女嫌いの俺が女に転生した件。
211話 ありがとう
「──……もう嫌なんだよっ……」
「……そうか……」
いつの間にか、俺はイザナギの膝の上で泣いていた。
悩みや不安を言葉に出すだけで、涙が止まらなくなった。
イザナギはただ、言葉少なに俺の背中を撫でるだけだった。むしろその方がいい。変にアドバイスされるより、見守られてる方がいい。
「……俺も、さ。昔は世界の平和を保ってたりしてたんだけどな。クロアみたいに、疲れきって嫌になった事があるんだ」
「うん……」
俺はイザナギの話を聞いた。
「それで、ストレスのぶつける場所が妹しかいなかったから……喧嘩も増えてな。もう嫌になってその時居た世界を滅ぼしちゃったんだ」
イザナミに聞いたことがあるな。確かそれで──
「結局、ゼウスが怒って別世界に閉じ込められた」
だからイザナミとイザナギは別れたんだよな。
「……馬鹿だよな……」
「え? それで終わり?」
「ん?」
1人になって気づいた事とか、分かった事を教えてくれるんじゃないのか。
「ごめん……話すの苦手だから」
「あぁそっか。期待してた」
「地味に傷付くな」
まあ、イザナギも苦労してたんだな。
「……ありがとな」
「っ……! わ、笑った……」
ちょっと笑ったくらいでそこまで驚く必要ないだろう。
「イザナギと話したら少し楽になった」
「そ、そうか……これからも辛い事があったら俺に相談するといい! 何なら俺の嫁になれ」
「ふふっ、嫁は無理かな。でも……相談とか、色々よろしくな」
イザナギに握手を求めると、若干挙動不審になりながら手を掴んできた。
「それで早速相談なんだけど」
「あ、ああ。なんでも聞くぞ」
「私はこれから……何をしたらいいんだ? べナードっていう死神を殺す為に強くならないといけないんだ」
そういうと、イザナギは少し考えた後。
「能力が封印されてなきゃ、その死神を殺してあげれるんだけど……」
「それはダメだよ。私とべナードと約束だから」
俺の手でべナードを殺して、エリフォラを助ける。イザナギの提案を嬉しいけど、それは卑怯だ。
「強くならないといけないけど、休みもしたいんだよな」
「うん」
「……よし、俺がクロアを鍛えてやる」
イザナギが……?
「1人で訓練するのが辛いんだよな。なら俺が言葉で指導することはできる。どうだ?」
悪くない。けど、イザナギに任せても大丈夫なのだろうか。
「安心しろ。俺はイザナミより強い」
「それは頼もしい。言葉だけで何ができるか楽しみだ」
「言葉だけ……難しいよな。まっ、明日家に行くよ」
イザナギって本当にいい奴なんだな。
「今日はありがとう。もう帰るよ」
「ああ。俺もイザナミになにか協力してくれないか頼んでみる。またな!」
そういってイザナギは消えた。
◆◇◆◇◆
「ただいま〜」
家に帰って寝室に行くと、アリスはベッドに座って本を読んでいた。
「おかえり。ちょっと元気になった?」
「ああ、友達と話したら楽になった」
「良かった」
アリスは本を閉じ、枕元に置いた後横になる。
「寝よう」
「ははっ、そうだな。寝るか」
今なら好きなだけ休める気がする。
ありがとうイザナギ。
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