女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

285話 ここはどこ? 私は誰?



「イザナミ! クロアは?」
「あっ、サタナキア! クロアちゃんが一人で向こうに!」


 イザナミにクロアの居場所を聞くと、悪魔達がいる方向とは正反対の方向に逃げたと言われた。


 クロアが一人で逃げたら危ない……僕が行かないと!


「行ってくる!」
「気をつけて! それと早く仲直りしてねっ!」


 僕はイザナミと別れ、クロアが逃げた方向へ走り出した。


「クロアは……僕がいないとっ……」


 背後から飛んでくる魔法や、追いかけてくる悪魔達を何とか足止めしながらクロアの元へ急いだ。


◆◇◆◇◆


 かなり走って、背後からは爆音が聞こえるが何も追ってきてはいない。
 前にはクロアがこちらに背を向けて佇んでいた。


「良かったっ……クロア、無事だったんだね」
「……」


 しかし、クロアは僕に背を向けたまま。返事を返す事も無かった。


「……まだ怒ってるよね……ごめん。僕が言い過ぎたよ」


 それでもクロアは一言も発さない。
 どうにかしてこちらを向いてもらおうと、クロアの近くに行った。


「クロア……」


 クロアの肩に触れる。


「っ!!」


 その瞬間、僕は宙を舞っていた。
 いや……僕の身体はそこに立っている。僕の頭だけが、身体を離れていた。


「ぇ……」


 ゆっくりとこちらを振り向いたクロアの顔はまるで……いや、既にクロアではなくなっていた。
 僕は状況を理解できないまま。ゆっくりと暗い世界へ意識を落としていった。


◆◇◆◇◆




「ぅ…………?」


 ここはどこだ? 自分が誰なのかも分からない。目を覚ますと、何故か建物が並ぶ広場のような場所に寝ていた。


『クロア! 目を覚ましたんだね!』
「うわっ! な、何この声! どこから!?」


 突然どこからともなく声が聞こえてきた。


『クロア、僕だよ』
「えっ? クロア? 僕? え?」


 声の正体が分からないまま、クロアと呼んでくる何かに戸惑う。


『も、もしかして……記憶が無いの?』


 その声の主も、戸惑ったようにそう言った。


「記憶……無い。貴女は誰ですか?」


 周りを見渡すが、人がいる気配様子はない。そもそも周りは真っ暗だ。


『記憶が……僕はサタナ。君はクロアだよ』
「私はクロア……」


 自分の身体を確認したところ、どうやら女のようだ。サタナと名乗る声も女性。


「わ、分かった……それで、ここはどこなの? どうして私は記憶が無いの?」
『クロアが起きるまでずっと考えてたんだ。とりあえずどこか落ち着ける場所に座って』


 サタナの支持に従い、近くにあった木製の椅子に腰を下ろす。


『神魔戦争に参加していた。って事も記憶が無いかな?』
「……うん。何も覚えてない」


 神魔戦争なんて単語も知らない。私は戦っていたのだろうか。


『クロアは悪魔と戦っていたんだ』
「私が悪魔と……それで?」
『多分だけど、悪魔に負けて身体を乗っ取られた。そしてここに飛ばされたんだと思う』


 悪魔に負けて身体を乗っ取られた。じゃあ今ここにいる私は? この身体は?


「ここはどこなの? 貴女は私の何なの?」
『落ち着いて。ここがどこなのかは僕も分からなくて、正直混乱してる。僕はクロア契約していたサタナ。……クロアの身体を乗っ取った悪魔に殺されて、契約主の元に帰ってきたんだと思う』


 サタナと私は契約しているのか。
 うぅ……頭が痛くなってきた。


『確実に言える事は、ここはいままで居た世界とは違う世界。もしくは別時空の世界』
「別時空?」
『この辺りの地形に覚えがあるんだ』


 さっぱり分からない。
 私はこれからどうしたらいいのだろうか。サタナを信用しても良いのだろうか。


『っ……誰か来たよ』
「えっ?」


 誰か来たと言われて顔を上げる。すると、そこには一人の女性が私を観察するように立っていた。
 カッコイイ女性だ……。


「こんばんは」
「えと……こんばんは」


 その女性に話しかけられて、すぐにこちらも返事をする。


「こんな時間に一人でどうしたの? 只者じゃないみたいだけど」
『正直に話した方が良いよ』
「分かった……記憶が無くて、どうしてここにいるか分からないんです」


 サタナの言う通り正直に話した。
 するとその女性はしばらく私を観察した後、隣に座ってきて更に話しかけてきた。


「私はルト。この国で魔王をしてるの」
「魔王……って何ですか?」
「ありゃ、酷い記憶喪失みたいだね」


 ルトと名乗った女性は、優しく私に微笑んできた。
 美しい……思わず顔が熱くなってしまった。


「記憶喪失って事は、何も分からないんだよね。とりあえず私の部屋に来なよ」
「いいんですか?」
「うん。だって深夜に困ってる女の子がいたら見捨てられないでしょ?」


 その女性の頼れる雰囲気に流されて、サタナの意見を聞かずに頷いてしまった。


『大丈夫。今はこの人を頼ろう』
「それじゃあビックリすると思うけど我慢してね」
「え?」


 次の瞬間、視界が一瞬で切り替わって暖かい部屋に座っていた。


「え? え?」
「転移魔法っていう不思議な力だよ。君も使えると思う」


 転移魔法……あんまり使いたくない。身体が浮かぶような感覚が怖い。

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