鬼ノ物語
20話 疾風
「私もカケル様のようにっ……強くなってっ……見せますっ!」
「無理するなよ……」
いつもよりも張り切って素振りを始めた。全身の筋肉を無駄なく使うように、素早く力強くを意識しながら。
「凄い凄い! 動きは完璧!」
「動きはっ……ですけどっ……大事なのはっ……力ですっ!」
「まあ……その動きが身体に馴染んできたなら、本格的に実戦と行こうか」
実戦……? この前はゴブリンと戦ったけど、どうするのだろうか。
「ユキ、相手してやってくれ」
「えぇ!? 私がニオちゃんと戦うの!?」
「俺に攻撃するのは嫌らしい」
「私は!? 私どうなの?」
「ユキさんとなら戦えそうです」
「ぐはぁっ……そう……」
なるほど。実際に対人戦の状況で戦うのか。これで人間の動き方、癖の見極め方、そして反射神経を鍛えたりするんだな。
「といっても、今のニオにとってユキはかなり強いからな。ユキは素手だ」
「分かッた」
す、素手? 刀相手に素手?
「それって大丈夫なんですか……?」
「まあ戦ってみれば分かる。場所を移動しよう」
刀身を防ぐ手段が無いから俺が有利、というか斬ってしまう。本当に大丈夫なのだろうか。
ㅤ周りに木がない広い場所へと移動してきた。ユキさんはピョンピョンと跳ねて準備運動をしている。俺も刀を抜いて、戦うイメージを掴む。
ㅤカケル様から貰ったこの刀、握っていると安心感があるのは分かる。いざ戦う時には、心が静かになり集中した状態になる。
ㅤ風が頬を撫でる感覚。草木が揺れる音。それら全てがスルスルと頭に入ってくる。
「ふぅ……」
「ニオちゃんって刀持つと雰囲気変わるよね」
侍みたいだな。
「そろそろ始めるか。二人とも好きなタイミングで始めていいぞ」
「ニオちゃん、いつでも来ていいよ」
「はい……」
ユキさんは、空手……? いや、合気道のような構えを取っている。全く隙がない。
「っ……」
まだ何もしていないというのに、ユキさんの実力が凄いのが分かる。
「……行きます」
「うん」
意識を身体全ての部位に集中させる。
ㅤ筋肉の動き方、力の入れ方、足の踏み出し方、体の傾け方。全てを意識しながら、斬りかかる。
「っ……」
しかし、当たる直前まで全く動かないユキさんを見て、つい動きを止めてしまった。
「ほっ!」
そのまま刀身を返され、刀を握る手に手刀が入り武器を落とす。腕を引っ張られて、ユキさんの真横に入った瞬間、気づけば俺は地面に投げ飛ばされていた。
「あ……」
「えっへん!」
もっと尊敬してもいいんだよ。というような表情を見せてくるユキさん。
「やっぱり勝てません……」
「ニオ。今のは勝てなかったんじゃない。勝たなかったんだ」
「カケル様……」
「刀が当たる直前、動きを止めただろ」
「……はい」
まずい……怒られてしまう。俺はその場に正座して、肩を縮めた。
「いいか。相手が誰であろうと、常に本気で戦わなければ死ぬ。もしも相手がユキじゃなく、お前を奴隷した奴らだったらどうなっていたと思う」
「っ……」
「また辛い目に合うぞ」
「ちょ、ちょっとカケル! そこまで言う必要は無いでしょ!?」
「いいよ……ユキさん」
カケル様が言っているのは本当の事だ。俺はあの時、ユキさんを殺してしまうと思った。ユキさんは強い筈なのに、俺なんかが殺せるはずないのにそう思ってしまった。
ㅤカケル様は、俺が自分の身を守れるようにする為。俺の為を思って厳しく言ってるんだ。
「ニオちゃん……」
「ありがとうございますカケル様……。次は頑張ります」
「頑張れ」
その「頑張れ」という言葉には、俺に対する深い愛情があるのが感じ取れた。
「ユキさん。もう1度お願いします」
「う、うん……。カケル、覚えときなさいよ」
ユキさんはカケル様に対して怒っているようだ。それも、俺に対する愛情があるからなのだろう。
ㅤ2人の愛を、こうして感じられるというのはとても幸せだ。
「行きますっ!」
今度こそは、絶対にカケル様が満足のいく結果を出す。もし出せなかったとしても、次がある。これは訓練なんだ。最初の内は戦えなくてもしょうがない。
「わっ!!」
素早く、力強く。とにかく命を狙って、ユキさんの首元や手首、腹を狙い続ける。
ㅤ刀を振るたびに、風を切る音がする。音は段々と高くなっていき、どんどん速度を上げる。
「す、凄いよ! 速い!」
「驚いた……」
そしてついに。
「あっっ!」
「終了!!」
「あれぇ……届いてないと思ったのになぁ……」
ついにユキさんの手に、1つ傷を付けることが出来た。
ㅤたった二戦目でだ。
「今の一撃は速かったぞ。今のは……刀から発せられた鋭い風で切れたんだろう」
「風……ってことは、ニオちゃん斬撃飛ばせたんだ!!」
「斬撃……」
刀の最大レンジを無視した攻撃、斬撃。これはゲームなんかでもよく見かける。
「やればできるじゃないか」
カケル様に褒められながら頭を撫でられた。
「私……期待に添えられたでしょうか……」
「期待以上だよ」
「カケルの大きな手の平返し〜」
カケル様の期待以上の結果。なんとか俺は、成長する事が出来たようだ。
「あ、あれ……?」
「おっとっ」
急に全身の力が抜けて、そのままカケル様に支えられた。
「さっきの反動だろうな。今日は戻って休もう」
「速かったもんね〜」
ちょっと頑張りすぎたようだ。
「無理するなよ……」
いつもよりも張り切って素振りを始めた。全身の筋肉を無駄なく使うように、素早く力強くを意識しながら。
「凄い凄い! 動きは完璧!」
「動きはっ……ですけどっ……大事なのはっ……力ですっ!」
「まあ……その動きが身体に馴染んできたなら、本格的に実戦と行こうか」
実戦……? この前はゴブリンと戦ったけど、どうするのだろうか。
「ユキ、相手してやってくれ」
「えぇ!? 私がニオちゃんと戦うの!?」
「俺に攻撃するのは嫌らしい」
「私は!? 私どうなの?」
「ユキさんとなら戦えそうです」
「ぐはぁっ……そう……」
なるほど。実際に対人戦の状況で戦うのか。これで人間の動き方、癖の見極め方、そして反射神経を鍛えたりするんだな。
「といっても、今のニオにとってユキはかなり強いからな。ユキは素手だ」
「分かッた」
す、素手? 刀相手に素手?
