鬼ノ物語

フーミン

19話 崇拝

「も、もう無理っ……!」
「後は10回」


ユキさんが100回の素振り達成するまで後少しだ。


「2……3……4……〜〜〜……8……9……10!!」
「終わっっっったぁぁぁぁああ!!」
「おめでとうユキさん! わぷっ……」


素振りが終わると、すぐさま俺に抱きついてきた。
ㅤ腕がプルプル震えている。それほど疲れてるのだろう。


「あぁ……キッつい」
「じゃあ後でニオも100回挑戦するか」
「は、はい……」
「流石にダメだよ〜」


100回か……いままでの倍の数。50でかなり疲れるのだが、少しずつ数を増やせばいけるだろう。


「いえ、頑張ってみます」
「その意気だ」
「すっごい……」


ユキさんに目を見開かれて驚かれた。


「さて、昼食にするか」
「ちょっとカケル。あんた何もしてないでしょ?」


お、言ってほしい事を言ってくれた。


「2人の動きを見てダメなところを指摘してるだろ?」
「随分と楽そうじゃない。運動もせずに昼食……太りたいの?」
「何が言いたい」
「カケルも素振り150回。それが終わるまで弁当禁止!」


おぉ、カケルさんがついに剣を振るうのか。楽しみだ。


「却下。さっさと食うぞ」


ユキさんの頭に軽くチョップして受け流された。なんじゃそりゃ……カケルさんのカッコいい所見れると思ったのに。
ㅤユキさんは頭を抑えながら、それ以上文句を言うことはなかった。


「私……カケルさんとユキさんが戦っている所、見てみたいです」


そういうと、2人は


「私じゃカケルに適わないわ。即殺よ」
「力の差が大きすぎる」


そんなにカケルさんが強いのだろうか。


「カケル、こう見えて王国では一番の騎士なのよ」
「こう見えてってなんだ……」


一番の……騎士……! 俺は国一番の騎士の護衛付きで毎日生活できるというのか!?
 普通そんな騎士は王様だったり姫様だったりを護衛するのに、俺なんかに……嬉しいな。


「はぁ……私の元に白馬の王子様が来ないかな〜……なんて」


ユキさんが変な事を言いつつ、弁当の中にあるサンドイッチを食べる。
ㅤまるで家族で遠足に来たみたいで、とても幸福感がある。2人が食べるのを見ながら、俺も食べ進める。


ㅤ弁当を食べ終わると、ユキさんが立ってストレッチを始めた。


「何かするんですか?」
「うん、ちょっとね〜」


ちょっと……って言われても、何するか分からないな。


ㅤふいに両手を木に向けて、息を吸った。


「ふっ!!」


思いっきり息を吐くと同時に、大きく立っていた気が根本から切り倒された。


「す、凄い……」


あれじゃ剣とかいらない気がする……いや、俺の黒刀は大事だけど。


「風魔法を練習していくと、風で斬る攻撃が出来るようになるんだよ」


そういいながら、木の枝をどんどん切っていく。
ㅤ俺も魔法練習したいな。


ㅤさっきまで立派に立っていた木が、ほんの数分でただの丸太に変化していた。


「さ、カケル。ユキちゃんに凄いところ見せてあげなよ」
「それが目的かよ……」
「?」


何をするのだろうか。
ㅤカケルさんが、丸太の元に向かった。


「じゃあ……ちょっとだけだぞ」


そういうと、丸太の下に手を入れてグッと力を入れた。
ㅤすると、重そうな丸太がミシミシと音を立てながら持ち上げられた。


「……」


驚きで声も出ない。


「はい素振り」
「3回だけな」


素振り!?
ㅤカケルさんは丸太を持ったままで、まるで剣を持っているかのように、素振りを3回行った。
ㅤその1回1回が有り得ないほど速く、とても綺麗な動きだった。


「…………」
「ほら……完全にドン引きされた」


目の前で起きる超常現象に驚いて思考停止しているだけだ。


ㅤ俺は思考停止しながらも、丸太の元に近づいて手を下に潜り込ませる。
ㅤそのまま全身に力を入れて持ち上げっっ……持ちっ………………。


「……」
「ね? カケル、凄いでしょ」
「……凄い……です……凄すぎです!! こんなに凄いなんて思ってませんでした!!」
「お、驚きすぎだ」


こんなに重い丸太を軽々と振り回せるなんて人間業じゃない。もしかすると……カケルさんは神様なのか? カケル様なのか?


ㅤ俺のカケルさんを見る目が、尊敬から崇拝に変わった。

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