女嫌いの俺が女に転生した件。
288話 魔王サハル
「んん……」
『クロアおはよう。記憶はまだ戻らない?』
「……うん」
そういえば、ルトさんに泊めてもらってるんだっけ。
身体を起こしてルトさんが寝ているであろうベッドの方へ目をやる。しかし、既にベッドの上の布団は畳まれており、ルトさんの姿はない。
「んん〜〜っっ…………よく眠れた」
大きく背伸びをして、立ち上がる。
「おはようございます」
「えっ!?」
いつの間にかフワフワ尻尾の女性が目の前に立っていた。
「現在ルト様はサハル様の元に居ますので、そちらまで案内します」
「あ、ありがとう……ございます」
とりあえず身体を起こし、フワフワ尻尾に着いていった。
◆◇◆◇◆
「ルト様、サハル様。失礼します」
「どぞ〜」
「やっと起きたみたいだね」
長い廊下を歩いた先の扉の中に、ルトさんと少年が向かい合って座っていた。この少年がサハルさんだろう。
「えと、初めまして……名前はクロアだと思います」
「あれ? 君名前は覚えてたの? 折角名前の候補色々と考えてなのにな」
「すみません……」
昨日の内に名乗っといた方が良かったか。というかそもそも、名前すら覚えてなかった。サタナに教えてもらった名前だから本当に合っているのかも知らない。
「いいよいいよ。とりあえず座ってサハルに見てもらおう」
そのままルトさんの横に座らされた。
「どうも、僕がサハルだ。君の事はルトから聞いてるよ」
「ど、どうも……」
サハルさんの笑顔が、笑っていないように感じて少し怖い。
「とりあえず記憶を戻せるか試してみるよ。動かないで手を前に」
「はい」
言われた通りに片手をテーブルの上に出す。するとサハルさんはそれを掴んで、次の瞬間身体を撫で回すような感覚がして鳥肌が立った。
「ふ〜ん」
「どう? 記憶戻せそう?」
サハルさんが面白そうに笑って、ルトさんが聞いた。
「いや、無理だね。そもそも君はここに居るはずのない存在だからね」
「ど、どういう事……ですか?」
「それは君の中にいる子に聞いた方が早いんじゃないかな?」
次の瞬間、身体の内側から何かが湧き上がってくるような感覚と共に、身体が動かなくなった。
「……こりゃ驚いた。強制的に僕を呼び寄せるなんて、流石初代魔王だね〜?」
あれ? 身体が勝手に話してる? この声……サタナ?
「さて、まず君達が元いた世界について教えてもらおうかな?」
「わお、そんな事まで分かるなんて凄いね〜! あ、まず君達に自己紹介するよ。僕はサタナキア」
サタナが勝手に自己紹介を始めたが、私は身体の制御が聞かずにただ勝手に動く身体の違和感に耐えるしかない。
「え? サハルこれはどういう事だ?」
「まあまあ。話を聞こう」
ルトさんが突然変わった私に驚いているようだが、サハルさんはそれを気にせずに話を進めた。
「まず、僕達は未来の世界から来た」
「未来!? それって私の未来も分かるって事!?」
「残念だけど、僕達がいた世界じゃ2人は死んでる」
途端にルトさんが残念な表情をした。
「じゃあ未来に残す為に日記付けなきゃね」
「どうせ三日坊主だよ」
「そ、そんな事はない!」
ルトさんとサハルさんは仲が良いみたいで、微笑ましくなった。
「それで、僕達の世界で神様と悪魔の戦争が始まったんだ」
「ほおほお、それで?」
「クロアの身体は悪魔ルシファーに乗っ取られて、その後にすぐ僕も器を破壊された」
「な〜るほど。それで過去の世界にクロアの精神体とサタナキアの精神体がやってきたんだね」
サハルさんは全て理解したようだが、私はいままので話を聞いてもサッパリ分からない。いや、別に分からなくて良いのかもしれない。勝手にこの人達が何とかしてくれるだろう。
それから3人は、私の理解が及ばない領域の話を続けていき、段々と眠くなってきてしまった。
◆◇◆◇◆
『クロア起きて!』
「はっ!」
目を覚ますと、まだサハルさんとルトさんの部屋にいた。
「あっ、話……終わりましたか?」
「寝てたね?」
「い、いえ──」
「寝てたね??」
「……はい」
サハルさんに強く言われて、本当の事を言った。
「さてと、その悪魔ルシファーとやらがクロアの身体を乗っ取ったとなると、そのルシファーの精神体をどうにかしない限りクロアは元の世界に戻る事はできない」
元の世界に戻れば記憶が戻るのか。
「元の世界に戻ったら、こっちでの記憶は無くなる」
「……そ、そうなんですか」
それは少し残念かもしれない。ここが過去の世界となると、記憶が戻った時に昔の事を知れるわけで……歴史的な新発見とか……って、そんな話してる場合じゃないよな。
「そして、僕達にはどうする事もできない」
「そう……なんですか」
「向こうの世界でルシファーが倒されるのを待つしかないね」
じゃあ……私はその間こっちの世界で暮らすことになるのか。
「こっちの世界で過去ルシファーを殺す事は可能だけど、その場合クロアの魂その物が消えちゃうからね。その時は2度と生まれ変わりが出来なくなると考えていい」
そこまで聞いてないのに怖いこと言わないでほしい……。こちら側からじゃ何もできないとなると、結局は時間が解決してくれるのを待つしかない。
「それじゃあ……その時が来るまで頑張って生活していきます」
「何言ってるの? 私達がお世話するって言ったじゃん」
「え?」
ルトさんは当然な事を言っているかのような表情だ。
「クロアちゃん見たところ可愛いし……」
ルトさんの舐め回すような目つきに寒気がした。
「そ、それじゃあ……これからよろしくお願いします」
「うん! 沢山働いてもらうからね!」
「はい! ……え?」
その日、私はルトさんの着せ替え人形にされた後、メイド服を着せられた。
うぅ……私はここで何をさせられるんだろう。
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