鬼ノ物語

フーミン

8話 魔法

ついに夜がやってきた。
ㅤ家の中に居るのは俺を含め4人。種族はバラバラだが、それぞれが外に出れない問題を抱えている。


ㅤ窓の外を見ると、ユキさんを囲むように集まっていた。
ㅤ窓を開ければ声が聞こえるため、近づく必要は無い。


「じゃあまず、魔力操作の練習から始めようか!」
「「はい!」」


魔力操作……俺も部屋で試せるだろうか。危なくない魔法なら……練習出来そうだ。


「そもそも魔力というのは、空気中の魔素を体内で変換した物を言います。酸素が二酸化炭素になるのと同じだね。でも、魔力を体内に貯める臓器というのは存在しません」


だとすると、どうやって魔力を使用するのだろうか。


「魔法を使う時の呼吸法です。みぞおちより少し下を抑えて、意識を集中してください」
「「はい」」


ユキさんを囲む人達が、ユキさんと同じ行動をする。
ㅤ俺もベッドの上で試してみた。


「そのまま、鼻で8秒息を吸います。…………」
「「……」」
「そのまま3秒息を止めて、口で7秒息を吐いてください…………これが基本になります」


なるほど……時間が決まっているのか。


「次に、この呼吸法に合わせて魔法を作り出します。
ㅤ息を吸う時に、魔法のイメージをします。例えば右手から水が出る、だとか。何でも良いんです。魔法に不可能はありません。
ㅤイメージをしたら、魔法を生み出す位置。今回は利き手にしましょう。息を止めてる間に利き手を前に向けてください」


言われたとおり、風が自分の顔に吹くよう手のひらを向けた。


「息を吐く時に、お腹から手のひらへと流れる何かをイメージしてください。血液でも風でも、何かが流れるイメージをしながら吐き出してください」
「「……おぉ!」」


皆の手を見ると、水がチョロチョロと出ている人や、手のひらを発光させている人等がいた。


「俺も……ふぅ〜…………」


……来た! 涼しい風が前から後ろへと流れていった。
ㅤまるで手のひらから空気が出ているようだ。


「これは生活に使える魔法の練習方法ですが、もしイメージが大きすぎたり危険な物を出せば、その分自分にも危険が伴います。
ㅤ今回この練習法を教えたのは、暑い日に水分が不足しないように、だったり。簡単に温まれるように、といった便利な事を自分で出来るようにする為です。
ㅤくれぐれも安全に魔法を練習していきましょう。今から自由時間ですが、魔法の練習をする場合は外でしましょう。何か聞きたいことがあったら私を呼んでください。
ㅤ解散!!」


皆を心配しているのだろう。長い注意を聞かされ、自由時間となった。
ㅤ危険なイメージをしなければ室内でも魔法はOKなんだな。少しずつ練習すれば、いつか役に立てるだろう。


「ニオちゃ〜んっ!!」
「ぐえっ……」


帰ってきたユキさんに抱きつかれ、肺の空気が抜けた。


「魔法使っちゃダメって言ったでしょ!」
「つ、使ってないです……」
「誤魔化してもダメ! 私見てたんだよ?」


気づかなかった……。


「あのね……魔力を貯める臓器が無いとは言ったけど、魔族は違うの。体の中に魔力を貯めれる臓器があってね、一歩間違えば魔力が暴走して理性を失う事だってあるんだよ」
「知らなかった……ごめんなさい」


魔族は特別……なのか。


「ま、反省してるみたいだからいいよ。じゃあ私呼ばれてるから行くね。魔法使っちゃダメだよ」


最後に頭を撫でて、窓から外へ出ていった。
ㅤなんだろう。ちょっと注意されただけなのに凄く悲しい気分だ。ユキさんに注意された。それだけなのに、何故か子供のように泣きたくなった。
ㅤでも、今回は俺が悪い。ただ皆が魔法を使ってるのを眺める事しかできない。
ㅤ魔法を使いたいのなら、外に出る練習から。ということなのだろう。


「……よしっ……」
「お、何だか気合入ってるね」


シュリさんが俺のベッドに座った。


「はい。外に出れるよう頑張ろうと思って」
「お! 目標がある事は良い事だよ! 私応援するよ!」
ㅤ(何なら手伝っても良いしな!)
「あ、では今度、ユキさんに外に出る練習をしてもらうので、その時に一緒に居てくれませんか?」


人がいた方が頼りになる。


「喜んで!!」


やっぱり相手の本心が分かるとコミュニケーションが取りやすくなるな。以前の俺だったら、迷惑だろうから手伝ってとは言えなかっただろう。
ㅤこうして一歩進めたのも、ユキさんのお陰だ。


ㅤ外で皆に魔法を教えてるユキさんを見て、少しだけ緊張がほぐれた。


ㅤ(横顔可愛いなぁ……)
「ん、ん゛んっ……」


変な心の声が聞こえたので、喉で咳をして恥ずかしさを紛らわした。
ㅤ人に可愛いと言われるのは慣れてない。


ㅤその日は、就寝時間まで魔法の練習が続いた。皆疲れたのか、ぐっすりと眠っている。
ㅤ俺だけが眠れないで居た。


「ニオちゃ〜ん」


小さな声で名前を呼びながらやってきたのは、ユキさんだ。


ㅤ(今日もお話してくれますか?)
ㅤ(勿論! じゃあ今日は私の冒険の話をしようかな。私には3人の仲間が居てね。あれはーーー)


俺が眠るまで、仲間との出会いなどについて話してくれた。
ㅤ段々と眠くなって瞼が閉じそうになると、優しく撫でながら話を続けてくれた。そのお陰で、悪い夢を見ずに眠ることが出来た。


ㅤありがとう、ユキさん。

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