女嫌いの俺が女に転生した件。
153話 エリフォラが助かる唯一の方法
「エリフォラは後9年で死ぬのか……?」
「ああ。コイツは昔から身体が弱い。それに両親も死んで、ずっと暗い地下に引きこもっていた。
そんな時に、俺は突然こいつと一緒に居ることになった。つまり寿命が決まったという事だ」
「そんなっ……」
俺は思わず、リグの手を握った。
突然のエリフォラの寿命宣告。その大きなショックに、俺もリグも。サタナも何も言えなかった。
「だから俺は、こいつを狭い世界の中で死なせる訳にはいかねぇと思って、無理矢理身体を借りて外の世界に出た」
「……」
「本来死神が人間に情を抱くのは罪になる。だが、俺はどうしてもこいつを幸せに死なせてやりたかった」
俺の震える手を、リグが強く握り返してくれた。
あまりにも残酷な運命に、オレは胸が締め付けられるほど痛く感じる。
「俺の存在は、こいつにバレてはいけない」
「そう……なのか……」
「それで、俺に何か聞きたいことでもあんのか?」
聞きたいことなんて、沢山ありすぎて伝えきれない。
「エリフォラを助ける方法は無いのか……?」
「無い。といっちゃアレだが、俺が先に死ねば助かるだろうな」
「死神が死ねば……」
「だが、俺も死神を本職でやってる。俺だって死にたくはないさ。もしお前達が俺を殺しにくるのなら、俺は本気で戦う」
クラウディアよりも強い死神を殺せだと……? そんな無茶を言われて、誰が納得するだろうか。
俺が納得する。
「エリフォラの為に死んでくれ」
「俺に勝てるか?」
「勝てる勝てないじゃない。エリフォラの為に戦わないで、そのまま死なせる訳にはいかないだろ」
「……先にお前が死ねば、全て無意味になる」
「そうだぞクロア、やめるんだ……」
手を握っていたリグが、俺を止めるように引っ張った。
「別にいますぐ戦う訳じゃない」
「何だ。9年後までに俺より強くなって戦うとでも?」
「そうだ。9年ありゃお前なんて殺せる」
「どうだかな……そういうお前の心には不安しか見えないが?」
不安? そりゃ不安に決まってる。クラウディアより強い奴を殺せるはずがない。9年で何をしたら強くなれる? それすら知らない。
だが、戦うしかない。エリフォラの友達として。
「ふん……俺がお前を強くしてやるよ」
「……? 私はお前を殺す為に強くなるんだ」
「俺だってコイツは死なせたくない。お前がこの9年で、俺の訓練に耐えられたら勝てるようになるかもな」
べナードだって複雑な心境なのだろう。エリフォラが死ぬか、自分が死ぬか。
自分の命と大事な人の命、どちらをかけるかなんて言われて、俺なんかが答えを出せるとは思えない。べナードは苦しい判断をしているんだ。
「……分かった。私を鍛えてくれ」
「決まりだな。9年後、死神界で戦う。その時までに、俺はお前を強くしてやる」
「ああ」
「訓練の途中で死ぬなよ?」
「……ああ」
訓練程度で死んでたまるか。
「んじゃ、俺は寝る」
「く、訓練は……?」
「あぁ? 9年もこいつ寝かせる訳にはいかねぇだろ。俺の気が向いたタイミングで鍛えてやるよ。
じゃあな。くれぐれもこいつに俺の事話すんじゃねぇぞ」
本当に訓練する気はあるのだろうか……。
べナードは椅子に座って、意識を落とした。
「……んん〜……終わりましたか? 記憶が無いのですが」
「なぁエリフォラちゃん、一緒にお散歩しよう?」
「突然どうしたのですか? いいですけど……窓が割れていて、サタナさんが凄いことに……」
「気にしない気にしない。楽しもう!」
せめて。俺が死神に勝てなかったとしても、エリフォラには幸せな時間を過ごしてほしい。それが唯一、俺と死神の共通の願い。
俺はエリフォラを幸せにしてみせる。
「ちょっ、ちょっとクロアちゃん! どうしたんですか? 皆さん様子がおかしいです……」
「……やっぱり……いつも通り接するなんてできない……」
「ク、クロアちゃん……? ご、ごめんなさい!
何か悪い事でも言ってしまったようです! な、泣かないでください!」
違う。エリフォラは悪くない。
「エリフォラちゃん……」
「クロア……ちゃん?」
俺はエリフォラを強く抱きしめた。
「エリフォラちゃんの周りには、幸せなんて沢山転がってるからな……一生懸命今を生きよう……」
「な、何がなんだかよく分かりませんが……私は今クロアちゃん達と一緒に居れて幸せですよ。これ以上の幸せなんて望みません」
「望んでいいんだよ。我が儘沢山行って、私達を困らせてくれ……」
俺はしばらくエリフォラに抱きついていた。
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