女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

275話 高級馬車



 次の日の朝から、俺達は海水浴の準備でバタバタしていた。
 前日に終わらせた方が良かったのかもしれないが、皆浮かれていてそのまま寝てしまったのだ。


「着替え大事だから忘れないように!」
「日焼け止めはイザナギが持っていくって!」


 必要な物を確認しながら、リュックの中に詰め込んでいく。
 倉庫に良い感じの大きさの箱があったので、それを綺麗にした後に、魔法で溶けない氷を作って中に詰め込む事でクーラーボックスの完成だ。
 その中に飲み物、軽く食べれるお菓子。その他必要な物を入れて荷物の横に置く。




 そうしてゴチャゴチャしながらも、なんとか準備は整った。


「水着はあっちで着替えれるのか?」
「ああ。ちゃんと入り口に更衣室があるから大丈夫だ」


 転移で手っ取り早く行きたいのだが、どういう場所なのかイメージが分からない為に自分達の力で行くしかない。
 そこもリグは準備しているらしい。


「よし、それじゃあ行くか!」


 リグが自分の荷物とクーラーボックスを持って、皆もそれぞれの荷物を持ち上げた。


「じゃあお母さんとお父さん、行ってくるね!」
「楽しんでらっしゃい」
「帰ってきたら水着姿見せるんだぞ〜!」


 そうして俺達は家を出発した。


◆◇◆◇◆


 まず最初にやってきたのは馬車小屋。それもそれなりに高級そうな外見で、外から見える馬には見たことのない種類もいた。


「いらっしゃいませ、ご予約していたリグリフ様ですね。こちらへどうぞ」
「……いつの間に予約なんてしてたんだ?」
「な? 完璧だろ?」


 リグがこんなにも気の利く男だったとは思わなかった。少し惚れ直したぞ。


 店員さんに案内されて、店の裏側まで移動してきた。


「どうぞお乗り下さい」
「「おぉ〜……!」」


 俺達が乗る馬車があまりにも充実していて、皆声に出して驚いていた。


 中に入る為の入り口には、しっかりとした扉。更に小さな階段まで作られている。扉を開けると、見た目通りのかなり広い作りになっていて、座り心地の良さそうなイスが設置してある。
 窓も開閉式で、ピカピカに磨かれている。


「失礼しま……えぇっ!?」


 リグに続いて中に入ると、なんと横になってくつろげるスペースまで存在していたのだ。枕もあり、その横の窓には小さなカーテンまである。長旅用の睡眠スペースだろう。
 荷物を置く場所も別にしっかりと用意されており、皆が充実して寛げるようになっている。


 皆が馬車の中に入って荷物を置き、椅子に座ると馬車がゆっくりと揺れた。


「こんなに重そうなのに、馬は大丈夫なのか?」
「凄いね〜……僕こんなに馬車好きになりそう」
「こんな馬車に乗って世界を旅したいですねぇ……」
「寝心地は悪くない……良い」
「相棒がこんなにスゲェの用意するなんて想像もしなかったぜ」


 馬車が動き始めるが、振動が気にならないほどフワフワな椅子だ。


「さっきは見えなかったが、この窓からなら見えるぞ。この馬車を引いてるのはオーガと馬の間に生まれた鬼馬きばなんだ。それが二頭で引いてるから、かなり速く到着する」


 前の窓を覗くと、赤いたてがみに二本の立派な角が生えた馬がいて、それを一人の茶髪のお兄さんが動かしていた。


「すっごぉ……いくらしたんだ?」


 リグに聞いてみると、予想以上の答えが帰ってきた。


「25万マニーだ。通常行き来するだけで50万するらしいんだが、俺達は転移で帰るから半分の25万。この馬車は本来王族なんかが旅行で使うような物だ」


 い、移動手段だけで25万……! ちょっと俺には理解できない金額だな。
 それなりに金を持っているとはいえ、俺だったら馬車にこんなにお金はかけない。


「凄いなぁ……」


 アリスと一緒に横になる。
 どうやら寝やすいように、ほんの少し枕側が上になるよう傾いているようだ。流石王族の移動手段。作り込まれている。


「ん? まさか……」


 横になって上を見上げて見つけたのだが……まさか……。


「おぉっ!」


 なんと睡眠スペースの天井は、スライドすると窓になるようになっていた。ここで寝ながら夜は星空を眺めれるのか。


「なんか幸せ……。ね、アリス」
「うん。このまま死んでもいいかも」


 横で寝ているアリスも、気持ちよさそうに目を細めていた。


鬼馬きばは足が速いから、昼前には到着する。その間はのんびりしてていいからな」
「「は〜い」」


 馬車ののんびりとした振動で、少しだけ眠くなってきた。


「寝よっか……アリス」
「うん……」
「寝るなら布団かけるぞ」


 リグが前にある収納スペースを開いて、取り出した布団を俺達に乗せてくれた。
 布団まであるのか……それに良い匂い……最高だ。


 こうして俺達の幸せな馬車の旅が始まった。が、そのほとんどは寝て過ごした俺とアリスだった。

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