女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

180話 人間本来の姿



 魔法が使えない今、手作業で部屋を掃除しなければならない。俺はイライラしながら布越しに糞などを掴んでいく。


「後で風呂入らねぇと……はぁ」


 ため息しか出ない。なぜ一人暮らし開始早々こんなにも糞みたいな事しなければならないのだろうか。糞だけに。


 糞を纏めて外に持っていくと、処理方法に問題が出てきた。
 ごみ捨て場も無ければ火もない。炎魔法が使えなければ料理もできない。いや、幸いこの家は魔道具とやらが使用されており、魔力が使えない人も魔法が使えるんだったな。
 部屋を照らしている石も魔道具だ。本で読んだ事がある。


「とりあえず……ここに置く。ごめんよ森さん」


 俺はいつから自然と話すようになったのだろうか。ただ家の外に糞を置いただけだ。


 その後、手を洗ってキッチンから魔道具を持ち出す。パイプ状の物に付いた石を撫でると、パイプ口から勢いよく炎が放射される。これで扮を燃やして処理だ。


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「後は……」


 部屋に戻っても、まだ汚れや尿が残っている。
 タオルを水道水で濡らして、床を掃除しなければならない。


 前世を思い出す。雑巾を両手で抑えて、走りにくい体勢でガーッと教室の床を吹いていく作業。この頃から奴隷生活は始まっていた訳だ。
 そんな事を考えながらも、部屋も隅々まで綺麗な拭き取っていく。


「……」


 なぜ俺はこんな事をしてるのだろうか。
 今更だが、今日は記念すべき一人暮らしの初日じゃないか。訓練とはいえ、楽しんだっていいじゃないか。
 悟りを開いてしまいそうだ。


「……ん?」


 ふと、食器棚の後ろの壁に穴がある事に気づいた。


 穴? もしかして、ネズミなんかの巣だろうか。いや、そうだとしたらべナードがこの家を綺麗にした時に塞がれているはずだ。


 この空間に何があるのか気になるが、今の俺には食器棚を動かせる程の力が無い。
 秘密の部屋か……気になるな。


 今度べナードに聞くとして、俺は掃除続けた。


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「終わったぁぁぁぁぁぁあ!!」


 自らの手で綺麗にした部屋を見て、達成感を覚える。


「あぁ……疲れた」


 こういう時、リグがいれば俺を休ませてくれただろう。一人暮らしっていうのは寂しいものだな。


「風呂入って汚れと匂い落として、夕食作らないと……あぁ〜色んな事しなきゃなんないじゃんか……」


 もうこのまま寝たい。足腰が痛くて風呂に入る気力がない。だが入る。


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 服を脱いで風呂場に行くと、壁に立ち鏡。それなりに大きい浴槽。長めのシャワーと、かなり充実した作りになっている。


 シャワーで温かいお湯を身体全身にかけていく。
 そして小さな椅子に座り、石鹸を使い身体を洗う。手で洗った方が汚れが落としやすく、全身を撫でていく感じだ。


 水が汚い色に変わって床の排水溝に吸い込まれていく。目に見えて汚れが落ちていくのが分かり、少しだけ楽しくなる。


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「ふふんふんふふん」


 身体と髪を洗った後は、浴槽に浸かって鼻歌を歌う。
 一人暮らしだから何でもしていいのだ。それにここは周りに人がいない田舎と言っても良い場所。
 ここには気遣いやマナーなんて物が存在しない自由の場所。どれだけ大声で歌っても、どれだけ1人で楽しく遊んでいても、構ってくれる人は誰もいない……。


 俺は今の悲しみを、うろ覚えの歌詞で歌い続けた。


 女になってから1度も歌った事無かったが、案外綺麗な声をしている。風呂場にいるから、というのもあるだろうが、喉が開きやすい。それに乾燥しないから喉を痛めることもない。
 良いな。


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 風呂上がり、身体を拭いた後全裸でリビングに向かった。
 そう、全裸だ。


「ひゃっほ〜いっ!!」


 全裸でソファに倒れれば、フワフワの感覚を全身で感じる事ができる。
 ここは自由なんだ。裸で寝ても怒られない。


「これが人間の本来の姿だよな」


 野生に戻って、自分の存在を確かめる事も重要な訓練だ。俺は今、訓練をしてるんだ。


「ソファで寝るのもあれだし、寝室に行くか」


 ベッドの上で布団に包まれればどれだけ気持ちの良いことか。ワクワクしながら寝室に向かった。


 寝室に入ると、魔道具が部屋を照らしてくれた。が、俺は暗い場所で寝るのが好みだ。壁に付いた魔道具を撫でて明かりを消す。
 一つくらいは付けてても大丈夫だろう。


 そして、まずベッドで寝る前にカーテンを開ける。二階から森が見れるのだ。絶景絶景。
 更に窓を開ければ、涼しい風が全身を撫でていく。


 外に歩いている小動物と目が合う。


「人間じゃないからいいよな」


 裸を見られても問題ない。


 しばらく風を全身で感じた後、俺はフカフカのベッドの上で横になる。


「あぁ最高……」


 やはりここは天国だ。

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