不良な俺の趣味が女装な件。

フーミン

17話 貸し切り銭湯



「ここが……泊まる旅館らしい」
「でっかい…………」
 トモキと一緒に旅館の前にやってきて、その大きさに息を呑む。入り口にシズキが立っていて、不機嫌そうにこちらに歩いてくるのが見える。


「二人共遅いわよ。何してたの?」
「い、いや何もしてないよ」
 トモキが誤魔化すようにそう言うと、シズキは俺の方を見て一瞬だけニヤリと笑った。
 さてはトモキが俺に告白してくるのも計画の内だったと言うのかこの女。


「さっさと行くわよ」
 シズキに連れられて旅館に入ると、広い和風のロビーがあった。真ん中には大きな木のような……綺麗に削られていてアートのような……なんだこれは。まあ木で作られたグニャッとした形のアート作品があった。


「こんな広い旅館が貸し切りって、本当にシズキちゃん凄いよね」
「ふふん、でしょ?」
 褒めると単純なんだよな、シズキって。








 一緒に旅館の中を歩いていって、皆が待っている部屋に到着した。
 和風の襖を開けると、そこには横になってダラダラしているアイとサクラ。そして座ってスマホを弄っているトモキの男友達がいた。


「あっお疲れ〜!」
 アイが身体を起こして手を上げる。


 部屋は予想していたよりも広く、10畳の部屋が2つ。襖で仕切られており、2つの部屋を自由に使えるようだ。
 物置の中には布団や枕。ベランダに出ると綺麗な山々の景色が一望できる。


「銭湯に行って皆上がったらゆっくりしましょう」
「銭湯〜! マコちゃん一緒に入ろっ!」
「えっ」
 いやいや、それは流石に無理でしょ。


「残念、マコちゃんは後から。理由は言えないけど肌を見られたくないの」
「えっ……何かあったの?」
 シズキがそれらしい嘘を付いたけど、俺はどう嘘をついたら良いのか分からないから困ったようにシズキに目線を向ける。


「思い出したくない事があるんだよ。ね、マコちゃん」
「え? う、うん……そう」
 と言われてもさっぱり分からないのだが、周りの皆は何かを察してくれたように黙った。


「って事だから、マコちゃんは最後に入るから皆で先に入ろう」
 なんとか誤魔化せたけど……俺の過去が物凄く悲惨だというイメージが皆に植え付けられていってる気がする。
 しかし事実はシズキに振られて女装が趣味になっただけの不良なんだけど、それは言えない。


 皆が銭湯から上がってくるまでスマホで動画でも見ながら待っている事にした。








「たっだいま〜! 涼し〜!」
「マコちゃん私達上がったから行ってきていいよ!」
 女子達だけ先に上がってきた。皆青と白の着物を来て気持ちよさそうにしている。


 シズキがすぐに俺の横にやってきて、小さな声で喋る。


「男風呂に入る訳には行かないでしょ? 貸し切りだから女風呂に入って。化粧品道具は持っていって脱衣所でメイクする事。風呂に入っている間もウィッグは付けてて、変えのウィッグ持ってきてるよね。男子達は覗きを企んでたから気をつけて」
 短時間に情報が沢山入ってきて頭がぼーっとしてきたが、なんとか理解して立ち上がる。


「じゃあ行ってくるね」
「ごゆっくり〜!」








 女風呂の脱衣所で服を脱いで、濡れても大丈夫な変えのウィッグを被ったものの……シズキ達の匂いが残っていて変な気分だ。
 貸し切りとはいえ女風呂に入るなんて幼児の時以来だろう。


 銭湯の中に入ると、濡れた冷たい石の地面が足の裏に触れて気持ち良い。


「来たぞ……し〜っ」


 何か聞こえた。
 どうやら竹の柵の向こう側が男風呂になっているらしい。
 シズキが言っていた通り、男達は覗きを企んでいるようだ。


「ん゛んっ」
 軽く咳払いをして身体を洗い始める。


「くっ……どこだっ……」
「死角にいるから見えないっ……」
「お前らやめとけよ」
「トモキ先輩も気になるっすよね。マコちゃんの身体」
 アイツら……トモキは止めているが、他の2人は今度学校で締めとかないとな。


 男風呂の方からは見えない位置で身体を洗い終えた俺は、身体に白のバスタオルを巻いて、なるべく奥の岩陰で見えない位置に座る。


「ほら、お前ら諦めろ」
「で、でも綺麗な肩と尻だったっすね……」
「頭フラフラしてきたから上がりますか」
 なんとか男達も風呂から上がったみたいだ。これでゆっくり温泉を楽しめるな。

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