女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

196話 森の外の魔獣



 それからしばらくは、普通の訓練に集中した。
 家では筋トレをして、外では体力をつけて。そろそろ魔物との戦闘練習もしたいところだ。


 そこで今日は、森の外に出てみることにした。
 【女神の魔眼】の効果を魔物に対して使うとどうなるのか試さないといけない。更に、しばらく戦いに身を投じていないと腕が鈍ってしまう。


「アリス、今日もお留守番頼むよ」
「うん。気をつけて」


 アリスにお留守番を頼んだ後、剣を持って杜の外へ向かった。


◆◇◆◇◆


 果たして、森の外にはどんな世界が広がっているのだろうか。
 期待に胸を膨らませながら森の中を歩いていると、いつも通り動物達が後ろからついてきている。


「流石にここの動物達まで襲ってきたりしないよな」


 森の外の魔物が、森の中に入ってくる可能性はある。俺が外に出て魔物を刺激した事によって、森を荒らすのなら少し考え物だ。


 更にしばらく歩いていると、段々と木が少なくなってきた。視界の奥には急な下り坂が見える。


「もうそろそろだな」


 そろそろ魔物が出てきても不自然じゃない場所にある来ている。剣を抜いて、周りに存在する魔力を常に確認しながら進んでいく。


 そしてついに、森の外に出た。
 急な下り坂の下には、大きな川と広い草原。そしてその草原を走る魔物達。いや、魔獣と呼んだ方が良いだろうか。


 遠目からでも分かる大きさで、俺の2倍の高さはある巨大な狼のような魔獣。頭にライオン、背中にヤギ、尻尾がヘビの魔獣。
 とにかく、見たことあるようでちょっと違う生き物が沢山いた。


「よし……やってやるか」


 適当に草原の真ん中に転移して、最初に襲ってきた魔獣から仕留めることする。
 周りを見渡すと、いつの間にか巨大な狼の群れが俺を囲っていた。おおよそ6匹はいる。


「気付くの早くない……?」


 なるべく魔獣から離れた場所に転移したというのに、一瞬で囲まれてしまった。
 つまり、コイツらはそれ程動きの速い魔獣だということ。魔力量もかなり存在している。気をつけよう。


「っ!」


 狼達が後ろに飛んで距離を取った。と、同時に狼達の姿が消えた。


「んん……? 消えた」


 が、俺には魔力の塊が見える。いつ襲ってきても大丈夫なように、常に武器を構える。
 魔力の塊は異常な速さで常に動き続けている。恐らくは何らかの魔法で移動速度を上げているのだろう。


 魔力の塊と別の魔力の塊は、薄い魔力の線で繋がっている。どうやら魔力を共有して群れを作っているようだ。


 そしてついに、1匹の狼が後ろから飛びかかってきた。その瞬間に全身を魔力と同化させ、姿を表した狼の背中に移動する。
 風魔法で重さを消してあるので、今飛びかかってきた狼は俺がどこにいるのか分かっていない。


 背中を座っていると、他の狼が飛びかかってきた。


「よしきたっ!」


 鋭い爪を振り下ろす狼の真後ろから、頭に蹴りを入れる。
 すると、バランスを崩してさっきまで俺が乗っていた狼の背中に倒れ込む。


 これで一時的に2匹の狼の動きを止めた事になるのだが、すぐに動き出すだろう。
 可愛い見た目をしているが、仕方ない。俺は剣に風魔法を纏わせて狼を切断する。


 この隙に残りの4匹は逃げて……いないな。死神界って意外とチョロいな。


 そう思っていた時だった。1匹の狼の魔力が完全に消えた。
 その代わりに残り3匹の魔力量が増えたのだが、感知できないとなると危険だ。


「がっっ!」


 1匹の姿を見失った瞬間、明らかに俺に隙が出来てしまい襲われてしまった。
 狼に爪で押さえつけられ、どんどん重みが増していく。


「一瞬で仕留めなかったのは命取りだな」


 片足に全力の魔力を込めて、思いっきり狼の顔を蹴りあげる。
 勢いよく空へ吹っ飛んだ狼の顎は砕けているだろう。もう狩りは行えない。


 残り3匹。1匹はどこに潜んでいるか分からないが、今はとにかく魔力の多い狼から仕留めなければならない。


 俺と死神界の魔獣との、一瞬をかけた戦いが始まった。

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