女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

187話 封印されし少女



「罠があるかも知れないから、気をつけて進めよ」
「はい……」


 ゆっくりと、真っ暗な部屋の真ん中に進んでいく。
 死神界のべナードが紹介した家だ。きっと酷い即死トラップでも仕掛けてある。
 念の為魔道具をいつでも使えるよう片手に握って、レンの後ろについていく。


「んっ?」
「どうした?」


 レンが急に動きを止めた。


「あの、あれ……」
「?」


 レンが指差した先を見ると、人間の足らしき物が見えた。やはりトラップで死んだ人がいるのか。


「もう少し近づいて」
「はい」


 更に近づくと、人間の全体が見えた。
 お尻に竜の尻尾のような物を生やした少女。短い黒髪。腹に刺された巨大な黒い剣は、ドクンドクンと脈打つように音を立てている。


「うっ……死んでる?」
「待て。これに似たような剣を知っている」


 以前、王国騎士団のアーガスと契約していた悪魔を封印する時に、クラウディアが似たような剣を使っていた。


「生きてはいないだろうけど……抜いてみるか」


 俺は剣の持ち手を握って、グッと上に持ち上げる。
 見た目より軽い剣は、俺の手に馴染むように持ちやすかった。
 すっと剣が抜けて、少女の腹には大きな傷……が無かった。


「ん……?」


 不思議に思った俺は、少女の小さな胸に触れて鼓動を確認する。


「生きてる?」
「うぅっ……ん〜……」


 少女は苦しそうな顔をして、たまたま近くにあった俺の手をギュッと握った。


「冷たい……けど、確実に生きてる」
「どうするんですか?」


 生きてる、って事には驚きだけど……とりあえずは。


「保護しよう」


 少女を寝室のベッドにでも寝せて、目を覚ますのを待つか。


「あの……この鏡みたいなのは?」


 レンが見つけたのは、小さな鏡の破片。キラキラしていて、少女の左足首に紐と一緒に巻き付かれていた。


「分からないけど、刺さってて痛そうだし貰っちゃえば?」
「いいんですか? やった、綺麗だし貰おっと」


 レンは紐付きの鏡の破片をポケットに入れた。


◆◇◆◇◆


「レンは入ってくるなよ」
「は、はい……」


 ちゃっかり入ろうとしてきたレンを止める。寝室には下着やらが沢山あるんだ。見せるわけにはいかない。


 少女をベッドに寝せて、フワフワの布団を上からかける。
 目を覚ましたら話を聞きたいな。


 眠っていても分かるほど綺麗な顔をした少女は、布団を口元まで上げると、すーすーと気持ちよさそうに深い眠りについた。


「ふあ〜…………私も寝ようかな」


 椅子に座ったまま、ベッドを枕に横になる。


 そうして俺は、少女の横で眠りについた。


◆◇◆◇◆


ぺちぺち、ぺちぺち。


 ん……何か頬に冷たい何かが……。


ぺちぺち、ぺちぺち。


「何だ……?」
「あ、起きた」
「ん?」


 今何か綺麗な音が聴こえた気がした。
 目を開けて体を上げると、あの少女が身体を起こしてこちらを見ていた。


「あ、目を覚ましたんだね」
「それは私のセリフ」


 ん? あぁ、今俺が目を覚ましたから……ってそうじやない。


「君は……誰?」
「竜神アリス。貴女が封印を解いてくれた」


 竜神アリス……知らないな。本でも読んだことない。


「この世界が誕生してから、ずっとここに封印をされてた」
「ず、ずっと?」


 となると……何億年前になるんだ? それをずっとって……やばいな。


「全ての神に嫌われた。お前は何でも壊すから、って。私以外の神じゃないと封印を解けない」
「そ、そうなんだ」


 封印されるような存在だったのか。


「貴女は優しい神。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」


 竜神アリス。この娘はどういう存在なのか……気になるな。

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