女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

174話 分身との訓練



 しばらくのオナラが続き、段々と白い煙が形を作ってきた。
 足の指先から、真っ白な煙から健康的な肌色が見えてきて、そのままふくらはぎ、ふともも……。


「なんで全裸で出来てんの!?」
「そりゃ当たり前だ。人の身体はコピーできるが、服は生き物じゃない。この煙は生物だけコピーできるんだ」
「嘘だろ!?」


 ついに、全裸の俺が完全に作り出された。……胸の大きさも何もかも完璧にコピーされていて、客観的にこうして見ると貧しい……。


「胸の大きさがちゃんとコピーできてない。私のはもっと大きいぞ」
「いや、胸は無い。見比べれば分かる」


 胸は無いって言い方やめてくれるかな……一応ここにあるんだよ……寄せたら谷間もできる。
 ってかなんでクラウディアとべナードに俺の全裸見られなきゃならないんだ。


 ふと、クラウディアを見ると、大きく目を見開いて俺のコピーの姿を目に焼き付けていた。


「クラウディア……」
「……ん? あ、ああすまん。今持っている分で着れそうな服をやろう」


 クラウディアがどこからか黒いパーカーとジーンズを取り出した。


「ほら、着ろ」


 クラウディアが分身に服を渡すと、まるで生きてるみたいに服を着始めた。


「す、凄い……」
「服着ただけで何驚いてんだ。一応コピーは本体のランダムな思考パターンもコピーしている。性格は本体に似ているぞ」


 性格まであるのか。


「あ〜ん……寒い〜……」


 パーカーの前部分だけ開いて、ぶりっこのように寒がりだした。


「私こんな事言わないんだけど」
「たまたま甘えてる時の思考がコピーされたんだろうな。ランダムだからこういう事もある」


 嘘だろ……俺の恥ずかしい姿を全て見られてるじゃないか。


「じゃあまず、これを使ってどういう訓練をするか説明してやる。よく聞け」


 そうだこれは訓練だ。俺の姿なんてどうでもいい。


「今から自分自身、コピーと戦ってもらう」
「コピーと……ってことは戦闘能力もコピーされてるのか?」
「勿論だ。その中から最適な動きを選んで戦う。基本的に煙の方が強いな」


 本体がコピーに負けちゃダメだと思うんだが……いつかコピーが俺の本体扱いされないだろうな。
 俺のコピー、子クロアの名付けようか。子クロアは、自分の胸を見て明らかに落ち込んでいる。コピーのくせに、欲望なんて持つんじゃない。


「2人には俺が張った結界の中での戦闘をしてもらう。結界の中では、いくら死んでも肉体は3秒で元に戻り、結界内に留まっていた魂が身体に戻される」
「それってつまり、何回も死んで覚えろと?」


 恐る恐る尋ねると、べナードはニヤリと笑って。


「安心しろ。魂はどこにも行かない」
「悪魔め……」
「死神だ。だが、何回も死ねば身体と魂に負担がかかる。様子を見て休憩を入れる。感謝しろ」


 感謝なんてできないな。どうして俺は俺に殺されなくちゃならないんだ。どうせ殺されるならリグに馬乗りになって、思いっきり首占められながらセック〇で絶頂を迎える瞬間に死にたい。
 ……俺っていつからこんな変態になったんだ?


 等と死に対して考えていると、いつの間にか俺の子クロアの周りには大きなドーム状の結界が張られていた。
 武器は何もなし。


「クロア〜! 俺が合図したら煙が動き出す、頑張れ!」
「うるせぇ!! 死ね!!」
「始め!!」


 べナードに暴言を吐くと、さっそく合図を飛ばしてきた。


──スパンッ!


「あ……え……?」


 急に世界がグルグルと周り出した。
 いや、これは俺の首が回っているのか。頭がゴトンと地面に落ち、俺の身体が目の前に倒れた。


「かっ…………」


 その瞬間、白目を向いて魂が抜けた。
 俺の死んだ姿を第三者視点で上から見ている。まるでゲームのようだ。3秒後にリスポーンするんだろうな……?


 自分の死体を眺めていると、段々と身体が綺麗に修復されていき、頭が身体まで転がって繋がり始めた。


「っはっ……はぁ……はぁ」


 息を取り戻した俺は、なんとか息を整えて身体を起こす。
 首元は何の違和感も無く元通りだ。流石死神の結界だな。


 しかし、俺はなんで死んだんだ?
 背後に立つ子クロアに目を向けると、片手に雷の剣を持っていた。足だけ魔法と同化する事で移動速度を上げて効率化しているな。


 少しだけ感心していると、子クロアが残像を残して消えた。


「やばっ!?」


 なんとかその場から飛び上がり、俺も左手に雷の剣を作り出す。


──ガシッ


「わぁっ!? ぶっ!!」


 足首を掴まれて、そのまま顔面から地面に叩きつけられる。


「くそっ……」
「怖くないよぉ?」


 子クロアが剣を俺の首に突き刺そうとしている。
 なんとか全身を魔法と同化させる事が間に合い、俺は一瞬で子クロアの背後に回って背中から心臓を突き刺す。


「……かはっ……痛いよぉ……」
「っ……」


 子クロアが倒れる時、一瞬だけこちらに悲しい目を向けてきた。
 まるで本当に俺が生きているかのように、そんなに悲しい目をされると俺が動きづらくなる。


 案外あっけなく死んだ子クロアが、生き返って立ち上がった。


「許さない……」
「ご、ごめん」
「謝って済むと思ってんの?」
「うぐっ……」


 そ、そうだ……こいつはただ俺のランダムな思考パターンをコピーしただけの存在。本当に生きている訳じゃない。会話するだけ無駄だ。


「死ね」
「誰が死ぬかよっ!!」


 子クロアの姿が消えた瞬間に、俺も魔力全開で後ろに離れる。すると、全く同じ速さで動いている為にお互いの姿がはっきりと見える。
 高速度の世界、といった感じだろう。


 高速度の世界にいる間、俺と子クロアの動きは全て見える。思考回路まで高速化している為、ゆっくり見えているのだろう。
 高速度の世界にいる間、まるで周りの世界が止まったように感じる。


「逃げんなよ」


 子クロアが剣を両手に生み出し、俺の首と足元目掛けて斬りつける。
 動きは普通に見えるのだが、咄嗟にどう動いていいのか分からずに……。


──ザクッ


 身体が綺麗に斬られてしまった。
 こうして俺は今、子クロアに2回負けていることになる。許せん……。
 魂視点の時に、クラウディアの声が聞こえた。


「こりゃ完全に読み合いだな」
「煙の方が思考が単純化されている分有利だ。1回勝てただけでも凄い」


 そこで俺は生き返って、すぐに高速度の世界に入る。


「っと危ねぇっ!」
「がはっ……」


 いつの間にか胸元にまで迫っていた子クロアの腹部を、咄嗟に膝で蹴り上げた。
 光の速度で蹴られた腹部を抑えて、子クロアがフラフラバランスを取っている、が。


──ボトボトッ……ドロッ


 口から血を吐き出したと思えば、真っ赤な謎の内蔵まで垂れてきた。


「うぇっ……」
「ごあ゛っ……」


 そして子クロアは死んだ。
 あまりのグロさに、思わず吐き気を覚える。


 子クロアは俺を綺麗に殺してくれるが、俺は子クロアをグロテスクに殺してしまっている。少し殺し方を変えるか。


「クロアいいぞ〜!! その調子で頑張れ!」
「っ! ありがとう!!」


 クラウディアに応援されて、一気にやる気が出る。
 よっしゃ、この調子で煙に勝つぞ!

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