女嫌いの俺が女に転生した件。
205話 緊急事態
「じゃ、じゃあアタシがその要件飲んでやるから、なんでもいえ」
「良いのか!?」
「できる範囲でな」
ツクヨミは少しだけ面倒くさそうに、頭を掻いた。
「私を強くしてくれ」
「……は? アンタそんなのをキマイラに頼んでたのかい?」
「わ……悪いのか?」
こいつ馬鹿かと言いたそうな顔でこっちを見てきた。ムカつく顔だ。
「イザナギ様に頼めばいい」
「い、イザナギ?」
イザナギって、あのイザナミの兄だよな? こっちに来るっていうのは知ってるけど、能力は封じられるんじゃ……。
「今からイザナギ様に会わせようか?」
「え、来てるのか?」
「来てる? いや、まだ来てないけど、今から会いに行くんだよ」
待て待て……急展開過ぎてついていけない。そもそも、なんでキマイラを殺した。
ツクヨミが何故ここにいる。
「色々と質問したい事があるんだけど」
「あぁ〜そんな顔してるもんね。んじゃ、質問にも答えるよ」
ツクヨミはキマイラの頭に座った。
「なんでキマイラを殺したんだ?」
「え? ……っと、なんとなく散歩してたらコイツがいたから、殺した……みたいな?」
理由になってないけど、分かった。コイツはなんとなくで殺してしまう神様なのか。
「別にさ、君と会うつもりは無かったんだよ。ほんと。別にイザナギ様に命令されて来たわけじゃないし、そこまで気にすることないから」
「……イザナギになんて命令されて来たんだ?」
「どうして分かったの……」
もう自分で言ってるような物じゃないか。イザナギに命令されてツクヨミが来たと、それでたまたまを装って俺を助けた訳か。
「とりあえず話して」
「イザナギ様ごめんなさい……。あのね、イザナギ様が今度こっちに来るんだけど」
「うん」
「能力封じられたままじゃないと来れないんだって」
「知ってる」
「君なんでも知ってるね」
なんでもは知らないよ。神に聞いたことだけ。
「んでね、イザナギ様の元にクロアを連れていけば身体を乗っ取れるって」
「あぁ〜……それで、さっきイザナギ様に頼めばって言ったのか」
危ない危ない。そのまま着いていってたら身体を乗っ取られるところだった。
「でも君、イザナギ様の器なんだよね?」
「器かどうかは知らないよ。でも、私は私だ」
誰かと代わるなんて事はできない。
「器をイザナギ様の元に届けろって言われたんだ」
「残念だけど、それは無理」
そういうと、ツクヨミは急に眠そうだった目が開いた。
「じゃあ少し乱暴に連れていくよ」
目が合った瞬間、全身が凍るように固まった。喋ることすらできない。
「変なとこ触っちゃったらごめんね」
や、やばい……イザナギの元に連れていかれる。
◆◇◆◇◆
一瞬で転移してきた場所は、まるで神殿のような場所。いつの間にか床に寝ていて、身体も自由に動く。
「来たようだな」
低い声が聞こえて、顔を上げる。
「えぇ〜っと……お前は今か、ら……」
黒髪のかなりイケメンの男が、大きな椅子に座っており、目が合った。
「こ、こほん……ま、まずは自己紹介といこうか」
「イザナギ様? 台本通りに──」
「分かっておる! だがこれはもういらん」
この人がイザナギ……思っていたよりも若い。いや、あのイザナミの兄と考えれば丁度良いのか。
大体……17歳くらいか?
イザナギは手に持っていた紙をビリビリと破いた。
「あっ! 私が頑張って書いた台本!!」
ツクヨミがそれに対して怒っているようだ。
「えぇいうるさい! 邪魔をするな!」
「は、はい……すみません……」
ツクヨミに注意した後、イザナギは俺を見た。
「俺はイザナギという。偉い神様だ」
「えっと……クロアです」
ここは俺も名乗った方が良いだろう。なんとか隙を見つけて逃げ出さねばならない。
「ふむ、クロア。良い名前だな。俺はクロアに一目惚れをしてしまった。嫁になれ」
「よ、嫁?」
「イザナギ様!? まさか器を相手にするのですか!?」
またツクヨミが叫んだ。
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