女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

169話 足りない物



 リグと女はケーキ屋に入って、一緒にケーキを食べ始めている。こういう時が盗み聞きのチャンスになる。


「今奥さんとどんな感じ?」
「それが……かなり悪い」
「じゃあそろそろ私と付き合っちゃおうよ。私も相手がいなくて寂しいの」
「……俺はレーナの事も好きだが、それは出来ない。俺にとっての妻はクロアだけなんだ」
「ふぅ〜ん……じゃあ私とは遊びって訳ね」
「だから違うっていつも言ってるだろ……」


 二人共イチャイチャしやがって……実際にはそうじゃなくても、話してればイチャイチャに見えるんだよ。
 抑えろ! いますぐ浮気現場に突撃したい気持ちを抑えろ! そこは泥沼だ!


「ねぇ、ケーキ美味しい?」
「ああ、美味しい」
「私のもあげる。あ〜ん」
「あ、あ〜」


 見るのが辛い……俺のリグが……他の女にあんなにデレデレするなんてっ……!


「リッ君もあ〜んして?」
「仕方ないな……あ〜ん」
「あむ……ん〜美味しい! これって間接キスだよね?」
「そ、そうだな」


 ムキ〜ッッ!! 何がリッ君だ! リグのあだ名はリグだ! 変なあだ名を付けるな! 何勝手にキスしてんだ!
 必死に拳をテーブルの上に押さえつけて、我慢する。


「あ、おい。口の周りついてるぞ」
「ほんと〜? 取って」
「自分で取れよ……ほら」
「ありがと」


 その女はリグの指をパクリと口の中に入れた。


「なっ、何してっ!」
「えへへ」


 ふん……そのままリグの体毛喉に詰まらせて死ねばいい。


 そろそろ俺にも限界がやってきそうだ。拳がプルプル震えている。


「あれっ!? クロアちゃん!」
「っ!?」


 突然後ろから声をかけられ振り返ると、そこにはソフィがいた。
 咄嗟にソフィの口を抑えて死角に隠れる。


「そ、ソフィ……久しぶりの再開を喜びたいところだけど、今はそういう状況じゃないんだ」
「ぷはっ……どうしたの?」


 俺はソフィに内容を伝えた。


「ほえぇ〜……私もワタルと結婚してるけど、今でもクロアちゃんの事好きだよ?」
「そ、それとは違うんだよな……」


 うん。やっぱりソフィのアホは治ってない。


「あ、クロアさん」
「おぉワタル。ちょっときて」
「久しぶりだね。俺達今日はこっそり旅行に来たんだ」
「んな事どうでもいいから、あれ見て」


 俺はソフィとワタルに、リグと女を見せた。


「……もしかして浮気?」
「そう。だけどリグ本人は、離婚する気はないらしい」
「リグ君ワガママ〜。クロアちゃんが悲しんじゃうよ。怒ってくる」
「行かなくていい!」


 ソフィがいきなりリグの方に歩き出したから腕を引っ張って止めた。
 やはりソフィといると変に疲れる。普段使わない神経が削られていく感じだ。


「クロアさんはそれでいいと思ってるの?」
「思ってる訳ないでしょ……今私に足りない部分を探してるとこだよ」
「ああ……だからストーキング」


 ストーキングって言うな。調査だ。


「でも、足りないのって一目瞭然だと思うよ」
「え、何?」
「こういうと失礼かもしれないけど。クロアさんは可愛くない」
「なっ……泣きそう」


 そんなに真っ直ぐな表情で言われるとグサッと刺さる。


「ただ、クールで大人びていて、カッコイイ女性だ。それに美しい」
「そ、そう……」


 そう言われると照れるじゃないか。


「だから、クロアさんには可愛さが必要だと思う」
「あの女の人みたいに、ワガママ言ったり指食べたりするのが可愛い部類に入る、と?」
「ん、んん〜……ワガママ言うのは、子供的な可愛さだね。指食べたりするのは小動物的な可愛さ。計算されつくした可愛さだよ」


 なんで指食うだけで評価されてるんだ……俺もリグの指食えばいいのか?


「指を食べればモテる……ふむ」
「ち、違うけどね? ただ、そういう細かいところに可愛さを取り入れていくだけでも、少しは違う風に見られるかもよ」


 なるほど……可愛さか〜……。


「きゅぴっ☆」
「それはあざといかな……」


 拳を両頬に当ててウインクする可愛い仕草だが、それは違うらしい。いや……そもそも可愛くない。


「でも俺はそのままのクロアさんが好きだけどな」
「ソフィ、ワタルが言ってるぞ」
「私もそのままのクロアちゃん好きだよ」


 ソフィって浮気とか気にしないタイプ?


「まあ……自分に何が足りないか分かったよ」
「良かった。じゃあ俺達はデートの続きをしてくるよ」
「えぇ〜? 私クロアちゃんとデートする」
「えぇ……」


 ソフィのこういうところも、よ〜く考えれば可愛さに入るのだろうか。知能が小動物的な可愛さ……うん、それただの猿だ。
 どうすれば可愛くなれるか……それが今日からの試練だな。

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