ〜」
「だよなぁ〜!」
「皆、静かにしなさい。迷惑ですよ」


城の中はかなり清潔で、部屋数もかなり多い。
ㅤ偵察部隊としてやってきた私達にも1人1部屋使えるほどの多さだ。


「では皆さん、この階にある部屋は好きに使っていいので、休んでください。
ㅤ遠くからこちらにこられたのでしょう? どうぞ」
「やったぁぁあい!!」
「ひゃっほ〜っ!」


仲間達がゾロゾロの部屋の中に入っていき、はしゃいでいる。


「あの、キルシュさん」
「はいなんでしょう」
「貴方達は、私達に危害を加えたりしませんか?」
「……確かに、突然現れた城に大勢の人がいる。そうなれば危険と見なされるのも仕方ないですね」


一瞬、嫌そうな顔をしたがすぐに表情を戻した。


「改めて、魔王の復活だと疑い、戦うつもりでやってきて申し訳ありません」
「いえいえ、これから良い関係を築けていけたら良いではありませんか。私達も貴方方に危害を加えるつもりは1ミリもありません。
ㅤお互い、友好的が一番です」
「あっはっはっ、そうですね」


キルシュさんも上級貴族の方だろう。
ㅤこの城の主、大精霊をも救って貴族に認められる凄いお方。是非とも一度お会いしてみたいものだ。
ㅤそして新しい調理法や箸、他にも私の知らない文化など。是非とも我が国に取り入れたい。


「ミシェル様、どうやら貴方はこの中で最も権力があるようで」
「ま、まあそうですね。勇者なんて呼ばれてます」
「勇者……」
「どうかしましたか?」
「あぁいえいえ。……では、部屋でゆっくりしていてください」
「ありがとうございます」


キルシュさんは、そのままどこかへと立ち去っていった。
ㅤこの城、外に街がないのが不思議だな。これだけ発展しているのに、どこで食材を作ってメイド達はどこに住んでいるのだろうか……。
ㅤそう考えながら空いている部屋に入る。


「おぉ……この部屋は……」


まるで私の行きつけの宿の一室のようだ。
ㅤ似た光景に、リラックスしてベッドに横になってみた。


「ふぅ……ルト……生きて帰れそうだよ」


首飾りに語りかけ、長旅で疲れた体を休めた。




ーーーーー




コンコン「ミシェル様、リアンでございます」
「……んぁ? あぁ……なんでしょうか」


かなり寝ていたようだ。それだけ警戒心が無くなったのだろう。


「失礼します。主の部屋にて主と大精霊様がいますが、行きますか?」
「え……?」
「許しは出ています。一度お互いに会って、話をしたいとのことです」


この城の主と大精霊に……ついに会うのか?
ㅤこの城に来てから驚きの連続、主というのはかなり凄い人物だ。そんな人とついに……。
ㅤ一気に眠気が飛んでいき、起き上がる。


「も、もし期限を損ねたら殺されたりしませんか……?」


それほど凄い人に会うんだ。死ぬ覚悟はした方が良い。


「主は寛大な心をお持ちですので、そう簡単に殺しはしませんよ」
「簡単には……か。と、とりあえず待たせたらいけない。すぐに行く」


寝癖を整え、乱れた服を綺麗にして部屋から出る。


「では、案内いたします」




ーーーーー




やってきたのは城の最も上の階。他の部屋の扉とは違った雰囲気を出している。


コンコン「客人を連れてまいりました」
「どうぞ」


ん……? 何か聞き覚えのある声。
ㅤ私は思い出せずに、開かれた部屋の中へ入った。


「っ!? ルトッ!?」
「ひ、久しぶり」


そこには綺麗なドレスを着たルトがいた。首には私がプレゼントした首飾りがある。本人だ。


「ル、ルト……君がこの城の……主なのかい?」
「うん……黙っててごめん」


今のルトはかなり美しい。メイド長のリアンよりも。
ㅤ黒いドレスに包まれたルト。その顔は恥ずかしそうだった。


「悪気はなかったんだ。……でも魔王の復活、なんて疑われて本当のことが言いづらかったんだ……」
「べ、別にルトの事を攻めちゃいないさ。ただ……この城の主がルトだって事にビックリしただけ」


ーーーーー


作戦は順調に進んだ。そして最後の俺の作戦、それは俺がここに住んでいるという事をミシェルに伝えること。そして国の王に敵意はないことを伝え、あわよくば協力しあえたらと思う。
ㅤそして目の前にいるミシェルは、ビックリしながら俺を見て微笑んでいた。


「良かった……ルトに会えたっ……」
「えっちょっ」


緊張していたようすのミシェルが、俺に抱きついてきた。


「ルト、君はやっぱり凄い人だったんだね……。色んな人が君を尊敬していて」
「そ、そうかな」
「多分……私が君を好きになる事は、間違いだったんだと思う」
「え……」


急に、どうしたのだろうか。


「君は……あまりにも美しくて、優しくて。私よりもずっと凄い雲の上の存在。私なんかが手を出していい人じゃなかったんだ……」
「そっ、そんな事ないっ! 私は別に凄くないし、優しくもない。私の方が、ミシェルを好きになるなんて事おかしいって……あ……」
「私を……好き?」


言ってしまった。
ㅤついに自分の口で認めてしまった。俺はミシェルが好きで、好きで、大好きで。それを今まで認めてこなかった。
ㅤでもそれをついに、ミシェルが俺から離れていこうとした時に、ついに認めてしまった。


「だ、だから……私は雲の上の存在なんかじゃない! だから……ずっと好きでいてほしい……」
「ルト……」
「す、すまない。私はここにいない方が宜しかったか……?」


横で大精霊に変身していたキルシュが、気まずそうに呟いた。


「あ、貴方が大精霊様……ですか?」


その姿は、白く大きな光を発する蝶。普通の精霊も似たような姿をしているらしいが、大精霊はさらに大きいらしい。


「い、いかにも。私がルトに助けられたのだ」


練習した口調でそう言った。


「驚いた……まさか突然現れた城でルトと大精霊に会えるなんて……」


頬を抓るミシェル。


「み、ミシェル。こうしてこの城は、危険なものじゃないって分かったかな……?」
「あぁ……そしてルトの事がさらに好きになった」
「わ、私は部屋から出ていくとしよう」


とうとうキルシュが出ていった。


「この事はしっかりと国王様に伝えるよ」
「そうしてくれると嬉しい」


これで、一先ず疑いは晴らせたな。一つ目の目標達成だ。


「ルト……とても美しいね」


俺の体を見て、微笑んだ。
ㅤやっぱり俺はミシェルには勝てないな。


「……な、何か気まずいから私は部屋に戻るよ」
「うん。明日、帰るんでしょ?」
「もうちょっとこの城にいたいけど、国に報告しないとね」
「じゃ、じゃあまた明日」


俺はミシェルに手を振って別れを告げた。
ㅤついに、作戦が成功した。

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