鬼ノ物語

フーミン

13話 風呂

「はいいらっしゃ〜〜……ってアンタか。今日は迷子探してたのかぁ?
ㅤお嬢ちゃん、そいつぁ危ないからおじちゃんの所においで」


ハンターパブに入った途端、失礼なおっさんがカケルさんの悪口を言った。
ㅤ俺に向けて変な笑顔を向けてくるおっさんから逃げるように、カケルさんの後ろに隠れて睨みつけた。
ㅤ不思議な事に、男性達が大勢いるというのに恐怖を感じない。


「俺の仲間だ。ハンター登録しにきた」
「はぁそうかい。アンタが仲間ねぇ……まあいい、さっさと終わらせろ」


大きな本を取り出し、テーブルにドンと置いた。
ㅤカケルさんは、大きな本を開いて何も書いてないページで止めた。何をするのだろうか。


「よいしょ」
「わっ……」


突然体を持ち上げられた。


「ここに自分の手を乗せろ。それだけで登録は終わりだ」
「わ、分かりました」


手を押し付けると、触れた手のひらに温かい感覚がやってきた。
ㅤ驚いて手を離すと、そこには俺の手相と名前。そして年齢が現れた。


「……13歳だったのか」
「……」


どうやら年齢も低くなっているようだ。
ㅤ見た目と年齢が合わない事に、カケルさんも驚いている。


「はい終わりっと……ニオちゃんって言うのかい。可愛い手をしてるね」
「……」
「話しかけるなロリコン」


それはカケルさんも同じだと思うがな。


「じゃあ帰るぞ」
「えっ、もう……ですか?」
「顔が疲れてるぞ。人生は長いんだから、そう焦らなくても大丈夫だ」
「勿体ない……」


俺にとって、たった1日というのもとても重要な物だ。長期的に物事を考えられるのも良いけど、1日に出来ることをしないっていうのは、凄く勿体なく感じる。
ㅤしかし、カケルさんの言うことに従うことにした。この人がいないと俺は何も出来ないからだ。


ㅤハンターパブを出ると、あの慣れない転移を使われた。


「ここは……?」
「お風呂だ。お前1度も風呂に入ったことないだろ?」
「え……ちょっ」


抵抗することも出来ずに服を脱がされた。カケルさんも素っ裸になり、俺が逃げないようにと抱えられたまま更衣室から出た。
ㅤポスンと椅子の上に座らされ、目の前には温かそうな水が川のように流れている。
ㅤカケルさんが、桶にお湯を入れて俺の後ろに座った。


「目を瞑っていろ」
「は、はい……」


知らない体とはいえ、俺の体なのは間違いない。それを人に見られるのは恥ずかしい。
ㅤそれにカケルさんの……アレも大きかった。凄いな。


バシャァン「わぷっ……ぷっ……」


上からお湯を掛けられて、口の中に入ってきた水をプッと吐き出す。額の角のおかけで鼻にはお湯がかからなかった。


「……体拭くから我慢しろよ」
「……」


何が来るかと全身に力を入れたが、温かいフワフワタオルで全身を拭くそうだ。
ㅤほっ、と全身の力を抜き、体の汚れが落とされていくのを感じながらボーッとしていた。


「ふあっっ!?」
「す、すまない」
「っ!? っ!?」


何が起きたのか分からない。ただ角を拭かれた……だけなのに、全身に電気が走るような快感が押し寄せた。


「ふぁっ……あっっ……!」
「だ、大丈夫か!?」
「っっ……っっ……」


とにかく無心で頷いた。耐えなければ……こんな感覚初めてだが、これはただ洗っているだけ。何も変なことをされている訳では無い。俺がおかしいのだ。


「んっ……ふぅっっ…………」
「…………」


頑張って堪えているが、どうしても声を出して体をうねらせてしまう。


「あ、暴れるな……角の汚れが落ちないじゃないか……」
「うっ……ん……っ……」


角の根本から先端。上側の汚れを落とした後は横側を、次に下側を……といった感じで吹かれていく。
ㅤ何なんだこの感覚は……。


ㅤやっと角の汚れが落ちたのか、最後に全身にお湯を掛けられて終わった。


「じゃあ俺の身体は自分で洗うから、先に湯船に使ってていいぞ」
「ひゃ……ひゃいぃ……」


体をビクビクとうねらせながら湯船へと向かった。
ㅤ足先からゆっくり、温かいお湯に入っていく感覚。膝……太もも……腰。そして一気に肩まで浸かった。


「ふあぁぁ〜〜…………」


とても気持ちが良い。最高の感覚だ。
ㅤ自分で手を擦ってみると、まだ垢が出る。でも、ここで落としちゃ失礼だろう。


ㅤそして1番気になったのは、自分の角だ。あれだけ触られて不思議な感覚を体験したのだ。どうなっているのか確認したくなった。
ㅤ角の先端を触れてみる。


「……?」


触った、触られた。という感覚はあるものの、先程の感覚は感じない。
ㅤそのまま指先で根本までなぞってみた。


「…………っっ〜〜〜」


なんとなく擽ったく、ゾゾゾッとした感覚が背中を伝った。
ㅤ癖になりそうだ。


ㅤ角でしばらく遊んでいると、カケルさんも湯船に入ってきた。俺の横に座って、「ふぅ」と息を吐く。
ㅤ上を見上げるカケルさんの横顔を見ていると、なんとなく面白くて笑ってしまった。


「なんだ?」
「な、なんでもないです」
「そうか」


この人の筋肉は凄いな。全身を満遍なく鍛えられており、とてもカッコいい。
ㅤそして下半身に付いているモノは、とても大きい。奴隷をしていた頃に沢山見てきたモノよりも全く違う。別次元のモノだ。


「な、なんだ……あまり見るもんじゃないぞ」
「俺の体は見るくせに」
「子供の体に欲情なんてしないさ」


なんとなく悔しくなった。


「それとな、お前は立派な乙女なんだから自分の事は 『私』と呼べ」
「私はニオ……これでいい?」
「ああ」


慣れないなぁ……ま、それでも良いか。今の俺は女なんだし、当然の事だ。


「…………っ! 誰だ!!」


突然カケルさんの様子が変わった。
ㅤ立ち上がり、どこからか鋭い剣を取り出す。


「カ、カケルさん……?」
「俺から離れるな」


周りに何かいるのだろうか。少しだけ怖くなり、カケルさんの足にしがみつくと、恐怖心は無くなった。


「……チッ、逃げられたか」
「ほっ……」


なんだったのだろうか。


「ニ、ニオ……そのだな。あまり密着するのは良くないぞ?」
「え?」
「お前はコアラか……」


まあ……離れるな、なんて言われたんだから手足でしがみつくわな。


「もう安全だ……」
「そうですか」


これはカケルさんに守られた。ということで良いのだろう。何が居たのか俺にはさっぱり分からなかったが、素直に感謝するとする。


「ありがとうございます……」
「……ああ」


こうして、俺とカケルさんの平和なお風呂タイムは無事に過ぎ去っていった。

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