女嫌いの俺が女に転生した件。
272話 悪夢
「うぅ……ん……?」
なんだ? また身体に違和感が……。
目を覚ました時、以前にも感じた違和感に気づいた。そう、身体が前世の自分の姿になっている夢だ。
「そう……これは単なる夢だ……」
念の為に自分の身体を確認する。
ふむ、完全に男に戻っている。それに息子の感触もかなりリアルで……体温までしっかりと……。
「本当に夢?」
あまりにも鮮明な夢に、少しだけ不安を覚える。
すぐに起き上がって隣を見るが、リグやサタナ、エリフォラはいなかった。
「夢だよな……?」
──ガチャッ
「クロア起き……お、おい……どうしたその身体」
リグが部屋に入ってきて、俺の姿を見て驚いた顔をしている。
おかしい……夢ならリグは俺の姿に何の違和感も抱かずに変な事をしてくるはずだ。
「な、なぁリグ……これ、夢だよな?」
「お前、身体が戻ったのか……?」
リグは、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。
じんわりと嫌な汗が額から流れ落ち、心臓がバクバクと高鳴っている。
まさか、本当に現実? 昨日の渦の影響?
そんな考えが脳裏を過ぎる。
「クロア……じゃなくて、安曇」
「ち、違う……私はクロアだ。もう安曇じゃないんだ……そ、そうだろリグ?」
俺がリグに少し近づくと、リグは一歩後ろに下がった。
「ぁ…………」
それは、俺に対する拒絶を表していた。
「リ、リグ……お願いだから嫌わないでくれ! 絶対に戻る方法があるはずだ!」
「そう……だな……。頑張ってくれ……安曇」
リグは、ゆっくりと部屋から出ていった。
「嘘…………だろ……」
目からは大粒の涙が頬を流れて、膝の上に落ちていく。
◆◇◆◇◆
「──した? 大丈夫かクロア」
「っ! ……リ……グ……?」
気づけば俺は布団で寝ていて、上からリグが顔を覗き込んでいた。
「どうしたクロア。何かあったのか?」
「リグッ……好き……好きだから嫌いにならないでくれっ……!」
俺はリグを逃がさないよう、必死に抱きしめた。もうリグが俺を拒絶しないようにと。
「お、おいどうした! 怖い夢でも見たのか?」
「夢……?」
夢だと言われ、涙を拭いて自分の身体を確認する。
「あ…………はは……ははははっ……良かった……」
身体は元に戻っており、ちゃんとリグが愛するクロアの姿になっていた。
「もう大丈夫だからな」
「……ありがとう」
悪い夢で泣いていた俺を、リグは優しく抱きしめてくれた。
そう、さっきのは夢なんだ。俺が元の姿に戻るなんて事はありえない。
「どんな夢なのか聞かせてくれるか? 前にもこんな事があったよな」
「うん……話した方がいいかもだから、言うね」
夢の中で前世の姿に戻った事。そしてリグに嫌われるという夢の内容を詳しく話した。
最後まで話し終わると、またリグは抱きしめてきた。
「そうか……辛い夢だな」
「うん……もうあんな夢見たくない」
リグに頭を撫でてもらって、少しずつ冷静を取り戻してくる。
「でも、俺はクロアがどんな姿になろうと嫌いになるつもりはない。クロアがどんなに変わってしまっても、俺はクロアを愛し続ける。
だから、もし次そんな夢を見たら俺を信じてくれ」
「……うん。ありがと」
リグのその言葉で、俺の中の不安が全て消えてなくなった。
◆◇◆◇◆
「はぁ……サタナおはよう」
「あれ? クロア泣いてるの〜?」
しばらくリグと抱き合った後、リビングに降りてくるとサタナがお茶を飲んでのんびりしていた。
「目が赤いよ?」
「そ、そうか。もう大丈夫だから気にしないでくれ」
「分かった〜」
サタナはあまり気にしないように、窓の外を見てお茶を一口飲んだ。
「あ、そうそう。今日は窓開けてても大丈夫みたいだよ」
「ん?」
そう言われて魔眼を発動する。
確かに、サタナの身体からは魔力が抜けていってはいない。
窓の外や空を見るが、昨日のような渦は既に無くなっていた。
「じゃあ今日も稼げるな」
「クロア疲れてるんじゃない? 泣くくらいだし、今日は休みなよ」
そこまで疲れてはいないと思うのだが、やはり自分では分からない疲れが溜まっているのだろうか。
「う〜ん……でも今日はちょっと外に出て気分転換したいし、運動してくるよ」
「そっか」
そんな事を話してると、リグがやってきた。
「よし、今度皆で海水浴に行くか!」
「……へ?」
突然の提案に、俺は間抜けな声を出した。
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