鬼ノ物語

フーミン

16話 魔物

「っ…………っ…………」


素振りの訓練は昼まで続いた。
ㅤ水分を補給しつつ、一例の動きを体に馴染ませる。その間カケルさんはずっと座って見ているだけだった。


「よしお疲れ。息も大分整ってきたな」
「慣れ、ですかね」
「良い事だ。昼食にしよう」


ずっと座ってただけなのに食べる必要はあるのか、と言いたい。それでも的確にアドバイスをしてくれるので、訓練の効率は良く感じられる。
ㅤ俺の1つ1つの動きを見極めていたのだろう。


ㅤ空間の中に手を突っ込み、そこから布に包まれた箱を2つ取り出した。弁当だ。


「ニオの分はこれだ」
「えっ……」


弁当箱は大きい方と小さい方があり、俺は大きい方を渡された。
ㅤ普通大人の人が大きい方じゃないのだろうか。そう思ってカケルさんを見ると


「食べ終わったら別の訓練するぞ。その為にしっかりと食え」


だそうだ。
ㅤま、成長期なんだし太らない程度には食べても大丈夫だろう。
ㅤワクワクしながら弁当箱を開くと、焼き魚をボロボロにした物と、卵焼きにサラダ。それらがバラバラに置かれていた。


「……」
「料理は下手なんだ」


俺が動きを止めたのを見て、言い訳をしてきた。


「じゃあ……今度から代わりに私が料理を作りますね」
「作れるのか?」
「いいえ?」


これから勉強して、カケルさんに美味しいと言ってもらえる弁当を作るんだ。


「……そうだな。じゃあ頑張ってくれ」
「はい」


とりあえずボロボロの魚を食べる。
ㅤうん、味は不味くない。もう配置を変えれば少しは良くなるだろうに……勿体ない。


ーーーーー


昼食を食べ終わり少しだけ眠くなってきたが、自分の頬をパンと叩いて目を覚まさせる。


「お、やる気充分だな」
「この刀を使うのに充分な力を手に入れないといけませんから」


それに、カケルさんに迷惑はかけられない。


「ありがとな。じゃあ早速だが実技に移ろう」


そういって自分の剣を取り出した。


「何処からでもいい。俺に斬りかかってこい」
「そ、そんな……」
「遠慮はいらない。俺は強いから大丈夫だ」


と言われても……カケルさんに攻撃をするなんて俺には出来ない。


「……」
「はぁ……仕方ないな。じゃあ少し手順を飛ばすか」
「何するんですか?」
「今からゴブリンを召喚する。そいつと戦ってくれ」


ゴブリンと……。


「そんな……いきなり勝てないですよ」
「勝てなくて大丈夫だ、傷さえ付ければいい。もし危ないと判断したら助けに入る」
「わ、分かりました」


初めての魔物……いくら魔物とはいえ、生き物を痛めつけるのには抵抗があるな……。


ㅤカケルさんが足で地面に丸い模様を描いていく。


「これは?」
「魔法陣の1つだ」


そうは言うけども、どこからどう見てもただの円にしか見えない。ここで相撲が出来そうだ。


「離れてろ」
「はい」


カケルさんが円の縁に手を当てる。


「すぅ〜…………ふぅ……」


魔法を使う時の呼吸法だ。
ㅤ次の瞬間、円が白い光を放つ。


「これがゴブリンだ」


気づけば、円の中心に手足が長く二足歩行で歩く豚がいた。素っ裸で、緑の汚い体が顕になる。


「うぅっ……」


アイツらを思い出して、つい声をあげてしまった。


「さて、コイツが混乱している内に、今からいうことをしっかりと聞け」
「……?」
「コイツは、お前を奴隷した奴らの仲間だ。今までに何人もの奴隷を犯している」
「っ!?」