「それって大丈夫なんですか……?」
「まあ戦ってみれば分かる。場所を移動しよう」
刀身を防ぐ手段が無いから俺が有利、というか斬ってしまう。本当に大丈夫なのだろうか。
ㅤ周りに木がない広い場所へと移動してきた。ユキさんはピョンピョンと跳ねて準備運動をしている。俺も刀を抜いて、戦うイメージを掴む。
ㅤカケル様から貰ったこの刀、握っていると安心感があるのは分かる。いざ戦う時には、心が静かになり集中した状態になる。
ㅤ風が頬を撫でる感覚。草木が揺れる音。それら全てがスルスルと頭に入ってくる。
「ふぅ……」
「ニオちゃんって刀持つと雰囲気変わるよね」
侍みたいだな。
「そろそろ始めるか。二人とも好きなタイミングで始めていいぞ」
「ニオちゃん、いつでも来ていいよ」
「はい……」
ユキさんは、空手……? いや、合気道のような構えを取っている。全く隙がない。
「っ……」
まだ何もしていないというのに、ユキさんの実力が凄いのが分かる。
「……行きます」
「うん」
意識を身体全ての部位に集中させる。
ㅤ筋肉の動き方、力の入れ方、足の踏み出し方、体の傾け方。全てを意識しながら、斬りかかる。
「っ……」
しかし、当たる直前まで全く動かないユキさんを見て、つい動きを止めてしまった。
「ほっ!」
そのまま刀身を返され、刀を握る手に手刀が入り武器を落とす。腕を引っ張られて、ユキさんの真横に入った瞬間、気づけば俺は地面に投げ飛ばされていた。
「あ……」
「えっへん!」
もっと尊敬してもいいんだよ。というような表情を見せてくるユキさん。
「やっぱり勝てません……」
「ニオ。今のは勝てなかったんじゃない。勝たなかったんだ」
「カケル様……」
「刀が当たる直前、動きを止めただろ」
「……はい」
まずい……怒られてしまう。俺はその場に正座して、肩を縮めた。
「いいか。相手が誰であろうと、常に本気で戦わなければ死ぬ。もしも相手がユキじゃなく、お前を奴隷した奴らだったらどうなっていたと思う」
「っ……」
「また辛い目に合うぞ」
「ちょ、ちょっとカケル! そこまで言う必要は無いでしょ!?」
「いいよ……ユキさん」
カケル様が言っているのは本当の事だ。俺はあの時、ユキさんを殺してしまうと思った。ユキさんは強い筈なのに、俺なんかが殺せるはずないのにそう思ってしまった。
ㅤカケル様は、俺が自分の身を守れるようにする為。俺の為を思って厳しく言ってるんだ。
「ニオちゃん……」
「ありがとうございますカケル様……。次は頑張ります」
「頑張れ」
その「頑張れ」という言葉には、俺に対する深い愛情があるのが感じ取れた。
「ユキさん。もう1度お願いします」
「う、うん……。カケル、覚えときなさいよ」
ユキさんはカケル様に対して怒っているようだ。それも、俺に対する愛情があるからなのだろう。
ㅤ2人の愛を、こうして感じられるというのはとても幸せだ。
「行きますっ!」
今度こそは、絶対にカケル様が満足のいく結果を出す。もし出せなかったとしても、次がある。これは訓練なんだ。最初の内は戦えなくてもしょうがない。
「わっ!!」
素早く、力強く。とにかく命を狙って、ユキさんの首元や手首、腹を狙い続ける。
ㅤ刀を振るたびに、風を切る音がする。音は段々と高くなっていき、どんどん速度を上げる。
「す、凄いよ! 速い!」
「驚いた……」
そしてついに。
「あっっ!」
「終了!!」
「あれぇ……届いてないと思ったのになぁ……」
ついにユキさんの手に、1つ傷を付けることが出来た。
ㅤたった二戦目でだ。
「今の一撃は速かったぞ。今のは……刀から発せられた鋭い風で切れたんだろう」
「風……ってことは、ニオちゃん斬撃飛ばせたんだ!!」
「斬撃……」
刀の最大レンジを無視した攻撃、斬撃。これはゲームなんかでもよく見かける。
「やればできるじゃないか」
カケル様に褒められながら頭を撫でられた。
「私……期待に添えられたでしょうか……」
「期待以上だよ」
「カケルの大きな手の平返し〜」
カケル様の期待以上の結果。なんとか俺は、成長する事が出来たようだ。
「あ、あれ……?」
「おっとっ」
急に全身の力が抜けて、そのままカケル様に支えられた。
「さっきの反動だろうな。今日は戻って休もう」
「速かったもんね〜」
ちょっと頑張りすぎたようだ。
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