不良な俺の趣味が女装な件。

フーミン

19話 デートの約束



 旅館の施設内を回って、軽く運動できた俺達は満足そうに部屋に帰ってきた。


「あっ! ご飯が用意されてる!」
 アイが真っ先に反応したのは、小さなテーブルの上に様々な食材が乗っている物。座布団も敷かれており、いつでも食べてどうぞというように置かれている。


「食べていいのっ? いいのっ!?」
「落ち着いてよアイちゃん。用意されてるって事は食べていいんだよ。ね、シズキちゃん」
「そうだよ。皆好きな場所に座って食べよう」
 俺は左の1番窓際の位置を座った。目の前にはトモキが座って、横には丁度シズキが座ってきた。


「た、食べていいんだよね?」
 座って箸を持ったのだが、心配になり皆を見る。


「んっ? はべへいいお」
「アイちゃん、ちゃんと飲み込んでから喋ろうね。食べていいよ」
「よ、よし。いただきます」
 手を合わせて美味しそうな刺身や油揚げなんかを綺麗に食べていく。


 普段こんな豪華な料理を食べる事は滅多にないから凄く嬉しい。コンビニ弁当やらカップ麺だけで済ませてる俺って寂しい生活してたんだな。


「マコちゃん美味しい?」
「うん美味しいよ」
 シズキが聞いてきた。


「良かった」
 どうしたのだろう。なんとなくシズキがいつもより可愛い気がする。


「マコ、俺全部食べきれないけど何か欲しい物あったらやるよ」
「えっ?」
 今度はトモキが聞いてきた。


「ダメ、ちゃんと自分の分は自分で食べないと。それにマコちゃんだってそんなに食べきれないわ」
「どうだろうね。マコは身体を鍛えているからその分沢山食べないと栄養が足りない。俺は心配してるんだ」
 な、なんだ……シズキとトモキの間にピリピリとした空気が漂っている。


 あまり2人の間には入らないようにしようと、肩を丸めて料理を口の中に運んでいった。


「マコちゃんどうなの?」
「え、えっ?」
 しかしどうしても2人の間に無理矢理入れられてしまう。2人が俺の取り合いをしているみたいだし、ここはどっちの意見に賛成した方が良いのだろう。
 シズキに逆らうと怖いし、だからといってトモキに反対すると今まで以上に罪悪感が……。


「え……っと……」
「ほらシズキ、マコが怖がってるじゃないか。もうこの話は辞めよう」
「……そうね。ごめんねマコちゃん」
「うん……」
 トモキのお陰で助かったけど、また何か勘違いされてる気がする。でもまぁ、良い方向に進んでいってるのなら大丈夫か。








「オルァッ!!」
「このやろっっ!」
 食事を終えて、テンションの上がった男子2人が布団の上でプロレスごっこを始めた。


「トモキ君は行かないの?」
「いや、俺は今はゆっくりしてたいかな」
「あはは」
 お腹を抑えてそういうから自然と笑いが零れた。


「……? どうしたの?」
「い、いやなんでもない」
 トモキがじっと見つめてきたから何かと聞いたが、すぐに目を逸らされてしまった。やっぱりナチュラルメイクしててもマコトの面影が残っているだろうか。
 あんまり顔を見せないようにした方が良さそうだ。


 しばらく下を向いてマコのSNSを見ていると、トモキが横に座ってきた。


「マコ」
「うん?」
「まだ返事、決まってない?」
「あっ……うん」
 突然言われて何かと思ったが、すぐに告白の事だと思い出す。
 俺は少し気まずくなって頬を撫で、窓を外を見る。


「その、トモキ君は私の事どれくらい……好き、なの?」
 少しだけ気になって聞いてみる。


「最初に出会った時の事覚えてる?」
「ゲームセンターだっけ」
「その時に一目見た瞬間好きになったんだ」
 一目惚れか。


「で、でもあの後殴っちゃったりして……」
「うん、なかなか良いパンチだったよ。それでもっと好きになった」
 殴られたら好きになる、ってどういう趣味なんだと聞いてみたい所だが一先ず話を進める。


「マコは身体も弱くて精神的にも弱い事は分かってる。でもこうして色々話したりして、性格まで好きになったんだ」
「そうなんだ……」
「俺ならマコの全てを受け止める自信がある。どんなに苦労しようと俺が傍に居てやれる」
 まずいな……そこまで真剣に受け止める自信があるって言われると、女装の事バラしてもいいんじゃって思ってきてしまう。


 というか、トモキって男の時の俺も好きだった言ってたよな。もし本当に受け入れてくれたなら付き合って……いやいやいや! 俺はホモじゃないんだから、なんでトモキと付き合う事を想像してるんだ!


「…………っ?」
 しばらく黙っていると、トモキが俺の背中を撫でてきた。


「本当に受け入れてもらえるのか心配なんでしょ。もし拒絶されたら嫌われるんじゃないかって」
「……っ」
 俺は静かに頷く。


「じゃあさ、2人で一緒に散歩するくらいなら大丈夫かな?」
「それって……デート……?」
「うん。まだ付き合うとまではいかないけど、この旅行が終わったら2人でデートしてみるとか」
 それなら……大丈夫だろうか。別にデートくらいなら今まで通り女装して、今まで通りに話せば良いのだから。
 しかしシズキがどう答えるか分からない。


「考えてみる」
「うん、ありがとう」
 トモキはお礼を言って自分が座っていた座布団に戻っていった。


「シズキどうしよう」
 すぐに小声でシズキに聞くと。


「本気で男と付き合うつもり?」
「……だよね」
「まあデートくらいならいいんじゃない。私が監視するけど」
 シズキって絶対トモキに迫られる俺を見て楽しんでるよな。その割には俺が積極的になると否定してくるけど。


「デート中、なるべく私の指示に従ってね」
「それデートって言わないよ……?」
「任せなさい」
 今回ばかりはあまりシズキに邪魔されたくないのだが、確かにシズキが居れば女装に関して心配する事はなくなるし……もしもの時の為には必要かもしれない。


「任せるよ」
 そういうとシズキはグッと親指を立てた。

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