アイツらの……仲間!? 奴隷達に……酷い目に合わせたヤツらの仲間が目の前に……。
ㅤ俺を襲った……ヤツらの仲間…………。


「恐れるな。今のお前なら勝てる。怒りをぶつけろ」
「っ…………はい……」


刀を鞘から抜いて構えると、カケルさんの温もりが全身を包んだ。
ㅤやれる。今の俺なら……このクソ野郎を殺せる。


「ああぁぁぁぁあああああああっっっ!!!!」


闘志を震わせる為に大声を上げて、目の前にいる憎々しい生き物へと刀を振り下ろす。


ㅤゴブリンは、自分が襲われると判断してすぐに戦闘態勢に入った。
ㅤ持っていた棍棒を、俺の攻撃を防ぐように構えた。


ザクッ


ㅤ棍棒に刀が深く刺さった。


「っ……ぬ、抜けないっ…………」


その様子を見たゴブリンは、ニヤりと笑って棍棒から手を離す。
ㅤ予想していなかった棍棒の重さに、刀は俺の手を離れて地面へと落ちた。
ㅤするとゴブリンは、俺の顔へと拳を握って飛びかかってきた。


「ひ、ひぃ……」
「諦めるな!」
「た、助けっ……」
「くそっ……」


ゴブリンの拳が当たる寸前で、カケルさんの蹴りが入って助かった。


「は、はぁ……はぁ……」
「相手は武器を持ってなかったぞ」
「わ、私も持ってませんでした……」
「ニオにはその筋肉がある。それに棍棒の重さを予想出来ていれば刀を使うことも出来た」


そんな事を言われても……いきなりゴブリンに勝てる訳ない……。


「……いきなり勝てとは言わない、勝てるようになる為に訓練をしているんだ。次も頑張ろう」
「はい……」


棍棒を足で押さえつけて、刀を抜く。
ㅤさっきのゴブリンは、カケルさんに蹴られた勢いで木の枝に刺さっていた。グロテスク。


ㅤ魔法陣からもう1体のゴブリンを召喚したのを確認して、次こそはと刀を構える。


「冷静になれ。その刀さえあればお前は勝てる」
「はいっ……!」


そう。刀さえ使えればコイツに勝てるんだ。
ㅤ武器を構えた俺を見て、ゴブリンが早速俺に迫ってきた。


「はぁっ!!」


ゴブリンは棍棒を右手に持っていた為、左側から斬りつける。
ㅤゴブリンが反応するよりも速く。でないと防がれてしまう。


グチッ


刀がゴブリンの脇腹に刺さったのが、感触で分かった。


「うえっ……」


気持ち悪い。体が避けているというのに、ゴブリンはまだ生きている。
ㅤすぐに刀を戻し、別方向から攻撃をしかけようとすると……。


ボトボトボトッ


ㅤ切った横腹から、ゴブリンの内臓が落ちてきた。


「う゛ぅっ…………お゛お゛えぇぇ…………っ……」


昼に食べた物を吐き出してしまった。
ㅤ目の前では、自分の内臓を見て白目を向いて倒れたゴブリンが、血を流しながら倒れている。


「おぉ……2回目で倒せたか」
「う゛っ……」


まだ出そうだ。


「大丈夫か?」
「は、はい……。私を襲った奴らの仲間だと考えると……スッキリしました」
「まあそれは嘘なんだけどな」
「えっ? お゛え゛え゛っっ……」
「まあ、場所を移動しよう」


気持ち悪い臭いから逃げるように、その場を離れた。


「大丈夫か……?」
「はい……それで、嘘ってどういう事ですか?」
「生き物っていうのは、怒りの感情が無いと簡単に生き物を殺すことは出来ないんだ。
ㅤその……嘘を言って悪かった。ニオが魔物を倒せるようになる為だ」


そうだったのか……。


「ただ、何人もの人族を犯してるってのは本当だ」
「そうですか……じゃあ倒せそうです」


何の罪もない生き物を殺すのは無理だが、そういう理由ならこれからも問題なく殺せるだろう。
ㅤ少し胃を水で落ち着かせながら、次のゴブリンとの戦いに備える。

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